第38話 決断の余波
カーディナは、静かに荒れていた。
供給網からの切り離し。
優先順位の降格。
再接続未定。
発表は、簡潔だった。
だからこそ、重かった。
都市の広場では、人が集まっている。
「なぜだ!」
「我々は見捨てられたのか!」
怒号は、予想通り。
だが、暴動は小規模で抑えられている。
都市連合側も、完全には切っていない。
最低限の供給は、残している。
それが、火種をギリギリで止めている。
――一方。
都市連合の執務室。
ミレイは、報告書を読んでいた。
「抗議は継続中」
「死傷者なし」
「供給再調整、安定」
机の向こうに、俺は座っている。
「予想通りです」
「はい」
「あなたの名前は?」
「出ていません」
「ですが」
「噂は出始めています」
“匿名の判断者”。
最悪の呼び名だ。
「気にしますか?」
ミレイが聞く。
「しません」
「本当に?」
「名前が出ていないなら」
出たら面倒だ。
彼女は、小さく頷く。
「カーディナの代表が」
「面会を求めています」
「私に?」
「いいえ」
「都市連合に」
それならいい。
「あなたに会わせるつもりはありません」
「助かります」
だが、事態は動く。
数日後。
都市連合の議会で、声が上がる。
「切り捨ては、前例になる」
「次は我々か?」
疑心は、広がる。
俺は、呼ばれない。
だが、判断基準だけが残る。
“全体を守るために、部分を切る”。
便利な言葉だ。
だが、都合よく使われ始めている。
ミレイが、静かに言った。
「あなたの結論は」
「一つの前例になりました」
「望んでいません」
「分かっています」
彼女は続ける。
「ですが」
「制度は、前例を欲しがります」
「責任を分散できるから」
その通りだ。
判断が“例”になった瞬間、
それは誰のものでもなくなる。
夜。
宿の部屋で、窓を開ける。
遠くの都市の灯りが、微かに揺れる。
カーディナの灯りは、弱い。
だが、消えてはいない。
(切った、わけじゃない)
優先順位を下げただけ。
それでも。
削られた側の痛みは、
確実に残る。
俺は、静かに呟いた。
「……次は、俺の知らないところで使われるな」
判断は、机の上で完結した。
だが、余波は、
都市を巡っている。
そして――
誰かが言い出すだろう。
“あの基準”を、もう一度使え、と。
──第38話・完
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




