第30話 学院は変わらない
変わったことは、確かにあった。
掲示板には、新しい注意書きが増え。
実習場では、立ち位置の線が引き直され。
教師の指示も、ほんの少しだけ慎重になった。
(……小さな改善は、してるな)
だが、それだけだ。
質問禁止令は、まだ解除されていない。
授業の進め方も、基本は同じ。
成功率が上がったわけでもない。
事故が起きていない。
それだけで、「上手くいっている」扱いだ。
俺は、学院の中庭を歩いていた。
特に用事はない。
学生たちの様子を見る。
以前より、距離を取るようになった。
無理はしない。
慎重だ。
だが、目が死んでいる。
(考えてないな……)
安全にはなった。
理解は、遠のいた。
イーサが、隣に並ぶ。
「学院としては」
「一定の成果があったと判断しています」
「でしょうね」
「事故が、起きていませんから」
基準が、そこしかない。
講義棟から、教師の声が聞こえる。
「今回は、想定通りだ」
「問題はない」
その言葉が、何度も繰り返されている。
俺は、立ち止まった。
「……ここは」
「変わらないですね」
「ええ」
イーサは、即答した。
「変わるには」
「内部の人間が」
「失敗を、引き受ける必要があります」
「それ、嫌がりますよね」
「ええ」
分かっているからこそ、変わらない。
学院長室の前を通る。
中では、会議が続いているようだ。
扉は、閉まったまま。
(俺の出番、ないな)
それでいい。
夕方、宿に戻る準備をする。
荷物は、最初から少ない。
「滞在は」
「まだ続きます」
イーサが言う。
「あなたの意思ではありませんが」
「ですよね」
苦笑する。
「ですが」
彼は、少しだけ間を置いた。
「あなたがいることで」
「学院は」
「自分たちの歪みに、気づいています」
変えないだけで。
俺は、窓の外を見る。
夕焼けに染まる学院。
綺麗だ。
歴史がある。
努力もしている。
それでも。
(壊れないだけで、良しとしてる)
それが、この場所の限界だ。
ベッドに腰を下ろし、息を吐く。
「……俺が来ても」
「結局、変わらないな」
だが――
変わらないことが、
はっきり見えた。
それだけで、
この場所に来た意味はあったのかもしれない。
学院は、変わらない。
だが、世界は広い。
次に呼ばれる場所は、
きっと、ここよりも――
**判断の重さが、直接命に繋がる。**
そんな予感だけが、
妙に現実味を持っていた。
──第30話・完
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