悩み。
ー凪視点ー
紫音のくれた胃薬は、この世の物とは思えないくらい不味かったけれど、
効き目は抜群だった。
お陰で、すぐに動けるようにはなった。
でも、紫音をキレさせるのはやめよう。
そう改めて学んだ瞬間だった。
だけど、紫音はわりとすぐ怒る。
乙女心は難しい……
村での売り上げは好調だった。
暑かったからか、冷たい水は飛ぶように売れた。
ずっしりと重みのある袋を持って、俺達は山を登った。
「この辺ならいいだろう!」
怜燈兄さんが桜花に視線を送ると、
「任せて。」
桜花が前に進み、地面に手を置いた。
ゴゴゴゴゴッ
少し地面が揺れたかと思うと、目の前には木の家が建っていた。
桜花は本当にすごいな。
感心するばかりだ。
「桜花!ありがとう!
皆ご飯にしましょう!紫音手伝って!」
「うん!」
響姉さんが紫音に頼んでいた。
あれ、俺、誰かに何か頼まれたことない気がする……
ふとそう思った。
「響姉さん、俺も手伝う。」
そう言うと、二人は絶妙な笑みを浮かべた。
「凪、凪は俺と薪拾いだ。」
時雨が俺の肩にそっと手を置いた。
「え、でも……」
「行くぞー」
俺は時雨に、引きずられるように連れていかれた。
「ちょっと時雨!なにするんだよ!」
「……なぁ、凪。凪はさ怜燈兄さんの料理食べたいか?」
「え、嫌だよ。」
「それはそれで失礼だが、まぁ察しろ。」
時雨にそう言われた。
「なに?どういうこと?」
「そういうことだ。
でも、急にどうしたんだ?」
時雨は不思議そうに、聞いてきた。
「……俺、誰にも頼まれたことない気がする。」
ようやく言葉にすると、目の前で時雨が笑っていた。
「ははは、凪お前そんなこと気にしてたのか?」
「なんだよ時雨!笑わないでよ!!」
「笑うだろ。凪が急に変なこと言うから……
おい凪!今日なんか変なもんでも食べたか?
いや、拾い食いか?!
今すぐ紫音に!」
「違う!俺なんも変なもの食べてない!
俺めっちゃ真剣なの!!」
「お、おう。」
思わず叫ぶと、時雨はとても驚いたようだった。
「凪。多分だけど、響姉さんと紫音は泳げない。
俺は、水の防御膜は張れない。
怜燈兄さんは、人魚にはなれない。」
いきなり変なことを言い始めた。
「時雨、大丈夫?時雨こそ変なもの食べたんじゃ……」
「安心しろ。俺は凪と違って、落ちたものは食べない。
要するに皆違うんだよ。
怜燈兄さんや響姉さんは、俺達をよく見てる。
必要な時に、必要な人を割り振ってるだけだよ。」
「なにも頼まれない俺は、いらない?」
「いいや。そんなことはない。
それに一番すごいのは、凪だと俺は思う。」
「どうして……?」
「言われてやるのは、誰でもできる。
だけど、言われる前にやるのは難しいんだ。
凪は言われる前に、やってくれるからなにも言われないんだよ。」
「俺なにもしてないよ?」
「大丈夫!凪はちゃんとやっている。
俺が保証する!元気出せよ!!」
時雨はそう言って俺の背を叩いた。
「痛いよ、時雨!」
「よし!薪集まった!帰るぞ!」
「え?いつの間に?」
「話してる間にだ。
凪はもう少し周りを見ようなー。」
そう言って時雨は、歩き出した。
時雨の言っていたことは、正直よくわからなかった。
だけどそれは言わなかった。
言えば絶対しばかれる。
俺だって、日々学んでいるんだ。
俺は、時雨を追いかけた。




