成長。
ー怜燈視点ー
「ねぇ、兄さん。
……兄さんは、私の種族知ってる?」
いきなりそう聞かれた。
すぐには答えられなかった。
響がどう答えて欲しいのかわからなかった。
「気は使わなくていいわ。そのまま答えて。」
響は静かにそう言った。
「ハイエルフだと、思ってた。」
俺は、さっきの話を聞くまで確かにそう思っていた。
でもハイエルフは、長命ではあるが生命力が強いわけではなかった。
唯一考えられるのは……
「怜燈兄さん。私ハイレンなの。」
響は、真っ直ぐ俺の目を見ていた。
ハイレン。
それは、ハイエルフの中でも生命力がずば抜けた個体を指す言葉だった。
ハイレンは、高い生命力と治癒力を持っていた。
そして彼らは、死者すら蘇生できる力を持つのだ。
「あっ、誤解しないで欲しいの。
特別扱いしてとかじゃなくて、知っておいて欲しかったの。」
響は誤魔化すように笑った。
「……紫音もか?」
「ううん。
紫音は普通とは言えないけど、神族よ。
エルフですらないわ。」
それはわかっていた。
だけど、会話の繋げ方がわからなかった。
「私は先祖返りしたみたい。
神世代と遜色ないって、父さんが言ってたわ。」
響は話し続けた。
「ねぇ、兄さん。神様ってどんな気分なの?
神族ってどんな気持ちなの?
私はどっちなの?」
「響……」
「ずっと人間として生きてきた。
だけど、人間じゃなかった。
日に日に、心が冷めていってる気がするの。
私は、私は……人にはなれないの?」
そう言って響は泣き崩れた。
神には、人のような豊かな心はない。
本質は冷酷。
それは神族も同じだ。
響は人間として生きてきた。
だけど、成長するにつれ神族側に寄ってきているのだ。
俺は、眠っている三人を起こさないよう、
そっと寝床を抜け出した。
「響、聞いて。
俺は心がないように見える?」
そう聞くと、
「……あるように見えるわ。」
そう言われた。
「響。神にも神族にも心はあるよ。
ただ少し鈍感なだけ。
響はなくなるのが怖い?」
「……怖い。
いつか、なにも、感じなくなって、私が私じゃなくな、るのが、怖い。」
響は嗚咽を漏らして泣いていた。
しばらく、誰も言葉を発さなかった。
「ねぇ、俺が暴走した時さ、皆が一緒に居たいって望んでくれた。
だから、俺は戻ってこられたんだ。
望みは神への思いが、強ければ強いほど届くんだよ。
だから、祈ってみないか?」
「……祈る?」
「うん。響の一番信じられる神に祈るんだ。
「私の心を持っていかないで」ってさ。」
「……怜燈兄さん。私の心を持っていかないでください。」
いきなりそう言われた。
「え?」
「え?兄さん神様でしょ?」
「そうだった……」
「お願い聞いてくれる?」
「いやって言ったら?」
「一週間、ご飯抜きはいかがですか?」
「ものすごく叶えたくなってきたかな。」
「兄さん。ありがとう。」
俺達は、目を見合わせて笑い合った。
「俺は、俺が生きているうちは響が響でいられるよう、
全力を尽くすよ。」
「そこは死んでもって言って欲しかったわ。」
「いつ死ぬかなんてわからないだろ?」
「確かにそうね。私の方が先かも知れないわ。」
「だろ?それに、
俺にとっては、響はずっと響だよ。」
「兄さんたら!少し恥ずかしいわ!」
響は照れくさそうに笑った。
次の日の朝、俺達は花の国を出た。
ただ花の甘い香りが、鼻の奥に残っていた。




