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十色の追想  作者: 詩庵
成立編。
88/102

選ばれし者。

ー響視点ー

「それでは、話を始めますね。

貴女達のお名前は?」

遥香さんが、名前を聞いてきた。

「私は、響です。」

「私は桜花。」

「では、響さんと、桜花さん。

一刻も早くこの国から出て行ってください。」

「遥香さん。それは先程聞きました……」

「そうでしたか。それなら早く動いてください。」

「……私達は兄妹で旅をしているのです。

私の一存では、決められないんです。」

「全てを失うことになってもですか?」

「失う?どういうことですか……?」

「……そうですね、では神桜樹について話しますね。」

遥香さんはまたいきなり、脈絡なく話し始めた。


「この国の象徴とも言えるあの桜は、初めは本当に神樹でした。

荒れ果てた大地を蘇らせ、この国の根幹となっていきました。

この国で四季に関係なく、花が咲くのも神桜樹の力です。」

「その話が本当なら、神樹なのではないですか?」

「……いいえ。あの樹は化け物です。

私達人間が、化け物にしてしまったのです。」

遥香さんはまた淡々と語り始めた。


昔、この国には華園咲弥という女性がいました。

彼女は、創造神の寵愛を受けていました。

あの樹はそんな彼女が、創造神から授かったものだそうです。

彼女は国を興し、繁栄へと導きました。

そして、初代巫女となりました。


巫女は始め、樹の世話をするだけの存在でした。

ですがある時、咲弥は酷い怪我をしたのです。

寿命が迫る中、彼女は

「樹、最期に樹に会いたい。」

そう言ったそうです。

本来なら、死にゆく者を神樹に近づけることはありません。

ですが、他でもない巫女の頼み。

人々は彼女を、樹の側に連れていきました。

「あぁ、私の樹。ごめんなさい。

もっと世話をしていたかった……」

その言葉を最後に、彼女は動かなくなったそうです。

人々が彼女を動かそうとしたその時、

神樹が彼女を吸収したのです。

人々が呆然と立ち尽くすなか、

しばらくすると、樹から彼女が降りてきたのです。

「巫女様!大丈夫ですか?!」

「本当に、巫女様なのですか?」


「……えぇ。私は咲弥よ。」

「ですが、先程亡くなられたのでは……」

「樹が、私を生かしてくれたの。

傷を癒やし、生命力を分けてくれたわ。」

「そうですか!それはようございました!」

「……そうね。だけど、私は樹と繋がってしまったの。

ここから離れることは、できないわ。

離れれば、死んでしまうわ。」

彼女はそう言って、その生涯を樹と過ごしました。


そこで遥香さんは、話を区切った。

「それがどうして、国から出ろという話に繋がるんですか?」

「ここまでの話だけなら、ただのいいお話です。

ですが、この話には続きがあるのです。」


巫女は、咲弥が亡くなった後も、

樹の世話をする存在として、国の女性の中から選ばれ続けました。

巫女と言えど人です。

老いてゆくのです。

その度に樹は、自身の生命力と巫女と共有することで、

巫女を守って来ました。

しかし、それにも限界がありました。

九代目の巫女を最後に、樹は生命力をほとんど失いました。

樹は次第に枯れていきました。

人々は、神樹を失うことを恐れました。

逆をすればいいんじゃないか。

そんな狂気じみた考えに至ったのです。


取り組みは成功しました。

巫女の生命力を使うことで、樹は再び生気を取り戻しました。

ですが、比例するように巫女はその寿命を縮めました。

一人の人間の命で、国の生命を補うのです。

当然のことです。

今では巫女は、長くても十年保ちません。

今は六十二代目です。

その巫女も、限界が迫っています。

国は、新しい巫女を探しています。

だから、この国から逃げてください。

彼女は、そう言って口を閉ざした。


「ねぇ、遥香さん。神桜樹の巫女さんって、死んだらどうなるの?」

突然桜花が質問した。

「……木に吸収されます。」

彼女は絞り出すように言った。

「あの……私は、何に選ばれたのですか?」

「樹に、神桜樹に選ばれました。」

彼女はそう言い放った。

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