神殿。
ー桜花視点ー
苦しい。
もう嫌だ。
やめてくれ。
花の国に入ってすぐ、そんな声が聞こえた。
聞き慣れた人間以外の声。
だけど、ここまで鮮明なのは珍しかった。
聞こえているのは私だけのようで、
紫音姉さんに言ってみたけど、理解はできないみたいだった。
しばらくすると、声は静かになった。
気になって、探しに行こうとすると怜燈兄さんに止められた。
「桜花。またあとでな?」
幼い子供を窘めるように言われて、少し悔しかった。
私だって、そんなに小さくないのに……
渋々頷くと、怜燈兄さんは
「いい子だ。」
そう言って頭を撫でてくれた。
「皆着いたわよ!」
目の前には、大きな神殿があった。
神殿の中は、薄暗く少し不気味だった。
優朝も同じだったようで、いつの間にか私にぴったりとくっついていた。
「怜燈兄さん。気持ち悪い。」
「優夜!大丈夫か?」
優夜の顔色もあまり良くなかった。
「一度外に出よう。」
怜燈兄さんが優夜を抱えて外に出ようとすると、
「お待ちください。花選びに来られた方ですね。」
いきなり引き留められた。
全身真っ白な女の人が、笑みを浮かべていた。
「……そうですが。今はこの子の体調が悪いので出直します。」
怜燈兄さんが迷惑そうに言うと、
「そうですか。ですが、この神殿は一方通行。
入り口からは出られませんよ?」
女の人は、感情のない声で言った。
「では、出口に案内してください。」
「できません。花選びが終わらなければ、出ることはできません。」
「どういうことですか?!」
「規則です。」
怜燈兄さんは、女の人と押し問答をしていたが、
「……早く、始めてください。」
諦めたように、女の人に告げた。
「わかりました。では、こちらに。」
女の人は歩き出した。
コツン、コツン。
薄暗い神殿には、女の人の足音だけが響いていた。
「こちらです。」
女の人は、大きな扉の前で立ち止まった。
「一人ずつお入りください。説明は中の者がいたします。」
「一人ずつですか?」
時雨兄さんが、女の人にそう聞いた。
「はい。」
「一人では行けません。こちらには、幼い子もいます。
知らない場で一人にするわけにはいきません!」
時雨兄さんが強く言い切ると、女の人は考える仕草を見せた。
「……そうですね。では、二人ずつどうぞ。」
そう言って扉を開けた。
「優夜。大丈夫か?」
「……吐きそう。」
「ごめんな。もう少し我慢してくれ。」
怜燈兄さんがそう言って優夜を連れて入って行った。
しかし、いつまで経っても二人は出てこなかった。
「……次の方どうぞ。」
女の人はまた扉を開けた。
「どうぞって、二人はまだ出てきていませんよ?」
「どうぞ、お入りください。」
時雨兄さんがなにを言っても、女の人の返事は変わらなかった。
「わかりました。行くぞ優朝。」
「俺?!」
「そうだ。大丈夫。絶対守ってやる。
響姉さん。後はお願いします。」
「わかったわ。」
そう言い残して、時雨兄さんは優朝と入って行った。
「……二人組を作っておきましょう。」
響姉さんにそう提案された。
「……私は、鈴音と行くわ。凪は蓮華と行って。」
「わかった。」
紫音姉さんがあっという間に、二人組を作ってしまった。
「ありがとう。紫音。」
「いいのよ。」
「私は最後に行くから、紫音と凪どちらか先行くか決めなさい。」
「じゃあ、俺が先行く。」
「お願いね。」
順番もすぐに決まってしまった。
「次の方どうぞ。」
女の人の声と共に、扉が開き凪兄さんと蓮華が入って行った。
次は、紫音姉さんと鈴音が入って行った。
なにが起きるのか、全くわからなかった。
「次の方どうぞ。」
その声と共に、扉が開いた。
「桜花。行くわよ。」
私は響姉さんと共に、扉をくぐった。




