月夜の里。
ー怜燈視点ー
俺は、一人で光の大陸に来ていた。
響達になにも言わなかったことに、
罪悪感はあれど、言うわけにはいかなかった。
向かうは秘境。
月夜族だけが住まう場所だった。
「確か、この祠の裏。ここに、神力を流せば……」
祠の裏に、手をかざすと辺りには霧が立ち込め、
目の前には、大きな穴が空いていた。
その穴に向かって俺はゆっくりと歩き出した。
水の滴る音、淡く光る月光石。
とても懐かしかった。
俺は自然と獣人の姿に戻っていた。
そして、目の前には大きな桜の木が紅色の雨を降らせていた。
「王よ。よくお戻りになられました。」
その声につられ、視線を戻すと、白い老人が立っていた。
「私とは、初めましてだと思うのですが、貴方は?」
そう問うと、
「失礼いたしました。私は春の王家の長 陽依と申します。
春の王族からの王の誕生誠に嬉しく思います。」
「相変わらず、陽依は真面目だな。ちゃんと覚えているぞ。」
そう、口が勝手に返していた。
「あぁ。夕綺様!ようやく会いに来てくださったのですね!」
そう陽依は、泣き始めた。
「陽依やめろ。その方は夕綺様ではない。
記憶は保てど、存在は違うのだ。」
「志彗!なんてことを言うんだ!この方は紛れもなく夕綺様だ!」
陽依と名乗った老人は、激情した。
「今代の王にお会いすることができ、光栄にございます。
私は、秋の王族の長をさせていただいております、志彗と申します。
よろしければ、御名前をお聞きしても宜しいでしょうか?」
黒い老婆がそう名乗った。
「私の名は怜燈。今世ではそう呼んでくれ。
ところで、純夏と氷輝はいるか?久々に会いたい。」
「志彗!聞きましたか?私達のことを夕綺様は覚えておられるのです!
この方は夕綺様に間違いありません!」
陽依は、そう叫んだ。
「陽依。落ち着け。夕綺様はもうこの世にいないのだ。現実を見ろ。
……怜燈様。純夏と氷輝ですが、五十年ほど前に代替わりをいたしまして、
今の夏と冬の王族の長は変わっております。」
志彗と名乗る老婆はそう言った。
「……そうか。それは、残念だ。」
俺ではない俺が、ずっと喋っている。
そんな状態が、しばらく続いた。
「陽依、志彗。久々に会えて良かった。
今後は、私のことなど忘れて怜燈に仕えよ。わかったな。」
「「御心のままに。」」
二人はそう言って跪いた。
「夕綺様……」
ようやく主導権を取り戻した俺の前に、陽依は泣き崩れていた。
「騙すような真似をしてすまなかった。だが今のは間違いなく夕綺の言葉だ。」
「存じております。夕綺様に会わせてくださったこと、深く感謝申し上げます。」
冷静に見えた志彗の目にも、涙が浮かんでいた。
「夕綺様のことを忘れる必要は、ないと思いますよ。
夕綺様は確かに私の中に、そしてお二人の中に存在しているのですから。」
「……ありがとうございます。今代の王もお優しいのですね。」
そう言って、志彗は涙を拭った。
俺は、神であり神ではない。
神格を受け継いだ、器にすぎないのだ。
世界でただ一柱、神族でありながら神である存在。
獣神コノハが月夜族を、神族として存続させるために創った神の器。
それが、俺達「月の王」なのだ。




