約束の終わり。
ー怜燈視点ー
「さぁ行くぞ!足元気をつけろ!」
「荷物持ったか?」
「まま!早く行こう!」
村人達は、何度も振り返りながら村を出て行った。
数百年の歴史は、一日で終わりを迎えた。
その様子を俺達は、じっと眺めていた。
「村人よ!よく聞け!」
グラシエ様は、凍結が解けたばかりの村人に、そう告げた。
「……雪神様だ。皆頭を下げるんだ!」
そんな号令と共に、村人達は一斉に頭を垂れた。
「良い。面をあげよ。お前が村の長か?」
「はい。そうでございます。」
「名は?」
「白蔵と申します。」
名を聞かれた老人は、そう答えた。
「其方達は、我が眷属の力により十二年眠っておった。」
グラシエ様がそう言うと、
「え……」
「まさか……」
「嘘だ。」
あたりが一斉にざわついた。
「お前達!雪神様の御前であるぞ!静かにせい!」
白蔵と名乗る老人は、そう一喝した。
「……雪神様。大変失礼致しました。
この者たちには、私からよくよく言って聞かせますゆえどうかご容赦ください。」
老人の声は、震えていた。
「長よ?何故そこまで怯えておるのだ?何か心当たりがあるのか?」
「あ、あ、神よ、申し訳ありません。
私が誓約の管理をしっかり行わなかったが故に、貴方様の眷属であられた
叶和様と麗様を、村の者が手にかけたこと、どうかお許しください。
責任は私一人にございます。他の者にはどうか、情けを。」
老人はそう懇願した。
「待ってください!親父は、悪くありません!
悪いのは、金に目が眩んだ奴らです!だから、親父を罰するのはやめてください!」
「雪緒!余計なことは言うな!」
「でも、」
「いいから喋るな!」
「……自身の過ちを、理解しておることは褒めてつかわそう。
だが、我が眷属への行いは到底許されるものではないと知れ!」
グラシエ様が叫んだ途端、吹雪が吹き荒れた。
「「「申し訳ありません。申し訳ありません。」」」
村人達は口を揃えてそう言っていた。
「お前達が謝るべきは、私か?」
「いえ、叶和様と麗様、その御子様達にございます。」
「そうであろう?だが、彼らはもう居らぬ。
お前達が殺したのだ。謝罪など、無意味。
今すぐにも、お前達を氷漬けにするのは容易い。
だが、その最期までお前達を守ろうとした叶和の思いに免じて、
命だけは助けてやろう。」
「!ありがたき幸せにございます!」
「感謝なら、叶和にしろ。
今日をもって、白霧村との誓約は破棄させてもらう。よいな?」
「……はい。」
「期限は今日中。即刻立ち去れ。」
そう言い残し、グラシエ様は村を去った。
「グラシエ様。ありがとうございます。」
蓮華ちゃんは、グラシエ様に深々と頭を下げていた。
「よい。それが、お前達家族の望みであろう?
これまでの、誓約の任をここで解く。ゆっくり休め。」
「はい。有難きお言葉にございます。」
「怜燈。これからどうするんだ?」
「アウラ様。急に後ろに立たないでください。」
「すまぬ。で、これからどうするんだ?」
「時雨の師匠の元へ、戻ろうと思います。一度身体を、休めなければ。」
「それもそうだな。あそこは気候が良い。ゆっくり休め。」
アウラ様はそう言ってくれた。
「ありがとうございます。それと一つお聞きしたいことが。」
「なんだ?」
「神誓約についてです。」
「……なにが知りたい。」
「どこまで影響を与えれば、罰が下るのですか?
グラシエ様はかなりの影響を与えたはずです。
ですが、罰が下ったという話は聞いたことがなかったので。」
「ああ。月の王連中は、世間を回らぬものが多いから知らぬのか。
よく覚えておけ、怜燈。」
そう言ってアウラ様は神誓約について説明してくれた。
神を戒めるためにあるのが神誓約。
神と神族にしか結べぬのが誓約だ。
神誓約は三つしかない。
一つ、神は人に多大な影響を与えてはいけない
二つ、人間を愛すること
三つ、存在を維持し続けること
神誓約は、クレアシオンが考えた神への誓約だ。
抜け穴だらけだから、最低限守れば一つ目の神誓約は大丈夫だ。
わかりやすく言えば、頻繁に多くの人間にたくさん奇跡を起こさなければ大丈夫だ。
千人を超えたら気をつけろ。
「意外に多いですね。」
「あぁ。あのクレアシオンが作った決まりだ。
緩いに決まっているだろ?」
「それは知りませんよ。」
二つ目、三つ目は私達にもどうにもできん。
クレアシオンの強い意思ゆえ、守ることを勧める。
誓約についてだがこれは、破れない約束だと思えば良い。
結ぶ時に、神力を核とするため神と神族は破れぬ。
下手に結べば障害縛られる。安易に結ぶでないぞ。
破棄する方法は、
相互の同意。
契約違反。
契約者の契約範囲外での死だな。
アウラ様はわかりやすく説明してくれた。
「アウラ様。大変わかりやすかったです。ありがとうございます。」
「それは良かった。知ると言うことは、素晴らしいことだ。」
彼女はそう言って笑った。
「じゃあ翔ぶぞ!」
俺達十人はその日、白霧村を後にした。
瞬く間に見えなくなった村を、蓮華はいつまでも見つめていた。
まるで、記憶に刻み込むかのようだった。




