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十色の追想  作者: 詩庵
出会い編。
55/79

月に祝福を、夜に別れを。

俺は夜が好きだった。

夜空に浮かぶ月は美しく、俺達を高揚させた。


パリン。どこかで何かが割れる音がした。

仕込んでおいた術が発動した。

「怜燈……。助けられて、良かった……。」

幸福感に身を委ね、俺は冷たい壁にそっと寄りかかった。


しかし、そんな時間も長くは続かなかった。

「聖。仕事だ。さっさと出てこい。」

もう夜か、窓がないから時間なんてわかるはずがない。

「……はい。」

そう答え俺は、檻から出たのだった。

外に出ると、そこは相変わらず欲望が渦巻いていた。

「今日もうまくやれよ。」

そんな言葉を背に俺は舞台に上がったのだった。


「素晴らしい!」

「美しい!」

そんな称賛の声とは裏腹に、俺の気持ちは沈む一方だった。

こうして俺を褒める奴らは、この舞台が終われば俺を買うだろう。


俺のことを「下賎な種族。」

そう罵りながらも、俺との一晩を競り合うのだ。

馬鹿馬鹿しい。

そこに俺の意思はない、奴隷なんぞに意思などないのだ。

権利も尊厳も、何もかもを踏じられて、俺に残るものはあるのだろうか。

そんな絶望と共に今日も夜は更けていった。


「聖燈。何があっても怜燈のことは守りなさい。」

これは、俺が三つの時に母に言われた言葉だった。

怜燈は俺の実の弟ではない。

従兄弟だ。

だが、従兄弟というほど血の繋がりは遠くない。

むしろ兄弟と言っても差し支えないほどだ。

怜燈の父親と母親は、どちらも俺の父と母の双子の兄と姉だった。

だからびっくりするほど、俺達は似ていたのだ。


怜燈の本当の父親と母親はもうこの世にいない。

怜燈が一つの時に、襲撃に遭い死んでしまったのだ。

だから、怜燈とはずっと一緒に生活してきた。

父と母は平等に愛してくれたし、何の不自由もなかった。

ただ一つ。

俺と怜燈には違いがあった。

怜燈は王なのだ。

俺達、月夜族を生み出した神狐「コノハ」の神格を受け継ぐ器なのだ。

怜燈は、一族の誰よりも尊く、愛しい存在だった。


何があっても怜燈を守れ。

そう言われても何の不快感もなかった。

しかし、あんなに早くその言葉を守ることになるとは思わなかった。


俺が四つで、怜燈が三つの時だった。

俺達家族は、神族狩りの連中に襲われたのだ。

父と母は、俺達を逃すために囮になり自爆した。

「すぐに追いつくから。」そんな言葉は嘘だった。

俺は怜燈を連れて逃げた。

しかし、あいつらは数が多くすぐに囲まれてしまった。

抵抗するうちに俺は、傷を負ってしまった。

真っ赤な血が雪を染め上げた。

それに動揺したのか、怜燈は恐慌状態になり力を暴走させてしまったのだ。

「落ち着け!」

何度も叫んでも怜燈は落ち着かず、その姿を変えてしまった。


その力は凄まじく、一瞬で多くの追手を屠った。

しかし、追手は多く次第に怜燈の身体には傷が増え衰弱していった。

このままでは怜燈が死んでしまう。

そう思い俺は、取引を持ちかけたのだ。


追手連中の目的は、俺達を捕まえて売る事だった。

月夜族は、その美しい見た目と長い寿命から市場価値が高かった。

だからといってここまでする必要はあったのだろうか。

俺達は罪人ですらない。

ただ、普通に暮らしていただけだったのに、そんな言葉を押し殺して俺は口を開いたのだ。


「このままでは、皆さんも、俺も、あの子も死ぬでしょう。


……あの子は置いて俺だけ連れて行けばいい。

その方が被害も少ないし、あなた達にとっても割に合うでしょう?」

その言葉に納得したのか、奴らは取引に応じたのだ。


俺は、奴らの隙を見て怜燈の暴走を抑える封印と守護結界の展開を行った。

効果はゆっくり、誰も気づかぬように慎重に……

明日の朝には落ち着くだろう。

暴走した怜燈を見て、奴らも諦めたのかその数は減っていた。

これなら、そう思い俺は幻術もかけたのだった。

怜燈は暴走の末死んだ。

そう思わせられるはずだ。

後は、運に賭けるしかない。

「怜燈。どうか生き延びてくれ。」

そう願い俺は、奴らに連れられその場を去ったのだった。


あれから、十二年。

怜燈の消息はわからないまま時は流れた。

無事に助かったのだろうか。

俺は正しい判断ができたのだろうか。

後悔するばかりの日々だった。

そして今日、次の暴走を抑えるためにかけた術が発動したのだ。


あの子は、生きていた。

喜びで胸がいっぱいだった。

もう、俺が怜燈のためにできることはない。

もう、楽になってもいいんじゃないか。

そんな思いが、ふと胸をよぎった。

その時、

「聖燈兄ちゃん!聖燈兄ちゃん!大好き!

だから、怜とずっと一緒にいてね!約束だよ!!」

怜燈との約束の声が、頭の奥に響いた。

その約束は守れなかった。

でも、俺は怜燈に会いたい。

もう一度会って抱きしめたい。

生きたい。

これ以上穢されたくない。

そんな想いを胸に抱きながらも、

感情は次第に薄れ、記憶も曖昧になっていった。

俺はいつかの再会のために、心を封じたのだ。


「月に、怜燈に祝福を……


俺は聖。

ただの聖。人間だ。」

第一部「出会い編」を読んでくださりありがとうございました。


物語はまだまだ続きます。

今後とも温かく見守ってくださると嬉しいです。

よろしくお願いします。


※第二部は準備が整い次第投稿いたします。

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