珍しく雪が止んだ彼誰時だった。
ー優夜視点ー
「怜燈兄さん!落ち着いて!皆生きてる!
だから帰ろう、みんなと帰ろう!」
桜花お姉ちゃんが叫んだ。
「怜燈さん!いや、怜燈兄さん!帰りましょう!
凪も響姉さんも連れてみんなでまた、一緒に旅をしましょう!
だから、元に戻ってください!」
「怜燈兄さん!私達は誰もこんな結末望んでない!
昔守ると約束してくれたじゃない!約束守ってよ……」
「怜燈お兄ちゃん!!戻って!一緒に遊ぼうよ!」
「怜燈お兄ちゃん!また頭撫でてよ!」
時雨お兄ちゃん、紫音お姉ちゃん、優朝も僕も力の限り叫んだ……
その声に反応したのか、
怜燈お兄ちゃんであろう大狐は、すごいスピードで僕達に迫ってきた。
まずい。
思わず目を固く閉じた。
でも、その衝撃はいつまで経ってもこなかった。
恐る恐る目を開けると、目の前には氷の障壁ができていた。
そして、知らない女の子が、
「一人にしない、一緒に行こうって言ってくれたじゃん!!
一人にしないでよ!!」
泣きながら、氷の槍を放った。
止める間もなく、槍は怜燈お兄ちゃんに向かった。
もうダメだと思ったその時、奇跡が起こったのだ。
槍は怜燈お兄ちゃんに刺さらなかった。
いや、止められたのだ。
僕達の目の前、一人の少年が現れた。
「怜燈、いつかまた、こうなる日が来ると思ったよ……」
少年はそう呟いた。
そして、
「我が名は聖燈。我が血に願う、彼ものを眠りへと誘え。その心に安らぎをもたらせ!」
透き通る声と共に、大狐はみるみる姿を変え、怜燈お兄ちゃんに戻ったのだ。
少年はそっと怜燈お兄ちゃんを抱えると、静かにこっちを振り向いた。
透き通るような深い蒼の瞳をした少年だった。
「怜燈が、ごめんね。」
少年は、そう頭を下げた。
「僕は、今形なき存在だから色々説明してる時間はないんだ。
だから、これだけ怜燈に伝えて欲しい。
大丈夫。僕は生きてるって。」
そう言った少年の身体は、少しずつ透けてきていた。
「これからも、怜燈をお願いね。」
そう言い残して、少年は消えてしまった。
「……魂に取り憑いていたのか。過保護なものだな。」
いきなりアウラ様が現れた。
「兄さんは、怜燈兄さんは何もしていません!」
怜燈お兄ちゃんを守るかのように、時雨お兄ちゃんが立ち塞がると、
「安心せよ。もう大丈夫だ。殺しはせん。グラシエ、今日は帰るぞ。」
「はい。」
アウラ様はグラシエ様を連れてどこかに行ってしまった。
「よ、良かったー……」
そう言って、時雨お兄ちゃんが座り込んだ。
僕達も安心したのか、皆腰が抜けていた。
しばらくして、
「……みん、な、本当に、すまなかった。」
弱々しい声が聞こえた。
「「「「「怜燈兄さん(ちゃん)!!」」」」」
声を上げると、先程の弱々しい声からは信じられない速度で、
怜燈お兄ちゃんは体を起こして、僕達を抱きしめた。
そして、木の根元に寝かされていた響お姉ちゃんと、凪お兄ちゃんの元へ駆け寄ると、
涙を流して謝った。
「響、凪。ほんとにすまなかった。守ってやれなくてほんとにごめん。」
怜燈お兄ちゃんは、しばらく泣いた後、また僕達の方に向き直って
「皆、皆を苦しめて本当に申し訳なかった。
そして、守ってくれてありがとう。
みんなの声聞こえたよ。」
その言葉を皮切りに、僕達は怜燈お兄ちゃんに飛びついた。
「わっ!!皆んな危ないぞ……」
怜燈お兄ちゃんは涙を浮かべて笑っていた。
「皆、聞いて欲しい。俺は皆が好きだ。皆といたい。
だけど今日みたいに傷つけたり、苦しませたりすると思う。
だけど、お願いだ。こんな俺だけどこれからも皆んなと一緒に居させて欲しい。
こんどこそ守らせて欲しい!」
その顔は、何かが吹っ切れたように明るかった。
「……私、こ、そ、兄さんといたいわ。」
「俺も、皆といたい。」
眠っていた、響お姉ちゃんと凪お兄ちゃんも震える声でそう言ったのだ。
「私だって!」
「俺もだ!」
「私も……!」
「私もなの!」
「「僕達も!」」
「蓮華も。」
皆んなが次々に応えた。
「ありがとう。皆んな帰ろう。一緒に帰ろう。」
「「「「「「「「「うん!!」」」」」」」」」
ー怜燈視点ー
俺達は歩き出した。
不格好でもいい、間違ってもいい。
それでも明日は来るのだから。
いつの間にか雪は止み、空は晴れ渡っていた。
あの崖の下では、きっと雪蓮華は来年も咲いているだろう。
東の空からは、段々と陽が登り始めていた。
久々に見る美しい空だった。
この出会いに感謝を……




