夜の森。
ー時雨視点ー
「時雨お兄ちゃん、紫音お姉ちゃん。
僕達は、今輝鞠の親を追ってるんだ。」
優夜は言った。
「それはわかってる。
俺達が知りたいのは、何故追っているかだ。」
「……確認するためだよ。」
優夜は、諦めたように言った。
「何を確認するの?」
「相手の本拠地と、情報。」
「それは今しなくてはいけないのか?」
「時雨お兄ちゃん、今じゃないと駄目なんだよ。
前から、相手は僕達を狙ってる。
でも、情報は掴めなかった。
だから、この機会を無駄にはしたくない。」
優夜ははっきりと言った。
「そう。それは優朝も同意してるの?」
「紫音お姉ちゃん、大丈夫。
俺だってちゃんとわかってるよ。
それにこれは、俺の問題でもあるから。」
優朝の目は、真っ直ぐだった。
これ以上は何を言っても、二人の気持ちは変わらないだろう。
紫音を見ると、紫音は小さく頷いていた。
優夜は迷いなく、森を進んだ。
「優夜、本当にこの道で大丈夫なのか?」
「時雨お兄ちゃん、大丈夫だよ。
優夜はしっかり観てるよ。」
俺が、優夜の肩に触れる前に優朝が口を挟んだ。
「何を見てるんだ?」
「それは」「記憶。記憶だよ。」
言い淀む優朝の代わりに、今度は優夜が答えた。
「優夜?!大丈夫なの?!!」
突然紫音が弾かれたように言った。
「紫音お姉ちゃん、大丈夫だよ……多分。」
「優夜今すぐ辞めなさい。」
「それは無理だよ。」
「優夜のために言ってるのよ。
今すぐ辞めなさい。」
紫音の声には焦りがあった。
「紫音、一体どう言う事なんだ?」
「時雨、それは……」
紫音は気まずそうに目を逸らした。
「紫音、隠さなくていい。」
「……わかったわ。
でも、これはもしかしたらの話よ……」
紫音はそう言って話出した。
「優夜がさっき言ってた記憶は、神力を使ったものなの。
神族は、神力があってこその神族。
神力がなくなれば……」
「なくなれば?」
「どうなるかわからないわ……」
紫音は優夜を心配していた。
俺は神力については、ほとんど知らない。
それでも、優夜のやっている事が異常であることはわかった。
「優夜、本当に大丈夫なのか?!」
「大丈夫だって言ってるでしょ!」
優夜の声は苛立っていた。
「優夜、落ち着け。
感情が乱れてる。」
「わかってる!優朝も静かにしてて!」
「……時雨お兄ちゃんごめんね。
優夜は怒ってるわけじゃないんだ。
ただ、焦ってるだけなんだよ。」
そう言った優朝は申し訳なさそうだった。
「優夜の身体は大丈夫なのか?」
「それは大丈夫。
優夜は全部を観てるんじゃなくて、辿ってるだけだから、
時雨お兄ちゃんと紫音お姉ちゃんが思ってるほど辛くないよ!」
優朝はそう言ったが、その言葉はいまいち信じられなかった。
おそらく、優夜は記憶から方向を読み続けているのだろう。
軽くできるものではないはずだ。
「優朝、見つけた。
一キロ先、南西に降ってる。」
優夜はいきなり走り出した。
「わかった。」
そう言った優朝は、優夜より速く走り去った。
「紫音!」
「わかってるわ!」
紫音は優朝を追って消えていった。
「風耳。」
俺は優夜を追いながら、術を展開した。
「ねぇ、大丈夫なの?」
「っ、仕方ないだろ!
七号が使えなくなったんだ。
あそこにいる意味がないだろ?!」
「それはそうだけど、いきなりすぎない?」
「これでも遅い方だ。
まだ近くには、七号を使えなくした奴らがいるかもしれん!
下手をすれば次は俺達なんだぞ!」
「今逃げた方が怪しいんじゃないの?
少なくとも、あそこにいれば外部からは守られるわ。」
「外部とは限らないだろ?!」
「じゃあ貴方は、琰陽がやったって言いたいの?!
言っとくけど、琰陽にそんな実力はないわよ!」
男と女の言い争う声が聞こえた。
おそらく輝鞠の両親だろう。
ただ、彼らが異常に怯えている事が気にかかった。
「時雨お兄ちゃん、止まって。」
「あ、あぁ。」
「時雨お兄ちゃん、見える?」
優夜が指差した場所には、二人の人間がいた。




