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十色の追想  作者: 詩庵
人間と神族編
144/158

揺らぎ。

ー桜花視点ー

「それでは!」

そう言った怜燈兄さんは、一瞬で私達を見えなくする幻術を展開した。

人間達には、私達は消えたかのように見えていたはずだ。

私達は静かにその場を去った。


「怜燈兄さん、どうして急に意見を変えたの?」

響姉さんが聞いた。

「あれは無理だ。警戒され過ぎてた。」

「……そんなの予想できてたでしょ。

仲間の死体を見て、冷静でいれる方がおかしいわ……」

「その通りだ。」

「じゃあなんで持って帰らせたのよ……」

響姉さんは、呆れていた。

「……なんでだろな。」

「私を見ても答えなんてわからないわよ……」

「そうなんだよな。」

「「……」」

二人は無言で見つめ合っていた。

「仕方ないわね、今日はもう休みましょう。」

「あぁ。」

先に音を上げたのは、響姉さんだった。

私達は、歩き出した。

誰も何も喋らなかった。


しばらく歩くと、私達は森の前にいた。

「怜燈兄さん、まさかここに滞在するなんて言いませんよ、ね?」

紫音姉さんは、嫌そうな顔をしていた。

目の前には、真っ暗な世界が広がっていた。

焦げたような匂いが漂っていた。

「ここなら、ほとんどの人間は立ち寄らないだろ?

多少は人の目を気にしなくてすむぞ。」

「…………そうよね。うん。そう。」

紫音姉さんは、何かぶつぶつ言っていた。

「行くぞ。」

怜燈兄さんは進み出した。

森はとても静かだった。

死にかけている。

そう思った。

私は植物の声が聞こえる。

いつもなら、聞き取れないほど聞こえる声がここからは全く聞こえなかった。

「時雨、ここ、火の跡だらけだ。」

「大火事じゃないのか?」

「かな……」

時雨兄さんと凪兄さんがそんな会話をしていた。

「りんご。」

「ごま。」

「まくら。」

「らいう。」

「うどん。あ……」

「優朝負け〜!」「優朝の負けね。」

「やっぱ今のなし!」

「「だめ〜!」」

優朝と優夜と蓮華は飽きたのかしりとりをしていた。

森の奥には、少し開けた場所があった。

「ここでいいかな。桜花頼んだ。」

怜燈兄さんが私を見た。

コクッ

私は小さく頷き、地面に手を当てた。

そこには何もなかった。

植物の痕跡が全くなかった。

仕方なく私は、種を取り出し家を作った。


次の日の朝早く私は家を出た。

ゆっくりと歩く散歩は、変な気分だった。

「……」

葉の揺らぎさえ感じられない寂しい森だった。

「可哀想に……」

思わずそう言ってしまったほどだった。

森には、私達の家の場所以外にも拓けた場所があった。

私は胸元から、小さな袋を取り出し中身を撒き散らした。


「春の〜芽吹〜朝日が昇る〜

夏の〜輝き〜川のせせらぎ〜

秋の〜夕暮れ〜愛おしき日よ〜

冬の〜木漏れ日〜全て〜は眠る〜」


私は繰り返した。

私が知る唯一の歌。

響姉さんがくれた歌。

地面は死んではいなかった。

だけど、生命はほとんど感じられなかった。

目の奥がスッとして、わけもわからず涙が溢れた。

そこに人間が来た。

人間は色々なことを聞いてきた。

とても煩わしかった。

「生命よ芽吹け。この地に新緑の祝福を。」

諦めて私は、言葉を紡いだ。

私の中から、何かが一気に流れ出ていった。

深く、もっと強く。

心の中で強く念じた。

根は、土の中を突き進みやがて森に根を下ろした。

ゆっくりと生命が循環し始めた。

私は森に、命を吹き込んだ。

きっとこの森はゆっくりと再生していくだろう。

安心して家に帰ろうとしたけど、身体に力が入らなかった。

身体は重いし、人間は煩わしい。

とても嫌な気分だった。

そんな私に木は同調し、体を揺らした。

怖かった。

私のせいでまた、この子達が死んでしまうんじゃないか。

そう思ってしまった。

「皆、私は大丈夫。だから、皆は休んでて。」

そう言うと木々は静かになった。

けれど、人間はうるさかった。

私の身体は、ゆっくりと動かなくなっていった。

最後に覚えているのは、怜燈兄さんに文句を言ったことだ。


目を覚ましてからも色々あった。

最近どうしてこんなに、色々感じるのだろうか。

わからなかった。

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