認識。
ー怜燈視点ー
ギギィ。
何かを引っ張るような音の直後、勢いよく空を切る音が迫ってきた。
弓だ。
避けなければ、しかし矢は真っ直ぐ琰陽を狙っていた。
「伏せろ!」
咄嗟に叫んだが間に合いそうになかった。
「風壁。」
鈴音が咄嗟に風壁を展開し、琰陽を守った。
咄嗟のことに、一瞬頭が真っ白になった。
時雨はいない。
紫音、優朝、優夜も時雨と共に出かけていていなかった。
音を聞く限り、かなりの人数がいるようだった。
正直、長期戦になれば勝てないことはわかっていた。
俺の目の前にも、武器を持った者がいた。
倒そうにも、手持ちの武器はなく気術に頼るしかなかった。
敵は強く、響達を助けに行くことはできそうもなかった。
ジジッ。
火がつく音がした。
俺が反応するより速く、琰陽とその仲間が動いていた。
それでも、全員を守りきれる程の強度はないように見えた。
「水球、水鏡。」
凪が、水球で響達を守り水鏡で衝撃を反射した。
それでも完全ではなかった。
衝撃を吸収できずに、水球も水鏡も割れてしまった。
そこからの戦いはギリギリだった。
敵は多く、強かった。
俺も目の前の敵を倒し切ることができず、響達の援護には行けなかった。
響達もそれぞれ自分の最善を尽くしていた。
しかし、それ以上に消耗が激しく防御で手一杯だった。
「風斬り。」
突然遠方から、聞きなれた声が聞こえた。
俺は咄嗟に伏せた。
その上を風の斬撃が通り過ぎて行った。
反応が遅れた敵はあっという間に、真っ二つになっていた。
避けた敵も、優朝と優夜によって倒された。
時雨達のおかげで、俺達は事なきを得た。
「怜燈兄さん、これどうしましょう……」
時雨は遠慮がちに目の前の光景を指さした。
辺りには沢山の遺体が転がり、血の海だった。
木々も倒され、更地になっていた。
「そうだな、桜花にちゃんと謝ろう……」
そう言って俺はまだ目を覚まさない桜花を見つめた。
ー桜花視点ー
「う、うーん。」
目を覚ますと、家で寝かされていた。
怜燈兄さんが連れて帰ってくれたのだろう。
ゆっくりと身体を起こし、壁を見つめた。
スー。
遠慮がちに扉が開いたかと思うと、時雨兄さんが入ってきた。
「桜花!本当にごめん!」
いきなり土下座された。
「…………時雨兄さん、どうしたの……?」
「そ、その、木を切っちゃいまして、あの……」
時雨兄さんは、何かを誤魔化すかのように言った。
「木を?なんで?」
「ちょっと、少しごたごたがありまして……」
布団を出て外に出た。
目の前には、木が一本も残っていなかった。
「これは……」
光景の変化に戸惑っていると、
「桜花、違うんだ。
時雨、しなかったら、皆死んでた、かも……」
凪兄さんが、遠慮がちに言ってきた。
「いいや、俺がもっと配慮していれば良かった。
桜花、謝って済むことじゃないけど、本当にごめん。」
心外だった。
私は家族より、植物の心配をする妹だと思われてるみたいで嫌だった。
「……大丈夫。でも、私皆の方が大切。」
時雨兄さんははっとしたようだった。
「桜花違うんだ。
植物のこと、桜花は家族みたいに大切にしてるだろ。
だから……」
「家族みたいに大切にしてたら、花を売るなんてことしない。
勝手に決めないで……」
皆との距離が遠くなった気がした。
「……そうだな。ごめん。
俺が間違ってた。だけど、桜花の大切なもの壊しちゃった。
それはごめん。」
時雨兄さんは謝ってくれた。
「わかってくれたなら、いいの。
木は可哀想だけど、仕方ないと思う。
木もわかってくれる。
皆怪我は大丈夫?」
「大丈夫だ。桜花、ありがとう!」
時雨兄さんは笑った。
すっきりはしなかったけど、流すことにした……
辺りをよく見ると、誰かの遺体が大量に転がっていた。
今まで何度か、そういうことはあったけれど
ここまで酷いのは初めてだった。
血の生臭い匂いが辺りを漂い始めていた。




