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十色の追想  作者: 詩庵
人間と神族編
140/153

森の歌。

ー琰陽視点ー

里を出て、しばらく東に行くと大きな森がある。

いや、あった。

「相変わらずだな……」

「そうだな。」

俺達の目の前には、黒い世界が広がっていた。

三年前、ここでは大きな火災があった。

そして、一つの家が無くなった。

「ここは、いつ来ても気分が悪くなるな……もう行こうぜ。」

鷹丸が去ろうとした。

だけど、俺は動けなかった。

「鷹丸、聞こえないか?」

「何が?……う、た?か?」

どこからか、歌が聞こえていた。


「春の〜芽吹〜朝日が昇る〜

夏の〜輝き〜川のせせらぎ〜

秋の〜夕暮れ〜愛おしき日よ〜

冬の〜木漏れ日〜全て〜は眠る〜」


そんな歌が、繰り返し流れているのだ。

透き通るような、優しい声だった。

俺達は声のする方に進んだ。

そこには、赤紫色の少女がいた。

「君は……」

思わず声をかけると、少女はゆっくりと振り向いた。

少女は泣いていた。

「大丈夫か?」

「……何が?」

「君のことだ。」

「私は……大丈夫。

人間はどうしてここへ来たの?」

「なんとなく……」

「そう。」

少女はそれ以上喋らなかった。

ただ、何かを探るように地面に手を当てていた。

「何をしているんだ?」

「……」

「なぁ、一体何を……」「触らないで。」

俺が少女の肩に触れる前に、少女に止められてしまった。

「要件は済んだでしょ?もうどっか行って。」

とりつく島もないかのようだった。

「俺は、君達に用があるんだ。

どうしても聞きたいことがあるんだ!」

「…………なに?」

長い沈黙の後、少女は真っ直ぐ俺を見つめていた。

「どうして、君は、昨日のことがわかったんだ?」

「当たり前のこと聞かないで。

私達の忠告を無視したのは人間。」

「違う、俺は無視しようだなんて……」

「じゃあ、何も考えてないのね。」

少女の言葉はとても辛辣だった。

「……君の名前を教えてくれないか?」

「どうして?」

「君のことを知りたいんだ。」

「知る必要はないわ。」

「俺が知りたいんだ。教えてくれないか?」

「私が本当のこと、言うと思うの?」

「あぁ。」

「随分綺麗な世界で生きてきたのね。

残念だけど、人間の信頼に応える気はないわ。

わかったらさっさと消えて。」

「俺だって、ここに用があるんだ。

君はどうして、ここにいるんだ?」

「……はぁ。もう勝手にして。」

少女は深いため息を吐いたかと思うと、また地面に手を置いた。

「生命よ芽吹け。この地に新緑の祝福を。」

少女がそう唱えた途端、地面が揺れた。

少女の足元から、小さな目が生えたかと思うと、

芽はあっという間に大きな木へと成長した。


「もう大丈夫。ゆっくり休んで。」

少女が木に向かって語りかけたかと思うと、

炭化していた木々がみるみる灰になり、どこかへ散っていった。

その様子に比例するかのように、地面からは青々とした草花が成長した。

「すごい……」

「嘘だろ……」

死んだ森が、生き返っていった。

少女はさも当然のように森を見ていた。

静寂が辺りを包んでいた。

その様子を見届けると、少女は歩き出した。

ただ、その足取りは重く、ふらついていた。

「大丈夫か?」

「触らないで。」

俺の心配を無視するかのように、少女は歩いていた。

「着いてこないで。」

「こないでって、君、そんなにふらついて大丈夫なわけないだろ……」

「うるさい!人間のくせに、私に関わらないで!」

「君が心配なんだ!」

「迷惑だって言ってるの!」

少女が声を荒げた。

その声に答応するかのように、木々が動き出した。

「ッ、皆、私は大丈夫。だから、皆は休んでて。」

少女がそう呼び変えると、再び静寂があたりを覆った。

「やっぱり、心配だ。」

差し出した手が、届くことはなかった。

「妹を心配してくださり、ありがとうございます。」

目の前には、怜燈が立っていた。

「怜燈兄さん、遅い。」

「ごめんな。」

「いいよ。」

「ありがとう。少し休みな。」

怜燈がそう言うと、少女は安心したかのように目を閉じた。

「琰陽さん、昨日ぶりですね。

どうかしましたか?」

怜燈の笑顔は、とても綺麗だった。

「怜燈、聞きたいことがあるんだ。」

「私はないですよ。」

「わかってる。

怜燈達が、俺達のことを嫌ってるのはわかってるんだ。

だけど、もう一度話を聞いてくれないか?」

俺は、頭を下げることしかできなかった。

「……貴方も懲りない人ですね。

こちらへどうぞ。」

そう言って怜燈は歩き出した。

怜燈は、迷うことなく森の奥へ進んで行った。

しばらく進むと、そこには小さな一軒家があった。

「怜燈兄さん、おかえりな……お客様がいたんですね。」

響ちゃんは嬉しそうな声を一転させて、取り繕った声に変わった。

わかってはいたが、俺は歓迎されていないようだった。

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