帰還。
ー琰陽視点ー
「準備はできましたか?」
「あぁ。」
俺は輝鞠を抱きかかえて、家から出た。
夜空には、黄金の月が輝いていた。
「行きますよ。」
怜燈がそう言うと、辺りが一気に明るくなった。
「わからなかったのね……」
誰かが呟く声がした。
その声には軽蔑が混じっていた。
「……」
気づけば俺は空の上にいた。
景色が次々と移り変わっていった。
「着きました。」
怜燈の言葉に顔をあげると、目の前には見慣れた門が立っていた。
「どうやって見つけたんだ……」
紅蓮は隠れ里だ。
こんなに容易く見つかるなんて……
「そんなことどうでも良いではありませんか。
早く帰宅をお知らせしては?……その必要はないようですね。」
怜燈は真っ直ぐ門の先を見つめていた。
そこには鷹丸達がいた。
「鷹丸!」
「琰陽、そこを動くな。」
「え?」
「琰陽。武器を置いて手を上に上げろ。」
わけがわからず、言われて通りにすると、
「火球。」
「水球。」
俺の目の前で、二つの気術がぶつかり合った。
「おい!火笑!勝手なことをするな!」
「これは最も合理的な方法よ。
琰陽が、敵に洗脳されているか確かめれたわ。」
「で、どうだったんだ?」
「琰陽は、洗脳されてないか、支配されてるかのどちらかね。」
俺を見る火笑の目は、冷ややかだった。
「鷹丸、どうしてこんなことをするんだ?!」
「長からの命令だ。
一か月連絡すら取れなかったやつを、安易に里には入れられない。」
「俺は俺だ!洗脳なんかされてない!」
「そんなの俺だってそう思いたい!」
「じゃあどうしてだ?!」
「そこにいる輝鞠を見てみろよ!
死んでるんじゃないのか?!」
「ちが、違うんだ!」
「何が違う!」
「おい、鷹丸。
もう茶番はいいんじゃないか?
そんなの戦ってみればわかるだろ?」
鏡悟の言葉と共に、鏡悟と透が前に出てきた。
キーン!
俺の目の前には、時雨が立っていた。
「お前、今のを止めるのか。」
「こんな遅い攻撃、止められない方がおかしいだろ?」
時雨が鼻で笑った。
「貴様!」
鏡悟がキレた。
「鏡悟、待て。
今冷静さを欠くのは、まずいだろ。」
「そんなのわかってんだよ!」
「鏡返し!」
鏡悟の術は発動しなかった。
「俺は今受け止めただけだ。
返されるものなど何一つないぞ。
水の癖に短絡的だな?」
「火円。」
「水陣。」
火笑の攻撃をに凪がすぐさま反応した。
「時雨、鏡の方だけお願い。」
「わかった。」
「水壁。」
時雨の背後に回って透から、庇うように水の壁を展開させた。
「チッ。」
「貴方の相手、俺。」
戦闘が始まったように見えた。
しかしそれも長くは続かなかった。
鏡悟と透の攻撃は、全く通用しないのだ。
「怜燈兄さん、これどうしますか?」
「好きにしていいぞ。」
「待て!話しが違う!」
「琰陽さん、何を言っているんですか?
私が約束したのは、貴方の家族には手を出さないことであって、
仲間を傷つけないことじゃない。」
「そんな……」
「いい勉強になりましたね。」
「じゃ、じゃあ、誓約はどうなるんだ?!」
「ちゃんと有効ですよ。
貴方と関係ある者は、私達に傷一つ付けられません。」
「……今、俺達が戦えているのはどうしてだ?」
透が怜燈を睨んだ。
「貴方達が弱いからですよ。」
「俺達を馬鹿にしているのか?」
「いいえ。私は事実を言ったまでです。」
怜燈は笑った。
「一つ忠告いたしましょう。
貴方達では私達に勝てません。
それは、鬼ごっこの件で学んだのではないですか?」
「お前達は強い。
だが、勝てない理由にはならない!」
「あ、勘違いしないでくださいね。
私が言ったのは、誓約のせいで勝てないと言ったまでです。
ですが、誓約がなくても勝てないと思いますがね!」
「人間を舐めるなよ!」
「舐めてなどいません。
こうして琰陽さんを送ってきたではないですか。」
「輝鞠はどう説明するつもりだよ!」
「彼女は、私達を襲ってきたので処理しました。」
「貴様ー!」
透が怜燈に襲いかかった。
「仕方ないですね……」
怜燈が何処から取り出したのか、小さな玉を握った。
「グッ、カハッ!」
突然透が踠き苦しみだした。
「怜燈!やめてくれ!」
「はい!やめましょう!」
怜燈は笑って玉から手を離した。
「ゲホッゲホッゲホ!」
「透!大丈夫か?!」
「触る、な!これもそれもお前のせい、だろ!」
涙の滲んだ瞳で、透は俺を睨んだ。
「さて皆さん、どうされますか?」
「怜燈!いい加減にしてくれ!」
「琰陽さん、私は私のためにしか動きませんよ。」
「騙したのか?」
「騙してなどいませんよ?
貴方が勝手に勘違いしただけです。」
怜燈の笑みは、とても残酷だった。
「言ったでしょ?」
項垂れる俺に、赤紫色の少女がそう言った。




