距離。
ー時雨視点ー
「時雨は、強いな。」
その言葉が、なんとなく嬉しかった。
家族からではない称賛が、心に響いた。
最初はただ、警告に来ただけだった。
だけど、人間は話し続けた。
人間の言葉は、心地よかった。
俺は、家族に酷いことをした人間が嫌いだ。
父上と母上を奪った人間が憎い。
だけど、俺自身も人間だ。
鈴音は、俺のことを人間ではないと言っていた。
その言葉が本当なら、どれだけ良かっただろうか。
俺は、弱い自分が嫌いだ。
俺が強ければ、もっと上手く立ち回れていれば……
何度そう思ったかわからない。
琰陽さんは、自分は家族を殺したと言った。
そんなの俺も同じだ。
俺は、父上と母上を見殺しにした。
未だ、無念を晴らせてすらいなかった。
琰陽さんには、許すのは自分だと言った。
俺は、いつか自分を許せるのだろうか。
砦で手を汚してから、俺の手は赤黒く染まったままだ。
「縁」
俺は、ちゃんと繋げているのだろうか。
正直自信はない。
けれど、琰陽さんのおかげで少し楽になった気がした。
ー凪視点ー
夜目を覚ますと、時雨がいなかった。
周りでは、響姉さんや紫音達が寝ていた。
「紫音、紫音起きて。」
「うん……凪?なに?」
「時雨、いないんだ。」
「お手洗いでも行ったんじゃないの?」
「時雨が、俺を起こさないの、おかしい。」
「……わかったわ。外行きましょう。」
紫音は、ゆっくりと布団から出た。
外は生暖かい風が吹いていた。
「姉様達が起きちゃうから、大声出しちゃだめよ。」
「うん。」
「あまり得意じゃないのよね……」
「風壁。」
紫音は、家の周りに風の壁を作り出した。
「すごい。」
「時雨や怜燈兄さんには負けるわ。
これなら少し声出しても大丈夫よ。」
「ありがとう!時雨!……時雨!」
俺は時雨を呼んだ。
「時雨!……時雨!どこだ?」
「ここだ。」
時雨が林から、ゆっくり歩いてくるところだった。
「時雨!どこいってた?」
「散歩だ。紫音、起こして悪かったな。」
「いいのよ。じゃあ私寝るわ。」
「解。」
紫音は、欠伸をしながら家に入っていた。
「凪も、勝手にいなくなって悪かった。」
時雨は申し訳なさそうに謝ってきた。
「俺も、騒いでごめん。」
「さぁ、もう寝るぞ。」
「うん、あっその前に便所行きたい。」
「はいよ。」
こうして夜は更けていった。
朝、俺は人間に話しかけた。
「人間、昨日、時雨、ごめん。」
「え、あ、あぁ。こちらこそすまなかった。」
「怪我なかった?」
「大丈夫だ。助けてくれてありがとう。」
「……なんで、飛び込んだ?」
「君が、溺れるかもしれなかったから。」
俺の問いに、人間は迷うことなく答えた。
「なんで?」
「目の前にいるのに、ほっとけないだろ?」
「自分が危ないのに?」
「……それでも助けたいのが、俺なんだ。」
「死んでもいいの?」
「そうだな、死にたいわけじゃないが、
俺は、俺の選択で死んだならきっと後悔しない。
な、なんか恥ずかしいな!」
人間は照れたように笑った。
「……俺も。」
「俺達似たもの同士だな!」
「……俺、凪。人魚の凪。」
「聞いていいのか?」
「いい。人間、嫌いじゃない。」
「凪、俺のこと、人間じゃなくて琰陽って呼んでくれないか?」
「わかった。琰陽。」
俺が名前を呼ぶと、琰陽は嬉しそうに笑った。
酷いことする人間は嫌いだ。
だけど、琰陽のことは嫌いじゃない。
琰陽なら、雪山での俺の行動をきっと褒めてくれる。
ようやく認めてもらえたようで、嬉しかった。




