苦悩。
ー琰陽視点ー
あの事件から数日、俺の周りは信じられないほど穏やかだった。
優朝と優夜が、楽しそうに走り回り、
名前する聞けていない少女達が、花冠を作って遊んでいた。
家の奥に安置されている輝鞠の亡骸は、今にも動き出しそうだった。
「ただの自己満足でしょ?」
赤紫色の少女に言われたことが、頭から離れなかった。
優夜が観せてくれた記憶がほんとなら、この身体は輝鞠のはずだ。
だったら、遺体がないよりあった方が輝鞠の両親も救われるだろうと思った。
「俺は、どうしたらいいんだ……」
答える者は一人もいなかった。
目の前を、赤紫の少女が通りかかった。
「君、前言ってたこと、教えてくれないか?」
「……」
少女は、一瞥もくれず去っていった。
俺は、双子に近づいた。
「優朝、優夜、聞きたいことがあるんだけど、いいか?」
「何?」
おそらく、優朝であろう子が言った。
「優朝、僕は大丈夫だよ。」
「けど……」
「ちゃんと大丈夫。琰陽、何?」
「赤紫の女の子なんだけど、名前は?」
「えっと……」
「言う必要ないだろ。」
悩む優夜に、優朝が言った。
「本人が言わないなら、俺からは言えない。」
優朝は、俺の目を見てはっきり言った。
「じゃあ、こないだ彼女に、輝鞠を連れ帰るのは自己満足でしょ?
って言われたんだ。その意味聞いてきてくれないか?」
「……それは、無理だ。」
「琰陽、それは」「優夜!」
「大丈夫、助言程度しか言わないから。」
「……それなら。」
「琰陽、これは助けてくれたお礼。
琰陽は、今と過去どっちを大切にするの?」
「え……」
「優夜、言い過ぎだ。」
「大丈夫だよ。
それに、琰陽は恩人だ。」
「……」
その言葉で、優朝は黙ってしまった。
「琰陽、改めて助けてくれてありがとう。
それと、ごめんなさい。
優朝、行こう。」
「……あぁ。
琰陽、俺からもありがとう。
失礼な態度とって、悪かった。
それと…………人は心だよ。」
優朝は小さくそう言って去っていった。
過去と今、そして心。
「過去ね……」
「ねぇ、聞いていい?」
いきなり声をかけられた。
そこには、輝鞠の体を冷やしてくれた女の子がいた。
ー蓮華視点ー
「何も知ろうとしなかった私が、文句を言うのは違うから。」
私は確かに言った。
それでも、知ろうと行動できなかった。
「蓮華、どうしたの?」
鈴音お姉ちゃんが、私の顔を覗き込んでいた。
「わぁ!」
思わず尻もちをついてしまった。
「蓮華!大丈夫?!驚かしてごめんね。」
鈴音お姉ちゃんは慌てて起こしてくれた。
「大丈夫。私こそぼーってしてた。」
「いいよ。お客のこと考えてた?」
鈴音お姉ちゃんの瞳に、私は映っていなかった。
だけど、真っ直ぐ私を見つめていた。
「見えるの?」
「見えない。けど、視てる。
蓮華は、どうしたい?」
「……どうしたい?」
「そう。私は、蓮華を尊重する。」
「どうして?」
「怜燈兄達が、私を尊重してくれたから。」
鈴音お姉ちゃんは、笑った。
「私怖い。」
「怖いの?」
「うん。変わるのが怖い。」
私は、怖かった。
里に行けば、今までの生活は送れない。
自由じゃなくなるんじゃないか、家族と一緒にいられないんじゃないか。
胃に何かが渦巻くような感覚だった。
「私も怖かった。」
「鈴音お姉ちゃんが?」
「うん。蓮華が私達の中に来た時、
皆が、蓮華ばかり見るんじゃないか。
私の事、興味なくなるんじゃないかって怖かった。」
鈴音お姉ちゃんは続けた。
「……時雨兄に言われたの。
その通りだ。って」
「え……」
「その通りだよね。」
鈴音お姉ちゃんはクスクスと笑った。
「……」
私は、何も言えなかった。
「俺は、見てる。
時雨兄は言ったの。
今俺は、鈴音を見てる。
俺が見てない時は、凪が、紫音が見てる。
俺達は、家族を忘れたりしない。」
「……」
「急に言っても困るよね。
蓮華、私は蓮華が望むなら蓮華をずっと視てるよ。」
鈴音お姉ちゃんは突然言ってきた。
「それは……遠慮する……」
「冗談だよ!蓮華は可愛いね!」
「鈴音お姉ちゃん……」
「大丈夫、形は変わるけど、私は変わらない。
それは怜燈兄達も一緒だよ!」
「そんなのわからないよ。」
「その通り!未来は何もわからない!」
「じゃあ、どうして変わらないって……」
「私は、私が視てきたものを信じてる。
私は、蓮華が泣いてるのも視た。
そして、自分で立ったのも視たよ。
蓮華は、ちゃんと自分で立てるよ!」
「それは、紫音お姉ちゃん達が助けてくれたから……」
「決めたのは蓮華!
蓮華ならできるよ!
さ!話しかけておいで!」
そう言って鈴音お姉ちゃんは、私の背中を押した。
優朝と優夜を見送る人間に、ゆっくりと近づいた。
「ねぇ、聞いていい?」
自分でも、唐突すぎて慌ててしまった。
「あ、あぁ。」
でも、人間はちゃんと返事をしてくれた。
紅蓮の目に金色の輪がある、太陽みたいな瞳だった。




