弟妹。
ー蓮華視点ー
「怜燈お兄ちゃんなんて、嫌い。」
思わず声に出してしまった。
「氷の箱を出して。」
輝鞠の遺体をだめにしないためなのは、わかってる。
だけど、私を閉じ込めていたのも氷の箱だ。
怜燈お兄ちゃんは、人間がいると人間ばかり構う。
私の方が長く一緒に居るのに……
もやもやした気持ちが、取れなかった。
「はぁ、はぁはぁ……」
急に走ったせいで、呼吸が落ち着かなかった。
もやもやは、どんどん大きくなっていく。
喉が詰まったような感覚に襲われた。
「かひゅっ、は、はっ、はっ……えほっえほっ」
呼吸は次第に荒くなっていった。
自分では止められない感覚。
私は、一人。
怖かった。
「ひっ、ひっ、ひっえふっ」
私は、自分の首を絞めた。
こうすれば、楽になる気がした。
「蓮華!なにしてるの?!」
紫音お姉ちゃんが、私に呼びかけた。
「ひゅ、ひふっ。」
返事はできなかった。
首を大きく振っただけだった。
首から手が離され、抱きしめられた。
「蓮華。ゆっくりでいいから、息を吐いて。」
「ひっ、すーっひっ、けほ、ごほっ。」
「上手よ。そうゆっくり。
大丈夫。側にいるわ。」
紫音お姉ちゃんは、優しく背中をさすってくれた。
私の呼吸は、次第に落ち着いていった。
「……はぁはぁ、はぁはぁ。
紫音、お姉、ちゃん。ごめん、な、さい。」
「蓮華は、悪くない。悪くないわ。」
「で、も、迷惑、かけた。」
「迷惑なんかじゃないわ。
蓮華は、誰も傷つけてないわ。」
「……怜燈お兄ちゃんに、酷いこと、言っちゃ、た。ゲホッゲホッ。」
「ゆっくりよ。ゆっくり。」
「嫌い、って言っちゃ、たの。」
「そうね。」
「あれは、怜燈兄さん悪い。」
突然凪お兄ちゃんの声がした。
「ちょっと!凪!」
「だって、怜燈兄さんが、人間ばかり構うからだろ?」
「凪、いらんこと言うな。」
時雨お兄ちゃんも止めに入った。
「言うべきだよ。
家族のこと、見てない怜燈兄さん悪い。」
「……そうかもだけど……」
「蓮華、怜燈兄さん怒っていいと思うよ。」
「怒っていい?」
「うん。俺が代わり行く?」
そう言って凪お兄ちゃんは、戻ろうとした。
「やめなさい。」「やめろ。」
すかさず、時雨お兄ちゃんと紫音お姉ちゃんが止めた。
「なんで?最近の怜燈兄さんは、勝手すぎ。」
「そうだ。
怜燈兄さんは、勝手だな。」
「なんで止めるの?」
「俺が怜燈兄さんの、弟だからだ。」
「俺もだよ?だから諌める。」
「凪、怜燈兄さんには、多分何か考えがあるのよ。」
「なに考えてるかわからない。」
「それは凪もだ「でしょ」!」
「え、俺ちゃんと考えてる。」
「怜燈兄さんも、同じかもしれないだろ?」
「そんなのわかんない。」
「そうだな。」
「じゃあ、なんで?」
「怜燈兄さんを信頼してるからだ。」
「……」
「怜燈兄さんは、俺達のことを大事に思ってる。
やり方が、不器用なだけだ。」
「紫音みたいな?」
「そうそう紫音みたいな……あ」
ゴンッ。
鈍い音がした。
「「痛!」」
「いらんこと言わんでよろしい。」
「「はい。」」
時雨お兄ちゃんと凪お兄ちゃんは、痛そうにしていた。
「蓮華。凪が言ったことを認めるわけじゃないけど、
怜燈兄さんも、間違うことはあるわ。
だけどね、それをどう思うかは私達次第よ。」
「私次第?」
「そうよ。信じるも従うも蓮華次第。
でも、考えることをやめてはだめよ。」
「……どうして?」
「選択の権利があるからよ。」
「権利?」
「蓮華の意思は、蓮華のもの。
時雨の意思は時雨のもの。
考えるのは、自由よ。
だからね、自由を捨てることだけはしないで欲しいの。」
「考えて、間違ってたら?」
「その時は、私達が止めるわ。」
「自由じゃないの?」
「うーん。
止めるのも、私達の自由かしら?
そこから、どうするかは蓮華の自由よ。」
「聞かなくてもいいの?」
「いいと言えばいいけど、できたら聞いて欲しいわ。」
「なんで?」
「蓮華を守るためよ。
私は、蓮華に色んなことを知って欲しいって思ってるわ。
だけど、その気持ちと同じくらいの傷ついて欲しくないの。」
「私のこと、大切?」
「大切。
誰よりも、守ってあげたいわ。
怜燈兄さんもそう思ってるわ。」
紫音お姉ちゃんは、微笑んだ。
「紫音お姉ちゃん、好き。」
「ありがとう。」「「俺は?」」
「時雨お兄ちゃんも凪お兄ちゃんも、好きだよ。
怜燈お兄ちゃんも、好きなの……
紫音お姉ちゃん、怜燈お兄ちゃん怒ってる?」
「どうかな、今頃泣いてるかもしれないわ。」
「私泣かせた?」
「怜燈お兄ちゃんは、それだけ蓮華のこと大好きなのよ。」
「本当?」
「本当。
蓮華。怜燈兄さんも、良くないところがあったかもしれない。
でも、蓮華のことが大切で大好きなのは本当よ。
……今日は、怜燈兄さんのこと許してあげて。」
「私が許すの?」
「うん。もし、蓮華が気になるなら謝ればいいわ。
ただ、怜燈兄さんは蓮華のこと全く怒ってないと思うわよ。」
「私、謝る。
酷いこと言っちゃった。」
「蓮華は、本当に偉いわね!」
紫音お姉ちゃんは、時雨お兄ちゃんに目線を向けた。
「あぁ、その通りだ!」
時雨お兄ちゃんは、即座に答えながら凪お兄ちゃんを突いた。
「なに、時雨?
あ、うん!その通りだと思う!」
紫音お姉ちゃん達のやりとりを聞いていたら、少しもやもやが軽くなった。
すっきりはしなかったけれど、呼吸は少し楽になった。
私は、皆の妹。
大切に思ってもらえてる。
その言葉が、とても嬉しかった。




