兄。
ー響視点ー
怜燈兄さんがおかしい。
最近ふっと思うことが増えた。
元々、全部を理解できたわけじゃないけれど、
最近は、理解出来ないと言う感覚より、
何かが引っかかる感覚の方が、多い。
昔は、もっと違った気がする……
「琰陽さん。
輝鞠さんですが、どうされますか?」
「どうって……」
「記憶で見た通り、その輝鞠さんは輝鞠さんではありませんよ。
ここに、置いていった方がいいのではないですか?」
「だけど、身体は輝鞠だ。
身体だけでも、輝鞠の親御さんに返したい。」
「そうですか。分かりました。蓮華。」
怜燈兄さんは、蓮華を呼んだ。
「私?」
「あぁ。氷の大きな箱を出してくれないか?」
「箱?」
「そう。人間が入れる大きな箱だ。」
「本当に、しなきゃだめ?」
蓮華は、少し嫌そうだった。
「いいや、嫌ならしなくていいよ。
だけど、輝鞠さんの周囲だけ温度を下げて欲しい。」
「……わかった。」
「雪化粧。」
蓮華がそう唱えると、輝鞠に透明な膜ができた。
「冷たっ!」
人間がそう叫んでいるあたり、かなり冷たいのだろう。
「……これでいい?」
「いいよ。ありがとう。」
「……怜燈お兄ちゃんなんて、嫌い。」
そう言って蓮華は、走っていってしまった。
「蓮華!待て!」
「蓮華!」
時雨と紫音が凪も連れて、蓮華を追いかけていった。
「響姉さん。私達、少し離れてるね。」
桜花はそう言って、鈴音と共に優朝と優夜を背負って去っていった。
「怜燈兄さん?」
「あ、どうした?」
「もう皆行っちゃたわよ。」
「そっか、琰陽さん。
お見苦しいところをお見せしてすいません。
出発は、次の満月です。
それまでは、どうぞ今まで通り好きにお過ごしください。」
怜燈兄さんは、笑った。
「わかった。」
琰陽も、輝鞠を抱えてどこかへ行ってしまった。
「怜燈兄さん。最近どうしたの?どこか変よ。」
「そうか?」
「うん。怜燈兄さんが、違う人になったみたい。」
「いいや。俺はずっと俺のままだよ。」
「だったら、蓮華に嫌いなんて言われなかったんじゃない?」
「痛いとこ付くね。」
「そりゃ、もう八年になるもの。」
「もう八年か……」
「八年よ。
両親と暮らしてきた時間と、同じになっちゃったわ。」
「老けたな。」
「大人になったって言ってもらえる?」
「痛い!痛い、ごめんって。
響は、綺麗になったよ!」
「私は?」
「紫音も、桜花も、皆綺麗になったし大きくなった!」
「そうよ。怜燈兄さんもね。」
「そりゃどーも。」
「怜燈兄さん、私にも話せない?」
「……なにを?」
「怜燈兄さんの隠し事。」
「そんなものないぞ。」
怜燈兄さんは笑った。
「嘘はだめよ?」
「嘘じゃないよ。」
「そう?怜燈兄さんは、嘘をつく時の笑顔が一番綺麗よ。」
「……悪口は普通に言ってくれないか?」
「悪口じゃないわ。褒めてるのよ。」
「嘘だろ?」
「嘘じゃないわ。」
「響は、嘘つくと目を細めて笑うよ。」
「そうかしら?」
「そうだよ。ずっと一緒にいただろ。」
「そうね。それでも話せないの?」
「……わからないんだ。
俺は、嘘つきなのか?」
「さぁ。そんなの怜燈兄さんにしかわからないわ。
だけど、これだけは言えるわ。
私達には、怜燈兄さんしかいない。」
「そんなことはないだろ?」
「怜燈兄さんしかいないわ。
私達を集めたのは、怜燈兄さんよ。
そして、変えたのも。」
「響は、俺を責めるか?」
「責めない。
だって、私にとって怜燈兄さんは、大切な家族だもの。」
「俺は嘘つきなんだろ?」
「そうよ。
嘘つきで、意地っ張りで、頑固。
だけど、誰より信頼してるわ。」
「そんなこと言われたら、勘違いするぞ。」
「偶にはすればいいわ。
そして、偶には泣いてもいいのよ?」
「……ありがとう。
だけど、泣いたらかっこ悪いだろ?」
「手遅れよ。」
「そっか、そっか。手遅れか……」
私は怜燈兄さんを抱きしめた。
いつの日か、私を支えてくれた怜燈兄さんのように。
肩が少しずつ、濡れてきた。
「かっこ悪い怜燈兄さん。
私達は、何があっても怜燈兄さんを信じるわ。
だから、もう少し私達を信じて。」
「……」
怜燈兄さんは、何も言わなかった。
そんな背中を私は、さすり続けた。
「……怜燈兄さん。そろそろ顔あげてくれる?重いわ。」
「……」
「怜燈兄さん?」
「響、まだ明るい。俺は、寝る時間だ……」
怜燈兄さんは寝ていた。
寝息を立てる怜燈兄さんは、少し可愛かった。
にしても重い。
「怜燈兄さん、寝てればいいから狐になって。」
ポンッ
そんな音がしたかと思うと、私の膝には一匹の大きな狐がいた。
「そう言えば、怜燈兄さんって元は大きかったわ……」
金色の狐は、眠っていた。
その顔は、穏やかに見えた。
「怜燈兄さん、いい夢を。」




