闇。
ー紫音視点ー
優夜が輝鞠の記憶を観せてくれた。
この記憶が本当なら、優夜は悪くない。
そう思った。
輝鞠は既に、輝鞠の手で死んでいるなら、
優夜は、正しいことをしたはず。
なのに、優夜は壊れかけた。
偽物の暴走を止めたのだから、褒められるべきなのに……
どう声を掛けるべきか、わからなかった。
「簒奪。」
優朝が、優夜の感情を奪ったようだった。
優朝の顔色は、みるみる青ざめていった。
「紫音、二人を眠らせてくれ。」
怜燈兄さんに、頼まれた。
「夢狂。」
私は力を使って、二人を眠らせた。
だけど、本当にそれで良いのかわからなかった。
「琰陽さん。
貴方は、俺達に何を望みますか?」
怜燈兄さんが再び聞いた。
三度目の質問だった。
「……怜燈達が俺についてくることで、怜燈達はなにを得るんだ?」
「居場所を得ます。」
怜燈兄さんが間髪入れずに答えた。
「怜燈達は、どうして俺が、
怜燈達を、里に連れて行こうとしていたか知っているのか?」
「……すぐに思いつくのは、奴隷でしょうか?
ですが、貴方の話からその線は薄いと判断しました。
ですので、戦力補強といったところでしょうか?」
そう。
それが怜燈兄さんが、人間について行くといった理由だった。
「利用価値があるうちは、酷い目には合わない。
その間に、必要な存在になれば良い。」
そう怜燈兄さんは言っていた。
「もし、居たくなくなったら?」
「その時は逃げれば良い。」
「それは、相手も見越しているのではないでしょうか?」
「立場が強いのは、俺達だ。それを利用する。」
私と時雨の質問にも、怜燈兄さんはすぐに答えた。
「誓約を求められたら、どうするの?」
姉様が聞くと、
「誓約は、しないし、させない。
これは俺の我儘だ。
そんなものに皆を、巻き込めないし、
人間と下手に関係を結びたくない。」
「脅されたら?」
「そんなことが起きないよう、先に人間に誓約させる。
それと、里について行くは言ったが、
里で暮らす気はないよ。」
「「「え?」」」
今日一番の衝撃だった。
「怜燈兄さん、どう言うことですか?」
「え?言ってなかったっけ?
俺、異空間の作り方を聞いたんだ。
その中なら安全だなって。」
「聞いてません!」
怜燈兄さんには、姉様の制裁が下った。
「痛っ、痛い、ごめんって響!
お願いだから、ツボ押すのはや、めて……」
「……あ、そう言えば、前アウラに聞いてた。」
「へー。
怜燈兄さん、報告は大事だって言ってませんでしたっけ?」
「響、本当にごめん、痛い……
痛たた、ごめん!いや、申し訳ありませんでした!」
そのあと怜燈兄さんは、しばらくツボを押され続けていた。
姉様の頭のツボ押し痛いんだよな……
皆の哀れみの視線が怜燈兄さんに集まった。
そして、報告が大事って怜燈兄さんが言ってたことないような……
「居場所を得ることが、怜燈達の得になるとは思えない。」
流石に、疑われたみたいだった。
「いえ、居場所が有れば、火の国は私達を認めたことになるはずです。
それなら、私達も根無草のような生活は、
しなくて良いと判断致しました。」
怜燈兄さんの見た人を、惹きつけるいつもの笑顔。
「……そう、か?」
「えぇ!得たものは、恩返しさせていただく所存です。
貴方にも、損はないでしょう?」
「そう、だな?」
「私達は、場所はほとんどとりません。
里の外れでひっそりと、暮らしますので、
存在が、大きく怪しまれることはないですよ?」
「あ、あぁ。」
「いくつか、約束事さえ決めれば、
お互い安心できるはずです。」
「そうだな。」
「そうです!
さぁ、琰陽さん、どうされますか?」
怜燈兄さんは、身内の死を知った人間に、容赦ない追い討ちかけた。
私達のためなのかも知れないけど、人間が少し可哀想に見えた。
人間は今、正常な判断ができない。
なのに、こんなに追い詰めていいのかわからなかった……
「怜燈兄さん。人間が少し、可哀想よ。」
思わず言ってしまった。
人間が追い込まれる様子が、あの時の私みたいだった。
「そうだな、配慮が足りなかった。
紫音、止めてくれてありがとう。」
怜燈兄さんは、笑って言ってくれた。
けれど、その笑顔は嘘をつく時の笑顔だった。




