存在。
ー琰陽視点ー
優夜は、俺にも輝鞠の記憶を見せてくれた。
俺の知ってる輝鞠は、既にこの世にはいなかった。
輝鞠は、輝鞠の手で死んだ。
既に俺の知っている輝鞠は、いなかったんだ……
「僕が、輝鞠を殺した……
三人を殺した……」
優夜の声が聞こえた。
「僕が殺したのは、偽物なんかじゃなかった……
ごめんなさい、琰陽、ごめんなさい……
大切な人を消してしまって、ごめんなさい。」
優夜の声は、震えていた。
「優夜、俺の方こそ責めて悪かった。
優夜が殺したんじゃなかったのに。
受け入れられなくて、優夜を責めた。
本当に悪かった。」
「違う、違うよ。
輝鞠は、本物だった。
まだ生きてた。
でも、僕が刺したせいで死んじゃった。」
絶望と後悔が混じった声。
俺にも覚えがあった。
「違う。輝鞠は、もうどこにもいなかったんだ。」
「なにを、言って、るの?
だって、僕が……」「優夜、もう言わなくていい。」
橙色の髪の少年が、優夜の声を遮った。
「時雨お兄ちゃん、僕は、僕なら、気づけたんだ。
僕が間違えたんだ……」
「優夜、優夜は間違ってないよ。
間違ってない。
そうでしょう?琰、陽さん?」
時雨と呼ばれた少年は、初めて俺の名を読んだ。
「あぁ。優夜は、間違ってない。
むしろ、これ以上輝鞠を汚さないでくれてありがとう……」
そうだ。
これで、良かったんだ。
輝鞠は、もう輝鞠じゃなかったんだから。
なのに、俺の目からは涙が止まらなかった。
ー優朝視点ー
優夜が苦しんでる。
同じ立場なら、きっと俺だって苦しいと思う。
輝鞠を殺したのは、輝鞠じゃない。
優夜だ。
身体が生きていれば、輝鞠が死ぬことはなかった。
だけど、優夜が刺したから輝鞠は死んだ。
止めを刺したのは、優夜なのだから……
俺は、優夜に歩み寄った。
「時雨お兄ちゃん、代わって。」
「……大丈夫なのか?」
「うん。」
時雨お兄ちゃんに代わって、俺は優夜を抱きしめた。
俺と同じ顔の優夜が、唇を固く結んでいた。
泣かないように、涙が出ないように耐えていた。
「なぁ、優夜。
優夜は前、俺に、
俺達は二人で一つだって、痛いのは半分もらうって言ってくれたよな?」
「……うん。」
「でさ、半分笑ってって言ってくれたよな?」
「うん。」
「俺も、優夜に笑って欲しい。
だけどさ、俺は優夜のお兄ちゃんだからさ、
優夜の苦しいの、全部引き受けるよ。」
「優朝!それは駄目だよ!
これは、僕がしたこと、僕が悪いんだよ!」
「この前だって、優夜は俺が悪いのに、
俺の苦しいの、貰ってくれただろ?
今回は、俺も悪い。
なのに、全部優夜が背負うのは違うだろ。」
「違わないよ。
手を下したのは、僕だよ。」
「それは、俺が寝てたからだ。
俺が起きていれば、違ったかもしれない。」
「……違わなかったかもしれない。」
「そうだ。
違ったかもしれないし、同じかもしれない。
過去はもう変えられないんだ。」
そう言うと、俺は
「簒奪。」
優夜の感情を奪い取った。
「優朝!返してよ!
僕の気持ち取らないで!」
優夜の感情は、何倍にもなって俺に押し寄せた。
嫌悪、後悔、怒り。
優夜の感情は、黒く濁っていた。
「オエッ……」
気分が一気に重く、悪くなった。
「優朝、やめて……もう、やめてよ。」
優夜は力無く、俺の胸を叩いた。
「大、丈夫、もう、大丈、夫だろ?」
「優朝が大丈夫じゃない!」
「大丈、夫だよ。少し待てば、楽、になる。」
「夢狂。」
紫音お姉ちゃんの声が聞こえた。
頭が急に軽くなった。
そして、どうしようもない眠気に襲われた。
抗えない強い眠り。
ドサッ。
先に優夜が崩れ落ちた。
そして、俺の意識も遠のいていった。
「もういいよ。
もう、自分を責めなくていい……」
怜燈お兄ちゃんの声が、聞こえた気がした。




