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十色の追想  作者: 詩庵
人間と神族編
123/153

信じる者。

ー琰陽視点ー

輝鞠……

彼女との出会いは、養成学校だった。

誰にでも分け隔てない対応をする輝鞠は、

皆に好かれていた。

養成学校を出てからは、鷹丸と三人で任務をこなした。

泡沫輝鞠。

彼女は、飛び抜けて優秀ではなかったけれど、

一番下になることはなかった。

「大丈夫!きっと良いことあるよ!」

それが彼女の口癖だった。

やがて輝鞠は、治癒師の道へ進んだ。

「必要な時に、必要な人を助けれるようになりたいの!」

輝鞠はそう言っていた。

誰かのために頑張れる輝鞠。

それが全て偽りだ。

そんなことを言われても、信じられるわけがなかった。

鮮明であることが、偽りの証拠だと優夜は言った。

本当にそうなのだろうか……

作りものなら、彼女はなぜそういう風に記憶を作ったのだろうか。

俺なら、もっと目立たない存在にする。

そう思うほど、彼女は輝いていた。


「私達と取引致しませんか?」

怜燈は言った。

怜燈達を守る。

その対価として、怜燈達は力を貸す。

俺が望んだ結果だ。

だけど、

この取引を行えば、俺は人間ではなくなる。

そう感じてしまった。

優夜の話が本当なら、里に損害を出さずに利益を出せることになる。

だけど、輝鞠は本当に偽物なのか?

その考えが、頭から離れなかった。


「どうしますか?」

怜燈が再び聞いてきた。

取引を受けなければ、全てを失う。

答えは、一つしかなかった。

「……輝鞠は、本当に存在しなかった、のか?」

ようやく開いた口から漏れ出た声は、そう言葉を紡いだ。

「琰陽は、どうしたいの?」

優夜が聞いてきた。

優夜は、手を固く握りしめていた。

俺は、どうしたいのか。

答えは出せなかった。

「……琰陽が、望むように言って欲しいの?

輝鞠は、本当に存在したって言って欲しいの?」

その声は、焦っているように聞こえた。

優夜の言っていることは、間違いじゃない。

輝鞠は存在した。

俺は今もそう思っている。

「違う。輝鞠は確かにいた。」

「作られた記憶の中には、いると思うよ。」

「そうじゃない、本当にいたんだ。

輝鞠は、ちゃんと存在していたんだ。」

「……どうしてそこまで言い切れるの?」

「俺は、俺の見たものを信じてる。

俺はずっと輝鞠を見てきた。

この記憶は、絶対に作りものなんかじゃない。」

「そう思いたいだけじゃないの?」

「俺の記憶は俺だけのものだ。」

「その記憶に介入できるのが、僕達なんだよ?」

「それでも、この記憶は嘘じゃない。」

そう言って見つめた優夜の瞳は、揺らいでいた。


ー優夜視点ー

輝鞠は、「霞原輝鞠」と名乗った。

だけど、覗いた琰陽の記憶では「泡沫輝鞠」だった。

琰陽は、「この記憶は嘘じゃない」と言い切った。

あれだけ説明したのに、琰陽の意見は変わらなかった。


僕は、ゆっくりと琰陽に近づいた。

「輝鞠には、触るな。」

琰陽は、僕から輝鞠の体を遠ざけようとした。

もう動くことのない輝鞠を大事に抱えている。

そんなことしても、無駄なのに。

僕は、輝鞠は存在しないと言った。

それなのに、琰陽は存在すると言った。

答えなんて決まってる。

……それなのに、確かめたいと思う自分がいた。

「僕の名は優夜。

記憶の司書の名において命ずる。

彼者の記憶を映し出せ。」

記憶は巻き戻る。

そこに映ったのは、もう一人の輝鞠だった。

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