対極。
ー優夜視点ー
こいつは危険だ。
本能的に思った。
すぐに排除しないと……
霞一族は、神族なのに人間として生きる一族だ。
ただ、綺麗な生き方はしていなかった。
時折僕達を狙うお客がいた。
嫌悪の混じった、濁った目をしていた。
記憶を覗けば、そこには母のことがあった。
「一族の汚点!」
「裏切り者に天罰を!」
「お前達は存在など許されない!」
そいつらは口を揃えて、僕達のことを罵った。
そんなことを言われても、僕達の心が揺らぐことはなかった。
僕達には、家族がいた。
僕には優朝がいたから。
襲ってきたやつらは皆消した。
生かしておけば、皆が危険に晒されるから。
少しでも危険を減らしたかった。
だけど、そんな奴らのことも思う者がいた。
そして、そんな奴の前で僕はとどめを刺した。
「迷昏」は、記憶の中で眠らせる術。
輝鞠は苦しまずに、死んだ。
琰陽は怒った。
大切な人を奪われたと。
琰陽は僕達を助けてくれた、恩人。
だけど家族には遠く及ばない。
僕は間違ってない。
そう思うのにとても苦しかった。
ー優朝視点ー
負ければ死ぬ。
それが俺達にとっての当たり前だ。
殺さなければ殺される。
だからそうなる前に動くんだ。
記憶を混濁させられて意識が飛んでいた。
ようやく戻ったと思うと、人間が優夜を責めていた。
優夜の感情はどんどん不安定になっていく。
このままでは優夜が壊れる。
俺は人間に、残酷な可能性を突きつけた。
お前のせいだ。
そう言われるほど辛いことはないだろう。
恩を仇で返された。
そう思われても良かった。
俺は、優夜が壊れなければそれで良かった。
「……琰陽。僕を殴りなよ。」
優夜が喋った。
「その必要はないだろ?!」
「ううん。僕が悪い。
琰陽の目の前でやるべきじゃなかった。」
「……そんなの、そんなこと、するわけないだろ!」
人間が叫んだ。
その目には、涙が浮かんでいた。
さっさと襲ってこればいいのに。
そう思ってしまった。
襲ってこれば、すぐにでも消そう。
そう決めていたのに、人間は動かなかった。
そしてそんな思考をする自分が、嫌になった。
「人間、記憶と感情を消してあげようか?」
俺は聞いた。
忘れてしまえば、痛くないから。
「……やめろ、もう、やめてくれ……」
人間は呟いた。
「お前達は、人間じゃないんだな。
人間だったら、こんな無神経なこと、言わないよな?」
「ッ、違う。俺は、お前のことを思って……」
「じゃあ、心がないんだよ。
心がないから、誰かを想うこともできないんだよ。」
「…………」
なにも言えなかった。
だって、俺達が人間じゃないのは知っているから。
「それは違うわ!」
さっきまで、ずっと静かに話を聴いていた響お姉ちゃんが叫んだ。
「そんなこと言わないでください!
私達にだって心はあるわ!誰かを想うことだってできる!
出会ってすぐのくせに、否定しないで!!」
「……響ちゃん。君も、人間じゃないんだな。」
珍しく声を荒げた響お姉ちゃんに、人間は言い放った。
心がないのはどっちなんだろう。
俺達のことを理解しないのは、どっちなんだろ……
ー怜燈視点ー
「……響ちゃん。君も、人間じゃないんだな。」
それは、響が一番嫌な言葉だろう。
皆が苦しんでる。
俺達だけじゃない。
この人間だって、仲間を失って苦しんでる。
俺が同じ立場なら、きっと優夜に手をあげていた。
そう思うからこそ、なにも言えなかった。
最初に手を出したのは、どっちなんだろう。
俺達のところに来た人間?
ここに連れてきてしまった俺?
手を汚した優夜?
考えても答えは出ない。
目の前にあるのは、結果。
可能性は既に、可能性として消えたものだから……




