調整。
ー怜燈視点ー
鬼ごっこが始まってすぐ、俺は狐に姿を変えた。
月夜族の色持ちしかできない変化。
周りからは、ただの狐にしか見えないだろう。
俺は森を歩き回った。
しっかり逃げてる、時雨と凪。
考えながら結界を張る、紫音と桜花。
緊張を楽しむかのように、追手の横に隠れる鈴音と蓮華。
結界を解除できるようになった追手。
風で霧を晴らそうとする追手。
そこまでは予想通りだった。
追手が森に火を放ったのは予想外だった。
その結果桜花がキレてしまったのだ。
植物と心を通わせ、友として接する桜花は、
植物のことに関して敏感だ。
琰陽と鷹丸の会話を少し眺めてから、俺は動いた。
俺は、時雨達の元へ向かった。
「時雨!紫音!鈴音!」
声を掛けると、三人は首を傾げるばかりだった。
「こっちだ!」
もう一度呼びかけると、
「怜燈兄さん、そんな姿で急に呼ばないでください。
探しづらいです。」
時雨に小言を言われてしまった。
「私は、可愛いと思う!」
「小さくて可愛いですよ!」
鈴音と紫音は褒めてくれた。
「ありがとう!
……なぁ、時雨。足元のそれどうした?」
時雨達の側には人間が倒れていた。
「あ、これですか?
倒しました。思ってたよりは強かったです。」
平然と言われた。
「そうか……」
「あ!女の方には手をあげていませんよ!女の方は紫音が!」
「ちょっと!時雨!私は眠らせただけよ!」
確かに、男二人は傷だらけだったが、
女の方は、傷一つなかった。
「……鈴音。なにがあったか教えてくれないか?」
「……」
鈴音はちらりと紫音の方をみた。
何か言えない理由があるみたいだ。
「わかった。今回は何も聞かない。
とりあえず、紫音はこの霧を消してくれ。
時雨は紫音と、お客を家まで運んでくれ。」
「分かりました。」
「はい。」
二人は頷いた。
「鈴音は凪と蓮華のところに行ってくれ。」
「行くだけ?」
「伝言を頼む。
凪には、こっちに戻って時雨達を手伝うよう行ってくれ。
それと、鈴音は蓮華と一緒に火を消してくれ。」
「私、水の気は得意じゃないよ?」
鈴音は、訳がわからないようだった。
「大丈夫。鈴音ならできるよ。
わからなかったら、アウラ様に祈ればいい。」
「??」
「燃えるために必要なものを、なくせばいいんだ。」
「……わかった!」
鈴音は、理解したようで走り出した。
「俺は、桜花を止めに行く!」
「はーい!」
鈴音はあっという間に見えなくなった。
「消香。」
紫音が唱えると、直ぐに霧が晴れた。
「向こうにも、三人倒れていたからちゃんと処置するんだぞ!」
「……分かりました。」
紫音は少し嫌そうだった。
「俺は行くからあとは頼んだ!」
「怜燈兄さん。桜花のこと、あまり叱らないで下さいね。」
「大丈夫。俺は止めるだけだ、叱るわけない。」
そう言うと、紫音は安心したように笑った。
桜花の元へ行くと、人間達は既に伸びていた。
「桜花、待つんだ。」
「どうして?」
俺に止められたことが、桜花は納得できないみたいだった。
「人間を殺すのは駄目だと、いつも言ってるだろ?」
「先に悪いことしたのは、人間の方。同じこと、返してるだけ。」
桜花は、かなり怒っていた。
「自分がされて嫌だったことは、他に者にしてはいけないよ。」
「違う。二度としないよう反省させるだけ。」
「……その過程で死んだら、反省もなにもないだろ?」
「…………」
「人間は、俺達が思うより弱いんだ。
加減しなければ、すぐに死んでしまうんだ。
だから、今すぐ蔦を解くんだ。」
「なんで?あの人間意識ないよ。反省してない。」
「飛ばしたのは桜花だ。」
「そっか。」
桜花はようやく蔦を解いた。
急に息が苦しくなった。
と思えば、今度は冷気に包まれた。
「……怜燈兄さん。森が凍っちゃった。
怜燈兄さんが、言ったの?」
「そうだよ。」
「なんで?!今すぐ止めて!」
「俺は止められないよ。」
「今すぐ止めなくちゃ!」
俺は、桜花が蓮華達の方へ行くのを止めた。
「兄さん!離して!!」
「桜花。木をこれ以上苦しめちゃいけないよ。」
「助けるの!苦しめたいわけじゃないの!」
「桜花のは見えてるんじゃないのか?
木はもう死にかけてる。」
「……まだ、助かるかもしれないもん。」
桜花は目に涙を浮かべていた。
「生命はいつか終わる。縋り付いてはいけないんだ。」
「兄さんは、助かる生命を見捨てるの?!」
「……全てを救うことは、できない。」
「じゃあ、私は手の届く範囲だけでも助けたい!」
「……駄目だ。」
桜花の気持ちは、理解できないわけじゃなかった。
だけど、命を軽く扱ってはいけない。
俺は、止める以外の方法がわからなかった。
「桜花、ごめん。
どうしても、駄目なんだ。」
「兄さんは、家族が同じ状況でも見捨てるの……?」
そう言って桜花は、とても悲しそうに見えた。




