正しさ。
ー鷹丸視点ー
どうして琰陽は、この任務を引き受けたのか。
おそらく琰陽は、この任務の本当の目的を知っている。
ただの調査で里はここまでの動員を許可しない。
珍しい物。
すなわち、人の技術では作り出せない物だ。
この世界に存在する種族は二種類しかない。
神族か人間族か。
全ての能力において人を上回る神族。
どれほど傷つけられても抵抗しないと言われてきた種族。
長年そう言われ続けてきた種族が変わりつつあった。
自爆による被害。
神族による殺人。
近年問題視されている神族絡みの事件。
俺の両親は神族の自爆に巻き込まれ亡くなった。
あいつらは、追い詰められると何をするかわからない。
そんな次元じゃない。
神族は、最初から自爆するつもりで動く。
彼らには躊躇がない。
一つの命に価値など見いださない。
神に創られた、神のための道具でしかない。
神族に対する拒絶は、日に日に強くなっていった。
響と名乗る少女を見た時、酷い嫌悪感に襲われた。
怜燈という少年の言葉には、強い寒気を感じた。
最近里では、神族を取り入れた組織を作るという噂があった。
琰陽は現長の二番目の息子。
ただ、長を継げるのはあいつしかいない。
「鷹丸。俺、俺は、兄さんを、紅陽を、あ、どうし、よう……」
雨の止まない日だった。
琰陽はそう言って崩れ落ちた。
紅陽は、琰陽の五つ上の兄だった。
側から見ても仲のいい兄弟だった。
「鷹丸!琰陽を頼むぞ!」
それが紅陽の口癖だった。
誰よりも琰陽を大切にしていたのに、守るのは自分ではないというような、
一線を引くような言葉だった。
「……鷹丸さん!こっち来て!」
雨の降る夕暮れに、火波に呼び出された。
「火波、どうしたんだ?」
「紅陽兄さんが、父さんを殺そうとして、失敗して逃げたの!」
彼女は途切れ途切れに言った。
「どうして……」
「琰陽兄さん!!」
火波の声の方を見るとそこには、琰陽が蹲っていた。
「おい!琰陽どうした?!」
声をかけても返事はなく、首を横に振るばかりだった。
「火波、少し外してくれないか?」
「どうし……わかった。」
火波は足早に去ってくれた。
「琰陽。火波はいない。何があった?」
「……紅陽兄さんが裏切った。」
「聞いた。大丈夫か?」
「違う。そう、じゃな、いん、だ……
俺が、俺の、せいなんだ。
俺は、俺が兄さんを……」
気が動転しているのか琰陽の言葉は、どこかおかしかった。
「落ち着け!お前のせいじゃない!」
「違う、違うんだ。
俺が、この手で、やっ、たん、だ。」
そう言った琰陽の手は、赤く染まっていた。
「どういうことだ?」
「……紅陽、兄さんを、追いかけた、ら、崖で、気づいたら、刺し、てて」
「死体は?」
「下、川に、落ちてて、わから、なく、て
でも、長に、なれ、って……」
琰陽の話しから全てを理解することはできなかった。
それから琰陽は、長になることへ執着した。
今までしてこなかった勉強もするようになった。
任務も選ばなくなった。
危険だろうが、めんどくさいものだろうが、
隙間を埋めるかのように、働いた。
周囲は感心したが、俺は心から喜べなかった。
琰陽は、本当にそれでいいんだろうか。
そう思う日々だった。
「ありがとう。」
琰陽は、何かにつけて感謝してきた。
本当は止めて欲しいんじゃないだろうか。
そう思っても、俺は止めなかった。
両親が死んだ。
琰陽は自分のことのように泣いてくれた。
「大丈夫、鷹丸。……大丈夫だ。俺が側にいるから。」
琰陽は俺が、神族を憎んでいるのを知っている。
なのにどうして俺を、この任務に連れてきたのだろうか。
俺は、どうすればよかったのだろうか。
近くで指揮を飛ばす琰陽が、遠くに感じた。
俺が神族の話題を出した時琰陽は、どんな顔をしていただろうか。
何かを言おうとしていた。
だけど、聞きたくなかった。
聞けばもう、戻れない。
戻せない気がした。
「わかった。」
全てを飲み込んだかのような了承。
俺達は森を駆けている。
辺りは一面真っ白、音すら聞こえない。
それでも、鬼ごっこは始まったばかりだった。




