思い違い。
ー時雨視点ー
「霧隠し。」
凪がそう唱えると、霧が辺りを覆い尽くした。
一メートル先は。見えないほどだ。
「時雨!私達はこの札を貼ってくるわ。」
紫音は、幻術結界の札を持って桜花と霧の中に消えて行った。
「ねぇ、時雨。
ここまでする必要あるかな?」
凪が小さく呟いた。
「……手を抜くってことか?」
「ううん。さっさと気絶させる。
あの人間達弱いよ。
その方、速く終わる。」
「じゃあそうするか?」
「……わからない。」
凪は悩んでいるようだった。
怜燈兄さん達と旅をするようになって、六年。
こうして鬼ごっこをするのは、すでに十回以上だ。
蓮華が増えてからだろうか?
怜燈兄さんが、殺気を纏って帰ってくることが減った。
それに比例するように、人を見る回数が増えた。
「怜燈兄さん!なぜ鬼ごっこなのですか?
そんなことしなくても、斬ってしまえばいいのではないですか?!」
「それは……とにかく、殺してはいけない。」
怜燈兄さんは、言い淀んだかと思うとそう断言した。
生かせば、それだけ情報が洩れるのに……
鬼ごっこを見ていると、皆の動きが少しずつ良くなるのがわかった。
逃げ方から隠れ方。
そして、能力の使い方。
怜燈兄さんが何かを教えたわけじゃなかった。
けれど、能力が向上するのが感じられた。
凪の疑問はもっともだ。
けれど、その意味も凪は汲み取らなければ。
凪はもう家族を守る存在だから。
ー凪視点ー
響姉さんは、何を考えているんだろう。
怜燈兄さんが、俺達を鍛えるために鬼ごっこをさせてるのはわかる。
けれど、今回来た人間は弱そうに見えた。
俺達が得るものは何もないはずなのに、どうしてこんなことをするんだろう?
さっさと送り返すなり、殺すなりすればいいのに……
霧隠しの中に風の気と冷気が混じり出した。
鈴音と蓮華だ。
日に日に二人は強くなる。
俺も負けないよう強くならないと。
霧を通じて、周りの状況を把握すると、
人間達は四組に分かれて動き出した。
ある一組が、紫音達が仕掛けた幻術結界を次々解いていた。
それくらいはできて当然だ。
むしろ、できない方がおかしい。
ただ、その一組以外はただ走っているだけみたいだ。
近くにいる鈴音達に気付いてすらない。
「時雨。こっち、五人来る。」
「わかった。気配を消すぞ。」
俺達は気配を消した。
木の一部になったように息を殺した。
「琰陽、居たか?」
「いいや、一人も見つからない。
ただ、この霧は不自然だ。
風南!風を起こしてくれ!」
琰陽と呼ばれる男がそう言った。
「風祓い。」
風が吹き荒れた。
霧が晴れることはなかった。
だって、これは霧ではないんだから。
これは小さな水滴を辺りに散らしたもの。
その場に停滞し続ける。
術を見破るのは、基本中の基本。
できなければ、死ぬだけ。
怜燈兄さんの意図も、響姉さんの意図もわからない。
生かす必要なんてないと思うのに……




