表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

10,





 白紙のノート(私のスキル)で見ることが出来る『才能値』は、『Lv』が上がった際に『スキルP』として手に入る数値です。『スキルP』がなければ『スキル』は入手できません。私でも『スキルP』が足りなければ『スキル』を入手できないのですから大変重要なものとなります。

 しかしこの『才能値』。才能というだけあり、並大抵のことでは変動しません。ほとんどの場合変動することなく生を終えるのではないでしょうか。今まで数多くの人々の『才能値』を見てきましたが、変動した人はほんの一握り。

 その少ない枠に入ることが出来たあの『下位候補生』は今まで以上に期待が出来るでしょう。貼ってある付箋をよくチェックしておくようにするとしましょう。


 付箋は白紙のノート(私のスキル)の能力の一部でノートを開かずとも簡単に見れるように出来る非常に便利なものです。色もつけることができ、文字数の制限があるとはいえ非常に使えます。

 何千人と『白紙のノート』で確認してきたのでいちいち全ての人のことは覚えていませんので確認済みの印としても活用しています。


 彼の付箋に要チェックのマークを入れて完了です。彼なら『中位候補生』昇格試験をクリアし、より高みとなる『上位候補生』となることも夢ではないでしょう。そこから私のお人形さん達の仲間入りをするのはさらに狭き門となるので難しいところです。ですが彼が『才能値』をさらに上げることが出来れば、もしかするかもしれません。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







「今日は特別に『中位候補生』の授業の見学に行きましょうか」

「ほんとう!?」

「やったぁ~!」

「『中位候補生』の授業は『下位候補生』と色々と違いますけど、静かに見学するんですよ?」

「「はぁ~い!」」


 普段は『下位候補生』の授業――走りこみと筋力トレーニング――しかリート達には見学を許していません。でも今日からは徐々に『中位候補生』や『上位候補生』の授業の見学をさせていこうと思っています。彼らも何れはここで授業を受けることになるのですから。


 『中位候補生』達が授業を受けている場所は『下位候補生』達が走っている広い校庭とは違い、高い塀で囲われた場所です。リートとニューイを両手に華状態にして向かえば塀の入り口に常駐している騎士2名が敬礼をして出迎えてくれます。両手の2人も空いている手を胸に当てて真剣な顔で返礼していてとても可愛らしいです。


 高い塀に囲まれた場所は『下位候補生』達が走っている校庭よりは狭いですが、それでも十分な広さがあり中では数十人の『中位候補生』が激しい戦闘訓練を繰り広げています。


「かっこいー!」

「けんがきらきらしてる~」


 彼らが着込んでいる鎧は『重量増加』、『行動速度減衰』、『疲労増加』などの悪性効果を齎す『スキル』を取得させています。一般人が着込めば数分もせずに動けなくなるでしょう。あの鎧を着けて激しく動き、訓練できるのには当然理由があります。


 『中位候補生』への昇格試験をクリアした『候補生』は最初に『スキル』を取得します。もちろん自身で取得は難しいので私が取得させます。これは洗礼のようなものです。『下位候補生』と『中位候補生』の間には確固とした大きな隔たりがあるのです。それは歴然とした身体能力の差です。その大きな隔たりとなるものが『身体能力強化』という『スキル』です。その名の通りに身体能力を強化する『スキル』です。ですがその効果は非常に大きいものがあります。

 『探索迷宮』に潜る探索者にとって『身体能力強化』の『スキル』は憧れです。それほどまでに優れた『スキル』なのです。しかし『スキル』は取得したからといってすぐに扱えるというものではありません。優れた『スキル』であるために扱うにはそれ相応の資格が必要となるのです。その下地を1年(・・)かけて培えば、取得した段階で『身体能力強化』のスキルは熟練度が2段階目から始まることが出来るのです。


 通常の『スキル』は取得した段階では熟練度は当然最初から――1段階目となり、その恩恵をほとんど得ることはできません。いうなれば初心者程度。最初から十全にその力を扱うことは出来ません。

 しかし何度も『スキル』を使い、熟練度を上げていくことにより段階が上がり、力を扱えるようになっていきます。熟練度が上がれば使いこなせるようになるだけでなく、『スキル』の効果自体を大幅に上げることも出来ます。

 『身体能力強化』のように事前に体を鍛えておくことにより熟練度の初期値を引き上げることが出来る『スキル』は比較的多くあります。『身体能力強化』ならば取得した後でも体を鍛えれば熟練度は上がります。1年も鍛えれば2段階目には上がるでしょう。しかしそこは『スキル』を取得するための『スキルP』の問題があったり、『忠誠心』の書き込みが終わらない段階で『スキル』を取得させることの弊害などがあったりします。主に私の手元から去るという弊害が。


 ちなみにリートの『神聖魔法』も熟練度がLv7.835です。これはLvが熟練度を表し、数値が段階を表します。リートの『神聖魔法』は8段階目に近い、7段階目の熟練度だということです。


 1段階目で初心者。

 2段階目で人並み。

 3段階目で中級者。

 4段階目で上級者。

 5段階目でベテラン。

 6段階目でその道のプロ。

 7段階目で天才。

 8段階目で英雄。

 9段階目で物語の中の勇者。

 10段階目で人の領域を超えます。


 ちなみに白紙のノート(私のスキル)でなら熟練度の数値が細かくわかりますが、通常は教会か神殿にある特殊な道具――『閲覧器』を使わなければわかりません。『閲覧器』はほとんどの場合無料で使うことが出来ます。なぜなら使う人がほとんどいないからお金を取っても意味がないのです。見たい人が勝手に見ればいいというだけです。

 基本的に『スキル』は『Lv』が上がった時にしか入手できません。入手の確率も低く、『スキルP』が足りなければ当然入手できません。そもそも『Lv』が上がること自体がほとんどないために『スキル』を持っていること自体が非常に珍しくなるのです。

 そのため『スキル』とその『スキル』の熟練度がわかる『閲覧器』を使うことは一般人ならほとんどないのです。探索者でも一ヶ月に1回も見ればいい方でしょうか。


 話が逸れましたが、『中位候補生』に昇格することにより『身体能力強化Lv2.000』を入手することになります。その恩恵は2段階目の『スキル』としては破格のものがあります。その効果が大きな壁となるのです。

 しかしこれは『中位候補生』としてほんの入り口に過ぎません。『身体能力強化Lv2.000』は『下位候補生』では学ぶことの無かった戦闘訓練を受けるための布石でしかありません。

 『中位候補生』では戦闘訓練の他にも様々な座学が始まります。もちろんその合間にも走りこみは当然あります。

 そして『中位候補生』となると給金が発生します。一般的な平民1人が1ヵ月暮すのに必要な額の約3分の1といったところでしょう。衣食住全て賄われているので出費はほぼなく、丸々本人の物となるのです。平民でもほとんど遊ぶお金など残らないので平民よりも良いくらいです。

 寮も4人部屋から2人部屋に移り、日用品も衣類も支給数と品質が向上します。食事は変わりませんが。


 新たに始まった戦闘訓練は本人の資質と『属性』にあった武器や防具を学ぶところから始まります。昇格試験前に手ほどきを受けているとはいえ、ほとんどの人は素人に毛が生えた程度の腕前です。ここから訓練を受け、魔物を討伐し続け、『Lv』が上がったらそれぞれに適切な『スキル』を取得させていくのです。


「さぁ次へ行きますよ?」

「はぁ~い」

「もっとたたかってるところみたいぃ~」


 『中位候補生』達の戦闘訓練の様子をキラキラした目で見ていた2人を促せばニューイは猫耳をパタン、と閉じて動こうとしません。ですがここは私の出番ではありません。


「ニューイ、だーめ! お姉ちゃんのいうことはちゃんときくの」

「ぶぅ~」


 リートはニューイの立派なお姉ちゃ……お兄ちゃんですので閉じた猫耳を撫でながら言い聞かせれば、ニューイは渋々でもちゃんと言うことを聞いてくれます。後ろ髪を引かれるニューイを連れて戦闘訓練をしている広場から近くの建物へと入ります。そこでは広場に居た人数よりも若干少ない程度の『中位候補生』が座学の授業を受けています。


「おべんきょうしてる~」

「リートとニューイはもう読み書きできますものね」

「うん! ぼくもうごほんよめるよ!」

「ボクはけいさんもできるよ!」

「ふふ……。2人ともとってもすごいですよ」


 座学はまず読み書き計算から始まります。スラム出身者のほとんどは読み書きが出来ません。計算も2桁の前半の足し算引き算程度が出来れば十分です。ですが『中位候補生』ともなるとそうもいきません。

 将来は『探索迷宮』に潜る彼らには様々な知識が必要となります。ハンドサイン、モールス信号、罠の判別知識、罠の解除知識、魔物の様々な知識。挙げれば限りがありません。しかしこれらは最低限必要な知識なのです。『探索迷宮』では無知で死ぬケースなどざらにあるのですから。

 さらには報告書も私の指定するフォーマットで書かねばいけないので覚えなくてはいけない知識がとても多いのです。しかし報告書は非常に有用です。『探索迷宮』での出来事を細かく知ることはとても大切です。そのためだけにリーダーを務める人物は報告書を作成するために指揮官として直接戦闘にはほとんど参加しないほどです。


 『探索迷宮』に潜る探索者というのは基本的に役割分担がきっちりしています。前衛中衛後衛となり、基本的に6人~10人程度で1つのパーティを組みます。前衛が罠や魔物の警戒をし、中衛がマッピングを担当し、後衛が後方の魔物を警戒する。

 大抵の場合は前衛以外は罠の解除や発見などは出来ない場合がほとんどであり、マッピングの技術も中衛以外は持っていない場合も多いです。しかし私の『学校』では当然ながら全員が同様の事を出来るように教育しています。

 『探索迷宮』ではいつどんなことがあるかわからないのです。罠を発見解除出来る人が行動不能になればそれだけで撤退しなければならなくなるほどです。ですが攻略に重点を置いている私のお人形さん達はそれではいけません。サブを用意するのは当然であり、全員が全員のサブであるのです。

 しかしパーティの各々が十全に機能している間は役割がしっかりと分けられます。ですがどこかで支障を来たせば誰かがその穴を埋める。その為には様々な技術と知識が必須です。ある程度危険度が高くない場所でなら知識や技術がそれなりにあれば容易でしょうが、『探索迷宮』ほどの危険地帯となると難しくなってくるのです。そのため座学には非常に力を入れています。『上位候補生』への昇格試験では当然ながら座学のテストで高得点を修めなければいけません。


 『上位候補生』への昇格試験は『中位候補生』になり1年経過した時点で受けることが可能となります。しかし1年で『上位候補生』に昇格した人は『上位候補生』の1割に満たない状態です。落ちれば3ヶ月は昇格試験を受けられませんが、そのほかのペナルティはありません。『中位候補生』を3年続けている人もいるくらいです。ですが彼は次の昇格試験も受けるつもりのようです。


 『中位候補生』となった時点で『スキル』保有者として『学校』を辞めても引く手数多でしょう。しかし書き込まれ、ほぼ完成の域になっている『忠誠心』により辞めていく人はほとんどいません。


 ほとんどなのでもちろん辞める人はいます。

 戦闘訓練では当然ながら大怪我を負う事もあります。その際に体の部位が欠損してしまったりするとそのままでは昇格するのはかなり難しくなります。リートが私の元に来てからは四肢欠損もなんとかなるようになっていますが、当時は不可能でした。チームアルファに持たせているような『上級ポーション:緑』はリートがいるからこそ作れる物なのです。

 部位欠損してもそれでも引く手はそれなりにあります。ですが彼らは今も尚私の『学校』で教官として(・・・・・)働いています。せっかくの『身体能力強化』ですので逃すのは勿体無いのです。『下位候補生』程度なら腕が1本無かろうが、足が1本無かろうが大した問題にはなりもしませんし。

 『中位候補生』が教官となったのは部位欠損者以外でも数人いました。彼らは自身の限界を知り、それでも()の役に立つ為に教官となったのです。『忠誠心』はとてもいい働きをしてくれるのです。


 ちなみに数日経過した部位欠損ではリートの『神聖魔法』でも修復することはできません。1日程度なら状況にもよりますが傷1つなく修復することも可能でしょう。ただそのくらいなら『上級ポーション:緑』でも可能です。もっとも回復可能時間は遥かに短くなりますが。


 『忠誠心』を書き込むようになり、『中位候補生』以上となった人達が外部へ流出することは今のところまったくありません。『忠誠心』の書き込みは私のお人形さん達を作る上でなくてはならないものでしょう。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







「それじゃあ今日の見学はここまでにしましょうか。そろそろお昼ですよ」

「おなかすいたー!」

「ごはーん! きょうはなんだろう?」

「ボク魔物のお肉がたべたい!」

「ぼくも!」

「ふふ……。今日のお昼はなんでしょうね」


 授業を一通り見て回り今日の見学は終了です。座学の授業はあまり2人は興味がないようでしたがお昼を告げれば狼耳と猫耳を元気に立てて諸手をあげる2人です。もちろん尻尾もそれに合わせて楽しい動きを見せています。そんな2人を連れてさっそく屋敷に戻るとしましょう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ