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『スキルを喰らうダンピール ~墓から蘇った少年は、眠らずダンジョンを駆け上がる~』  作者: ミタテ屋


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第53話◆ 群れの先へ

 8階での狩りを終えたダンとエルナは、そのまま9階へ下りた。


 湿った空気の中に、獣の匂いが混じっている。


 この階に出現するダンジョンウルフは、常に群れで行動する。単体の能力だけならポイズンリザードと大きな差はないが、リーダーの指示に従って連携するため、複数を同時に相手にすると危険度が跳ね上がる。


 すべての個体が《嗅覚強化Lv2》と《疾走Lv1》を持ち、群れのリーダーだけが《統率Lv1》を持っている。


 今回、ダンが狙うのは3つのスキルだった。


「《疾走》をLv8へ上げるには、あと128体。《統率》をLv5へ上げるには、リーダーを16体吸血する必要があります」


「では、少なくとも16の群れを倒す必要があるのですね」


「はい。群れの数が少なければ、その分だけほかの群れも探します」


「《超嗅覚》はどうなるのですか?」


「ダンジョンウルフが持っているのは、進化前の《嗅覚強化》です。吸血しても、今の《超嗅覚》には0.2ずつしか加算されません」


 ただし、《超嗅覚》には以前この階でダンジョンウルフを狩ったときの成長値が残っている。


 現在はLv4。次のレベルまでは、あと少しだった。


「それでも、狩り続ければ上がるのですね」


「はい。時間はかかりますが、無駄にはなりません」


 ダンは《超嗅覚》を使い、周囲の匂いを探った。


 右前方から、複数の獣臭が漂ってくる。数は8体。その中に、ほかより身体が大きく、匂いの濃い個体が混ざっていた。


「最初の群れを見つけました。全部で8体です」


「人の気配は?」


「ありません。少なくとも、この周辺には僕たちだけです」


 エルナも《気配察知Lv1》へ意識を向ける。


「私にも前方から何か近づいてくるのは分かります。ただ、数までは判断できません」


「僕も最初はそうでした。使っているうちに、少しずつ違いが分かるようになります」


 2人は剣を抜き、広い通路へ出た。


 正面に現れた8体のダンジョンウルフが足を止める。群れの中央には一回り大きな個体が立ち、その周囲を7体が囲んでいた。


 リーダーが低く吠える。


 その声に反応し、2体が左右の壁際へ移動した。正面の3体が姿勢を低くし、残る2体は後方で距離を取っている。


「囲むつもりです」


「以前も、この形で何度も戦いました」


 エルナは剣を構えながら、かつての仲間たちと9階へ来たときのことを思い出していた。


 正面をエルナが受け持ち、カイルが側面へ回る個体を止める。リナは後ろから全員の位置を見て、危険があれば声をかけていた。


「カイルなら、右側を先に止めます」


「では、僕が右へ行きます」


「リナは後ろから、死角に入った相手を教えてくれました」


「今は僕の《音響探査》で補います。左後ろから1体、来ます」


 ダンの言葉と同時に、左の壁際へ回っていたダンジョンウルフが床を蹴った。


 エルナは振り向かない。


 背後へ剣を回し、噛みつこうとした口元を剣の腹で押し上げる。そのまま身体を捻り、前脚を切りつけた。


 ダンジョンウルフが体勢を崩す。


「見えなくても分かりました」


「《気配察知》も反応しましたか?」


「はい。ダン様の声と重なって、はっきりと」


 正面から3体が一斉に飛びかかってくる。


 エルナは後ろへ退かず、自分から距離を詰めた。


 最初の1体が開いた口をかわし、すれ違いざまに後脚を切る。続く個体の爪は手甲で受け、身体を沈めて前脚を斬りつけた。


 3体目が首元を狙って跳び上がったが、その横腹へダンの蹴りが入る。


 石壁へ叩きつけられたところへ追いつき、剣で両脚を傷つけた。


「残り4体です!」


「右側の2体は僕が止めます。エルナはリーダーを!」


 ダンは《疾走》を使い、壁際から回り込んできた2体へ向かった。


 飛びかかってくる爪を剣で逸らし、片方の脚を切る。もう1体は低い姿勢で足元へ噛みつこうとしたが、《音響探査》が爪と呼吸の位置を捉えていた。


 身体を半歩ずらし、首筋ではなく肩へ剣を落とす。殺さない深さに抑えながらも、前脚を動かせなくする一撃だった。


 一方、エルナは群れのリーダーへ迫っていた。


 リーダーが短く吠えると、後方に残っていた1体がエルナの横から飛びかかる。


 しかし、その動きは《視力強化Lv1》で捉えていた。


 身体を回転させ、横から来た個体の前脚を切る。その勢いを止めずに踏み込み、リーダーの後脚へ刃を走らせた。


 リーダーが苦痛の声を上げ、床へ崩れる。


「8体、全員生きています」


「では、吸血します」


 ダンは周囲に人がいないことをもう一度確かめ、左腕へ浅い傷をつけた。


 血の触手を伸ばし、最初に群れのリーダーから吸血する。


 《嗅覚強化》《疾走》に加え、《統率》の感覚が流れ込んできた。必要な量を吸い終えると触手を抜き、残る7体へ順番に移る。


 ダンが吸血を終えた個体へ、エルナがトドメを刺していく。


 8体が光の粒へ変わり、魔石や毛皮、牙を残した。


「最初の群れは問題ありませんでしたね」


「はい。以前より、ずっと余裕がありました」


 エルナはドロップ品を拾いながら、先ほどの戦いを振り返る。


 カイルとリナは、もう隣にはいない。


 それでも、3人で戦った経験まで失われたわけではなかった。カイルならどちらを止めるか、リナならどの死角を警戒するか。それを覚えているからこそ、今の戦いにも生かせる。


「2人から教わったことは、まだ私の中に残っています」


 エルナが静かに言った。


「はい。それは、誰にも奪えないと思います」


「これからは、そこへダン様との戦い方も加わるのですね」


「僕もエルナから教わっています。群れの動きを読むのは、エルナの方が上手ですから」


 エルナは少し驚いたあと、柔らかく笑った。


「では、次の群れを探しましょう」


 それから2人は、9階を巡りながらダンジョンウルフを狩り続けた。


 1つの群れは6体から10体ほどで、必ず中心にリーダーがいる。


 最初のうちは、リーダーの鳴き声が何を指示しているのか、ダンには完全には分からなかった。


 短く高い声なら左右からの挟撃。低く長い声なら正面からの同時攻撃。喉を鳴らすような音は、一度距離を取って相手の隙を待つ指示。


 吸血によって《統率》を重ねるにつれ、声だけでなく、リーダーが視線を向けた先や身体の向きからも次の動きが読めるようになった。


「右から3体来ます。正面は囮です」


 ダンが伝えると、エルナが右へ走る。


 囮として飛びかかった個体をダンが受け流し、横から回り込んだ3体をエルナがまとめて引き受ける。


 エルナも群れの指示を意識するようになり、リーダーが声を発する前に動きを予測し始めた。


 2人で手足を傷つけ、戦闘不能にする。


 ダンが吸血し、エルナがトドメを刺す。


 そうして狩りを続け、23体目のダンジョンウルフから吸血したときだった。


 それまで積み重ねてきた感覚が、急にはっきりとしたものへ変わる。


──────────────


《超嗅覚》がLv5になりました。


──────────────


 ダンは思わず周囲へ意識を広げた。


 これまでも人や魔物の位置を匂いから探れたが、以前よりも匂いの違いが細かく感じ取れる。


 少し前に通った魔物の匂いと、長く残っている古い匂い。同じダンジョンウルフでも、それぞれの個体が持つわずかな違いまで感じ取れた。


「上がりましたか?」


「はい。《超嗅覚》がLv5になりました」


「まだ23体ですよね?」


「以前の狩りで成長値がかなり溜まっていましたから」


 エルナが納得したように頷く。


「では、残り105体ですね」


「はい。《疾走》と《統率》はまだです。それに、《超嗅覚》もここからまた成長値を溜められます」


 狩りを続ける理由は変わらない。


 群れを倒すたび、魔石や毛皮、牙がマジックバッグへ増えていった。


 休憩中は《生活魔法》で装備を清潔にし、水と火を用意して食事を取る。


 眠る必要がない2人は、身体の疲労が抜けるまで休むと、再び狩りへ戻った。


 Lv5になった《超嗅覚》も、狩りを続けるほど使いやすさが分かってくる。


 新しい匂いと古い匂いの違いが、以前よりはっきりしていた。


 ある通路へ差しかかったところで、ダンは足を止めた。


「この先はやめましょう」


「魔物ですか?」


「いえ。冒険者の匂いがあります。ここを通ったのは、半日ほど前だと思います」


「そこまで分かるのですか?」


「正確な時間ではありません。でも、新しい匂いか古い匂いかは、かなり細かく区別できます」


 人目を避けて吸血する必要があるダンにとって、この変化は大きい。


 2人は進路を変え、別の群れを探した。


 そして16体目のリーダーを含む、合計128体のダンジョンウルフから吸血したところで、再び変化が起きる。


──────────────


《疾走》がLv8になりました。


《統率》がLv5になりました。


──────────────


 《統率》も、単に群れの指示を理解するだけではない。


 エルナの位置や動きを意識すると、今どこを任せるべきか、どちらが前へ出れば戦いやすいのかが自然に浮かんでくる。


「次からは、僕も戦い方を指示できそうです」


「ようやくリーダーらしくなりましたね」


「今までは違ったんですか?」


「登録上のリーダーでした」


 冗談めかして答えるエルナに、ダンは苦笑した。


 128体へトドメを刺したエルナは、実際のレベルが13へ上がっていた。


──────────────


レベル 13


HP 763

MP 383


筋力 364

耐久 385

俊敏 436

器用 397

魔力 342

精神 363


──────────────


「レベル13で、もう以前とは比べものになりません」


「僕のレベル15にも近づいてきましたね」


「あと2つです」


 エルナの声から、少しだけ負けず嫌いな性格が戻っている。


「追いつかれないように、僕も頑張ります」


「レベルだけ追いついても、スキルの数では勝てませんけどね」


 ダンは自分のスキル一覧を思い浮かべた。


 確かに、数だけなら簡単には追いつけないだろう。


「その分は、またスキル書を買いましょう」


「結局、そこへ戻るのですね」


 中型と小型のマジックバッグを確認すると、ポイズンリザードとダンジョンウルフのドロップ品で、ほとんど容量が残っていなかった。


「さすがに一度帰りましょう」


「次は10階ですね」


「はい。《筋力強化》《受け流し》《火球》《魔力操作》を上げます」


 10階を越えれば、その先はエルナが一度命を落としかけた11階になる。


 しかし、あのときとは違う。


 エルナはさらに強くなり、ダンと共に戦っている。


 2人は大量のドロップ品を持ち、地上へ向かって歩き出した。

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