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『スキルを喰らうダンピール ~墓から蘇った少年は、眠らずダンジョンを駆け上がる~』  作者: ミタテ屋


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第49話◆ 月影の初陣

 《青石の迷宮》へ入ったダンとエルナは、上層の魔物には構わず6階を目指した。


 途中で何度かゴブリンに遭遇したものの、ほかの冒険者がいる場所では触手を使えない。エルナの実際のレベルを上げるなら、弱い魔物を少数倒すよりも、できるだけ格上の魔物を数多く狩った方が効率もよかった。


 ダンは《超嗅覚》と《音響探査》を使い、周囲に人がいないことを確かめながら進んでいく。


 6階へ到着すると、湿った石の匂いに混じって、獣に似た臭いが漂ってきた。


「この先に3体います」


「もう分かるのですか?」


「はい。コボルトの匂いには慣れていますから」


 通路の先にいるのは、二足で歩く狼のような魔物だ。コボルトは人間より少し小柄だが、細い腕には見た目以上の力があり、ゴブリンの錆びた短剣より少し長い片刃の剣を使う。


 以前、ダンが何日も狩り続けた相手だった。


「僕が1体を受け持ちます。エルナは残りの2体をお願いします」


「私の方が多いのですか?」


「今の身体がどこまで動くのか、確かめたいのでしょう?」


 エルナは一瞬驚いたあと、楽しそうに片手剣を抜いた。


「分かりました。期待に応えます」


 曲がり角から姿を見せると、3体のコボルトが同時にこちらを振り向き、低い唸り声を上げながら剣を構えた。


 そのうちの1体が床を蹴った瞬間、エルナの姿がダンの隣から消える。


「えっ?」


 驚いたのはダンだけではなかった。


 先頭のコボルトもエルナの動きを捉えられず、振り下ろした剣は誰もいない空間を切った。そのときには、エルナはすでに相手の背後へ回り込んでいる。


「速すぎる……!」


 本人も自分の動きに驚いていたが、長年剣を振ってきた経験までは失われていない。エルナは身体を捻り、振り抜きかけた刃を途中で止めると、狙いを首から右脚へ変えた。


 刃がコボルトの太腿を深く切り裂き、片脚が動かなくなった身体が床へ転がる。その直後、もう1体が横から斬りかかってきた。


 エルナが咄嗟に剣を合わせると、鋭い金属音と共にコボルトの剣が大きく弾かれた。


「力も違う……!」


 人間だった頃と同じ感覚で受け流しただけなのに、コボルトの腕ごと跳ね上げていた。


 エルナは空いた脇へ剣を走らせたが、腕を切り落とす寸前で力を抑え、武器を握れなくなる深さに留める。


 一方、ダンへ向かってきたコボルトも剣を振り上げていた。


 ダンは斬撃を片手剣で受け流し、すれ違いざまに膝の裏を切る。体勢を崩した相手の手首を返す一撃で傷つけ、握っていた剣を落とさせた。


 3体のコボルトが、ほとんど同時に床へ倒れる。


「ダン様。全員、生きています」


「はい。周囲にほかの冒険者もいません」


 ダンは短剣で左腕へ浅い傷をつけ、そこから伸ばした血の触手を最初のコボルトの太腿へ突き刺した。


 血を吸い上げるたびにコボルトの身体から力が抜けていくが、干からびるまで吸う必要はない。《吸血Lv4》となった今は、相手が持つ血液の30%ほどを吸えば《スキル強奪》が成立する。


 頭の中へ獲得したスキルの感覚が流れ込んだところで、ダンは触手を引き抜いた。


「終わりました。お願いします」


「はい」


 エルナは剣を逆手に持ち、コボルトの心臓を一突きにした。


 コボルトの身体が光の粒へ変わり、魔石と牙、毛皮を残す。それと同時にエルナの身体が淡い光に包まれた。


「これは……」


「レベルが上がったんだと思います」


 エルナが自分のステータスを開く。


「レベル2になっています。でも、能力値の伸び方が……」


 HPは約10%、MPは約5%。それ以外の能力値は、どれも20%近く上昇していた。


 人間だった頃のエルナは、レベルが上がっても能力値の伸びは5%から10%ほどだったという。


「ダン様と同じ成長率です」


「やっぱり、吸血眷属も同じなんですね」


「これがレベルを上げるたびに続くのですか?」


「たぶん……」


 レベル1の時点で、エルナの能力値はレベル21だった頃と大きく変わらなかった。そこから人間をはるかに上回る成長率でレベルが上がるのなら、今はまだレベル2でも、このまま成長を続ければ以前よりはるかに強くなるだろう。


「自分の身体なのに、少し怖くなりますね」


「分かります。僕も初めてレベルが上がったとき、同じことを思いました」


 不安そうだったエルナの表情が、少しだけ和らいだ。自分だけがおかしいわけではないと分かったことが、安心につながったらしい。


「残りの2体からも吸血します。そのあと、エルナが倒してください」


「分かりました」


 ダンが残る2体から順番に吸血し、エルナがとどめを刺す。


 コボルトが持っているのは《剣術Lv2》と《嗅覚強化Lv1》だったため、3体から強奪したことで《剣術》には6、《超嗅覚》には0.3の成長値が加算された。


──────────────


現在の《剣術Lv7》は67/128。


現在の《超嗅覚Lv4》は11.7/16。


──────────────


 3体分の魔石と牙、毛皮を回収したところで、最初の戦闘が終わった。


「どうでしたか?」


「身体が思った以上に動きます。今までと同じつもりで踏み込むと、相手を通り過ぎてしまいそうです」


「最初の動きは、本当に消えたように見えました」


「ダン様には見えていたのでしょう?」


「最初だけ、少し驚きました」


 ダンが正直に答えると、エルナは嬉しそうに笑った。


「なら、悪くありませんね」


 その後も、2人は6階を進んだ。


 ダンが人の匂いと足音を避け、コボルトだけがいる通路を探す。発見すると2人で腕や脚を狙い、殺さないよう加減しながら戦闘能力を奪っていった。


 最初は自分の速度と力に戸惑っていたエルナも、10体を超えた頃には加減を覚え始めた。


 剣を振るう速度を途中で落とし、必要な深さだけを切る。相手の攻撃を受け流すときも、剣を弾き飛ばすのではなく、体勢を崩す方向へ力を逃がすようになっていた。


 ダンが右腕を傷つければ、エルナが脚を狙う。エルナが先に相手の体勢を崩せば、ダンが背後へ回って武器を落とさせる。


 戦闘を重ねるにつれて、言葉を交わさなくても互いの狙いが分かるようになっていった。


 魔物が立てなくなれば、ダンが血の触手を伸ばし、必要な量を吸ってスキルを奪う。そのあとでエルナが心臓や首へ刃を入れ、確実にとどめを刺した。


 ダンはスキルを重ね、エルナは経験を得る。魔物が消えたあとに残るドロップ品は、2人で手分けしてマジックバッグへ入れていった。


 34体目のコボルトからスキルを奪ったところで、新しい表示が現れる。


──────────────


《剣術Lv7》が《剣術Lv8》へ上昇しました。


現在の《剣術Lv8》は1/256。


──────────────


「《剣術》が上がりました」


「もうですか?」


「狩りを始める前から、次のレベルまで残り67でしたから。コボルトの《剣術Lv2》が1体につき2ずつ加算されて、34体目で必要な成長値を超えました」


「私のレベルだけではなく、ダン様のスキルまで上げられるのですね」


「はい。2人で戦う方が、僕1人のときよりずっと効率がいいです」


 エルナは倒れたコボルトへとどめを刺すと、わずかに得意そうな笑みを浮かべた。


「それなら、残りもすべて倒しましょう」


 さらに狩りを続け、46体目のコボルトから《嗅覚強化Lv1》を奪った直後、今度は《超嗅覚》に変化が現れた。


──────────────


《超嗅覚Lv4》が《超嗅覚Lv5》へ上昇しました。


現在の《超嗅覚Lv5》は0/32。


──────────────


 進化前の《嗅覚強化Lv1》は、《超嗅覚》へ0.1ずつ加算される。狩りを始める前は11.4/16だったため、46体から奪った分を加えて、ちょうど次のレベルへ到達したことになる。


 Lv5へ上がったことで、周囲から流れ込んでくる匂いはさらに鮮明になった。同じコボルトの匂いでも個体ごとの差を捉えられるようになり、通路に残された匂いから、何体がどちらへ進んだのかまで判別しやすくなっている。


「なるほど。これは効率がいいですね」


 何度目かの戦闘を終えたエルナが、剣についた血を振り払った。


「僕1人だと、吸血したあとに倒すところまで全部やらないといけませんでしたから」


「それくらいなら、いくらでもお任せください。ただ、ダン様が吸血している姿にも慣れてきた自分が、少し心配です」


「僕は見られていることに、まだ慣れません」


「先ほどから、とても楽しそうですよ」


「……そんなに顔に出ていますか?」


「はい」


 誰にも知られてはいけないと思っていた力を、初めて隠さずに使えている。


 戦闘中に触手を伸ばしても、吸血しても、隣にいるエルナは逃げない。それどころか、当然のように次の行動を引き受けてくれる。


 そのことが、ダンには嬉しかった。


 狩りは、休憩を挟みながら翌朝まで続いた。


 眠る必要はなくても、身体の疲労まで消えるわけではない。2人は安全な小部屋で何度か身体を休め、持ってきた食事と水を口にした。


 エルナも普通にパンや干し肉を食べられたことに、密かに安堵しているようだった。


 休憩を終えると再び狩りへ戻り、倒したコボルトが90体に達したところで、ダンは切り上げることにした。


 90体すべてから吸血し、《剣術Lv2》と《嗅覚強化Lv1》を強奪した結果、ダンのスキルは次の数値まで成長している。


──────────────


現在の《剣術Lv8》は113/256。


現在の《超嗅覚Lv5》は4.4/32。


──────────────


 一方、すべてのコボルトへとどめを刺したエルナの実際のレベルは、7まで上がっていた。


 使い続けた《剣術》はLv6、《受け流し》はLv5、《身体強化》もLv4へ上昇している。


 エルナが自分の本当のステータスを開いた。


──────────────


名前 エルナ


種族 吸血眷属/ヴァレン血族


レベル 7


HP 432

MP 288


筋力 124

耐久 130

俊敏 148

器用 134

魔力 116

精神 123


【種族スキル】

暗視 Lv1

不眠 Lv1

吸血 Lv1

再生 Lv1

状態異常耐性 Lv1


【通常スキル】

剣術 Lv6

受け流し Lv5

身体強化 Lv4

危険察知 Lv3

統率 Lv3

隠蔽 Lv3


──────────────


「まだレベル7なのに、以前の能力値を完全に超えています」


「成長が速すぎて、今の装備では動きにくそうですね」


 エルナの予備の革鎧は、脇の留め具が今にも切れそうになっていた。急激な加速と方向転換を繰り返したため、古い革が身体の動きに耐えられなかったらしい。


 片手剣にも、小さな刃こぼれがいくつもできている。


「このままでも戦えます」


「駄目です。防具が壊れてからでは遅いです」


「ダン様の装備も、今の能力に見合っているとは思えませんが」


 ダンは自分の片手剣と、最低限の革装備へ目を落とした。


 確かにエルナの言うとおりだった。


 これまでは《触手》と《超再生》があるため、装備に金をかける必要を感じていなかった。しかし、これからはエルナと並んで戦う。人前では触手を使えない以上、剣と防具だけでも十分に戦えるようにしておく必要がある。


「分かりました。僕の装備も一緒に見直します」


「約束ですよ」


「はい」


 中型と小型のマジックバッグには、コボルトの魔石や牙、毛皮、それに何本かの小剣が入っている。どちらもかなり容量を使っていたため、帰るにはちょうどよい頃合いだった。


「一度、街へ戻りましょう。素材を売ったら、武器屋と防具屋へ行きます」


「ようやくダン様にも、まともな装備を選べますね」


「エルナの装備が先ですよ」


「2人ともです」


 エルナはきっぱりと言い切った。


 初めての仲間は、思っていたよりも頼もしく、少しだけ厳しいらしい。


 ダンは困ったように笑いながら、エルナと並んで地上へ続く階段を上り始めた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


物語の感想や印象に残った場面など、ひと言でもいただけると今後の執筆の励みになります。

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