↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『スキルを喰らうダンピール ~墓から蘇った少年は、眠らずダンジョンを駆け上がる~』  作者: ミタテ屋


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
48/73

第48話◆ 月影

 カイルとリナを見送ったあと、ダンとエルナは冒険者ギルドへ戻った。


 昨日までなら、ギルドへ来れば依頼掲示板へ目を向け、どの魔物を狩ればスキルを上げられるのかを考えていた。


 だが、今日は違う。


 受付へ向かうエルナの隣を歩きながら、ダンは何度か彼女の横顔を見た。


 泣いた痕は残っている。


 それでも、昨日までのように俯いてはいなかった。


「エルナ。本当に今日でいいんですか?」


「はい、ダン様」


「もう少し休んでも……」


「休んでいても、2人が戻ってくるわけではありませんから」


 エルナは一度だけ目を伏せた。


「それに、これからどうするのかを決めておきたいんです」


「……分かりました」


 無理をしているのかもしれない。


 だが、ダンが勝手に止めることでもない。


 受付には、昨日と同じエマがいた。


 2人の姿を見つけると、少し心配そうな表情を浮かべる。


「エルナさん。大丈夫ですか?」


「はい。昨日はいろいろとありがとうございました」


「いえ……。今日は葬儀の手続きではありませんよね?」


「はい。別の用事です」


 エルナがダンを見る。


 ダンもうなずいた。


「パーティー登録をしたいんです」


「パーティー登録ですか?」


 エマが2人を見比べた。


「ダンさんとエルナさんで?」


「はい」


 昨日までエルナが所属していたパーティーは、カイルとリナを失った。


 そのまま名前だけを残すという選択肢もあったのかもしれない。


 だが、エルナはそれを選ばなかった。


 カイルとリナとの3人のパーティーは、3人のものとして終わらせたい。


 そう言った。


「分かりました。では、新規パーティーとして登録します」


 エマが用紙を取り出す。


「代表者は?」


「ダン様です」


「僕ですか?」


 思わずエルナを見る。


「当然です」


「いや、でもエルナの方が冒険者歴は長いですよね?」


「関係ありません。私はダン様についていきます」


「……そうですか」


 眷属化してから、こういうところは妙に頑固だった。


 エマは苦笑しながら記入を進める。


「では代表者はダンさん。現在Eランク。メンバーはエルナさんの2名ですね」


「はい」


「最後に、パーティー名をお願いします」


「名前……」


 そこまで考えていなかった。


 ダンは隣のエルナを見る。


「何かありますか?」


「私は、ダン様が決めた名前なら何でも」


「それが一番困るんですけど……」


 ダンは小さく息を吐いた。


 名前。


 2人でこれから戦っていくための名前。


 何かないかと考えたとき、昨日見た墓標が頭に浮かんだ。


 月を模した紋章。


 そして、その形を見たときに蘇った記憶。


 まだ幼かった頃。


 父が持っていた銀色の剣を見上げながら、聞いた言葉。


『月影はな、大切なものを守る影なんだ』


 どういう意味なのか、当時の自分には分からなかった。


 月の光があれば影ができる。


 なら、影は光の裏側にあるものではないのか。


 そう聞いた気がする。


 父は笑っていた。


『目立たなくていい。誰にも気づかれなくてもいい。守りたいものを守れるなら、それで十分だ』


 今になって、その言葉を思い出した。


「……月影」


「え?」


 エルナがダンを見る。


「《月影》はどうでしょう」


「月影……」


「嫌ですか?」


 エルナは首を横に振った。


「いい名前だと思います」


 その表情が、ほんの少しだけ柔らかくなる。


「カイルとリナも、月を見るのは好きでした」


「じゃあ、それにしましょう」


 エマが用紙へ名前を書き込んだ。


「パーティー《月影》。代表ダン、メンバーはエルナ。2名で登録します」


 こうして、2人だけの新しいパーティーが生まれた。


 ギルドを出たあと、ダンたちは《銀の止まり木》へ戻った。


 まだ迷宮へ行くつもりはない。


 先に、話しておかなければならないことがあった。


 部屋へ入ると、ダンは扉を閉めた。


「エルナ。少し話があります」


「はい、ダン様」


「昨日は時間がなくて、僕のことを全部説明できませんでした」


 エルナは黙って続きを待つ。


 眷属になった以上、ダンに関する秘密を他人へ漏らすことはできない。


 それなら、隠し続ける必要もなかった。


 むしろ、これから一緒に戦うなら知っておいてもらった方がいい。


「まず、僕の本当の名前はダンではありません」


 エルナの表情が僅かに変わった。


「ダンテ・ヴァレン。それが僕の名前です」


「ダンテ……ヴァレン……」


「今は冒険者としてダンと名乗っています。《隠蔽》でも本当の名前は見えないようにしています」


「分かりました。では、人前では今までどおりダン様とお呼びします」


「様はなくてもいいんですけどね……」


 エルナは何も答えなかった。


 たぶん、そこだけは譲らないつもりなのだろう。


「それから、僕はこの世界で生まれた人間でもありません」


「……どういう意味ですか?」


 ダンは少し迷ってから口を開いた。


「僕には、前の世界の記憶があります」


 エルナが瞬きをする。


「前の……世界?」


「はい。そこには魔物も迷宮もありませんでした。少なくとも、僕が知る限りでは」


 病院。


 白い天井。


 自分では歩くことさえできなかった身体。


 ページをめくりながら読んでいた、異世界を舞台にした物語。


 そして、最後に覚えている死。


「僕は一度、別の世界で死んでいます」


 エルナは何も言わない。


「次に目を覚ましたとき、僕は墓の中にいました。今の身体になって、この世界で目を覚ましたんです」


「墓の中で……?」


「はい」


「では、ダン様は……」


「転生、というものだと思います」


 自分でも完全に理解しているわけではない。


 どうしてこの世界へ来たのか。


 どうしてダンピールになったのか。


 ヴァレンという家が何なのか。


 今でも分からないことばかりだ。


「墓から出たとき、この身体には記憶の断片が残っていました。父親の姿も覚えています」


「お父様の?」


「銀色の剣を持っていました」


 胸へ銀の剣を突き立てられた記憶。


 その意味も、まだ分からない。


 だが、エルナへ今すぐすべてを話す必要はない。


 自分自身でも整理できていない記憶だ。


「《月影》という名前も、その父の記憶から取りました」


「そうだったんですね」


 エルナはしばらく考えてから、静かにうなずいた。


「話してくださってありがとうございます」


「驚かないんですか?」


「驚いています」


「そうは見えませんけど」


「ダン様が人間ではないことは、もう知っていますから」


「それは……そうですね」


 ダンは苦笑した。


「まだあります」


 左腕へ目を落とす。


「僕が持っている固有スキルについてです」


 短剣で腕へ浅い傷をつける。


 血が流れ出した。


 エルナが一瞬だけ身を乗り出す。


 だが、すぐに傷口から赤いものが伸びた。


 血で作られた触手。


「これが《触手》です」


「これが……」


 エルナは目を見開いた。


 触手を細く伸ばし、部屋の中で軽く動かしてみせる。


「僕の血から作れます。長さや太さも、ある程度は変えられます」


「11階でも使っていたんですか?」


「はい。インプメイジを倒したときに使いました」


 触手を戻す。


 腕の傷は《超再生》によって、すぐに塞がっていった。


「そして、もう1つあります」


「《スキル強奪》……ですね?」


 エルナが言った。


 ダンは少し驚いた。


「分かるんですか?」


「昨日、ダン様の秘密について話せなくなると説明されたとき、いくつか頭に浮かぶものがありました。でも、詳しいことまでは分かりません」


「なるほど……」


 眷属だからといって、主人のスキルをすべて自動的に知るわけではないらしい。


「《スキル強奪》は、僕が魔物から血を吸ったとき、その魔物が持っているスキルを奪う能力です」


「スキルを……奪う?」


「はい」


 エルナの表情が固まる。


 当然だろう。


 スキル書なら金貨単位の金がかかる。


 それを魔物から直接奪える。


「だから僕は、同じ魔物を何十体も、何百体も狩っていました」


「……そういうことだったんですね」


「はい」


 ようやく納得したような顔をした。


「ずっと不思議だったんです。ダン様は普通なら避けるような数の魔物を、わざわざ探して狩っていましたから」


「僕にとっては、魔物がスキル書みたいなものなんです」


「それは……狩りますね」


 エルナが僅かに笑った。


 ダンも少しだけ肩の力が抜ける。


「ただ、《スキル強奪》には条件があります。相手が生きているうちに血を吸わなければいけません」


「だから殺さないように戦っていたんですね」


「はい」


 ダンはうなずく。


「今の《吸血》はLv4です。相手の血を全部吸わなくても、だいたい3割ほど吸えばスキルを奪えます」


「3割……」


「なので、これから一緒に戦うならお願いがあります」


「何でも命令してください」


「命令じゃなくて相談です」


「……はい」


「魔物を見つけたら、僕とエルナで腕や脚を狙って戦闘不能にします」


 エルナが真剣な表情で聞いている。


「倒さずに動きを止めたところで、僕が吸血してスキルを奪います。そのあと、エルナがとどめを刺してください」


「私が?」


「はい。僕ばかりが倒していたら、エルナのレベルが上がりませんから」


 眷属化したことで、エルナのレベルは1へ戻っている。


 能力値は高い。


 スキルも残っている。


 だが、このままでは表向きのレベル21との差が大きすぎる。


 実際のレベルも上げておいた方がいい。


「それに、エルナ自身も強くなってほしいです」


「ダン様をお守りするためですか?」


「自分を守るためです」


「……」


「そこ、大事ですからね」


 エルナは少しだけ困った顔をしたあと、小さくうなずいた。


「分かりました」


 本当に分かっているのかは怪しい。


「まずは6階へ行こうと思っています」


「6階ですか?」


「はい。コボルトです」


 以前、何度も狩った魔物。


 持っているのは《剣術Lv2》と《嗅覚強化Lv1》。


 今のダンにとっては強敵ではない。


 エルナも戦闘経験があり、眷属化してレベル1へ戻ったとはいえ、身体能力は一般的な新人よりはるかに高い。


 2人での戦い方を確認するにはちょうどいい。


「いきなり11階へ戻るつもりはありません」


 エルナの表情が僅かに硬くなった。


「……はい」


「まず、2人で戦うことに慣れましょう。エルナの今の身体が、以前とどれくらい違うのかも確認したいです」


「分かりました」


「それから、僕が吸血している間は無防備になることがあります。周囲の警戒もお願いします」


「お任せください」


 エルナは即答した。


「ダン様には、指一本触れさせません」


「いや、僕も戦いますからね?」


「分かっています」


「本当に?」


「はい」


 以前のエルナなら笑いながら言い返してきただろう。


 今は真剣そのものだ。


 やはり、少しずつ慣れるしかなさそうだった。


 翌朝。


 ダンとエルナは並んで青石の迷宮の入口に立っていた。


 これまでダンは、ほとんど1人で迷宮へ潜ってきた。


 誰かと一緒に歩けば、自分の能力を隠さなければならない。


 《触手》も使えない。


 《スキル強奪》も見せられない。


 だから1人の方が楽だった。


 だが、今日は違う。


 隣にいるエルナには、もう隠す必要がない。


「行きましょうか」


「はい、ダン様」


 2人は迷宮へ入った。


 目指すのは6階。


 コボルトが生息する階層だ。


 ダンが魔物を殺さずに止め、血を吸う。


 エルナがとどめを刺す。


 《月影》としての、最初の狩りが始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。