↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『スキルを喰らうダンピール ~墓から蘇った少年は、眠らずダンジョンを駆け上がる~』  作者: ミタテ屋


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/73

第46話◆ 喜べない昇格

「11階で……仲間を2人、失いました」


 エルナの声が、静まり返った冒険者ギルドに響いた。


 受付に立っていたエマがカウンターを回り込み、ダンたちの元へ駆け寄る。背負われているカイルとリナを見た瞬間、その表情が強張った。


「奥へ運びます。誰か、担架を2つ! 治療師も呼んでください!」


 職員たちが一斉に動き、運ばれてきた担架へダンはカイルを下ろした。エルナも最後まで自分の手でリナを横たえ、その頬にかかった髪を整える。


 駆けつけた治療師が2人の胸元へ手を当て、瞳や傷を確認した。


「……2人とも亡くなっています」


 結果が変わらないことは分かっていた。


 それでもエルナは唇を強く噛み、白い布をかけられた2人が奥へ運ばれていくのを見送った。


「エルナさんも治療を受けてください。その血は……」


「私の血も混じっています。でも、傷はポーションで回復しました」


「念のため確認します。こちらへ」


 エルナが治療室へ入ると、エマはダンへ向き直った。


「つらいとは思いますが、11階で何が起きたのか聞かせていただけますか?」


 ダンは首を横に振った。


「僕が着いたのは、戦闘が始まってからです。それまでに何があったのかは、エルナにしか分かりません」


「そうですね……では、エルナさんの治療が終わってから、2人一緒にお願いします」


「はい」


 ダンは待合用の椅子へ座った。


 今のエルナを詳しく調べられることには不安があったが、治療師が確認するのは傷の有無や体調だけだった。本人の同意なく《鑑定》を使うことは、ギルド職員であっても許されないらしい。


 しばらくして、借りた上着を羽織ったエルナが治療室から出てきた。


「傷は完全に塞がっています。身体にも異常はないそうです」


「よかった……」


「ポーションで回復したと説明しました。深い傷まで治ったことには驚かれましたが、それ以上は聞かれませんでした」


 実際にダンは瀕死のエルナへポーションを飲ませている。完全に傷を治したのは《眷属化》だが、その秘密がエルナの口から漏れることはない。


 2人はエマに案内され、ギルド奥の部屋へ入った。


 テーブルの向かいにはエマと、記録用の紙を広げた男性職員が座っている。


「まず、11階へ入ってから何が起きたのかお願いします」


 エルナがゆっくりと語り始めた。


「11階へ下りたのは、私、カイル、リナの3人です。入口付近を調べるだけで、危険だと判断したらすぐに戻る予定でした」


 最初に遭遇したのは、オークウォリアー、インプメイジ、シャドウパンサーが1体ずつだった。


 オークが前衛に立ち、インプが後方から魔法を放つ。シャドウパンサーは《隠密》を使い、側面からリナを狙ってきた。


「3体なら、私たちでも戦えると思いました。カイルがオークを引きつけ、私がシャドウパンサーへ傷を負わせたんです。でも、その直後に……」


 エルナの手が震える。


「シャドウパンサーが甲高い声で吠えました。すると左右の通路から、さらに5体が現れました」


「5体も……」


 エマが息を呑んだ。


「シャドウパンサーが仲間を呼ぶという情報は、ギルドの資料にもありません」


「私たちにも分かりませんでした。あの咆哮はスキルではなく、種族の習性だと思います」


 突然6体となったシャドウパンサーに囲まれ、3人の連携は崩れた。


 カイルはリナを狙った闇弾を身体で受け、リナは倒れたカイルを治療しようとして背後から襲われた。エルナも2人を助けようとして、オークの斧を脇腹に受けた。


「私の記憶は、そこで途切れかけています。ダン様が来てくれたあとのことは、本人から聞いてください」


 エマの視線がダンへ移る。


「僕は10階で戦っていました。そのとき階段の下から悲鳴が聞こえ、血の匂いもしたので11階へ向かいました」


「到着したとき、残っていた魔物は?」


「オークウォリアーが1体、インプメイジが1体、シャドウパンサーが3体です。オークがエルナへ斧を振り下ろそうとしていたので、全部倒しました」


「それを、1人で倒したのですか?」


「はい。エルナを助けることしか考えていませんでした」


 血の触手を使ったことは話せないが、嘘はついていない。


「そのあと、ポーションを飲ませました。傷が塞がったことを確認してから、2人の遺体と一緒に戻りました」


 エマは隣の職員と顔を見合わせ、報告書へ記録した。


「すぐに警告を出します。11階へ入る冒険者には、シャドウパンサーの咆哮を聞いた場合、複数の増援を警戒するよう周知します」


 同じ犠牲を出さないためにも、必要な情報だった。


 一通りの説明を聞き終えたエマは、記録していたペンを止めた。


「あの、報告とは関係ないのですが……1つ聞いてもいいですか?」


「何でしょうか?」


「先ほどから、ダンさんのことを『ダン様』と呼んでいますよね? 以前は、普通にダンと呼んでいませんでしたか?」


 エルナは迷うことなくうなずいた。


「はい。ダン様は、死にかけていた私の命を救ってくださいました。それだけではなく、カイルとリナを一緒にここまで運んでくださったんです」


 そして背筋を伸ばし、隣に座るダンへ敬意を込めた目を向ける。


「私はダン様へ、一生の忠誠を誓いました」


 ――重すぎるよ。


 ダンは思わず口を挟みそうになったが、どうにか堪えた。


 眷属になったことを隠すには、エルナの急激な態度の変化にも理由が必要になる。ここで否定すれば、余計に不自然になるかもしれない。


「一生の……忠誠ですか」


 エマはエルナとダンを交互に見た。


「あまりの変わりように、驚いてしまいました。以前は、もう少し気安く話していましたよね」


「私は一度、死にかけました。ダン様が来てくださらなければ、今ここにはいません」


「……そうですよね」


 エマは何度かうなずく。


「命の恩人ですものね。呼び方が変わっても、不思議ではありません」


「はい。そのとおりです」


 エルナは真剣な表情で答えた。


 エマはまだ少し不思議そうだったが、それ以上は追及しなかった。


「ドロップ品も回収しています」


 ダンは話題を変えるように、中型マジックバッグから11階で拾った物を取り出した。


 戦闘後は確認する余裕がなく、目についた物を入れただけだった。職員たちが別のテーブルへ並べ、種類と数を記録していく。


「魔石が8個。オークの厚皮が1枚、大牙が1組、戦斧が1本。インプの角が1本と魔法布が1枚。影豹の毛皮が6枚、爪が4組……これは影石ですね」


「影石?」


「シャドウパンサーから稀に落ちる素材です。ただ、今夜は査定担当者がいないので、正確な金額は明日になります」


「すべて売却してください」


 エルナが答えた。


「カイルとリナの取り分は、2人の葬儀に使います。残った分は家族へ送ってください」


「登録情報を確認し、こちらから連絡します」


 報告が終わると、エマは一度部屋を出た。


 戻ってきた手には、新しい冒険者登録証が握られている。


「ダンさん。今回の報告を受け、ギルド内で協議しました。あなたをFランクからEランクへ昇格させます」


「僕を……?」


「本来なら、これほど短期間で昇格することはありません。しかし、あなたは新人を狙っていた犯罪者を発見し、その後も継続して大量の魔物を討伐しています。さらに今回は10階へ単独で到達し、11階で複数の魔物を討伐してEランク冒険者を救出しました」


 エマは一度言葉を区切る。


「今回持ち帰っていただいた11階の情報についても、ギルドとして非常に重要な報告です。ただ、シャドウパンサーの新たな習性を確認したのはエルナさんたちです。こちらはパーティーからの報告として正式に記録します」


「分かりました」


「そのうえでギルドは、これまでの実績も含め、ダンさんにはEランク相当の実力と功績があると判断しました」


「……ありがとうございます」


 ダンは登録証を受け取った。


 Eランクになれば受けられる依頼が増え、活動できる範囲も広がる。少し前までなら、胸を躍らせていたはずだった。


 しかし今は、喜ぶ気持ちになれなかった。


 もう少し早く11階へ下りていれば、カイルとリナも助けられたのではないか。


 その考えが頭から離れない。


「ダン様」


 エルナが、登録証を見つめるダンへ声をかけた。


「ダン様が来なければ、私もここにはいません。11階で起きたことを報告できる者さえ残らなかったと思います」


「でも、2人には間に合いませんでした」


「それをダン様の責任にしたら、カイルとリナに怒られます」


 エルナは涙を堪えながら、まっすぐダンを見つめた。


「今は喜べなくても、受け取ってください。ダン様が私を助けてくださった証です」


「……はい」


 素直に喜ぶことはできない。


 それでも、このランクがエルナを守る力になるのなら、拒む理由はなかった。


 報告を終えた2人は、カイルとリナをギルドの安置室へ預けた。葬儀については翌朝、担当者を交えて決めることになった。


 すでに夜も深く、《星読みの小箱》は閉まっている。


 ダンはエルナを1人にすることができず、《銀の止まり木》へ連れて帰った。


 女将は血まみれの2人を見ても何も聞かず、湯と清潔な布、それにエルナが着られる服を用意してくれた。


 2人とも《不眠》を持っているため、眠気は感じない。


 ダンの部屋で夜が明けるまで、エルナはカイルとリナの話をした。


 カイルは口が悪いくせに、依頼の前には必ず全員の装備を確認していたこと。


 リナは自分の回復薬を後回しにして、仲間のために取っておく癖があったこと。


 エルナが話し、ダンは黙って聞いた。


 窓の外が明るくなると、2人は《星読みの小箱》へ向かった。


 開店直後に現れた2人を見て店主は驚いたが、ダンが求める品を告げると、さらに目を見開いた。


「《隠蔽》のスキル書を4冊?」


「はい。全部ください」


「1冊金貨5枚だ。4冊なら金貨20枚になるぞ」


「用意しています」


 ダンは金貨20枚をカウンターへ並べた。


 大金ではあるが、迷いはなかった。


 金はまた稼げる。


 だが、エルナの正体を知られれば取り返しがつかない。


 店主は奥の鍵付きの箱から、4冊のスキル書を取り出した。


 ダンが1冊を開くと、文字が光となって身体へ吸い込まれる。


──────────────


《隠蔽》がLv3になりました。


──────────────


 《隠蔽》Lv3では、3つの情報区分を同時に偽装できる。


 ダンはこれまで隠していた本当の名前と種族に加え、ダンピール特有のスキル情報を非表示に設定した。


 これで、表向きの情報から正体へ繋がるものをさらに減らせる。


 残る3冊をエルナへ渡す。


 エルナが順番に開くたび、スキル書が光となって消えていった。


──────────────


《隠蔽Lv1》を獲得しました。


《隠蔽》がLv2になりました。


《隠蔽》がLv3になりました。


──────────────


 エルナも、3つの情報区分を設定する。


 種族は《人間》。


 レベルは、眷属化する前と同じ《21》。


 そして《暗視》《不眠》《吸血》《再生》《状態異常耐性》など、吸血眷属であることへ繋がるスキル情報を非表示にする。


「設定できました」


「一度、ステータスを見せてもらってもいいですか?」


「もちろんです、ダン様」


 エルナが自分のステータスを共有する。


 ダンの前へ、偽装後の情報が表示された。


──────────────


名前 エルナ

種族 人間

レベル 21


剣術 Lv5

受け流し Lv4

身体強化 Lv3

危険察知 Lv3

統率 Lv3

隠蔽 Lv3


──────────────


 表向きの情報から、吸血眷属であることを示すものは消えている。


「これなら、すぐに正体を知られることはないと思います」


「ありがとうございます。金貨20枚も……」


「エルナを守るために必要なお金です」


 エルナはダンを見つめ、深く頭を下げた。


「この命は、ダン様に救っていただいたものです」


「違います。エルナの命は、エルナのものです」


「……はい。ダン様がそう望まれるなら」


 眷属化の影響は、やはり強い。


 それでも、隠すべきものは隠せた。


 次にやるべきことは決まっている。


 カイルとリナを、きちんと見送らなければならない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。