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『スキルを喰らうダンピール ~墓から蘇った少年は、眠らずダンジョンを駆け上がる~』  作者: ミタテ屋


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第43話◆ 階下の悲鳴

 10階へ入って最初に遭遇したゴブリンファイターとゴブリンメイジを倒したあと、ダンはそのまま通路の奥へ進んだ。


 9階までとは違い、10階の通路には一定の間隔で魔石灯が埋め込まれている。薄暗いことに変わりはないが、壁や床の形を目で追える程度には明るい。


 しかし、遠くまで見通せる場所はほとんどなかった。通路は何度も折れ曲がり、途中には小部屋や分岐もある。奥に何が潜んでいるのか分からない造りは、飛び道具や魔法を使う魔物にとって有利だった。


 ダンは《音響探査》と《超嗅覚》を使い、周囲の気配を慎重に探りながら歩く。


 やがて通路の先から、2つの重い足音が聞こえてきた。その少し後ろには、軽い足音が1つ続いている。


「また同じ組み合わせでしょうか」


 ダンが壁際へ寄った直後、曲がり角から2体のゴブリンファイターが姿を現した。その後方には、杖を持ったゴブリンメイジが続いている。


 こちらを発見したゴブリンファイターが剣を構え、ゴブリンメイジは杖を突き出した。先端へ赤い光が集まり始める。先ほど見た火球が放たれる前兆だった。


 ダンは床を蹴り、《疾走》で正面からゴブリンファイターとの距離を詰めた。


 右側の個体が振り下ろした剣を片手剣で受け流し、そのまま手首を浅く切りつける。相手が剣を落としたところで膝を蹴り、体勢を崩した。


 そこへ、もう1体が横から斬撃を繰り出してくる。


 ダンは身を沈め、頭上を通過する鉄剣をかわした。低い姿勢のまま相手の懐へ入り、両脚へ続けて浅く刃を入れる。傷口から《神経毒》が入り、ゴブリンファイターの足が止まった。


 その瞬間、背後で火球が放たれる音が弾けた。


 《音響探査》で捉えていたダンは、火球が届く前に横へ跳ぶ。直前まで立っていた場所を炎が通過し、石壁へぶつかって燃え広がった。


「やっぱり、先に魔法を止めないと危ないですね」


 《防御強化》や《超再生》があるとはいえ、まともに火球を受ければどうなるかは分からない。わざわざ試すつもりもなかった。


 ダンは床を蹴って跳び上がり、ゴブリンファイターの頭上を越える。そのまま《空歩》で何もない空中を踏みつけ、ゴブリンメイジのいる方向へ軌道を変えた。


 突然目の前へ降りてきたダンに驚き、ゴブリンメイジが杖を持ち上げる。


 その腕へ浅く刃を入れ、続けて足を払った。床へ倒れたところで脚へもう一度傷をつけ、《神経毒》を送り込む。


 背後から、剣を引きずる音が聞こえた。


 先ほど脚を傷つけたゴブリンファイターが、それでも立ち上がろうとしている。


「すごい執念ですね……」


 感心しながらも、ダンは片手剣を握り直した。魔物が相手なら、ためらっている必要はない。


 3体全てを戦闘不能にすると、腕につけた小さな傷から血の触手を伸ばした。


 順番に血を吸い、《スキル強奪》を使う。


 ゴブリンファイターが持つのは、《剣術》Lv3、《筋力強化》Lv2、《受け流し》Lv1。ゴブリンメイジが持つのは、《火球》Lv2と《魔力操作》Lv1だった。


 全てのスキルを奪い終えたことを確認してから、3体へとどめを刺した。魔物の身体が光の粒へ変わり、代わりに魔石や素材が残される。


 ゴブリンファイターからは魔石と硬革、ゴブリンメイジからは魔石が落ちた。先ほどは《魔布》と魔法杖が出たが、今回はどちらも出ていない。どうやら装備品や素材が、毎回同じように落ちるわけではないらしい。


「毎回同じ物が出るわけじゃないんですね」


 少し残念ではあるものの、魔石と硬革だけでも収入にはなる。


 ダンはドロップ品を中型マジックバッグへ入れ、次の獲物を探して歩き出した。


 それからも、ダンは10階を巡り続けた。


 ゴブリンファイターが前に立ち、ゴブリンメイジが後方から火球を撃つ。それが、この階における基本的な戦い方らしい。単独で現れることはほとんどなく、ゴブリンファイター2体とゴブリンメイジ1体の組み合わせで行動していた。


 最初の数回こそ、飛んでくる火球に注意しながら戦っていた。しかし、杖の先へ赤い光が集まる予兆と、火球が放たれる音を覚えてしまえば、対処は難しくない。


 《音響探査》で周囲の動きを捉え、《空歩》で射線から外れる。前衛を突破し、先にゴブリンメイジを無力化すれば、残る2体へ集中できた。


 ただ倒すだけなら、一瞬で終わらせられる。だが、スキルを奪うには、生きている間に吸血しなければならない。


 ダンは剣を振るう腕や脚を狙い、《神経毒》を使いながら、確実に戦闘能力だけを奪っていった。


 短剣を主に使っていた頃と比べると、片手剣を使った戦いにもかなり慣れてきている。相手の剣を受け流して体勢を崩し、必要以上の傷を与えずに無力化できるようになった。人前で戦うことになっても、以前ほど不自然には見えないだろう。


 それでも、《火球》を奪ってからは我慢できず、何度か使ってしまった。


「今度は、もう少し小さく……」


 右手の先へ魔力を集める。《魔力操作》を意識し、前回より流し込む量を減らすと、拳ほどの火球が生まれた。


「これくらいなら……」


 ダンはゴブリンファイターへ向けて放った。


 胸元で火球が爆発し、ゴブリンファイターの身体が大きく後ろへ飛ぶ。そのまま石壁へ叩きつけられた光景を見て、ダンは思わず目を見開いた。


「えっ?」


 幸い即死はしていなかったものの、胸当ては黒く焦げ、すぐには起き上がれそうにない。


「これでも強すぎるのか……」


 少なくとも、ゴブリンメイジが使っていた《火球》とは威力が違う。


 原因が流し込んでいる魔力の量なのか、それとも自分自身の魔力の高さが関係しているのかは、まだ分からなかった。《魔力操作》が上がれば、もっと細かく調整できるようになるかもしれない。


 ダンは3体からスキルを奪ってとどめを刺すと、周囲に誰もいないことを確かめた。今度は壁へ向け、できるだけ小さな《火球》を何度か試す。


 発動するたびにMPが減っていく。流し込む魔力を減らせば火球も小さくなることは分かったが、威力と消費MPがどこまで比例しているのかまでは判断できなかった。


 そうして10組を倒したところで、ダンは一度足を止めた。


 最初の1組を含め、吸血してスキルを奪った数は、ゴブリンファイターが20体、ゴブリンメイジが10体。


 ゴブリンファイター20体が持つ《剣術》Lv3からは合計60、《筋力強化》Lv2からは合計40、《受け流し》Lv1からは合計20が加算された。


 ゴブリンメイジ10体からは、《火球》Lv2を合計20、《魔力操作》Lv1を合計10奪っている。


【現在の《剣術Lv7》は61/128】


【《筋力強化》がLv5へ上昇しました】


【現在の《筋力強化Lv5》は10/32】


【《受け流し》がLv4へ上昇しました】


【現在の《受け流しLv4》は5/16】


【《火球》がLv4へ上昇しました】


【現在の《火球Lv4》は5/16】


【《魔力操作》がLv3へ上昇しました】


【現在の《魔力操作Lv3》は3/8】


 中型マジックバッグの中には、魔石が30個、硬革が20枚、鉄剣が7本、《魔布》が5枚、魔法杖が3本入っている。


 さらに、最後に倒したゴブリンメイジからは、赤い光を内包した小さな結晶が落ちていた。


 ダンは《鑑定》を使う。


【火炎結晶】

【火属性の魔力を蓄えた結晶】


「火炎結晶……」


 珍しい品なのか、これまでに一度も見たことがない。


 ダンは傷つけないよう布で包み、中型マジックバッグの奥へしまった。


「これだけあれば、かなりの金額になりそうですね」


 中型マジックバッグは金貨8枚もしたが、これだけの素材を一度に運べるなら、買っておいて正解だった。


 それ以上に嬉しかったのは、スキルが増え、少しずつ成長していることだ。先ほど最後のゴブリンメイジを倒した直後には、身体の奥から力が湧き上がる感覚もあった。


 久しぶりのレベルアップだった。


 ダンは周囲に誰もいないことを確認し、ステータスを開いた。


──────────────


【名前:ダンテ・ヴァレン】

【登録名:ダン】

【種族:ダンピール/混血種】

【偽装種族:人間】

【年齢:16】

【レベル:15】


【HP:669】

【MP:467】


【筋力:435】

【耐久:522】

【俊敏:590】

【器用:537】

【魔力:554】

【精神:462】


【種族スキル】

《夜目Lv1》

《不眠Lv1》

《吸血Lv4》

《状態異常耐性Lv1》


【固有スキル】

《触手》

《スキル強奪》

《超再生》

《眷属化》


【通常スキル】

《短剣術Lv6》

《剣術Lv7》61/128

《弓術Lv8》

《斧術Lv1》

《鑑定Lv1》

《気配察知Lv1》

《視力強化Lv8》

《筋力強化Lv5》10/32

《防御強化Lv7》

《反射神経強化Lv7》

《毒耐性Lv7》

《隠蔽Lv2》

《超嗅覚Lv4》11.4/16

《音響探査Lv1》

《空歩Lv1》

《神経毒Lv1》

《疾走Lv7》0/128

《統率Lv4》1/16

《受け流しLv4》5/16

《火球Lv4》5/16

《魔力操作Lv3》3/8


──────────────


「やっと上がった……」


 レベル14になってから、相当な数の魔物を倒した。


 浅い階層の魔物を何百体倒しても上がらなかったことを考えると、レベルが高くなるほど必要な経験が増えるだけでなく、自分と実力差のある魔物から得られる経験はかなり少ないのだろう。


 10階の魔物は、9階までに現れた魔物より明らかに強かった。そのゴブリンを30体倒して、ようやくレベルが1つ上がったことになる。


「それにしても……やっぱり上がり方がおかしいですね」


 レベルアップするたびに、HPは10%、MPは5%、それ以外の能力値は20%近く上昇している。一般的な冒険者は、レベルが上がっても能力値の伸びは5%から10%ほどだと聞いた。


 種族の違いがあるとはいえ、自分の成長率は明らかに高い。


 強くなれることは嬉しかった。しかし、この数値を誰かに見られたら、種族を隠せたとしても普通の人間ではないと疑われる。


「《隠蔽》のスキル書、やっぱり早く買わないと……」


 金は十分にある。あとは《星読みの小箱》が開いている時間に戻るだけなのだが、狩りを始めると、つい夢中になってしまう。


 ダンはステータスを閉じると、《超嗅覚》で周囲を探った。


 10階へ入ったときから感じていた、覚えのある3人分の匂いが先ほどより近くなっている。


 通路を進み、階段へ続く広間へ出ると、その入口に3人の冒険者が立っていた。その中で最初にダンへ気づいたのは、赤みがかった短い髪と、引き締まった細身の身体を持つ少女だった。


「あれ、ダン?」


「エルナ」


 エルナの後ろには、斥候のカイルと治癒術士のリナもいる。3人とも装備に細かな傷が増えていたが、大きな怪我はしていない。


「もう10階まで来たの? 相変わらず早いわね」


「今日、来たばかりです。エルナたちは、ずっとここに?」


「5日くらいね。最初は少し苦戦したけど、ゴブリンファイターとゴブリンメイジの動きには慣れたわ」


 エルナはそう答えながら、ダンの腰にある片手剣と、中型マジックバッグへ視線を向けた。


「マジックバッグ、大きくなってるじゃない」


「はい。ようやく買えました」


「ようやくって……それ、金貨8枚くらいするでしょう?」


「かなり狩りましたから」


 ダンが笑うと、エルナは呆れたように息を吐いた。


 そのあとも中型マジックバッグへ視線を向けている。ダンが単独でここまで来たことに、少なからず驚いているようだった。


 やがてエルナは表情を引き締め、背後の階段へ目を向ける。


「私たちは、これから11階を少しだけ見てくるところよ」


「11階へ行くんですか?」


「入口付近を偵察するだけ。物資も補充してきたし、危険だと思ったらすぐに戻るわ」


 口調は冷静で、無茶をするつもりはないように見える。それでも、ダンの胸には小さな不安が残った。


「僕も一緒に――」


 そこまで言いかけて、口を閉じる。


 以前、誘いを断ったのは自分だ。今になって同行を申し出れば、理由を尋ねられるかもしれない。それに、ダン自身も10階へ来たばかりで、まだ調べたいことが残っている。


 エルナはそんなダンを見て、少しだけ笑った。


「心配しなくても大丈夫よ。様子を見るだけだから。それに、あなたは今日10階へ来たばかりなんでしょう?」


「はい。もう少し、ここの魔物を調べようと思っています」


「それがいいわ。いくら強くても、急ぎすぎると足元をすくわれるからね」


 その言葉を聞き、ダンは小さくうなずいた。


「エルナも気をつけてください」


「分かってる。あとでギルドへ戻ったら、また一緒に食事でもしましょう」


「はい。楽しみにしています」


 エルナたちは階段を下りていった。姿が見えなくなったあとも、ダンはしばらく階段を見つめていた。


 やがて気持ちを切り替え、10階の通路へ戻る。


 もう少しだけゴブリンファイターと戦い、《剣術》や《受け流し》を確かめよう。《火球》の威力も、人前で使える程度まで抑えられるようにしたい。


 それから1時間ほど、ダンは10階で狩りを続けた。


 新たなゴブリンの集団を探して歩いていたとき、《音響探査》が階段の下から響く微かな音を拾った。


 金属同士が激しくぶつかる音に、何かが石壁へ叩きつけられる音が重なる。その合間には獣の咆哮や、何かが弾けるような激しい音も続いていた。


「戦ってる……?」


 エルナたちは、11階の入口を偵察すると言っていた。戦闘になったとしても、危険ならすぐに戻るはずだ。


 だが、音は階段へ近づいてこない。それどころか、戦いはさらに激しくなっていた。


 甲高い獣の咆哮が響き、複数の足音が一斉に増える。


 次の瞬間、少女の悲鳴が聞こえた。


『カイルっ!』


 リナの声だった。


 ダンは息を呑み、《超嗅覚》へ意識を集中させる。階下から流れてくる空気には、1人分ではない濃い血の匂いが混じっていた。


 それは、エルナとカイル、リナ――覚えている3人全員の血の匂いだった。


「エルナっ!」


 考えるより早く、ダンは走り出していた。


 《疾走》で石床を蹴って階段へ飛び込み、何段もまとめて跳び越えながら11階へ向かって駆け下りていく。


 しかし、下からはもう、悲鳴が聞こえなかった。

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