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『スキルを喰らうダンピール ~墓から蘇った少年は、眠らずダンジョンを駆け上がる~』  作者: ミタテ屋


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第41話◆ 群れを狩る者

 《星読みの小箱》の前から引き返したダンは、再び青石の迷宮へ入った。


 これで何度目の入場になるのか、自分でも分からなくなっている。冒険者登録をしたばかりの頃は、魔物と戦うたびに緊張していたはずだが、今では迷宮へ足を踏み入れるだけで気持ちが高揚するようになっていた。


 今回は浅い階層でスキルを上げるためではない。


 まだ見たことのない、9階の魔物と戦うためだ。


 ダンは途中の魔物を避けながら下へ進んだ。《超嗅覚》と《音響探査》があれば、通路の先にいる魔物や冒険者の位置を把握できるため、戦わずに進むことも難しくない。


 8階へ入ると、天井や壁に残るポイズンリザードの匂いを避け、最短の経路で9階へ続く階段を目指す。


 階段を降りきったところで、周囲の空気が変わった。


 9階の通路は8階よりも広く、天井も高い。青みを帯びた石壁には深い爪痕がいくつも残され、床には細かな砂と灰色の獣毛が散らばっていた。


 どこか遠くから、低い唸り声が聞こえてくる。


「ダンジョンウルフですね」


 ダンが鼻へ意識を向けると、獣の匂いが複数の方向から流れ込んできた。


 同じ種類の魔物であることは分かるが、匂いは1体ずつ僅かに異なっている。《嗅覚強化》の頃なら、近くに何体いるかを判断するだけでも難しかった。今は個体ごとの位置や移動方向まで、別々に追うことができる。


 近くにいるのは6体。


 正面に2体、左右の通路に1体ずつ。残る2体はダンの後方へ回り込もうとしている。


 まだ姿を見せていないにもかかわらず、すでに包囲が始まっていた。


「群れで狩るというのは、本当みたいですね」


 ダンは剣を抜き、通路の中央で足を止めた。


 正面の暗がりから、灰色の巨体がゆっくりと姿を現す。肩までの高さはダンの胸元ほどもあり、頭を低くしたまま鋭い牙を見せていた。


 先頭にいる個体は、周囲のダンジョンウルフより一回り大きい。右目の上には古い傷があり、群れの中で唯一、牙を見せずにダンの動きを観察している。


 ダンはその個体へ《鑑定》を使った。


【種族】ダンジョンウルフ

【レベル】20

【状態】警戒


「レベル20……」


 8階で狩ったポイズンリザードより、さらに強い。


 だが、気になったのはレベルだけではなかった。他の5体が、先頭の個体の動きを意識しているように見える。


 群れのリーダーなのかもしれない。


 ダンが剣を構えた直後、その個体が短く吠えた。


 それが合図だった。


 左右の通路から2体が飛び出し、同時に背後から足音が迫ってくる。リーダーの隣にいた1体はすぐには動かず、ダンの逃げ道を塞ぐように距離を詰めていた。


 ダンは振り返らない。


 《音響探査》が背後から迫る2体の足音を捉えている。前方から注意を逸らすためなのか、背後の2体はわざと大きな足音を立てていた。


 最初に飛びかかってきたのは、左後方の1体だった。


 ダンは剣を握ったまま床を蹴る。


 ダンジョンウルフの牙が足元を通り過ぎ、ダンの身体はその頭上へ浮かび上がった。


 正面からも1体が跳びかかってくる。空中にいる相手なら避けられないと判断したのかもしれない。


 しかし、今のダンには《空歩》がある。


 空中で右足を踏み込むと、何もないはずの足元から確かな反発が返ってきた。


 身体が横へ飛び、正面から来たダンジョンウルフの牙を避ける。すれ違いざまに剣を振り、前脚へ浅い傷をつけた。


 刃には、ダンの血と《神経毒》が薄く塗られている。


 着地したダンジョンウルフはすぐに振り返ろうとしたが、前脚が大きく震え、その場へ崩れ落ちた。


「ポイズンフロッグより身体が大きいので、少し時間がかかりますね」


 効き目は十分にある。ただし、身体の大きさに合わせて毒の量を調整する必要がありそうだった。


 着地したダンへ、残る5体が一斉に襲いかかる。


 1体目の牙を剣の腹で逸らし、脇を抜けながら後ろ脚を斬る。背後から迫った2体目には振り返らず、足音を頼りに剣を突き出した。


 狙ったのは心臓ではない。


 肩の外側へ浅く刃を入れ、血に混ぜた《神経毒》を傷口へ送り込む。


 すぐ横から3体目の前脚が振るわれた。


 革の胸当てを爪が掠めたものの、《防御強化》Lv7のおかげで身体へ伝わった衝撃は小さい。ダンは体勢を崩さず、相手の懐へ潜り込むと、腹部へ蹴りを叩き込んだ。


 ダンジョンウルフの巨体が床を転がり、壁へぶつかる。


 それでも、群れの動きは止まらなかった。


 1体が傷つけば、別の個体がその隙を埋める。正面から注意を引きつけながら、別の個体が死角へ回り込む。


 その中心にいるのは、右目の上に傷を持つリーダーだった。


 リーダーが短く吠える。


 すると、それまで左右から挟み込もうとしていた個体が一斉に距離を取り、今度は前後からダンの逃げ道を塞ぐように動き始めた。


「指示を出している……?」


 偶然とは思えない。


 リーダーの声に合わせて、群れ全体が動き方を変えている。


 ダンは《超嗅覚》で6体それぞれの匂いを追い、《音響探査》で足音と呼吸を捉えた。


 目の前にいる1体だけを見て戦う必要はない。


 剣へ塗る血の量を少し増やし、飛びかかってくる個体の脚や肩へ順番に傷をつける。毒が回るまでの僅かな時間は、《空歩》で位置を変えて包囲の外へ抜けた。


 着地した場所へ2体が迫る。


 今度は床を強く蹴った。


 身体が一気に加速し、2体の間を抜ける。振り返るより早く、片方の後ろ脚へ剣を滑らせた。


 そこからは、1体ずつ確実に動きを奪っていった。


 やがて1体、また1体と足を止め、6体全てが床へ倒れる。


 動けなくなっただけで、まだ死んではいない。


「これなら吸血できますね」


 ダンは腕へ小さな切り込みを入れ、血の触手を伸ばした。


 最初に選んだのは、群れのリーダーだ。


 後ろ脚へ触手を突き刺し、血を吸い上げながら《スキル強奪》を使う。


【《嗅覚強化》Lv2を強奪しました】

【《超嗅覚》へ成長値0.2が加算されます】

【《疾走》Lv1を獲得しました】

【《統率》Lv1を獲得しました】


「《疾走》と……《統率》?」


 ダンは新しく加わった2つのスキルへ意識を向けた。


 《疾走》は、走る際の加速と最高速度を高めるスキル。


 そして《統率》は、共に行動する仲間へ自分の意図を伝えやすくし、集団の動きをまとめる能力だった。


 ただし、相手を強制的に従わせる力ではない。自分を仲間や指揮者として認めている相手に対して、初めて効果を発揮する。


「だから、あんな動きができたんですね」


 戦っている最中に感じた違和感の正体が分かった。


 リーダーが短く吠えるだけで、他の個体が一斉に動きを変えていたのは《統率》によるものだったらしい。力で従わせているのではなく、群れの仲間がリーダーの指示を受け取り、それぞれの役割を果たしていた。


 ダンは《統率》の説明をもう一度確認した。


 今の僕には、一緒に戦う仲間はいない。


 それでも、いつか誰かと一緒に戦うことになれば役に立つかもしれない。


 エルナたちと食事をしたときのことが、一瞬だけ頭へ浮かんだ。


 ダンは表示を閉じ、残る5体へ触手を伸ばした。


 通常のダンジョンウルフが持っていたのは、《嗅覚強化》Lv2と《疾走》Lv1だった。


 《統率》を持っているのは、やはり群れを率いる個体だけらしい。


 1体ずつ血を吸い、スキルを奪っていく。


 3体目から《疾走》を奪ったところで表示が現れた。


【《疾走》がLv2へ上昇しました】


 その後も強奪を続け、6体全てからスキルを奪い終えた。


 現在の《疾走》はLv2、成長値3/4。


 全てのダンジョンウルフへとどめを刺す。


 身体が光の粒となって消え、床には魔石と灰色の毛皮が残された。さらに2体からは、通常より長く鋭い牙が落ちている。


 ドロップ品をマジックバッグへ収めたダンは、新しく得た《疾走》を試しながら通路を進んだ。


 軽く床を蹴っただけで、身体が前方へ滑るように加速する。


 《跳躍》から進化した《空歩》が空中の動きを変えるのに対し、《疾走》は地上での移動を速くするスキルらしい。


 《反射神経強化》と組み合わせれば、相手の動きを見てからでも十分に間に合う。


「これも上げたいですね」


 ほどなくして、《超嗅覚》が新しい群れの匂いを捉えた。


 今度は4体。


 その中にも、他の個体より僅かに大きなダンジョンウルフがいる。


 ダンは剣を抜いた。


 先ほどの6体より数が少ないうえに、一度戦い方を見ている。


 戦闘は短時間で終わった。


 《超嗅覚》と《音響探査》で4体の動きを追い、《疾走》で地上を駆け、《空歩》で包囲を抜ける。その間に《神経毒》を塗った剣で脚や肩へ浅い傷をつけていけば、1体ずつ動けなくなっていった。


 4体全てを無力化すると、ダンは先ほどと同じように血を吸っていく。


 リーダーから《統率》を奪った瞬間、成長値が加わった。


 これで《統率》Lv1は1/2。


 さらに《疾走》を奪う。


【《疾走》がLv3へ上昇しました】


 残る個体からも順番に強奪し、4体全てを終えた時点で《疾走》はLv3、成長値3/8になった。


 そして最後の1体から《嗅覚強化》Lv2を奪った瞬間、別の表示が現れる。


【《超嗅覚》がLv2へ上昇しました】


「上がりました」


 最初の群れが6体、次の群れが4体。


 全てのダンジョンウルフが持っていた《嗅覚強化》はLv2だったため、1体につき0.2。10体で、ちょうど2だ。


 進化した《超嗅覚》でも、下位スキルを持つ魔物を狩れば十分に育てられる。


 ダンは4体へとどめを刺し、ドロップ品を回収した。


 その直後だった。


 鼻へ流れ込んでくる情報が、それまでよりさらに鮮明になったことに気づく。


 匂いの方向や距離だけではない。同じ場所に残された複数の匂いを、時間の新しい順に分けて感じ取れる。


 ダンは試しに、床や壁へ残っている冒険者たちの匂いへ意識を向けた。


 何組もの冒険者が9階を通っている。新しいものから少し古いもの、さらに前に残されたものまで、その中に最近嗅いだ覚えのある3人分の匂いが混ざっていた。


 香草を使った石鹸と、手入れされた革鎧の匂い。


 エルナだ。


 その近くには、カイルが装備へ使っている油と、リナが持っていた薬草の匂いも残されている。


「エルナたちですね」


 3人の匂いはまとまって9階を進み、そのまま10階へ続く階段の方向へ伸びていた。


「10階へ向かったみたいですね」


 エルナが言っていたとおり、しばらくは10階を中心に動いているらしい。


 ダンはその匂いを追おうとして、足を止めた。


 まだ9階へ来たばかりだ。


 ダンジョンウルフから奪える《疾走》は、すでにLv3まで上がった。《統率》も手に入れたばかりで、《超嗅覚》もさらに育てられる。


 先へ進む理由より、この階へ残る理由の方が多かった。


「10階へ行くのは、ここのスキルを上げてからにしましょう」


 ダンは階段へ背を向け、新しい群れの匂いを探した。


 エルナたちが10階へ足を伸ばす一方で、ダンはまた足元の階層を狩り尽くそうとしていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


物語の感想や印象に残った場面など、ひと言でもいただけると今後の執筆の励みになります。

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― 新着の感想 ―
レベリングが楽しいのはわかるけど危機感無さすぎて草 高位鑑定食らったらダンジョン行けなくなるかもしれんというのに
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