↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『スキルを喰らうダンピール ~墓から蘇った少年は、眠らずダンジョンを駆け上がる~』  作者: ミタテ屋


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/67

第40話◆ 空を蹴る

 閉ざされた《星読みの小箱》をあとにしたダンは、再び青石の迷宮へ入った。


 向かったのは、ポイズンフロッグが生息する5階だ。


 《嗅覚強化》と《音響察知》は、Lv10へ到達したことで《超嗅覚》と《音響探査》へ進化した。ならば、現在Lv7になっている《跳躍》と《麻痺毒》にも、その先があるはずだ。


 ただし、2つのスキルは同じLv7でも進み具合が違う。


 《跳躍》はすでに34/128まで進んでいるが、《麻痺毒》は0/128。


 両方をLv10まで上げるために必要となるポイズンフロッグは896体だった。


 ケイブマウスとケイブバットを大量に狩った直後で、身体には確かな疲れが残っている。それでも、新しいスキルへ進化する瞬間を想像すると、足を止める気にはなれなかった。


 5階へ降りると、《超嗅覚》が湿った苔と水の匂いに混じるポイズンフロッグの体臭を捉えた。同時に《音響探査》が、通路の奥で何かが床を蹴った音を拾う。


 音の反響から、相手の位置だけでなく、おおよその姿勢まで頭の中へ浮かび上がった。


 距離は20歩ほど。


 数は4体。


 そのうち1体が、こちらへ向かって跳んでくる。


 ダンが身体を横へずらした直後、紫色の毒液が先ほどまで立っていた場所へ飛んできた。


「見えなくても分かりますね」


 曲がり角の向こうにいるため、まだ姿は見えていない。それでも《超嗅覚》と《音響探査》を組み合わせれば、相手の位置や動きを把握できる。


 ダンは床を蹴り、曲がり角へ飛び込んだ。


 そこには4体のポイズンフロッグがいた。


 最初の1体が口を開くより早く、その横を通り抜けながら後ろ脚を斬る。着地と同時に剣を返し、続けて跳びかかってきた2体目の腹部を剣の腹で打ち据えた。


 残る2体が左右へ分かれたが、どちらを先に狙うか迷う必要はない。


 右側の個体が床を蹴った音を聞き、振り返らないまま身を沈める。頭上を越えていったところで後ろ脚を掴み、そのまま床へ叩きつけた。


 最後の1体が吐いた毒液は左腕にかかったものの、《毒耐性Lv7》のおかげか、痺れはほとんど感じなかった。


「ここまで上げると、この毒はあまり効かないみたいですね」


 ダンは毒液を振り払い、最後の1体も立てなくする。


 4体へ順番に触手を刺し、必要な量の血を吸って《跳躍》と《麻痺毒》を奪う。すべてのスキルを奪い終えたら触手を抜き、それから首を斬ってとどめを刺した。


 4体の身体は光の粒となって消え、代わりに魔石と毒袋が残される。


 ダンはドロップ品を中型のマジックバッグへ収め、次の匂いを探した。


 2階や4階と違い、5階まで来る駆け出しはそれほど多くない。人目を避けながら狩る必要も少なく、ダンは通路を進んではポイズンフロッグを無力化し、血を吸い続けた。


 そして今回94体目。


【《跳躍》を重複強奪しました】

【《跳躍Lv7》が《跳躍Lv8》へ上昇しました】

【強奪数がリセットされました】

【次のレベルまで:0/256】


 少し遅れて、128体目。


【《麻痺毒》を重複強奪しました】

【《麻痺毒Lv7》が《麻痺毒Lv8》へ上昇しました】

【強奪数がリセットされました】

【次のレベルまで:0/256】


「やっぱり、《跳躍》の方が先ですね」


 これまでに積み重ねていた34体分の差が、そのまま残っている。


 《跳躍》のレベルが上がると、床を蹴った際の勢いがさらに強くなった。少し力を入れただけで、身体が想像以上に高く浮き上がってしまう。


 最初は天井近くまで跳びすぎて慌てたが、何度も使ううちに力加減が分かってくる。高く跳ぶだけでなく、前方へ低く飛び出したり、着地の直前に身体を捻ったりと、戦い方に合わせた使い分けもできるようになった。


 《麻痺毒》も強くなっていた。


 腕に小さな傷をつけ、血を剣へ薄くまとわせてからポイズンフロッグの後ろ脚を斬る。浅い傷しかつけていないにもかかわらず、数秒後には脚の動きが鈍り、その場から跳べなくなった。


 ダンは血を吸い、とどめを刺し、ドロップ品を回収する作業を繰り返した。


 時間の感覚は次第に薄れていった。


 腹が減れば硬いパンをかじり、喉が渇けば水を飲む。血を吸っているため食事をしなくても身体は動くが、食べるという人間の習慣まで捨てる気にはなれなかった。


 身体が重くなれば、通路の壁際へ座って休む。


 眠気はない。


 だが、身体の疲労まで消えるわけではない。


 腕や脚の重さが抜けるまで休み、再び動けるようになってから狩りを続けた。


 マジックバッグがいっぱいになれば、一度地上へ戻る。冒険者ギルドで素材を換金し、空になったバッグを持って、また5階へ戻った。


 途中、《星読みの小箱》が開いている時間に街へ戻ったこともあった。


 通りを少し進めば店へ行ける。


 所持金も十分にある。


 今なら金貨5枚を支払っても、まだかなりの金額が残る。


 それでもダンは、青石の迷宮へ続く道と店のある方角を見比べた末、迷宮の方へ身体を向けてしまった。


「……あと少しだけ狩ってからにしましょう」


 自分でも、何度目の「あと少し」なのか分からなかった。


 《隠蔽》のスキル書は必要だ。


 必要だと分かっている。


 だが、Lv10の先に何があるのかを知ってしまった今、その答えを目前にして狩りを止める方が難しかった。


 今回350体目。


【《跳躍》を重複強奪しました】

【《跳躍Lv8》が《跳躍Lv9》へ上昇しました】

【強奪数がリセットされました】

【次のレベルまで:0/512】


 そして384体目。


【《麻痺毒》を重複強奪しました】

【《麻痺毒Lv8》が《麻痺毒Lv9》へ上昇しました】

【強奪数がリセットされました】

【次のレベルまで:0/512】


 ここから《麻痺毒》がLv10へ到達するまで、残り512体。


 数字だけなら気が遠くなるほど多い。


 それでも、《超嗅覚》で群れの位置を探し、《音響探査》で曲がり角の先まで確認できるため、魔物を探す時間は以前より大きく減っている。


 剣を使わなくても、飛んできたポイズンフロッグの軌道を読み、脚だけを蹴って床へ落とせるようになった。


 複数に囲まれても、背後から吐かれた毒液の音を聞き分け、振り返らずに避けられる。


 狩りを続けるほど、進化した2つのスキルが身体へ馴染んでいった。


 昼と夜が何度入れ替わったのかは、迷宮の中からでは分からなかった。


 地上へ戻ったときに確認した日付から考えれば、エルナたちと食事をしてから、おそらく4日ほどが過ぎている。


 その間、エルナたちは10階へ挑戦しているはずだ。


 彼女たちが先へ進んでいることを考えても、焦りは感じなかった。


 ダンは誰かと競争しているわけではない。


 今は目の前のスキルがどのように進化するのか、それを知ることの方が楽しかった。


 そして今回862体目。


 ポイズンフロッグから血を吸い、《跳躍》を奪った瞬間、待ち望んでいた表示が現れた。


【《跳躍》を重複強奪しました】

【《跳躍Lv9》が《跳躍Lv10》へ上昇しました】

【強奪数がリセットされました】

【《跳躍》が最大レベルへ到達しました】

【進化条件を満たしました】

【《跳躍》が《空歩Lv1》へ進化しました】


「来ました」


 ダンの顔に笑みが浮かぶ。


 すぐに試したい。


 だが、まだ終わっていない。


 《麻痺毒》がLv10へ到達するまで、あと34体残っている。


「先に終わらせましょう」


 ダンは気持ちを抑え、次のポイズンフロッグを探した。


 そして863体目。


 《麻痺毒》を奪ったあと、進化したばかりの《空歩》を育てたらどうなるのか気になり、《跳躍》も奪ってみる。


 すると、《空歩》へ僅かな成長が加わった。


 以前確認したとおり、進化前の下位スキルはLv1につき0.1の成長値へ変換されるらしい。


「ちゃんと増えていますね」


 仕組みが確認できれば十分だった。


 今は《空歩》をさらに育てるより、《麻痺毒》をLv10まで上げることを優先する。


 それ以降は《跳躍》を奪わず、《麻痺毒》だけを強奪していった。


 そして896体目。


 黒に近い緑色の身体に黄色い斑点を持つポイズンフロッグが、低く鳴きながら喉を膨らませた。


 吐き出された毒液を横へ跳んで避け、着地と同時に間合いを詰める。前脚の脇をすり抜けながら後ろ脚を斬り、跳べなくなったところへ触手を伸ばした。


 血を吸い、《麻痺毒》へ《スキル強奪》を使う。


【《麻痺毒》を重複強奪しました】

【《麻痺毒Lv9》が《麻痺毒Lv10》へ上昇しました】

【強奪数がリセットされました】

【《麻痺毒》が最大レベルへ到達しました】

【進化条件を満たしました】

【《麻痺毒》が《神経毒Lv1》へ進化しました】


「2つとも進化しました」


 ダンはポイズンフロッグから触手を抜いた。


 普段ならここでとどめを刺すところだが、動けなくなっている最後の1体を見て手を止める。


 まず試したいのは《空歩》だ。


 周囲に誰もいないことを《超嗅覚》と《音響探査》で確かめる。


 能力へ意識を向けると、使い方が自然と頭へ浮かんできた。


 ダンは床を蹴り、通路の天井近くまで跳び上がった。


 これまでなら上昇の勢いがなくなれば、そのまま落下するしかない。


 しかし今は、空中に見えない足場があるように感じられた。


 右足へ力を込める。


 何もない空間を蹴ったはずなのに、足裏へ確かな感触が返ってきた。


 ダンの身体が空中で鋭く方向を変え、横の壁へ向かって飛ぶ。


「うわっ」


 想像以上の勢いに驚きながらも、壁へぶつかる前に身体を捻り、床へ着地した。


 《空歩Lv1》で空中を蹴れるのは、着地するまでに1度だけ。


 それでも、跳躍中に方向を変えられるだけで、空中での戦い方は大きく変わる。


「これは面白いですね」


 もう1度跳び上がり、今度は天井へ向かって空気を蹴る。


 足裏へ返ってきた感触を利用して身体の向きを変え、急降下するように床へ向かう。着地の直前に身体を丸めて衝撃を逃がした。


 何度か試したあと、ダンはまだ動けずにいる896体目のポイズンフロッグへ視線を戻した。


 次は《神経毒》だ。


 腕から流した血を剣へ薄くまとわせ、先ほどとは反対側の後ろ脚へ浅い傷をつける。


 ポイズンフロッグは身体を動かそうとしたが、すぐに全身を大きく震わせた。


 脚だけではない。


 身体全体から力が抜け、その場へ崩れ落ちる。


 《麻痺毒》より効き始めるまでの時間が短く、麻痺が広がる範囲も明らかに大きい。


 強力な分、人に使えば命を奪う可能性もある。


「使う量には気をつけないといけませんね」


 ダンは自分へ言い聞かせるように呟いた。


 《空歩》も《神経毒》も、Lv1の時点で進化前とは使い方そのものが変わっている。


 さらに育てれば、どこまで変わるのだろう。


 興味は尽きなかったが、今はこれで十分だ。


 ダンは最後のポイズンフロッグへとどめを刺した。


 身体が光の粒となって消え、残された魔石と毒袋を拾ってマジックバッグへ収める。


 これで896体。


 ダンは地上へ戻った。


 今回狩ったポイズンフロッグは896体。


 途中で何度も換金しているため、最後に持ち帰った素材はそれほど多くない。


 魔石と毒袋の買取は1体分につき銀貨2枚。


 896体分で銀貨1792枚になる。


 さらに常設討伐依頼は5体につき銀貨3枚。179口分で銀貨537枚となり、端数の1体は素材の買取のみだ。


 今回の収入は合わせて銀貨2329枚。


 金貨23枚と銀貨29枚になった。


 第39話終了時点での所持金は、金貨22枚、銀貨80枚、銅貨54枚。


 そこへ今回の収入を加えると――


 金貨46枚、銀貨9枚、銅貨54枚。


 金貨5枚のスキル書が高いと感じていた頃からは、想像もできない金額だった。


 受付にいたエマは、最後の買い取りを終えると、書類から顔を上げた。


「ダンさん」


「はい?」


「ここ数日で、いったい何体の魔物を倒したんですか?」


 ダンは頭の中で数を足した。


 ケイブマウスが881体。


 ケイブバットが768体。


 ポイズンフロッグが896体。


「2545体です」


 エマはしばらく無言でダンを見つめた。


「どうして即答できるんですか?」


「数えながら狩っていますから」


「そういう問題ではありません」


 エマは深く息を吐いた。


 何度も大量の素材を持ち込んでいるため、最初の頃ほど驚かなくなっている。それでも、合計数を聞けば呆れずにはいられないらしい。


 ダンは報酬の入った袋を受け取ると、今度こそと拳を握った。


「今日は《隠蔽》を買います」


「何度か同じことを聞いた気がしますけど」


「今回は本当です」


「そうですか」


 エマの返事には、僅かに疑いが混じっていた。


 ダンはギルドを出ると、《星読みの小箱》へ急いだ。


 しかし、店へ到着したときには通りの明かりも消え、扉には見慣れ始めた錠が下りていた。


「……またですか」


 閉ざされた扉を見つめる。


 金は十分にある。


 店が開いている時間に地上へ戻ったこともあった。


 それなのに、自分から狩りを優先し続けた結果がこれだった。


「完全に僕が悪いですね……」


 明日の朝まで待てば、確実に店は開く。


 今度こそ宿へ戻り、身体を休めながら朝を待つべきだろう。


 そう思ったところで、ダンの頭に9階のことが浮かんだ。


 次に向かう9階には、ダンジョンウルフがいる。


 エルナたちから聞いた話では、群れで獲物を追い詰める素早い魔物らしい。


 今手に入れた《超嗅覚》。


 《音響探査》。


 そして《空歩》。


 それらを実戦で使えば、どんな戦い方ができるのだろう。


 ダンは閉ざされた扉から視線を外し、青石の迷宮がある方角を見る。


「……9階を少し見るだけなら」


 口にした瞬間、自分でも同じことを何度繰り返しているのか分かった。


 少しだけのつもりで入り、気づけば何百体も狩っている。


「でも、本当に見るだけです」


 誰に言い訳しているのか分からないまま、ダンは《星読みの小箱》へ小さく頭を下げた。


「《隠蔽》は、今度こそ次にします」


 そう言い残し、ダンは9階で待つ新しい魔物を想像しながら、再び青石の迷宮へ向かって歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。