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『スキルを喰らうダンピール ~墓から蘇った少年は、眠らずダンジョンを駆け上がる~』  作者: ミタテ屋


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第18話◆ 早すぎる昇格

 冒険者ギルドへ入ったダンは、素材で膨らんだ2つの麻袋を提げたまま受付へ向かった。


 夕方ということもあり、ギルドの中には迷宮や森から戻ってきた冒険者が多い。受付にはいくつか列ができ、併設された酒場からは食事をする冒険者たちの声が聞こえていた。


 ダンが並んで待っていると、やがてエマのいる受付が空いた。


「お帰りなさい、ダンさん」


「ただいま戻りました」


 エマは挨拶を返したあと、ダンが両手に持っている麻袋へ目を向けた。


「……ずいぶん持ち帰ってきましたね」


「3階と4階へ行ってきました。素材を買い取ってもらえますか?」


「もちろんです。こちらへ出してください」


 ダンは最初の麻袋を受付台へ載せた。


 中から取り出したのは、ゴブリンの魔石25個と、比較的状態のよかった錆びた短剣8本だ。


「ゴブリンを25体ですか?」


「はい」


「今日だけで?」


「はい。3階で倒しました」


 エマの手が止まった。


「ダンさん。確か、前回も3階へ行っていましたよね?」


「はい。でも、そのときは色々あったので……今日はゴブリンを狩るつもりで行きました」


「そうですか……」


 エマは何か言いたそうな顔をしたものの、ひとまず素材の確認を続けた。


 魔石を数え、錆びた短剣の状態を1本ずつ確認していく。


「ゴブリンの魔石は25個で銀貨5枚。短剣は状態のいい8本だけですね。こちらは合わせて銀貨1枚と銅貨20枚になります」


「お願いします」


「それから、ゴブリンの常設討伐依頼ですね。10体ごとに銀貨2枚なので、今回は2口分で銀貨4枚です」


 魔石が討伐証明になるため、25体倒していても依頼報酬として数えられるのは20体分になる。


 それでも素材の買取とは別に銀貨4枚も受け取れる。


 ゴブリンだけで、銀貨10枚と銅貨20枚になった。


「それと、4階でも狩ってきました」


 ダンはもう1つの麻袋を受付台へ載せる。


 中から取り出したのは、8個の魔石、8組の翼膜、16本の牙だった。


 エマが目を丸くする。


「ケイブバットまで狩ったんですか?」


「はい。8体です」


「……初めて4階へ行ったんですよね?」


「はい」


 エマはしばらくダンを見つめたあと、小さく息を吐いた。


「とりあえず、査定しますね」


 ケイブバットの素材は、ゴブリンよりも高く売れた。


 魔石、翼膜、牙を合わせて1体分が銀貨1枚。8体分で銀貨8枚になる。


「翼膜は軽くて丈夫なので、加工素材として需要があります。牙も薬や細工物に使われるので、きれいな状態なら買い取れます」


「だからゴブリンより高いんですね」


「そういうことです。それから、ケイブバットにも常設討伐依頼があります。8体で銀貨4枚です」


「ちょうど8体です」


「ええ。ですから、こちらも対象になります」


 エマが明細へ数字を書き込んでいく。


 ゴブリンの魔石が銀貨5枚。


 錆びた短剣8本が銀貨1枚と銅貨20枚。


 ゴブリンの常設討伐依頼が銀貨4枚。


 ケイブバット8体分の素材が銀貨8枚。


 ケイブバットの常設討伐依頼が銀貨4枚。


「合計で、銀貨22枚と銅貨20枚ですね」


「そんなに……」


 予想していたより多い。


 これまで持っていた銀貨89枚と銅貨59枚を合わせれば、銀貨111枚と銅貨79枚になる。


 少し前まで銀貨数枚を使うことにも悩んでいたのに、いつの間にか銀貨100枚を超えていた。


「迷宮って、ちゃんと素材を持ち帰ればかなり稼げるんですね」


「普通は、それだけの数を1人で持ち帰るのが大変なんです」


 エマはそう言いながら、もう1度明細へ目を落とした。


「それに、登録したばかりの冒険者が1日でゴブリン25体とケイブバット8体を倒すのも普通ではありません」


「そうなんですか?」


「そうなんです」


 なぜか強く言われた。


 ダンとしては、ゴブリンから《短剣術》を、ケイブバットから《音響察知》を奪いたかっただけだ。


 倒した数そのものを意識していたわけではない。


 エマは受付の下から別の書類を取り出し、これまでの記録と見比べ始めた。


「少し待っていてください」


「はい」


 何か問題でもあったのだろうか。


 ダンが不安になっていると、エマは席を立ち、奥の職員へ書類を渡した。


 小声で何かを話している。


 《音響察知》を使えば聞き取れるかもしれないが、ギルドの内部で話していることを盗み聞きするのはよくない気がした。


 ダンは意識して周囲の音を拾わないようにしながら待った。


 しばらくして、エマが戻ってくる。


「お待たせしました」


「何か問題がありましたか?」


「問題というわけではありません。ただ、確認が必要でした」


 エマはダンの冒険者登録証を手に取った。


「ダンさん。Fランクへ昇格することになりました」


「……え?」


 一瞬、言われた意味が分からなかった。


「僕、まだGランクですよね?」


「ですから、GランクからFランクへ昇格します」


「もうですか?」


「私も早いと思います」


 エマは苦笑しながら、これまでの記録を見せてくれた。


「ダンさんが冒険者登録をしてから、今回でまだ4回目の迷宮探索です」


 言われてみれば、それほど何度も迷宮へ入っているわけではない。


 最初は1階。


 その後、夜にも迷宮へ入り、装備を整えてから3階へ進んだ。そして今回は3階から4階まで進んでいる。


「通常なら、もう少し時間をかけて実績を確認します。ただ、今回だけでもゴブリン25体とケイブバット8体。これまでの討伐記録もありますし、4階から無事に帰還しています」


 エマは少し声を落とした。


「それに、以前の件で、ダンさんが少なくとも普通のGランク冒険者ではないことをギルド側も把握しています」


 以前の件。


 ガレスたち3人のことだ。


 ダンが倒したことは外部へ伏せられているが、ギルドは事情を知っている。


「もちろん、その件を昇格理由として外へ公表することはありません。表向きは、これまでの討伐実績と今回の成果による特例昇格です」


「特例……」


「登録からこれだけ早くFランクへ上がる人は、ほとんどいません」


「やっぱり、目立ちますか?」


「……多少は」


 少し間があった。


 ダンが周囲を見ると、近くにいた冒険者たちがこちらを見ている。


 エマとの会話を聞いていたらしい。


「できれば、あまり目立ちたくないんですが」


「それでしたら、今後は少し持ち込む量を考えた方がいいかもしれませんね」


「素材を捨てるのはもったいないです」


「ダンさんなら、そう言うと思いました」


 エマが小さく笑う。


 登録証のランク欄が、GからFへ更新された。


 ダンは返された登録証を見つめる。


 冒険者になったときは、最下位のGランクだった。


 それが、もう1つ上がった。


 たった1つとはいえ、自分の力で魔物を倒し、素材を持ち帰り、その結果として認められたものだ。


「Fランクになると、何が変わるんですか?」


「受けられる依頼が増えます。ダンさんの場合は、Eランク推奨の依頼まで受注できるようになります。ただし、受けられるからといって安全という意味ではありませんよ」


「分かっています」


「本当に分かっていますか?」


「……たぶん」


「そこは『はい』と言ってほしかったです」


 エマは呆れたように笑った。


「特に5階から先は、これまでより危険な魔物も増えます。Fランクになったからといって、急いで下へ進む必要はありません」


「はい。無理はしません」


「それならいいんですが」


 代金と依頼報酬を受け取り、財布へ収める。


 銀貨111枚と銅貨79枚。


 これだけあれば、欲しかった物にも少しずつ手が届くようになるかもしれない。


 以前、店で見た《隠蔽》のスキル書は金貨5枚。


 小型のマジックバッグは金貨2枚で、中型なら金貨8枚。


 まだ遠い。


 それでも、魔物を狩って素材を売れば、いつか買える。


 そしてFランクになったことで、これまでより多くの依頼も受けられるようになった。


「少し、依頼を見ていってもいいですか?」


「もちろんです。ただし、今日すぐにもう1度迷宮へ行くのはやめてくださいね」


「今日は行きません」


「本当ですね?」


「本当です」


 念を押され、ダンは苦笑しながら受付を離れた。


 依頼の並ぶ掲示板へ向かう。


 その途中、何人もの冒険者と目が合った。


 先ほどまでとは明らかに視線の数が違う。


 登録から数日でFランクへ上がった新人。


 どうやら、自分が思っていた以上に目立ってしまったらしい。


 ダンは居心地の悪さを感じながら、依頼掲示板へと向かった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


物語の感想や印象に残った場面など、ひと言でもいただけると今後の執筆の励みになります。

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