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『スキルを喰らうダンピール ~墓から蘇った少年は、眠らずダンジョンを駆け上がる~』  作者: ミタテ屋


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第17話◆ 暗闇の羽音

 ぱさり。


 布を軽く振ったような、小さな音が暗闇から聞こえた。


 ダンは足を止め、両手に提げていた麻袋をそっと足元へ置いた。


 片方には25個のゴブリンの魔石と、比較的状態のよかった錆びた短剣が8本入っている。もう片方は、これから手に入れる素材を入れるため、まだ空のままだ。


 もう1度、羽音がした。


 今度は右上。


 ダンは天井へ目を凝らしたが、何も見つからない。


 凹凸の多い岩の天井には濃い影が重なり、《夜目Lv1》があっても魔物の姿を見分けにくかった。


 さらに別の方向から、微かな羽音が聞こえる。


「……何匹かいる」


 《気配察知Lv1》でも、頭上に何かがいることはぼんやりと分かる。


 だが、正確な位置までは掴めない。


 ダンが慎重に周囲を見回しながら1歩踏み出した瞬間、頭上から黒いものが飛びかかってきた。


「うわっ!」


 反射的に右手を振るう。


 手の甲が黒い影に直撃し、鈍い音が響いた。


 影は勢いよく壁に叩きつけられ、そのまま地面へ落ちる。翼を小さく震わせたあと、光の粒となって消えていった。


 後に残ったのは、小さな魔石と薄い膜の張られた左右1対の翼、それに鋭い牙が2本だった。


「……また、やってしまった」


 ダンは殴った右手と、床に落ちた素材を交互に見る。


 決して強く殴ったつもりはない。それでも魔物は一撃に耐えられなかった。


 レベルが上がり、筋力も以前とは比べものにならないほど高くなっている。頭では分かっているのだが、まだ今の身体の力加減に慣れていない。


「これじゃあ、吸血できないよね」


 死んだ魔物は消えてしまう。


 スキルを奪うには、相手が生きている間に吸血しなければならない。


 ダンは床に落ちた素材を拾い上げ、《鑑定Lv1》を使ってみた。


【ケイブバットの魔石】

【状態:良好】


 続いて、薄い翼へ目を向ける。


【ケイブバットの翼膜】

【状態:良好】


 最後に牙。


【ケイブバットの牙】

【状態:良好】


「ケイブバットっていうのか」


 何に使われる素材なのかまでは分からない。


 それでも魔石以外に2種類も素材を残すなら、ゴブリンより持ち帰る物は多くなりそうだった。


「使い道は、ギルドに戻ってから聞けばいいか」


 ダンは魔石と牙を空の麻袋へ入れ、左右1対の翼膜も折り畳んで収納した。


「次は、壊さないようにしないと」


 麻袋を持ち上げ、再び通路を進む。


 耳を澄ませてみるが、ケイブバットの羽音は小さい。姿が暗闇に紛れていることもあり、近づかれるまで気づくのは難しかった。


 しばらくすると、再び微かな羽音が聞こえた。


 今度は正面ではない。


 ダンは足を止め、麻袋を置いて周囲を見回す。


 左上の天井に、黒い塊が張りついていた。


「いた」


 先ほどよりも早く気づけた。


 腰から短剣を抜き、左腕に小さな切り込みを入れる。


 傷口から流れた血が細い糸となり、空中で蠢きながら触手へと変わった。


 ダンが触手を伸ばした瞬間、天井に張りついていたケイブバットが翼を広げる。


 黒い身体が天井を蹴り、ダンの顔へ向かって飛んできた。


「今度は、慎重に……!」


 血の触手がしなり、空中のケイブバットを横から打つ。


 強く叩き落とせば、また殺してしまう。力を抑え、飛行を妨げることだけを意識した。


 姿勢を崩したケイブバットが床へ落下する。


 それでもすぐに翼を広げて飛び立とうとしたため、触手の先端で片方の翼を押さえつけた。


 完全に拘束する必要はない。


 逃げられず、飛び立てない状態にできれば十分だ。


 もう1本の細い触手を作り、ケイブバットの脇腹へ突き刺す。


 小さな身体から温かな血が流れ込んでくる。


 ゴブリンよりも身体が小さいぶん、勢いよく吸えばすぐに殺してしまいそうだった。ダンは吸い取る速さを抑えながら、《スキル強奪》が発動するのを待つ。


 相手の血を4割ほど吸ったところで、待ち望んでいた文字が現れた。


【吸血量が強奪条件に達しました】

【固有スキル《スキル強奪》が発動しました】

【《音響察知Lv1》を獲得しました】

【次のレベルまで:0/2】


「音響察知……?」


 その瞬間、ダンの耳に届く音が変化した。


 遠くで落ちる水滴。


 通路を流れる風。


 自分の呼吸と、胸の奥で規則正しく鳴る鼓動。


 そして、まだ見えない場所から近づいてくる複数の羽音。


「すごい。こんなに遠くの音まで分かるんだ」


 感心している場合ではない。


 前方の曲がり角から、2匹のケイブバットが飛び出してきた。


 けれども、今度は不意を突かれなかった。姿が見えるより先に、羽音が近づいてくる方向を捉えられていたからだ。


 ダンは2本の触手を左右へ振るい、それぞれの翼を狙って打ち落とす。


 1匹は床を転がり、もう1匹は壁にぶつかって動きを止めた。


 どちらも、まだ生きている。


「よし。今のは上手くできた」


 ダンは安堵しながら、1匹ずつ吸血する。


 1匹目から吸血したあと、続けて2匹目からも必要な量を吸い取る。


 その瞬間、表示が変わった。


【《音響察知》を重複強奪しました】

【《音響察知Lv2》へ上昇しました】

【強奪数がリセットされました】

【次のレベルまで:0/4】


「やっぱり、同じだ」


 ゴブリンから《短剣術》を奪ったときと同じだった。


 スキルのレベルが上がれば強奪数はリセットされ、次に必要な数は倍になる。


 《音響察知》をLv3へ上げるには、さらに4体から奪えばいい。


 吸血を終えたケイブバットへとどめを刺すと、2匹の身体が光の粒へ変わり、魔石と翼膜、それに牙を残して消えた。


 ダンは素材を麻袋へ詰め、立ち上がった。


「あと4匹か。せっかくだから、Lv3まで上げてみよう」


 《音響察知》を得てから、探索は驚くほど楽になった。


 ケイブバットが羽ばたけば、姿が見えなくてもおおよその方向が分かる。天井に張りついて動いていないときは見つけにくいものの、僅かに翼を動かしただけでも、その音を拾えるようになった。


 1体。


 また1体。


 数を重ねるほど、触手で打ち落とす力加減も上手くなっていく。


 翼を折る必要はない。飛び立てない程度に体勢を崩し、床へ落とすだけでいい。そこへ触手を突き刺し、命を奪い切らないように血を吸う。


 最初は恐る恐る行っていた吸血も、何体か繰り返すうちに、どの程度吸えば《スキル強奪》が発動するのか感覚を掴めるようになってきた。


 そして、《音響察知Lv2》になってから4体目のケイブバットからスキルを奪った瞬間、新たな表示が浮かんだ。


【《音響察知》を重複強奪しました】

【《音響察知Lv3》へ上昇しました】

【強奪数がリセットされました】

【次のレベルまで:0/8】


 周囲の音が、さらに鮮明になる。


 離れた通路から響く足音。


 岩肌を伝って落ちる水滴。


 どこかで羽ばたくケイブバット。


 集中すれば、音が聞こえてくる方向だけでなく、近いか遠いかまで以前より分かりやすくなっていた。


「《音響察知》って、暗い場所だとすごく便利だな」


 ダンは小さく笑った。


 《鑑定》に続き、《音響察知》も手に入った。


 魔物を狩るたびに、自分にできることが増えていく。それが楽しくて仕方がなかった。


 病院にいた頃は、ベッドから降りるだけでも看護師を呼ばなければならなかった。窓の外に見える道を歩く人々を眺めながら、自分も好きな場所へ行けたならと、何度も考えていた。


 今は、自分の足でダンジョンの中を歩いている。


 魔物と戦い、スキルを覚え、未知の場所を進んでいる。


 危険だと分かっている。それでも胸の奥から湧き上がる楽しさを、抑えることはできなかった。


「もっと先まで行ってみたいけど……今日は、ここまでかな」


 足元の麻袋へ目を向ける。


 ケイブバットの翼膜は薄いものの、左右1対を何枚も重ねれば、それなりに嵩張る。用意していた2つ目の麻袋も、すでに口を縛るのが難しいほど膨らんでいた。


 中身を確認する。


 ゴブリンの魔石が25個。


 売り物になりそうな錆びた短剣が8本。


 ケイブバットの魔石が8個。


 左右1対になった翼膜が8組。


 牙が16本。


 最初に倒した1匹も、残した素材は他の個体と同じだった。拾い忘れはない。


「魔石だけなら、まだ入ったんだけどな」


 これ以上狩っても、持ち帰ることができない。


 捨てて帰るのはもったいないため、ダンは地上へ戻ることにした。


 素材で膨らんだ麻袋を両手に提げ、来た道を引き返す。


 3階を抜け、2階を通り、1階へ戻る。《音響察知》のおかげで、曲がり角の先から聞こえてくる足音や魔物の動く音にも、以前より早く気づけるようになっていた。


 階段を上るたびに、麻袋を持つ手へ重さがかかる。


 それでも、不思議と苦痛ではない。


 この重さは、自分がダンジョンで戦って手に入れた成果だった。


 地上へ戻る頃には、グランベルの空は夕焼けに染まっていた。


 入口を守る衛兵が、ダンの持つ2つの麻袋を見て目を丸くする。


「お前、またいっぱいにしたのか」


「4階の素材が、思ったより嵩張ってしまって……」


「まだ駆け出しだったよな?」


「はい。登録して数日です」


 正直に答えると、衛兵は何ともいえない顔になった。


 ダンは軽く頭を下げ、街へ向かって歩き出す。


 大通りの先では、冒険者ギルドの窓から明るい光が漏れていた。


 ゴブリン25体分の魔石と、状態のいい短剣が8本。さらにケイブバット8体分の素材もある。


 ゴブリンの間引き依頼は、魔石10個ごとに銀貨2枚だった。20個を提出すれば、それだけで銀貨4枚になる。もちろん、魔石そのものの買取代は別だ。


「これだけ持ち帰れば、いくらになるんだろう」


 もしかすると、ケイブバットにも討伐依頼があるかもしれない。


 素材の詰まった麻袋を提げながら、ダンは弾む足取りで冒険者ギルドへ向かった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


物語の感想や印象に残った場面など、ひと言でもいただけると今後の執筆の励みになります。

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