↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『スキルを喰らうダンピール ~墓から蘇った少年は、眠らずダンジョンを駆け上がる~』  作者: ミタテ屋


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/36

第15話◆ 戻らなかった新人たち

 夕方の冒険者ギルドは、依頼を終えて戻ってきた冒険者たちで混雑していた。


 受付前には魔石や素材を持った者が並び、酒場からは今日の成果を語り合う声が聞こえてくる。


 ダンは人の間を抜け、エマがいる受付へ向かった。


「ダンさん、お帰りなさい」


 いつものように笑顔を向けたエマだったが、すぐにダンの様子が普段と違うことへ気づいた。


 服の左肩に穴が開き、乾いた血が付着している。革の胸当てにも刃物が当たったような傷が残っていた。


「どうしたんですか、その服。怪我をしたんですか?」


「怪我は大丈夫です。それより、人に聞かれない場所で報告したいことがあります」


「人に聞かれない場所で?」


「はい。3階で、血の付いた冒険者登録証を見つけました」


 エマの表情から笑みが消えた。


「少し待っていてください」


 隣の職員へ受付を任せると、エマはダンをギルドの奥へ案内した。


 通されたのは、小さな机と椅子だけが置かれた面談室だった。扉を閉めれば、外の話し声はほとんど聞こえなくなる。


「見つけた物を確認してもいいですか?」


「はい」


 ダンは麻袋の中から、血の付いた登録証を取り出した。


 半分に割れた物を含め、全部で4枚ある。


 エマは1枚ずつ名前を確認していたが、やがて指を止めた。


「この方……覚えています」


「知っている人ですか?」


「冒険者登録を担当しました。まだ17歳で、登録したのは2週間ほど前です」


 エマの声がわずかに震えた。


「初めて依頼を受けた翌日から戻らなくなりました。ご家族からも捜索の相談が来ていたのですが、ダンジョン内で行方不明になった冒険者を見つけるのは難しくて……」


 残る登録証にも、行方不明者として届けが出されている名前があった。


 ダンは続けて、小さな手帳と銀貨の入った袋を机へ置いた。


「登録証と一緒に、これも隠されていました」


「中を見ても?」


「どうぞ」


 エマが手帳を開く。


 ページを進めるにつれ、その顔から血の気が引いていった。


『男2名、処分』


『女1名、銀貨80枚』


『荷物、銀貨23枚』


 日付と名前、金額が並び、同じような記録が何ページも続いている。


「これは……」


「人を殺したり、売ったりした記録だと思います」


「ここで待っていてください。私だけでは判断できません」


 エマは手帳を持って部屋を出た。


 しばらくして戻ってきたときには、50歳ほどの男が一緒だった。


 短く刈った白髪と鋭い目を持ち、職員と同じ上着を着ている。左の頬には、古い傷跡が残っていた。


「冒険者ギルド副支部長のハインツだ。君がこれを見つけたのか?」


「はい。ダンといいます」


「登録証は確認した。Gランクになって2日目だな」


「はい」


 ハインツはダンの向かいへ座り、机の上の手帳を開いた。


「最初から説明してくれ。覚えている限り、細かく頼む」


 ダンは3階でゴブリンを狩っていたところから話し始めた。


 《嗅覚強化》で血の匂いに気づいたこと。その匂いを追って脇道へ入り、登録証や血の付いた衣服を見つけたこと。


 そこへガレス、ボルド、ニックと名乗る3人組が現れたことも話した。


 名前を聞いたハインツの眉が動く。


「ガレスたちに間違いないのか?」


「3人とも、そう名乗っていました」


「全員Eランクの冒険者だ。新人へ狩場を教えている姿を何度も見られている」


「親切な人たちだと思われていたんですか?」


「少なくとも、これまではな」


 ハインツの声が低くなる。


 ダンは登録証を見せて質問したところ、3人の態度が変わったと説明した。


「口封じのために襲われたのか?」


「僕を捕まえて、売るつもりだったようです」


「売る?」


「顔も悪くないから使い道がある、と言われました」


 ダンピールだと知られたことや、吸血鬼へ売ろうとしていたことは伏せた。


 ハインツの表情がさらに険しくなる。


「それで、どうやって逃げた?」


「《跳躍》を使いました」


「跳躍?」


「ホーンラビットが持っているスキルです。相手は僕を生け捕りにしようとしていたので、最初から殺すつもりではありませんでした。その隙に逃げました」


「服の穴は?」


「弩で撃たれました。矢は自分で抜きました」


「傷を見せてもらえるか?」


「もう治っています」


 ダンは穴の開いた部分をずらし、左肩を見せた。


 肌には傷跡すら残っていない。


 ハインツが目を細める。


「治癒ポーションを使ったのか?」


「いえ。思っていたより浅かったみたいです」


 完全な嘘ではない。矢は肩を貫通しておらず、《超再生》によってすぐに治った。


「その手帳と金は、どこで手に入れた?」


「登録証が隠されていた場所です。3人が来る前に麻袋へ入れていました」


 ここだけは事実と違う。


 手帳と金は、倒したガレスたちから回収した物だ。しかし、それを話せば3人を殺したことまで説明しなければならない。


「逃げている途中にゴブリンの匂いを見つけました。そこを通り抜けて、3人を撒きました。そのあとのことは分かりません」


「Eランク3人から逃げ切ったうえに、証拠まで持ち帰ったわけか」


 ハインツは椅子へ背中を預け、黙ってダンを見つめた。


 疑われている。


 《隠蔽Lv1》は発動しているため、《鑑定Lv1》ならステータスを見られる心配はない。それでも、高レベルの《鑑定》を使われれば破られる可能性がある。


 ダンは視線を逸らさず、質問されるのを待った。


 先に口を開いたのはハインツだった。


「分かった。すぐに調査隊を向かわせる」


「僕の話を信じてくれるんですか?」


「登録証も手帳も本物に見える。少なくとも、調べるには十分な証拠だ」


 ハインツは立ち上がり、扉の外にいた職員へ指示を出した。


 3階なら、今からでも往復できる。


 ギルド内にいたDランク冒険者2人と、調査経験のある職員4人が集められ、ダンが描いた簡単な地図を持って青石の迷宮へ向かった。


 調査隊が戻るまで、ダンは面談室で待つことになった。


 エマが水と軽い食事を持ってきてくれた。


「朝食のあと、何も食べていないのではありませんか?」


「そういえば、朝食を食べたきりです」


「そういえば、ではありません。ダンジョンへ潜るなら、食事もきちんと取ってください」


「ありがとうございます」


 注意されながらも、自分を心配してくれることが嬉しかった。


 パンとスープを食べ終えたあとも、エマは部屋に残った。


 机の上には、血の付いた登録証が並んでいる。


「この方たちが戻らないと聞いたとき、ダンジョンで魔物に襲われたのだと思っていました」


「エマさんのせいではありません」


「分かっています。でも、私が登録を担当した人もいるんです。もっと早く気づけていれば……」


「手帳には20人以上の名前がありました。3人はかなり前から繰り返していたんだと思います」


 新人ばかりを狙い、ダンジョン内で殺す。


 遺体を魔物の近くへ捨てれば、死因を疑われることもない。生き残った被害者がいなければ、証言する者もいない。


 これまで発覚しなかったのも不思議ではなかった。


「僕も、《嗅覚強化》がなければ気づきませんでした」


「それでも、登録証を見つけて持ち帰ってくれました」


 エマは1枚の登録証を両手で包むように持った。


「ありがとうございます」


 真っ直ぐに礼を言われ、ダンの胸が少し痛んだ。


 本当は、3人がどうなったのか知っている。


 それを話せないことへ罪悪感はあるが、正体を知られれば、この街で暮らせなくなるかもしれない。


 今は黙っているしかなかった。


 外が暗くなった頃、面談室の扉が開いた。


 戻ってきたハインツの後ろには、調査隊を率いていた職員が立っている。その服や靴には土と黒い血が付着していた。


「確認できたか?」


「はい。ガレス、ボルド、ニックの3人を発見しました。全員死亡しています」


 エマが息を呑む。


「死因は?」


「すでにゴブリンに荒らされていました。損傷が激しく、正確な死因は分かりません。ただし、3人の登録証と装備は確認しています」


 ダンが説明したとおり、ゴブリンの群れに襲われたように見えたらしい。


 職員の報告は、それだけでは終わらなかった。


「脇道のさらに奥に、死体を捨てるために使われていたと思われる縦穴がありました。現時点で、少なくとも11人分の遺骨を確認しています」


「11人……」


「まだ下にもある可能性があります。明日、人数を増やして調査を続けます」


 面談室に重い沈黙が落ちた。


 ダンは手帳へ記されていた名前を思い出した。


 殺された者だけではない。奴隷商へ売られた者たちもいる。その行方は、今も分からない。


 ハインツがダンへ視線を向ける。


「君の証言と、現場の状況はおおむね一致していた」


「それなら、僕はもう帰っても大丈夫ですか?」


「その前に確認しておきたい」


 ハインツは向かいの椅子へ座った。


「ガレスたち3人はEランクだ。3階のゴブリン程度なら、群れに囲まれても簡単には死なない」


 ダンの背中に緊張が走る。


「君が本当に逃げただけなのか、疑問がないわけではない」


 ハインツはダンの目を真っ直ぐに見た。


「ただし、3人が何人もの新人を殺し、売っていたことは事実だ。君が生きて証拠を持ち帰ったことで、これ以上の被害を防げた」


「……はい」


「君がどうやって3人を撒いたのか、今はこれ以上聞かない」


 嘘を見抜かれているのかもしれない。


 それでも、ハインツは追及しなかった。


「この件は重大犯罪として扱う。君が報告者だということは、調査に必要な職員以外には伏せる」


「お願いできますか?」


「手帳には、裏の奴隷商と思われる名前もある。残党に知られれば、君が狙われる可能性があるからな」


 ダンが正体を隠したい本当の理由とは違うが、結果として身を守ることにつながる。


「提出された銀貨25枚と銅貨31枚は、被害者から奪われた金である可能性が高い。ギルドで預かり、身元が判明した被害者の家族へ返還する」


「はい。そのために持ってきました」


「調査が完了したあと、重大犯罪の発見と証拠提出に対する報奨金を支払う。現時点では銀貨30枚を予定している」


「銀貨30枚……」


 小型マジックバッグにはまだ届かないが、大きな金額だった。


「受け取っていいんでしょうか?」


「正当な報酬だ。君が持ち帰らなければ、あの場所は今後も使われ続けていた」


 ハインツの言葉に、ダンは静かにうなずいた。


 3人を殺したことに後悔はない。


 縦穴から見つかった11人分の遺骨を思えば、少なくとも3人を見逃すことはできなかった。


 面談室を出る前に、エマがもう1度ダンへ頭を下げた。


「戻ってきてくれて、本当によかったです」


「はい」


 ダンは短く答えた。


 自分がしたことを、すべて話すことはできない。


 それでも、これ以上の新人が同じ場所で殺されることはなくなった。


 その事実だけは、隠す必要のないものだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


物語の感想や印象に残った場面など、ひと言でもいただけると今後の執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。