↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『スキルを喰らうダンピール ~墓から蘇った少年は、眠らずダンジョンを駆け上がる~』  作者: ミタテ屋


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/36

第11話◆ 金貨5枚の壁

 朝の鐘が鳴るまで、ダンは宿の部屋で戦利品の整理をしていた。


 ケイブマウスの毛皮を重ね、魔石と前歯を分けて麻袋へ詰め直す。適当に入れていたときより多少は収まりがよくなったが、2つの麻袋が膨らんでいることに変わりはなかった。


 窓の外が明るくなると、1階から焼いたパンの匂いが漂ってきた。


 《嗅覚強化》の影響で、香ばしい小麦の匂いだけでなく、スープに入っている野菜や燻製肉の匂いまで分かる。


 ダンが食堂へ下りると、宿の女将が呆れた顔を向けてきた。


「少しは眠れたのかい?」


「いえ。まったく眠くならなかったので、部屋で素材を整理していました」


「夜通しダンジョンへ潜って、そのまま寝ていないのかい?」


「はい。でも、不思議なくらい元気です」


「若いからって無茶を続けると、いつか倒れるよ」


「気をつけます」


 心配してくれていることが嬉しくて、ダンは素直に頭を下げた。


 自分が《不眠》を持っていることは言わないほうがいいだろう。異世界のことを何も知らないダンでも、人間が眠らずに活動し続けるのは普通ではないと分かる。


 宿代に含まれている朝食を食べ終えると、ダンは麻袋を両手に持った。


 女将がその姿を見て、さらに深いため息をつく。


「本当に、それを2つとも持っていくのかい?」


「はい。なるべく早く売りたいので」


「腰を痛めないようにね」


「大丈夫です。そこまで重くありませんから」


 ダンにとっては事実だったが、女将は信じていないようだった。


 麻袋を抱えて宿を出ると、街はすでに動き始めていた。店の扉が開かれ、荷車が石畳を行き交い、仕事へ向かう人々の声が聞こえてくる。


 《嗅覚強化Lv4》になったことで、昨日まで気づかなかった匂いまで感じ取れるようになっていた。


 焼きたてのパン、馬、革製品、金属を熱する炭、通りを歩く人々の汗。最初は多すぎる匂いに戸惑ったが、意識を向けなければ少しずつ気にならなくなってきた。


 さらに、人の匂いを区別できることにも気づいた。顔を見なくても近くに誰かがいることが分かる。慣れれば、知っている人を匂いだけで見分けられるようになるかもしれない。


 新しいスキルの可能性を考えながら歩いているうちに、冒険者ギルドへ到着した。


 朝のギルドは、これから依頼へ向かう冒険者たちで混雑していた。


 ダンが麻袋を2つ抱えて扉をくぐると、入口の近くにいた何人かが道を空けた。


「何だ、あの荷物」


「両方とも素材か?」


「待て。昨日、ホーンラビットを大量に持ち込んだ新人じゃないか?」


「もう戻ってきたのかよ」


 周囲の声を聞きながら、ダンは受付へ向かった。


 昨日とは服装が変わり、顔や髪もきれいになっている。それでも特徴的な青白い肌と整った顔立ちで、すぐに同じ人物だと気づかれてしまったらしい。


 視線を集めるのは少し嬉しいが、やはり目立ちすぎるのは困る。早く《隠蔽》を手に入れなければならない。


 受付にいたエマは、ダンの姿を見るなり目を丸くした。


「ダンさん?」


「おはようございます。買取をお願いします」


「昨日も素材を持ってきましたよね?」


「はい。そのあと、夜にもう1度ダンジョンへ行ってきました」


「夜に?」


「眠れなかったので」


 ダンが受付台の前へ麻袋を置くと、重い音が響いた。


 エマは袋の中を覗き込み、灰色の毛皮が何枚も詰まっているのを確認する。


「これを、夜だけで?」


「はい。麻袋がいっぱいになったので、途中で帰ってきました」


「途中で……」


 エマは何か言いたそうな顔をしたが、先に素材の確認を始めた。


 ダンが分けておいた魔石と素材が、受付台へ順番に並べられていく。


「ホーンラビットが3体分。ケイブマウスが……15体分ですね」


「合っています」


「すべてダンさんが1人で倒したんですか?」


「はい」


「ケイブマウスは群れで襲ってきたはずですが、怪我はありませんか?」


「はい。大丈夫でした」


 エマはダンの腕や顔を確認したあと、不思議そうに首を傾げた。


「防具も着けていないのに……本当に無傷なんですね」


「運がよかったんだと思います」


 ダンが笑って誤魔化すと、エマは少し疑わしそうにしながらも、買取額の計算へ戻った。


「ホーンラビットは魔石と角を合わせて、1体につき銅貨25枚です。3体で銅貨75枚になります」


 続いて、ケイブマウスの素材が示される。


「ケイブマウスは魔石が銅貨12枚、毛皮が銅貨20枚、前歯が銅貨8枚です。1体につき銅貨40枚なので、15体で銀貨6枚ですね」


 エマが硬貨を数え、受付台へ並べた。


「合計で、銀貨6枚と銅貨75枚です」


「ありがとうございます」


 ダンは硬貨を革袋へ入れた。


 これで所持金は銀貨10枚と銅貨99枚になった。


 そのうち銀貨1枚は、ガルドからもらったものだ。できることなら、あの銀貨には手をつけたくない。


 自分で稼げるようになったとはいえ、《隠蔽》やマジックバッグを買うには、まだまったく足りなかった。


「ダンさん」


「はい?」


「夜にダンジョンへ潜ること自体は禁止されていません。ただ、夜は冒険者が少ないので、何かあっても助けてもらえません。眠れないからといって、無理に潜る必要はありませんよ」


「心配してくれて、ありがとうございます」


「本当に分かっていますか?」


「はい。ただ、ダンジョンへ行くのが楽しくて……」


 正直に答えると、エマは困ったように笑った。


「楽しいからこそ、慎重になってください。生きて帰ってこなければ、次はありませんから」


「分かりました。気をつけます」


 ダンはもう1度頭を下げ、魔道具店《星読みの小箱》の場所を確認してからギルドを出た。


 魔道具店は、冒険者ギルドから大通りを東へ進んだ先にあった。


 深い青色の屋根を持つ2階建ての建物で、入口には星と小箱を組み合わせた看板が下がっている。


 扉を開けると、小さな鈴が澄んだ音を立てた。


 店内には杖や水晶、色の違うポーション、銀色の指輪などが並べられていた。何に使うのか分からない道具も多く、見ているだけで楽しい。


 棚の商品へ次々と目を向けていると、奥から女性の店員が出てきた。


「いらっしゃいませ。お探しの物はございますか?」


「あの、《隠蔽》のスキル書はありますか?」


「ございますよ」


 店員が案内したのは、鍵付きのガラス棚だった。


 中には黒い表紙の本が1冊だけ置かれている。表紙には銀色の文字が刻まれていたが、見慣れない形で、ダンには意味を読み取ることができなかった。


 普通の文章なら自然に意味が分かるのに、この文字は別らしい。


「これが《隠蔽》のスキル書ですか?」


「はい。使用すれば《隠蔽Lv1》を習得できます。すでに習得している場合は、レベルが1つ上昇します」


「いくらですか?」


「金貨5枚です」


 聞き間違いかと思った。


「金貨……5枚?」


「はい」


「銀貨だと、500枚ですよね?」


「そうなります」


 ダンは革袋の中身を思い浮かべた。


 持っているのは銀貨10枚と銅貨99枚。それに対して、金貨5枚は銀貨500枚だ。


 今の稼ぎでは、あまりにも遠い。


「高いとは聞いていましたけど……」


「《隠蔽》は、商人や貴族からの需要が高いスキルです。入荷数も少ないため、この価格になります」


「これを使えば、どんな《鑑定》でも防げるんですか?」


「いいえ。《隠蔽Lv1》で防げるのは、基本的に同じLv1の《鑑定》までです。高レベルの《鑑定》を防ぐには、《隠蔽》のレベルも上げなければなりません」


 つまり、《隠蔽Lv5》まで上げるには、同じスキル書が全部で5冊必要になる。


 今と同じ値段なら合計で金貨25枚。金額だけでなく、入荷数が少ないスキル書を5冊も手に入れなければならない。


 あまりに遠い話だった。


「取り置きはできますか?」


「申し訳ございません。取り置きは行っておりません」


「そうですか……」


 今から金貨5枚を貯めても、その頃には売れているかもしれない。


 それでも、諦めるという選択肢はなかった。


 ダンピールという種族と、3つの固有スキルを知られる危険を考えれば、どれほど高くても必要だ。


 特に《スキル強奪》を知られれば、利用しようとする者や、危険だからと殺そうとする者が現れるかもしれない。


「マジックバッグも見せてもらえますか?」


「こちらです」


 案内された棚には、肩から下げられる黒いバッグと、それより少し大きな焦げ茶色のバッグが並んでいた。


「黒いほうが小型です。麻袋10個分を収納でき、価格は金貨2枚になります。焦げ茶色の中型は麻袋30個分で、金貨8枚です」


「小型でも、麻袋10個分……」


「収納した物の重さは、およそ10%になります。ただし、生き物は入れられません。中の時間も止まらないので、食料などは普通に傷みます」


 小型があれば、昨夜の5倍は素材を持ち帰れる。


 麻袋を両手に抱える必要もなくなり、何日もダンジョンへ籠るための保存食や水も持ち込める。狩りで稼ぐことだけを考えれば、《隠蔽》より先に買ったほうが効率はよい。


 価格も《隠蔽》より金貨3枚安い。


 それでも、ダンの答えは決まっていた。


「まずは《隠蔽》だ」


「何かおっしゃいましたか?」


「いえ。ありがとうございました。お金を貯めて、また来ます」


 店員へ頭を下げ、ダンは店を出た。


 正体を見抜かれないようにすることが最優先だ。素材をたくさん持ち帰れても、ダンピールだと知られて街にいられなくなれば意味がない。


 まずは金貨5枚を貯め、《隠蔽》を手に入れる。その次が、金貨2枚の小型マジックバッグだ。


 大通りを歩きながら、ダンは頭の中で必要な金額を計算した。


 1階と2階の魔物だけを狩っていては、金貨5枚までかなりの時間がかかる。もっと価値の高い魔物を倒すには、さらに下の階へ進まなければならない。


 青石の迷宮の3階には、武器を使うゴブリンがいる。


 森で出会ったゴブリンからは《短剣術》を奪えた。ダンジョンのゴブリンからも同じスキルを奪えるなら、重ねて強化できる。


 魔石と素材を売りながら、スキルも手に入る。


 考えているうちに、金貨5枚という途方もない金額さえ、新しい目標として楽しく思えてきた。


「まずは3階だ」


 ダンは腰の短剣へ触れ、《赤熊の武具店》のある通りへ向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。