基礎世界とチュートリアル
彼、千縁は不思議そうに辺りを見回した。
そこにはいつも通りの寝室。彼は急ぎ部屋を出た。廊下を曲がり、玄関に出るとそこは閑静な住宅街のみである。彼は玄関の周りをキョロキョロ見回したあと、いきなり何か気づいた様子で止まり、顔を赤らめた。
唐突だが、彼の両親は確かに彼と同じで基礎世界にいるが、今は昼時。仕事の時間である。基礎世界は建物や物品の権利は現実世界とリンクしているので、現実と同じく会社のオフィスで仕事しているだろう。
残念ながら今年の異界渡りの解禁は日本は仕事時なので息子の門出を祝いたくともできないと昨日彼は夕食の席で言われている。まして家の近くにいる訳もない。だから、基礎世界にいるであろう両親が基礎世界の自宅にいないことを不思議に思って、家の周りを探すだなんてこと、やるわけがないのだ。
少しすると彼は、辺りを見回して誰もいないことを確認するとホッとした様子で、「メニュー」と呟いた。
するとそこにはパソコンのホーム画面のようなものが虚空から現れた。そして誰かが勝手に操作しているかのように画面が切り替わっていく。彼は先程よりよほど落ち着いた様子である。
そして基礎世界に訪れたときのように渦、すなわちディメンションゲートが現れた。
彼は渦に向かって「遊戯世界へ」と唱え、モノクロの渦に呑み込まれた。
「いよいよだ。」彼はそっと呟いた。
■■■■■
私は前回、国連が五つの世界を作り、それらを総称して「新世界」と呼ぶようにした、ということは語ったかと思う。
「新世界」はそれぞれ固有の名前と性質がある。
それぞれ作られた順番に
・現在と過去の記録と共有、そして世界を完全に再現できるのかのテストを目的としたており、また全ての世界へ繋がる玄関口ともなる「基礎世界」。
・未来の予測と観察、世界の分岐とデータの簡素化して保存する事を実現した「平行世界」。
・宇宙発生前の世界を解明し、再構成する事で超常の大自然を作ることに成功した。超常の物理法則に従って生まれた異常な怪物達の跋扈する「怪物世界」。
怪物世界以降、人類はデータ上でだが、あらゆる幻想と空想を科学的に生成する事を可能とした。
・魔力、そして魔法という完全に新たな法則がある全く新しい世界「魔法世界」。
・神話と信仰の具現。空想と神秘が現実を侵食する超法則の一つの完成「神魔世界」。
・新世界最後にして最高傑作。前述の4世界で培われた技術やノウハウをこれでもかと詰め込んで創り上げた人類の遊戯板であり、世界の終点。
「遊戯世界」。
これらは世界中の人々が世界のあらゆる人々のために創り上げたもう一つの世界である。政治、文化、宗教、生まれに関わらずこれらの世界は限りなく平等に人々機会を、そして現実では味わえないような未知の経験を与えるだろう。人は非現実を、違った自分を夢見て新世界へと訪れる。
さて、遊戯世界へ言った千縁はどうしているだろうか。
□□□□□
『これよりチュートリアルをはじめます。』
そんな文言と共に視界が開けた。
視界一面に広がるのは色とりどりの花々。
足を中心に円になるように更地になっており、歩き出してみると、不思議なことに花が避けた。
なかなか機敏で、どんなに早く足を動かしても避けられる。
花を観察しようとしゃがみ込んだ時、背後から声が聴こえた。
『ねぇ君、そろそろチュートリアルを始めていいかな?』
ふりかえって見ると、そこには何故か花畑の中だと言うのに机と、本棚があり、まさに天井と壁のない書斎のような場所があった。
そして机の上には黄色い目に真っ白な羽毛が生えただいたいうさぎくらいの大きさの蛙のマスコットのような謎生物がいた。
謎生物は話し出す。
『ようこそこの世界へ新たな異邦人さん。吾輩の名前はダレイオス=アレキサンドロス三世である。』
マスコットみたいななりのくせにかっこいい名前である。
「『遊戯世界の管理者を任されるAIの中で、
広告兼チュートリアル担当キャラクター【三獣使】のひとつ。』ですよね!」
どうやら千縁はこの鳥か蛙かよくわからない生物の事を知っていたようだ。
『まぁ、いろんなメディアで情報発信してるからねぇ。予習はバッチリってところかなぁ?
さて、君もご存知の通り、吾輩はチュートリアル担当。君たち異邦人が我らが世界で暮らすための仮想の肉体作りと、基本的なルール説明をするのが仕事だよ。』
ダレイオスは言う。
『まぁ、ルールとは言っても言う事は一つ。この現実と遊戯の狭間のような世界だけど、現実とこの世界を区別して考えなきゃいけない。ということだけさ。』
確かに新世界はどれも現実と見紛うまさに異世界だ。そこにやってくるプレイヤー達は死なない。世界によってはペナルティなく生き返ることが出来るものもある。原住民が住んでいる世界では現実とは文化や常識が全く違う事だってある。現実では許されないない事もそちらの世界では許されてしまうこともあるだろう。そちらの世界の常識に引っ張られて、こちらの世界での道を踏み外してしまうことはあってはならない。そういうことを事前に伝えておく事というのも現実と遊戯世界の橋渡しというダレイオスの広報兼チュートリアル担当の仕事の一部なのだろう。
…しかし、世界そのものを創り上げてしまった天才たちがそんな起こる事がわかりきった事に対策をしていない訳ないし、実際そういった事件の発生はVR空間が発明されて以来殆どなかったので心掛け程度の話だが。
『それ以外は基本この世界では何でもありだ。現実と同じように、可能な事それ即ち自然な事というぐらいに考えてもらって大丈夫だよ。バグなんてものは無いからね。それがそうして起こったのなら仕様さ。』
千縁は真面目そうな顔で聞いている。
『さて、では君のもう一つの体となるキャラクター制作に移ろうか!』
千縁は楽しそうに頷いた。
主人公のセリフが少ないような……?おかしいぞ……?




