表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/156

63

水曜日。

あの日から3日が経過してる。

私達にとっては大事件な出来事。

それどころか。

世間一般的に見ても事件だって思う。

カナがたまこに包丁を突きつけてたんだから……。

一歩間違えたら。

とっても恐ろしいことになってた。

たまこが……。カナが……。

想像もしたくないようなことになってた。

でも。

みんなそんなこと知らない。

知ってるのは私を含めて4人だけ。

みんないつもの日常を送ってたって思う。

もちろんそうじゃない人もいるだろう。

もしかしたら。

私達以上の騒動の中にいた人もいるかもしれない。

人はみんなそれぞれの世界で生きてるから。

そして今日は。

いつもと変わらない日常が続いてる。

亜里沙はいつものように馬鹿なこと言ってる。

藍姫はいつものようにゲームのしすぎで眠そう。

美香はいつものように寝てる。

川島さんはいつものように元気に美香の元に来てる。

そんな日常。

平和で楽しい。

私が好きな日常。

でも少し。

私にとっては前と違う日常。

あの後。

カナがたくさん泣いた後。

私達は家に帰った。

4人で一緒に帰った。

ナツミはずっと待っててくれていた。

そして。

笑顔で私達を出迎えてくれた。

でも帰り道は。

誰も何も話さなかった。

静かな帰り道だった。

みんなそれぞれ色々なことを考えてたって思う。

そして家でアイコに電話した。

それまでの報告とは全然違う。

今までは何かあったら。

とっても嬉しくて。

高いテンションでアイコに話してた。

でもその時は。

静かにアイコに言った。

合った出来事を。

ナツミに案内してもらえたことを。

あの工場での騒動を。

カナがたくさん泣いたことを。

アイコも静かに聞いてくれた。

そして納得してくれた。

カナが変わったかもしれない。

そう信じてくれるって。

またカナと仲良くできるかは分からない。

そうも言ってた。

でも。

ちょっと前に進めたなって思う。

そして。

それからカナは学校に来てない。

月曜日の朝にメッセージが来てた。

しばらく休むね。ごめんなさい。

そんな内容だった。

でも私は心配にはならなかった。

大丈夫だって分かってたから。

だから私は1人で学校に来てる。

1人で歩いてる。

それはやっぱり寂しいけれど。

でも大丈夫。

そういえばって思う。

入学して最初の頃は。

カナに告白するまでは。

こんな風に1人で来てたって。

中学生の時は当たり前だった。

それで寂しいなんて思ってなかった。

でも。

今は寂しさを感じてる。

やっぱり早くカナに戻ってきてほしい。

私の隣を歩いて欲しい。

そう思ってる。

一方で。

今はカナも凄く悩んでるって思う。

たくさん泣いてたけど。

でも全部を流れ落とせたわけじゃなさそう。

だからゆっくり休んで欲しいとも思う。

今までの生き方を変えようとしてる。

だからたくさんたくさん時間が必要なはず。

早く帰ってきて欲しい。

ゆっくり休んで欲しい。

そんな矛盾してる思いを持ちつつ。

私は学校へ向かった。


……

…………

………………


「カナさんは今日も休みなんですか?」


学校について。

亜里沙をてきとうにあしらって。

私はたまこと話をしてた。

たまこはカナのことを心配してる。

きっと私以上に。


「うん。今日も待ち合わせ場所にいなかった」


それに教室にもいないみたいだった。

昼休みの部室にもいない。

1人で食べる部室は。

何だかいつもと違う場所に思えた。


「そうですか……」


そう言って肩を落とすたまこ。


「心配です……」


「大丈夫だって思うよ」


そんなたまこに私は言う。

根拠はあんまりないけど。


「カナは強いからね」


そう私は信じてる。


「たまこ思うんです……」


あの時から。

たまこが悩んでるのは分かってた。

でもこちらから聞かなかった。


「たまこはちょっと言い過ぎたかもって……」


「言い過ぎたって……カナに?」


「はい……」


朝の教室は騒がしい。

特に亜里沙が騒がしい。

何だか私達の周りだけ空気が違う。

そんな雰囲気だった。


「カナさんはいっくんのためにしてたのに……」


「あのことね」


私はたまこが思ってることが分かった。

話の流れとはいえ。

たまこはカナのことを全否定したわけだし……。

カナにとっても。

痛いところをつかれたって。

とってもショックだっただろうって思う。


「たまこはカナさんに酷いことを言っちゃたって思ったんです」


カナはたまこに酷いことをした。

きっと。

普通の人なら許さなくて普通だって思う。

でもたまこは。

それよりも自分が言ったことの方を気にしてるみたいだった。


「たまこは優しいね」


思わず出る笑み。

そんな私を見て。

たまこは不満そうな表情。


「たまこは真剣に話してるのに……」


「それも大丈夫だって思うよ」


「そうですか?」


「うん。たまこで良かったって思う」


もしあの時。

あの場所にいたのが。

たまこじゃなかったら。

カナも今みたいに悩んだりしなかったって思う。

たまこの勇気があったから。

カナもあの時にたくさん泣けたんだって分かる。


「本当にありがとう」


「そんなっ!」


たまこの顔が赤くなる。


「たまこは何もしてないですよ……」


「とびっきりのことをしてくれたよ」


「そうだと嬉しいですっ!」


そしてたまこがにっこりと微笑む。

やっぱりたまこは笑顔が1番似合うって思った。


「カナもきっとすぐに戻ってきてくれるよ」


「そうですか?」


「そうだよ」


きっと今週中には来てくれるって思う。

だって……


「もうすぐ期末テストがあるしね」


……

…………

………………


そして月曜日。

明日の火曜日から期末テスト。

だから昨日と一昨日の土日が最後のテスト前休日だった。

私は……。

あんまり勉強に手を付けてなかった。

ぼんやりと過ごしていた。

数学以外はきっと大丈夫だって思う。

でも……。

数学は絶対にこのままじゃ駄目だって分かる。

カナがいないから……。

教えてくれる人がいないから……。

そう思っちゃうのは多分っていうか。

絶対に駄目だって思う。

カナに頼らないようにしよう。

そう決めたんだから。

勉強だってそうしなきゃって思う。


「いってくるね」


私はそう言って家を出る。

今日もメッセージは何もない。

きっと今日もカナは来ないって思う。

さすがにちょっと心配になってくる。

テストの方は何も問題ないって分かってる。

今から一所懸命に勉強した私より。

ずっとずっと良い点数を取れるって分かってる。

だけど……。

このまま学校に来なかったら……。

もしかしてテストを受けないのかもしれない。

そうなったら……。

やっぱり心配だ。

もし今日も学校に来なかったら。

アイコの時みたいに家に行った方がいいかもって思った。

今度はたまこと一緒に。

でも私はカナの家の場所を知らない。

たまこもきっと知らないって思う。

同じ中学の人なら分かるかな?

同じ中学って誰だろう?

……カナの家に行くだけでも大変そうだなって思った。

でも頑張ろうって思う。

そうすることがカナのためになるなら。

絶対にそうしなくちゃいけないって思った。

私は気合を入れるっ!

頑張ろうって思う!

まずはクラスの人に聞いて。

カナと同じ中学の人を探そうって思った。

でも……


「カナっ!」


いつもの待ち合わせ場所。

通らなくても学校に付く場所。

でも習慣で行ってた場所。

そこにカナがいた。

きっと今日もいないって思ったから。

私は思わず大きな声を出してしまった。

さっきとっても気合を入れたのが。

ちょっとだけ恥ずかしいって思った。

でもそれより嬉しさの方がもちろん大きいっ!


「おはようっ!」


何日ぶりのおはようだろう。

夏休みとかあると。

もっと長く言わないこともある。

でも。

何だか今回のおはようが。

今までで一番の懐かしさを感じた。

それに嬉しさも。


「おはよう……」


カナはなんだか静かな感じ。

私とは正反対。

緊張してるのかな?

久しぶりだから。


「今日も寒いね」


「そうだね」


「早く学校に行こう」


私はカナが来てくれた。

それだけで寒さもどこかに行ってる。

それぐらい嬉しい。


「そうだね」


でも。

カナは何だか落ち込んでるみたい。

緊張とかじゃないかもって思った。


「行こっか」


「うんっ!」


そうやってまた。

私とカナは並んで学校へ向かった。

隣にカナがいてくれるだけで。

こんなに嬉しいんだなって分かった。


「いっちゃんは……」


そんな私に。

カナはぼそりと言う。

やっぱりカナらしくないって思ってしまう。


「わたしのこと嫌いにならなかったの?」


「どうして?」


私は思わず聞いた。


「なんで私はカナのことを嫌いにならなくちゃいけないの?」


本気でそう思った。

だって。

私がカナを嫌いになるだなんて。

そんなのありえないって思ったから。


「わたしのあんな姿を見せちゃったからね」


「そうだね」


私は思い出す。

あんまり思い出したくはないけど。

でも。

あれもカナだってちゃんと認めないとって思う。

嫌なところ。怖いところだって。

ちゃんとその人の一部なんだから。


「正直言ったら怖かったよね」


「だから嫌われたんじゃないかってずっと考えてた」


「それで学校を休んでたの?」


私の言葉に。

カナはうつむいた。


「それだけじゃないけど……」


「うん」


「それもあるかも」


「他にどんなことを考えてたの?」


「えっとね……」


そうやってカナはゆっくりと話した。

学校を休んでる間。

どんな風に過ごして。

どんなことを考えてたとか。


「いっちゃんと離れた方がいいんじゃなかって思ったこともあった」


「そうなんだ……」


でも。

そう思っても。

こうやって会ってくれてるのは。

その考えをやめたってこと。


「たまこさんの言う通りだって思う」


「それだけじゃないと思うよ」


「ううん。わたしは世界が全部が嫌いだった」


その理由をカナは言わない。

私も知ろうって思わない。


「いっちゃんを守りたいって思ったのは本当」


カナは小さくつぶやく。


「それを理由にしてたのも本当……」


「それを言うなら私だってそうだよ」


きっと。

今回のことは。

みんながみんな自分が悪いって言うかもしれない。

でも。

一番の原因はどうしたって私だって思う。

私がこの地球に間違えて生まれたのが根本だから。


「私だってカナに甘えてた」


けれど私は間違えて地球に生まれてよかったって思ってる。

運命を恨んだりしない。

だって私はこの地球は好きだから。


「2人とも間違ってたんだよ」


生き方とか。

考え方とか。


「だから2人でやり直そう」


「いっちゃん……」


「私達はひとりぼっちじゃないんだからね」


「うんっ!」


そしてカナは微笑んでくれた。


「とりあえず今度のテスト頑張らないとね」


テストのことを考えたら。

やっぱり憂鬱だって思う。


「そうだけど……」


カナは小さな声で言う。

でもしっかりと前を見てる。


「それよりやらなきゃいけないことがあるって思う」


「やらなきゃいけないこと?」


「みんなに謝らないと……」


カナはみんなに酷いことをした。

特にアイコに……。


「多分、許してくれないと思うけど……」


「そんなことないと思うよ」


「……許してくれない方が楽かもしれない」


なんでそう思うのか。

私には全然分からない。


「でもちゃんと向き合わないとって思うんだ」


「そうだね」


私もカナも。

色々なことから逃げてきたんだって思う。

そしてこの前の日曜日に。

私達を守っていた壁は完全に崩れ去った。

でも……。

壁の外の景色はきっと。

何よりも綺麗だって知った。

だからもう大丈夫。

明日のテストより。

ずっとずっと大丈夫だって思えた。


……

…………

………………


「本当によかったですっ!」


とっても嬉しそうな表情。

朝の出来事を話したら。

たまこは飛び跳ねるように喜んでくれた。

まるで自分のことみたいに。


「本当に心配してくれたんだね」


「もちろんですっ!」


たまこは本当にいい子だなって思う。

そしてとっても強い。


「またカナさんと仲良くできたら嬉しいですっ!」


「そうしてくれると嬉しいな」


「はいっ!」


結局。

日曜日の話は全然聞いてない。

どうやってあそこまで行ったのかとか。

それまでどんな話をしてたとか。

あんまり興味もなかった。

また仲良くしてくれる方が。

ずっとずっと大事なこと。


「これで安心してテストを受けれますねっ!」


「そうだね」


何だかほっとすしぎて。

テストを受ける気分じゃなかった。

それに……。

勉強もほとんどしてないし……。


「頑張りましょうねっ!」


「うん。頑張る」


そうは言ったけれども。

やっぱり自信は全然なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ