64
「終わった……」
期末試験の最後のテスト。
終わって私はぐったりってなった。
私はどちらかというと真面目な方だって思う。
授業中に眠ったりしない。
宿題も忘れない。
テスト前は勉強もちゃんとする。
だから今回みたいに勉強に手がつかなかった時も。
一夜漬けになってしまった時も。
それなりに解答することができた。
悪くても追試を受けることはなさそうだって思う。
数学以外はだけど……。
「どうでした?」
先生の話も終わって。
放課後になって。
たまこがとたとたってやってきた。
何だか不安そうな表情。
あんまりよくなかったのかもしれない。
「数学がちょっとやばいかも……」
「難しかったですよねっ!」
「うん」
私は心の底から同意する。
「本当にちんぷんかんぷんだった」
数学は苦手。
とっても苦手。
だけど真面目に受けてないってわけじゃない。
ちゃんと授業だって聞いてる。
はずなのに……。
なんでこんなに分からないんだろう……。
「追試受けなくちゃいけないかも」
「そんなに悪いんですかっ!」
って驚くたまこ。
反応を見ると。
どうやらたまこは追試は受けないでいいみたい。
たまこは何だかんだでどの教科も平均ぐらい。
「今回はカナに教えてもらえなかったから……」
「カナさん教えるの上手そうですもんねっ!」
「うん。とっても上手」
だから今まで。
数学も追試を受けなくてすんでた。
何だかカナがいないと。
本当に駄目人間一直線になる気がした。
部活のこともカナに任せっきりだったなって思った。
私のために作った部活なのに……。
今度する合宿の申請用紙ぐらいは自分で書こうと思った。
「たまこも今度のテストの時に教えてもらいたいですっ!」
「それもいいかもね」
部室で勉強会。
それも楽しそうだなって思った。
「私はその前に追試の勉強しないといけないけど……」
はぁってため息をつきたくなる。
でも自分が勉強しなかったのが悪いんだから。
追試でもしょうがないかなって思う。
「追試も頑張ってくださいねっ!」
たまこも応援してくれるしね。
たまこが応援してくれるならいつもの10倍ぐらい頑張れる気がする。
でも……
「追試、たまこも協力しますからっ!」
嬉しいんだけど……。
ちょっと声が大きい気がする……。
「周りにバレちゃうから少し小声で……」
それにまだ。
追試だって決まったわけじゃないし……。
「ごめんなさいっ!」
はっとした感じでたまこは言う。
張り切りすぎてうっかりしたんだって思う。
「いつきも追試なのっ!」
そしてたまこの声を聞いて。
飛ぶように来たのが亜里沙。
なぜかとっても嬉しそうな表情をしてる。
「まだ決まったわけじゃないけどね」
ほぼ追試だけど。
私はなぜかそう強がってしまう。
多分、相手が亜里沙だから。
「良かったっ!」
相変わらず亜里沙は嬉しそう。
……もっとも亜里沙が嬉しそうなのはいつものことだけど。
亜里沙はいつもバンドだ遊びだって騒がしい。
そしていつも楽しそう。
「何が良かったの?」
「仲間が増えて嬉しいなってことっ!」
「まだ仲間になったって決まったわけじゃないからね」
亜里沙は自分が追試なのは確信してるんだね……。
まぁテスト始まって15分で寝るような人だし。
「仲間が増えることはいいことだねっ!」
言いながら物知り顔で。
うん、うんって頷く。
人の話を全然聞いてなさそう……。
亜里沙はナツミと似たタイプだって思ってた。
でも。
付き合いが長くなると分かる。
全然違うって。
少なくともナツミはこんなに馬鹿じゃない。
「亜里沙は期末は追試受けないように頑張るって言ってたでしょ」
「言ってたような気がするっ!」
「あれはどこにいったの?」
もっとも。
最初から出来ないって思ってたけど。
亜里沙はバンドやってる時は本当に格好いい。
……あんまり言いたくはないけど。
黙って立ってるだけでもそれなりに絵になる。
だけど、他が色々と残念なのが残念。
「ちょっとしたホラーがあったんだっ!」
「怖い話?」
「そうっ!」
ホラーがあったんだ。
そんな言い回しが何だか亜里沙っぽい。
「勉強しようと思ったら神が降りてきたのっ!」
「は?」
「そんな怖い声出すなって!」
「ごめんごめん」
あまりに意味不明だったから。
思わずって感じで言ってしまった。
「すっごいメロディが頭に浮かんだんだっ!」
「そういうことね」
最初からそう言えばいいのに。
「私もたまにそんなことあるからね」
もっとも。
たいていはテンションが高くなってでてきた。
ただの思いつき。
ほとんどは後で見返すと何だろうこれってなる。
でも。
たまーに本当にいいのもあるから侮れないって思う。
「いつきも分かるんだっ!」
「少しだけね」
「これは勉強してる暇じゃないって思ったんだっ!」
「それただの現実逃避じゃ……」
「それからは曲作りに夢中になって無事、超名曲を作れたわけ!」
「でもテストが追試だったのが怖い話?」
普通の人ならそうかもしれない。
何かに夢中になって。
普段は取らない点数を取って。
それで追試になるなんて。
大げさかもだけど悪夢だって思う人もいるかも。
でも亜里沙は違って思う。
亜里沙が酷い点数を取るのは当たり前のことだし。
「亜里沙には当たり前のことじゃない?」
「そうねっ!」
なぜか自信満々に言う。
「アタシほど追試を受けた生徒はいないって言われてるしねっ!」
「誇らしげに言うことじゃないと思うんだけど……」
もし追試になったら。
亜里沙と一緒に受けることになるんだよね。
嫌ってわけじゃないけど……。
何だか複雑な気分。
今度からはどんなことがあっても。
追試を受けないでいいぐらいには勉強しようって思った。
「それで怖い話って何?」
「そうそうっ!」
思い出したように言う。
「あまりに名曲だったからバンドメンバーの1人に送ったんだ」
「そうするよね」
私も面白い小説が書けたら。
すぐにアイコに送るって思う。
「でね。すぐに返事がきたわけっ!」
「全然駄目だって?」
変なテンションで作ったものなら。
そんな感じになるのが当たり前って思う。
「ううんっ! 音楽ファイルが送られてたのっ!」
「音楽ファイル?」
「そうっ!」
意味もなくびしっと言う。
「それを聞いたらアタシが作った曲とほとんど同じだったのっ!」
「……は?」
「それはね……」
亜里沙は曲名を教えてくれた。
その曲はあんまり音楽を聞かない私でも。
聞いたこともあるし曲名も分かる。
「つまり無意識に有名曲を……」
頭の中に残ってたのを。
現実逃避とか合わさって自分が思いついたってなったのかも。
「きっとあの曲を作った人はタイムトラベラーだったのっ!」
「は?」
「未来でアタシが発表する予定だった曲をタイムトラベラーがぱくったのっ!」
言いながら深くため息をつく。
本気で落ち込んでるみたい。
「でも今さらアタシの曲っていっても信じてくれないから泣く泣くボツにしたわけ」
「どこまで本気で言ってるか分からないけど……」
さしがに後半は冗談だって思いたい。
「それホラーっていうよりSFだよね?」
全然ちっとも。
少し不思議な話じゃないけど。
「そうかもっ!」
明るく言う亜里沙。
追試って自分で分かってるのに。
この元気さは見習わないとって思う。
もしかしなくても追試になれてるだけかもだけど。
「アタシ部活だからっ!」
言いながら扉の方へ向う。
「お互い追試頑張ろうねっ!」
そんな言葉を言い残して。
亜里沙は教室を出た。
まだ追試って決まったわけじゃないんだけどな……。
「あっ……」
亜里沙と話すのに夢中で。
たまこをほったらかしにしてた。
たまこは亜里沙のことが苦手なのかもしれない。
私が亜里沙と話すときは少し後ろに移動する。
振り返るとたまこは美香と話をしてた。
和やかに、楽しそうにお喋りしてる。
ずっと見ていたい光景だったけど……
「先輩っ!」
いつものように川島さんがやってきて。
「行きますよっ!」
美香を引っ張っていく。
川島さんの短い髪姿。
すっかり慣れてしまった。
今ではこっちの方当たり前になってるぐらい。
「私達も部活に行こうか」
「そうですねっ!」
「途中まで一緒に行こっか」
「はいっ!」
そうやって私とたまこは教室を出た。
廊下には前みたいにカナが待っててくれてる。
「お待たせ」
「カナさんっ!」
そんなカナに笑顔を見せるたまこ。
カナに会えて嬉しい。
そんな感情が全面に出てる。
「途中までよろしくお願いしますっ!」
「うん。よろしくね」
反対にカナの方は。
なんだかちょっと固い感じ。
きっとまだ罪悪感とかがあるのかもしれない。
どう接すればいいのか考えてるのかもしれない。
「カナはテストどうだった?」
きっとみんなに対してもそう。
カナは上手に人付き合いができる。
だからこそ。
きちんとした人付き合いが苦手なのかもしれない。
「いつも通りだったよ」
そんなカナと世界の架け橋になりたいって思ってる。
「カナさんって頭良さそうですもんねっ!」
「普通だよ。普通ぐらい」
「カナが普通なら私はどうなるのよ……」
「人には得意、不得意がありますからっ!」
ってたまこが励ましてくれる。
「そうだよね。いっちゃんにはいいところがたくさんあるし」
カナもそう言ってくれる。
でも自分のいいところって何だろう……。
考えてぱっと思いつかないのが悲しい。
「それじゃたまこはこっちですからっ!」
たまこは料理部の部室の方を指差す。
思ったよりもすぐにお別れの時間になった。
「たまこ、またね」
「はいっ!」
「……またね」
カナはぎこちなく言った。
苦手そうに手を振った。
きっとカナの精一杯だって思うし。
それがたまこにもしっかり伝わってるって思う。
「また明日よろしくお願いしますっ!」
たまこはぶんぶんって手を振って言った。
とびっきりの笑顔で。
本当に嬉しそうに。
「……たまこさんって凄いね」
たまこの姿が見えなくなってから。
カナはぼそりって呟いた。
「いっちゃんがたまこさんを選んだ理由が分かる気がする」
「うん。たまこは凄いよ」
でも私にとっては……
「カナも同じぐらい凄いって思うっ!」
「そうかな?」
「そうだよっ!」
それは胸をはって言えることだった。
「だから私はカナに告白できたんだからねっ!」
「いっちゃん……ありがとうっ!」
ぱっとカナの表情が明るくなる。
「もっとたまこさんと仲良くなれるように頑張るねっ!」
「そうだね」
「それにナツミさんやアイコさんとも……」
「そうだね」
ちょっと色々なことを迷ってるカナ。
でもそんなカナは。
迷わなかった時よりずっと素敵に見えた。
……
…………
………………
私は公園にいた。
待ち合わせ相手はもちろんナツミ。
家に帰って。
ナツミからメッセージが来てることに気がついた。
今日、会えないかな?
そんな内容。
本当は学校で会えば良かったんだけど……。
でも気がついたのが家だったから。
待ち合わせ場所も公園になった。
「お待たせっ!」
少しして。
ナツミが笑顔でやって来た。
この前の待ち合わせとは全然違う。
「待った?」
「ううん。私もさっきついたとこ」
「よかったっ!」
言いながらナツミは嬉しそう。
「それでどうかしたの?」
「この前ね。カナさんと話をしたんだ」
「そうなんだ……」
「カナさん、謝ってた」
「そうなんだね」
何だかその時の光景が目に浮かぶようだった。
必死に謝るカナ。
いいよって明るく言うナツミ。
「これでまた学校で話せるねっ!」
「うん。そうだね」
「嬉しいねっ!」
「嬉しいね」
「それでね……」
何だかナツミは。
恥ずかしそうな表情になった。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
きっと。
ここからが本番なんだなって思った。
「いつきとカナさんって……」
「うん」
「付き合ってたりするの……かな?」
「…………」
どんな質問が来るのか分からなかった。
でもその質問は。
私が想像した以上に予想外のものだった。
だから私は少しの間、何も言えなかった。
ナツミは冗談で言ってるわけじゃなさそう。
声も表情も。
とっても真剣だったから。
「えっと……何を勘違いしてるか分からないけど……」
私は何だか変な気分になる。
「私とカナはその……付き合ったりはないよ」
「本当っ!」
ナツミの反応は早くて。
とっても大きかった。
だから私は思わずびっくりしてしまった。
「そうなんだねっ!」
真剣な表情から嬉しそうな表情。
「そもそも何でそんな風に思ってたの?」
「だって1年生の時からみんな言ってたし……」
そんな風に噂されてたんだ……。
全然知らなかった。
でも……。
1年生の時は本当にカナとしか話してなかった。
だからそう噂されてもしょうがないかなって思う。
だから。
最初はとっても寂しいって思ったけど。
2年生でカナと違うクラスになったのはよかったのかもしれない。
「あと1年の最初の時……」
「最初の時?」
随分と前のことだなって思った。
「いつき、カナさんに愛の告白したって言ったでしょ?」
「そんなこと言ったっけ?」
全然覚えてない。
「言ったよっ!」
「本当?」
「本当だってっ!」
こんなに本気になってるってことは。
もしかしたら本当に言ったのかもしれない。
「それで次の週ぐらいから2人がとっても仲良くなってたから……」
「付き合ってるって思ったんだ」
「うん」
それなら私が悪いのかもしれない。
未だにそんなことを言った記憶はないんだけど。
「でも本当に付き合ってないんだね?」
「そうだよ」
「そうなんだー」
ほっとした表情。
「私とカナが付き合ってないほうがいいの?」
「そ、そういうわけじゃないけどっ!」
慌ててる表情。
ころころ表情が変わって面白い。
「ほらっ! 付き合ってるなら遠慮しちゃうでしょっ!」
「何を?」
「話しかけたりするのっ!」
「あー。それもそうかも」
何だか納得できた気がした。
「今まで学校で話さなかったのはそれもあるの?」
「それもあるよ」
ナツミは私が思ってる以上い真面目で。
人のことを考えて生活してるんだなって思った。
「だから今度からは普通に話しかけるねっ!」
「うん。私からも普通に話しかけるよ」
私とカナが付き合ってる。
そんな誤解があったのなら。
もっと早く私に聞けばよかったのにって思う。
でも、きっと。
そうできない事情があったのかもしれない。
「これからよろしくね」
私が言うと。
ナツミはまた嬉しそうな表情に戻った。
「うんっ! よろしくねっ!」
思えばナツミとは。
ずっと電話中心の関係だった。
これからは。
学校でももっともっと仲良くしたいって思った。
……
…………
………………
「カナが謝ったんだ」
「そう。教室でいきなりね」
「教室で……」
「本当に恥ずかしかったわっ!」
アイコも私と同じで。
教室とかで目立つのとかあんまり好きじゃないって思う。
「でもカナに呼ばれたからって行かなかったでしょ?」
「そりゃそうよ」
「それをカナも分かってたんじゃない?」
「……それもそうね」
ってアイコも納得してくれた。
夜になって。
アイコから電話があった。
そして今日にあった出来事を教えてくれた。
「それで許してあげたの?」
アイコが許さなくても。
それはそれで仕方がないって思う。
それだけのことをカナはアイコにしたんだから。
そう私は思ってた。
でもアイコが言ったのは……
「……一応ね」
ぶっきらぼうだったけど。
とっても嬉しくなる言葉だった。
「アイコ、ありがとう」
「いっきがお礼を言うことじゃないでしょっ!」
「でも嬉しかったから。よく許してあげたね」
「仕方なくよっ! 仕方なくっ!」
アイコは言いながらため息をつく。
「だってカナ。謝りながら泣きそうになるんだもん」
「カナが?」
「そう。びっくりした」
「そうなんだ……」
「カナが嘘泣きとかするはずないし、本気だって分かったし……」
またため息。
「それにあの状況だとアタシは悪者っぽかったしね」
「また部室に来てくれるの?」
「そうね。いっきがどうしても来て欲しいって……」
「来て欲しいっ!」
思わず大きな声を出した。
「びっくりするわねっ! まだ最後まで言ってなかったのにっ!」
「ご、ごめん……」
「でもそんなに来て欲しいなら行ってあげるわ」
「ありがとうっ!」
「でも……カナも本当に変わろうとしてるのね」
「うん。頑張ってるみたい」
「それを信じてカナを今回は許してあげる」
「本当にありがとう……」
「ちょっ……泣きそうにならないでよっ!」
「ごめん……。でも……嬉しくて……」
「そんなに嬉しかったんだ……」
「うん。さっき自己採点してね……」
「自己採点? ああ、期末テストね」
「数学は赤点で追試だったけど……」
点数を見たときはショックだった。
でも今は……
「それがどうでもよく思えるぐらいには嬉しいっ!」
「いっき……」
「どうかしたの?」
「どうでもよくないわよっ!」
耳元で大きな声が聞こえた。
「赤点って! 追試って! いっきそんなに頭悪かったのっ!」
「今はいい話なんだからテストの話はどうでも……」
「どうでもよくないっ!!」
また大きな声……。
「今度、部室に行って教えてあげるから追試はいい点数取りなさいよっ!」
「でも……」
「でもじゃないっ!」
「はい……」
何だか厳しい先生に怒られてるみたい。
さっきまでのいい話ムードが完全になくなってる。
でも……
「ちゃんと数学の教科書とか持ってきなさいよっ!」
「うん。分かった」
思わず笑みが出る。
電話だから気が付かれないけど。
でもとっても嬉しいって思った。
やっぱり赤点なんて、追試なんて大したことじゃない。
そう思えるぐらいに。
今日は嬉しいことがたくさんあった。




