59
ある日の出来事。
「次はどんな話がいいかな?」
くるると電話中。
毎月恒例のインタビュー時間。
くるるとはたまに電話で話す。
でもこの時間が一番楽しみだったりする。
「えっとっすねっ!」
くるるの元気な声。
今日はどんなことを聞くのだろう。
なんだかわくわくしてる。
「月面着陸って陰謀だったんですか!」
「月面着陸ってアポロ計画?」
「そうっす!」
宇宙に興味を持ってもらうのは嬉しい。
でも今日はなんだかいつもよりぐいぐいって感じ。
「部長があれはアメリカの陰謀だって言ってたっす!」
「陰謀……」
確かに月面着陸を嘘だっていう話題は多いって思う。
そういう番組を前に見た覚えもある。
とっても小さい頃だったけど……。
前はよく話題になってたみたい。
「私は本当に行ったって思ってるよ」
月面着陸は嘘。
その根拠に対する反論を読んでそう思った。
ウィキペディアだけど……。
それにずっと昔でも頑張れば月にも行けたのは凄くロマンチック。
だから信じたいって気持ちもあると思う。
「部長さんは……」
あんまり会ったことない人。
話したこともないかもしれない。
1年間同じクラスだったのに。
「月面着陸を信じてないの?」
私とは逆の考え。
でもそう考える人ももちろんいるよね。
そう思ってると……
「そうじゃないっす!」
何だか予想とは違ってた。
「アメリカ人は月面で宇宙人に会って!」
その単語に思わずどきりとした。
けどすぐに冷静になれた。
月に宇宙人……。
私は本物の宇宙人。
でもその話は明らかに間違ってるって分かった。
そんなに近くにいるならこんなに悩まないって思う。
「技術をもらったことを秘密にしてるらしいっす!」
「……それはないんじゃないかな?」
「そうっすよねっ!」
なぜかほっとしたように言う。
「部長があまりに堂々というから信じてしまったっす!」
「部長はそれを本当に信じてるの?」
「それは分からないっす……」
「そうなんだね」
なんだか話を聞けば聞くほど。
新聞部の部長がどんな人か分からなくなってくる。
去年にもう少し話しておけばよかったな。
そう思うし。
来年は同じクラスはちょっと遠慮したいな
そうも思う。
「でも宇宙人はいるっすよねっ!」
驚きで声が出そうになる。
でもぐっと我慢した。
絶対にいつかは来るって分かってる質問だったから。
「絶対にいるとか絶対にいないとか私には分からないけど……」
本当はいるって分かってる。
私がそうなんだから。
「でも私はいるって思う」
「それは理由とかあるんすか?」
「前に宇宙はとっても広いって話をしたでしょ?」
「したっすっ! 凄く印象に残ってるっす!」
「あれだけ星があって宇宙に知的生命体が人間だけってありえないって思うんだ」
「でも人間が生まれる確率はすっごく低いんっすよね?」
「うん。よく聞く例えがあるんだけど……」
「気になるっす!」
「25メートルプールにばらばらにした時計を投げ入れて水流だけで完成するぐらい」
本当によく聞いたりする例え。
でもいまいちピンって来てなかったりする。
「なんか凄いのは分かるっすけど……」
それはくるるも同じだったみたい。
「全然よく分からないっすね」
「多分、それでいいんだって思う」
「そうっすか?」
「訳がわからないぐらいの奇跡ってことだからね」
「人間が地球にいるって凄いことなんっすねっ!」
「そうだね」
「いつき先輩はこんな奇跡が他の星でもあるって思ってるんすか?」
「だって宇宙には無限に近い星があって無限に近い時間が流れてる」
宇宙は広くて大きい。
考えたら怖くなるぐらいに。
「だからどんな奇跡だって必然になるって思うんだ」
「宇宙は奇跡を必然にする……」
呟くように言った後。
「それすっごくいい言葉っすねっ!」
今度は大きな声を出す。
「とっても気に入ったっす!」
「あ……ありがとう」
「今回は人類の生まれた奇跡と宇宙は奇跡を必然にするをテーマに書くっす!」
どうやら今回もうまくまとまったみたい。
ほっとした気分になれる。
これで今月の役割は終わりだから。
自分で書くのも楽しい。
でもこういうやり方もすっごくいいって思う。
「でも月についてじゃなかったの?」
「そうだったっす! 月について色々聞こうと思ったっす!」
多分だけど。
部長さんから吹き込まれた陰謀論。
そこらへんから色々脱線したんだって思う。
「それじゃ月はまた今度にしようか」
月について話したいことはたくさんある。
「そうしてくれると助かるっす!」
「今回の記事も楽しみにしてるね」
「任せてくださいっす!」
……
…………
………………
ある日の出来事。
「どうかしたの?」
休み時間。
1人机で唸ってる亜里沙に声をかけた。
もうすぐテスト。
だから勉強してるのかもって思った。
けど、違った。
「全然歌詞が思いつかないんだよね」
広げたノートに散らばる文字。
亜里沙は何か文字を書いて……
「違うんだよなー」
そう言ってがりがりって消していく。
本当に悩んでるみたい。
「大変そうだね」
「楽しいけどね」
にかって笑う。
「いつきも悩んだりするでしょ?」
「そうだね」
私も悩む方なのかな?
小説を書くときとか。
「言葉が出てこないときってどうする?」
「そんな時は……」
どうするんだろうって考える。
「気分転換かな」
「走ったり?」
「走りはしないけど……」
気分転換で走るが出る。
亜里沙は中学生の時は運動部だったのかも。
「本を読んだり昼寝したりとかかな」
「いったん離れるのは大事ってこと?」
「煮詰まった時はね」
「なるほどっ!」
「そんなに納得するようなことかな?」
「当たり前といえば当たり前のことかもだけどさ」
亜里沙はノートをパタリと閉じる。
とりあえず悩むのはやめたらしい。
「でも人に言われないと気が付かないよね」
「そういうこともあるよね」
「でもあんまり離れるとサボりになるよね」
「うん。そこらへんが難しいって思う」
「何かいい気分転換ないかな?」
「そうだね……」
私は周りを見る。
勉強してる人がちらほら。
思えばもう2年生の12月。
本気の人はとっくに受験勉強をしてる時期。
「亜里沙も勉強したら?」
瞬間、うへーっていう感じの顔になる。
本当に嫌そうだ。
「勉強はしたくないな」
「勉強しないと追試受けることになるよ」
「それはいつものことだから大丈夫っ!」
なぜか胸をはっていう。
全然大丈夫じゃないのに……。
私の周りは意外と勉強できる人が多い。
でも亜里沙はその意外と仲間じゃなかったみたい。
「追試受けたら部活の時間が減るでしょ?」
「分かってるけど、分からないっ!」
言いつつまたノートを開く。
「なんかびびってきたから歌詞考えるっ!」
本当に思いついたみたいだった。
ノートに迷いなく書いていく。
逆さ文字だし、字も綺麗じゃない。
どんなことを書いてるのかさっぱり。
でもきっといい歌詞なんだろうなって思う。
「それじゃまたね」
集中してるみたいだったから私は離れることにした。
「うんっ!」
ノートに集中したままの亜里沙。
きっとまた追試を受けるんだろうな。
でもそのかわりに。
いい曲ができるならいいことなのかもしれない。
私は追試は嫌だから勉強しようって思った。
……
…………
………………
ある日の出来事。
なんとなくぶらぶらって公園を歩いてた。
もうすぐ夕ご飯。
そんな時間。
誰かを誘ってもよかった。
でもなんとなく1人がいいよねって気分。
お昼だけどちょっと寒い。
でも何だか気持ちいい気もする。
1月になるともっと寒くなる。
こんな風にのんびり歩くのが辛くなるぐらいに。
だから今のうちに冬を楽しむのもいいかもなって思った。
でもやっぱり寒いのは寒い。
出てきた時から体が冷えた気がした。
そろそろ帰ろうかな。
そう思ってると……
「あっ……」
ナツミを見つけた。
制服姿。
部活だったのかな?
でもちょっと元気なさそうな気がする。
「ナツミっ!」
私は声をかけた。
声に反応してナツミがこちらを見る。
私は小走りで移動した。
「ど、どうしたのっ! こんなとこでっ!」
ナツミはちょっと驚いてる。
私も驚いたから当たり前かも。
「散歩してたんだ」
「そうなんだねっ!」
でもナツミはすぐに笑顔を見せてくれた。
「ナツミは部活帰り?」
「うん。練習試合があったんだ」
「あんまり上手くいかなかったの?」
「……分かっちゃう?」
「落ち込んでるみたいだったから……」
「ちょっとだけねっ!」
ナツミは笑顔で言った。
でもその笑顔は何だか無理してるみたいに見える。
「前にさ……」
私は言う。
そして凄く懐かしく思う。
「ナツミ、私が相談するの苦手そうって言ったじゃない」
あれは入学してすぐだったって思う。
何だか凄く印象に残ってる。
「そんなこと言ったかな?」
「言ったよ」
「……それじゃそうなんだろうねっ!」
「でもね。ナツミもそうじゃないかな?」
「あたしが?」
「うん。落ち込んだ表情とか部活の人に見せれないでしょ?」
「……それは……」
ナツミの笑顔が消えた。
何だか問い詰めてるみたいで胸がずきってする。
「そうかもね」
「私もそうだったから凄く分かる」
「今は違うの?」
「そうだね」
私は思う。
今は何かを誰かに相談できるって。
それは私が……
「弱くなっちゃったからかもね」
でもそれは悪いことだって思わない。
いいことだって思う。
「だから不安になった相談するし怖くなったら泣いちゃう」
風がふいた。
落ち葉が動く。
かさかさって音がする。
「だからナツミもね。弱くなっていいって思う」
「でも……」
はぁっていうため息。
また風が吹きそう。
そんなため息。
「キャプテンのあたしが弱音をはいちゃいけないっえ思うんだよね」
「何か部活で不安があるの?」
「うん……」
「私は部活に関係ないから話しやすいんじゃない?」
「それはそうかもね」
言いながらにっこりと微笑む。
それは自然に出た笑顔だって分かった。
「アタシたち全国を目指してるんだ」
「全国……」
部活で全国大会を目指す。
特に目的もない部活にいる私。
そんな私からすると漫画とかの世界。
でもナツミ達が本気で目指してる場所。
「でも何だか最近は本当に行けるかなって不安でいっぱいんだ」
そしてナツミはぽつりという。
バスケ部がちょっとぎくしゃくしてること。
自分の実力が伸び悩んでいること。
上手く指示ができてるか不安なこと。
今日の練習試合で勝てなかったこと。
みんなには頑張ろうって言うけど……。
そんな弱音を零すようにナツミは言った。
きっとずっと誰かに言いたかったことだって思う。
でも責任感から言えなかったこと。
私もナツミも人に相談ができない。
でも理由は違う。
私は怖いから。
ナツミは責任感が強いから。
「色々あったんだね」
私が悩んでる間に。
ナツミもたくさん悩んでる。
きっとみんなも同じ。
悩んでない人なんかいないって思う。
「でもナツミは凄く頑張ってるって思う」
「……いつき」
「ナツミみたいに真っ直ぐ走るって格好いいって思う」
そんなナツミに。
私は凄く憧れてるから。
「でもたまには休んでもいいって思うよ」
私なんか休んでばっかり。
だからあんまり偉そうなことは言えない。
「ナツミは私の駄目なところたくさん知ってるでしょ?」
「……それなりに……」
「だからナツミの駄目なとこも見せてくれなきゃ不公平だよ」
私が言うとナツミは楽しそうに笑った。
「何それっ!」
「だから私には愚痴とか相談とかしてほしいってこと」
「うんっ! すごくよく分かるっ!」
私は話を聞くしかできない。
でもそれでナツミのためになるなら。
とっても嬉しいって思う。
「電話とかでむかつく後輩の話題とかしてもいいよ」
「みんないい子だよっ! いい子だから悩むっ!」
「そういうものなんだね」
「そういうもの」
そして2人で笑った。
何だかさっきよりずっと温かい気がする。
「何だか元気出てきた気がするっ!」
「それはよかったよ」
「公園に来てよかった!」
「私もだよ」
なんとなく公園に来たのは。
ナツミに会えるかもしれないと思ったからかも。
「夕ご飯までまだ時間あるかな?」
「うん。ナツミは?」
「まだ大丈夫っ!」
「ちょっとお喋りして帰ろう」
「ありがとっ!」
「お礼をいうところかな?」
「お礼を言うところだよっ!」
そしてまた私達は笑った。
……
…………
………………
ある日の出来事。
「楽しみですねっ!」
「そうだね」
昼休み。
今日は藍姫が部室で食べる日。
たまこに天文部で食べようって誘ってみた。
たまこはすぐに返事をくれた。
だから今日は3人でお弁当を食べる日。
「ちょっとどきどきしますっ!」
たまこは人見知りをする。
だからカナとお弁当は緊張してるのかも。
「大丈夫だよ」
そんなたまこに言う。
「カナはとっても優しいから」
「分かってますっ!」
そんな感じで廊下へ。
いつものようにカナが待っててくれてた。
「お待たせ」
「よ……よろしくお願いしますっ!」
私とたまこは同時に言う。
たまこは緊張してるせいかも。
ちょっと声が震えてた。
「こちらこそよろしくねっ!」
そんなたまこにカナは笑顔。
とっても優しくて柔らかい表情。
私をいつも安心させてくれる。
カナの笑顔を見てたまこも安心したみたい。
「ありがとうございますっ!」
たまこもにっこりって微笑む。
私をいつも癒やしてくれる笑顔。
「それじゃ行こっか」
「そうだねっ!」
「はいっ!」
私達は3人で廊下を歩く。
私が真ん中。
そして左右に2人。
まさかこの3人で廊下を歩く日が来るなて。
ちょっと前でも信じられなかったって思う。
たまこに告白して本当によかった。
私達はそのままお喋りをして部室へ向かう。
たまこは緊張してるのかぎこちない感じ。
でもそれもすぐになるなるだろうって分かった。
これをきっかけに2人がすっごく仲良くなって欲しい。
私はなんとなく窓の外を見る。
今日もとっても寒い日。
でも私と心と同じぐらいにいい天気だった。




