51
2週間ぐらい。
アイコと友達じゃなくなって。
11月に入って寒さが強くなった。
昼はそうでもないけど、朝が辛い。
それはなんだか私の気持ちとか心と一緒なように思えた。
「私はピザまんが好きかな」
カナと歩くいつもの通学路。
これだけは絶対に守りたいって思うもの。
「カナは何が好き?」
「そうだねー」
カナの吐く息が白い。
私もそうだけど。
何だか冬って感じがして好き。
「わたしは普通に豚まんとか好きかな」
「豚まんも美味しいよね」
「うん。美味しい」
今日の帰りにコンビニで買って食べたいって思った。
こんな日に外で食べる暖かいものは格別。
今以上に寒くなると今度は辛すぎるし。
「そういえばね」
「うん」
「豚まんに酢醤油がついてくるのが新鮮だなって思った」
最初は本当に何に使うんだろうって思った。
こっちでは酢醤油で食べるのが一般的って知らなかったから。
「そういえばそうだね」
っえカナは言う。
カナはずっとここに住んでる。
だから酢醤油をつけるのが当たり前な人。
「いっちゃんのところじゃついてこなかったんだ」
「うん。地域性っていうのかな?」
「そういうのって何かいいよね」
「うん。私も好き」
「他にどんなのがあるんだっけ?」
「冷やし中華にマヨネーズをかけるところもあるって見たよ」
どこの県だったかな?
それは思い出せなかった。
「マヨネーズかー」
カナは何か考えてるみたい。
きっとマヨネーズをかけた冷やし中華を想像してるんだって思う。
「美味しいのかな?」
「どうだろうね。油っこくなりそう」
「でも聞くと1回試したくなるよね」
「うん。分かる」
私も肉まんに酢醤油はえーって思うところがあった。
でも、今は好き。
ないと変に思っちゃうかもぐらいに。
だからちょっと変って思っても試してみるのはいいかもしれない。
「でも今は冷やし中華って食べないからね」
「それが問題なんだよね」
言いながらはぁってカナは息をはく。
なんだか真剣に考えてみるみたいで面白かった。
「今度の夏に挑戦してみようかな」
「うん。そうだね」
「その時は一緒にしようねっ!」
「うんっ!」
1人でして美味しくなかったら……。
ただ虚しくなるだけって思う。
でもカナと一緒ならそうじゃない。
美味しくなくても絶対に楽しい1日になる。
そんな風になんでもない日をカナと過ごす。
ずっと、ずっと。
それが私にとっての安心で、幸せだなって思った。
……
…………
………………
「おはよう」
私の挨拶に何人かが返事をくれる。
そんな教室。
前と変わらないはずなのに。
でも私はあの時から見える景色がちょっと変わっている。
宇宙人だって知られたら友達じゃなくなる。
前なら平気だったかもしれない。
それ以上に悲惨な結末ばかり想像してたから。
でも今は。
今の私は。
前なら何でもなかったことで。
とっても落ち込んでしまう。
だから私は前より慎重にしなくちゃいけないって思ってる。
でも……その変化で……。
そうも考えることもできてしまう。
だから私はどうすればいいのか分からないでいた。
「おはようございますっ!」
たまこの笑顔。
明るい声。
前ならそれだけで喜べた。
とっても安心できた。
でも、今は違う。
この笑顔を見れなくなるのは嫌だ。
たまこと友達じゃなくなるのは嫌だ。
そんなことばっかり考えてしまう。
それなら……いっそのこと……。
アイコみたいに……。
そんな考えさえ頭に浮かんでしまう。
自分から離れれば傷つくのも少ないかもって……。
「どうかしましたか?」
たまこの声で我に返った。
考え事をしすぎたみたい。
頭の中はまだずんって重くなってる。
「具合が……悪いとか?」
「ちょっと寝不足かも」
私は言いながら欠伸をした。
わざとな欠伸。
寝不足なのは本当だけど。
「そうですか……」
何だか腑に落ちないっていう表情。
心配してくれてるのは分かる。
逆の立場だったら……。
もしたまこが私のようになってたら……。
私はすっごく心配したって思う。
何か力になりたいって思う。
でも、だからこそたまこの心配が辛く感じた。
「心配しないで大丈夫だよ」
だから私はできるだけ笑顔で言う。
たまことは友達でいたいから。
宇宙人だって知られたくないから。
「ちょっと夢中になってる本があるだけだからね」
言いながら私はちらりと藍姫を見る。
自分の机に座ってる藍姫。
ぼんやりした表情。
何か考え事をしてるみたい。
そして時折、大きくため息。
「藍姫さんも元気ないみたいです……」
心配そうに言うたまこ。
藍姫が最近、元気がない。
そのことは私も気がついていた。
「でもだからたまこが元気でいないと駄目ですよねっ!」
私と藍姫。
2人の顔を見てたまこは言った。
「藍姫さんっ!」
そして私を連れて藍姫のところへ。
「おはようごいますっ!」
私にもくれた元気な挨拶。
「おはよう」
それに合わせて私も言った。
藍姫はたまこと私の声に反応。
俯かせた顔をゆっくりと上げる。
「うん。おはよう」
やっぱり顔色が良くない。
何だか初めて話した時のことを思い出す。
藍姫とアイコが喧嘩をしてた時のこと。
そして今、藍姫が元気がないのもきっとアイコ絡み。
「……知ってるの?」
だから私は聞いた。
もしかしたら。
私とアイコが友達じゃなくなった。
そのことで藍姫は悩んでるって思ったから。
「知ってるって?」
「アイコと……私のこと……」
私が言うと藍姫は大きくため息をついた。
「やっぱりアイコといつきで何かあったんだね」
「うん」
私と藍姫の会話を聞いてるたまこ。
とっても真剣そうな表情。
……あんまりたまこに心配かけたくない。
「放課後に話そう」
私は小声で藍姫に言った。
たまこに聞こえないぐらいの声。
それに藍姫は黙って頷く。
「……どうかしたんですか?」
「ううん。何でもないよ」
私は笑顔で言った。
何だか突き放すようで罪悪感があった。
「ちょっと2人の知り合いに困った人がいてね」
私の言葉に藍姫が同調する。
「そうなのよ」
言いながらまた大きくため息をついた。
「たまこも友達は選ばないと駄目よ」
「選ばないと……駄目ですか?」
「そうね。あと選ばなきゃいけないのは……」
藍姫はそこで意地悪そうな笑みを浮かべた。
何だか最近は見せてくれない表情。
「好きな人かな」
「……よく意味が分からないんだけど……」
「それはいつきがお子様だからよ」
「……なんだかぐうの音も出ない」
実際、恋愛に関してがそう言われても仕方がないって思う。
「でもそんな人なら好きにならないんじゃないの?」
「違うのよ。好きだから、許せちゃうのよ」
「それ、分かりますっ!」
なぜか興奮してたまこは言った。
「好きな人のためなら命だって捨てれますっ!」
たまこは目をキラキラさせて言う。
アイコは恋愛小説が好きだった。
もしかしたらたまこは少女漫画とか好きなのかもしれない。
「そうね。たまこはそうっぽいね」
苦笑いを浮かべる藍姫。
「だから心配になるんだけど」
「うん。何だかそう見える」
たまこは可愛くて純粋で優しい。
だから悪い人を好きになったら……。
とっても酷い目に合わされそうだって思った。
「藍姫の言うとおり好きな人は選ばないとね」
もしたまこに恋人ができたら……。
藍姫と2人でチェックしてふさわしいか見てみたいって思った。
「大丈夫ですっ!」
そんな私と藍姫の大きなお世話にたまこは笑顔で言う。
「たまこが好きな人は絶対にそんな人じゃないですからっ!」
とっても自信満々な声と表情。
何だかたまこ珍しい感じ。
これだけたまこに信頼されてる人。
こんなにたまこから好かれてる人。
本当に誰だろう?
「それで告白はするの?」
「えっ!」
「何言ってるのよ……」
藍姫のいきなりの言葉に。
たまこは驚き。
私は呆れ。
そんな反応だった。
「だってそんなに好きなら告白しちゃえばいいかなって」
そういえば藍姫は勢いでアイコに告白してたな……。
「みんなが藍姫みたいにできないわよ」
「それは分かってるけど。でも告白しないと始まらないよ」
「それはそうですけど……」
言いながら私の方をじっと見る。
たまこはまるで怯えた子犬みたいだった。
藍姫の返答に困って助けを求めてる。
「たまこにはたまこのペースがあるのよ」
「でもそうしてたら好きな人を誰かに取られちゃうかもよ」
「そうですけど……」
本当に悩んでるたまこ。
私と藍姫が落ち込んでるのに。
たまこまで悩ませるようなことを言ってどうするのよ……。
「藍姫……その辺にしときなさい」
「それもそうね」
私の意図が分かったのか、藍姫はあっさりと言った。
「でも別にからかいたくって言ったんじゃないわよ」
「それは分かってますっ!」
「やっぱりたまこは分かってくれてる」
……どうせ私は恋愛子供。
きっと恋をしてる人にしか分からない何かがあるんだろうって思った。
「でももっと自分に自身が持てたら……告白したいですっ!」
「その意気だよっ!」
「はいっ!」
何だか2人が凄く盛り上がってる。
私はちょっと入れない感じ。
でも藍姫が元気になってて、それは嬉しかった。
……
…………
………………
放課後。
藍姫と話す時間。
アイコはどうしたんだろう。
藍姫はなんで元気が無いんだろう。
そのことばかりを考えた1日だった。
「どこで話そうか」
私は藍姫に言った。
たまこはもう部活に行ってる。
私と藍姫を心配してた。
でも、だから無理やり部活に行かせた。
カナにはクラスの用事があるって嘘付いた。
きっと部室で本を読んでる。
できるだけ早く行きたいって思った。
「教室でいいって思う」
藍姫は言う。
「人も少ないし」
放課後だからみんなは部活に行ってるか帰宅してる。
何人かが残ってお喋りをしてる。
でもきっと私と藍姫の会話には注意を払わないだろうって思った。
「それでアイコのことなんだけど」
だから私は切り出した。
アイコのことについて。
「私……ずっと避けられてて……」
「そんな雰囲気はあったけど……それはてっきり……」
「それでこの前に友達じゃないって言われたんだ」
「……本当?」
少し驚いたような表情。
どうやら全然知らないことだったみたい。
「もう話しかけないから、話しかけないでって」
言うと胸が苦しくなってくる。
あの時のことを思い出してしまって。
「……そんなことがあったんだ」
「藍姫は知らなかったんだね」
「うん。アイコ何も言わないから」
「藍姫が元気ないの、アイコと喧嘩したって思った」
「確かにそれを知ったら喧嘩したかもね」
ちょっと笑顔。
でも何だか自虐的な感じ。
「でも、違うんだね」
それじゃどうして藍姫が元気ないんだろう。
「……アイコに何かあったの?」
また漫画研究部に行かなくなったとか。
私はそんな予想をした。
でも藍姫が言ったのはそれ以上のことだった。
「アイコね……学校に来てないの」
「嘘……」
声が漏れた。
大きな声も出せなかった。
それぐらい信じられないことだった。
「本当。部室に来ないから同じクラスの人に聞いたら……」
「それって……いつから?」
「10日前ぐらいから」
私とアイコが友達じゃなくなったのが2週間ぐらい前。
だからアイコが学校に来なくなったのはその少し後。
「私が……悪いのかな……」
確実にあの時のことが原因だって思った。
でも、どうすればよかったんだろう。
私が……地球人なら……。
こんなことにはならなかったのに……。
「ううん。いつきは悪くない」
そう断言してくれる藍姫。
でも藍姫も私が地球人じゃないって知ったら……。
「それでね。お願いがあるの」
「お願い?」
「明日、休みだからアイコの家に行こうと思うんだ」
「アイコの家に……」
どきりとした。
胸が痛くなる。
この後の言葉が予想できちゃったから。
「いつきも来てほしいんだ」
「でも……私が言っても……」
拒絶される。
またあんな思いをする。
それは、嫌だった。
「お願い。いつきしかお願いできないんだ」
「でも私は嫌われて……」
「そんなはずはない」
静かに藍姫は言った。
でも凄く力がこもった声。
「アイコがいつきを嫌いなんて……ありえない」
「何で……わ……分かるの?」
そう言うと藍姫の言葉が止まった。
何かを考えてる。
そんな感じだった。
「だって私を嫌いだから無視したり友達じゃないって……」
「それは本心じゃない」
「何で分かるのっ!」
思わず大きな声を出してしまった。
お喋りをしてた人たちが私の方を見る。
でも……それが分かっても止まらなかった。
「私は直接! 本人に言われたんだよっ!」
「……本当に嫌いなら学校を休むはずがない」
あくまで静かに藍姫は言う。
「私を見たくないから来たくないだけじゃ……」
「そんなにアイコは弱くない」
それは藍姫がアイコを信じてる言葉だった。
「きっとそう言わなくちゃいけない事情があったんだって思う」
藍姫はアイコが大好きだから分かること。
だから私も藍姫の言葉を聞くことができた。
「きっとアイコは後悔してる。だから学校に来れない」
「……そ……そうかもしれないけど……」
「だからいつきが行かなくちゃいけないって思う」
言いながら藍姫は頭を下げる。
みんながまだ私と藍姫に注目してるのに。
「お願いっ! 1度でいいからっ! アイコと会って話をしてっ!」
あの時のあの言葉。
藍姫はアイコの本心じゃないって言う。
……本当にそうかもしれない。
少しだけそう思えた。
それに学校に来てないって言われて。
それだけ追い詰められてるって聞いて。
何だかそのままにしておくわけにはいかないとも思った。
「分かった……」
1度だけ。
あと1度だけアイコと向き合うって思った。
「ありがとう」
ほっとした感じで藍姫は言う。
「それじゃ明日はお昼の1時に……」
そのまま私と藍姫は待ち合わせ場所を決めた。
家は藍姫が知ってるみたい。
それで今日は別れた。
……アイコの本心。
もしあれが、そうじゃなかったとしたら。
絶対に聞かないといけないって思った。
あの時は怯えて、諦めただけだった。
合う前からびくびくしてた。
アイコを信用してなかった。
だから明日は。
明日こそはきちんと向き合おうって決めた。




