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「体調悪いの?」


私の顔を覗き込みながらお母さんが言った。

私があんまり朝ごはんを食べれなかったから。

そうなったのは多分、寝不足のせい。

色々考え事をしていたら眠れなかった。


「本を読んでたら夢中になって」


「それで寝不足?」


「うん」


悩みがあって眠れなかった。

そんなことをお母さんには言い辛い。


「私もよく読書に夢中で徹夜したわ」


「同じなんだね」


「私は眠かったら具合悪いって休んでたけど」


「そうなんだね……」


どうやらお母さんの高校生の時はとってもぐーだらだったみたい。

それは今も変わらないのかもしれないけど。


「出席日数に問題なければいつきも寝てても怒らないわよ」


そういった感じだったから私にも甘いんだろうって思う。

でもそれが良い親なのか、そうじゃないのかは分からない。

私はあんまりサボろうとかは思わないけど。

学校は嫌いじゃないし。

全部の授業が数学の日とかじゃなければ。


「ううん。眠いだけだから」


「そう? 真面目ね」


「普通なだけ」


それに今日は休めない日。

今日に休んだら、眠れなかった夜が無駄になっちゃう。


「それじゃいってくるね」


私はいつものように家を出ようとした。

いってらっしゃーい。

そんな声を待ってたのかも。

でも聞こえてきたのは別の言葉だった。


「いつきが読んでた本、気になるから帰ったら返して」


本当は本は読んでなかったけど……。

でも、最近読んで面白かった本を貸せばいいのかな。


「分かった」


「よろしくね」


私はそのまま家を出る。

出た瞬間に、寒いってつぶやきたくなる外の気温だった。


……

…………

………………


「決めたんだね」


学校へ向かう通学路。

肌寒い風が吹いてる。

まだ本格的に冬ってわけじゃない。

でも嫌に寒く感じた。


「うん。決めた」


カナの言葉に私は言う。

決めたのは放課後。

カナと話してから。

その決めた。も何度か揺らぐことがあった。


「アイコとちゃんと話をするって」


なんでアイコが……

部室に来てくれなくなったのか、

話してくれなくなったのか、

私を見ると逃げる容認ったのか、

全然分からないまま。

せめてその原因を知りたいって思った。

そして解決できるなら、そうしたい。

私はまたアイコとお喋りとかしたいから。


「ずっと考えてたんだね」


カナの優しい声。

私の顔をじっと見つめてる。

カナはきっと分かってくれている。

私が凄く悩んでることも。

私が昨日、眠れなかったことも。


「とっても不安な気持ち、分かるよ」


そう言ってカナは私の手を握ってくれる。

私の心を温めてくれる。


「どんな言葉がくるか、どんな風になるか、分からないもんね」


「……そう」


私はカナの手を握り返す。

カナの手を握るとどんな不安も和らいでくれる。


「夜もずっと頭をぐるぐるって考えが浮かんで眠れなかったんだ」


「うん……」


「もしかしたらこのままの方がいいかもとか考えちゃって……」


会って話せばもっと駄目な方へ行くかもしれない。

このまま静かに待ってればあっちから話してくれるかもしれない。

話して寝た子を起こすことになるかもしれない。


「でもわたしは会って話をした方がいいって思う」


背中を押すようにカナは言ってくれた。


「話をしないと、相手の気持ちも分からないからね」


「ありがとう」


「ううん。わたしにできることはそれぐらいだから」


言ってカナはにっこりと微笑んでくれた。

私が好きで、勇気をくれる笑顔。


「何か協力できることがあったら言ってねっ!」


「うん。でも……」


応援してくれるだけで嬉しい。

そう言おうとした。

でも1つだけお願いしたいことがあった。


「放課後にね、アイコが部室に来るようにお願いして欲しい」


私が行っても逃げられるから駄目。

ナツミもアイコが苦手って言ってた。

藍姫はそのことでアイコと藍姫の仲がぎくしゃくってなったら嫌。

だからカナにお願いしたいことだった。


「うんっ! 分かったっ!」


アイコははきはきって返事をくれる。


「もしアイコさんが嫌って言ったら……」


そうなる可能性も十分にあるって思う。


「わたしができるだけ理由を聞いてみるね」


「うん。本当にごめんね」


そういうことをお願いできるのもやっぱりカナだけ。


「いっちゃんのためになるならむしろ嬉しいっ!」


やっぱりカナはとっても優しい。

私がアイコとまた仲良しになりたい。

そのために、私のわがままのために……。

本当はカナが1番このままが良いって思ってるはずなのに。


「うまくいったら……またアイコさんとお話できるようになったら」


「うん」


「コンビニでアイス買って欲しいなっ!」


「うん。いいけど……」


1つだけじゃなくてたくさん食べて欲しいぐらい。

でも……


「なんでアイス?」


すぐにでも本格的に寒くなりそう。

そんな中、アイスを欲しがるなんて……。


「寒い中で食べるアイスも美味しんだよっ!」


「そうなんだね」


それは知らなかった。


「夏に食べるのとはまた違う味わいがあるんだよ」


「なんだか良さそうだね」


「うんっ! だから今度、一緒に食べようねっ!」


「そうだね」


寒い部室。

買ってきたアイス。

お喋りをしながら3人で食べるアイス。

冷たいっ! でも美味しいっ!

そんなことを言い合いながら。

私はそんな日が来てほしいって思った。

またアイコと仲良くお喋りをしたいって思った。


……

…………

………………


色々考え事をしてたらあっという間に放課後。

私は上の空で授業を受けていた。

先生が言ってたこともほとんど覚えてない。

ノートも全然書けてない。

なんだかぐにゃぐにゃっとしたものが書かれてるだけ。

後で見返しても何にもならないページばっかり。

明日とかに藍姫からノートを借りなくちゃって思った。

昼休みはいつものように部室。

部室で放課後の話をした。

アイコは部室に来てくれる。

カナが説得してくれたおかげで。

それだけで私は感謝してもしきれないって思った。


「今日はどうかしたの?」


教室を出る準備をしてた。

そんな私の前に2人。


「今日はずっと調子悪そうでしたけど……」


心配そうな表情。

たまこと藍姫。

できるだけ普通にしてるってみせたかった。

でもやっぱり駄目だったみたい。


「ちょっと寝不足でね」


嘘じゃない。

でも本当のことは言ってない。


「だから具合が悪かったんだ」


「風邪をひいたんですか?」


「そこまでじゃないよ」


「今日はちゃんと寝たほうがいいわよ」


「うん。分かってる」


ちゃんと眠れるかどうか。

それはこの後の部室で決まるって思った。


「今日は早く帰るつもりだしね」


「無理する部活でもないしね」


「ちゃんと休んでくださいねっ!」


さばさばとしてる藍姫。

とても心配そうな表情のたまこ。

明日には元気な姿を見せたいって思った。


「それじゃ私は部室に行って帰るから」


そう言って教室を出る。

ちゃんとばいばいって挨拶をしてから。

そして廊下でカナと合流。


「いよいよだね」


カナも何だか緊張してるみたい。

まるで自分のことみたいに。


「うん。ちゃんと正面から聞いてみる」


きっと今日が最初で最後のチャンス。

カナが作ってくれた機会。

絶対に無駄にしちゃいけないって思った。


「それで……アイコは?」


「部室に行ってもらってる」


「そうなんだ……」


部室にアイコがいる。

そう思うととても緊張する。

一歩、一歩が何だかすごく思い。

足に重りをつけられたみたいに。

きっと……。

私は思う。

きっとあの時のアイコもこんな気持だったんだろうって。

今はアイコが部室で待ってる。

あの時に私の隣にいいたアイコが。


「……大丈夫?」


きっととっても緊張してたせいだって思う。

カナがそう声をかけてくれたのは。


「うん……。大丈夫じゃ……ないかな」


今までこんなことは初めてだった。

中学生のころは気にしなかったから。

話さなくなっても、嫌われても。

地球人と深く仲良くなってもって思ってたから。

でも今は違う。

話さなかっただけで、嫌われたかもと思っただけで。

何だか凄く落ち込むし、とっても悲しくなる。


「でもやっぱりやるしかないって思う」


いつの間にか部室の前。

アイコが、中にいる。


「わたしは外にいるから」


「え……」


てっきり一緒にいてくれるって思った。

でもそうじゃないみたい。


「アイコさんが2人で話したいって……」


「そうなんだ……」


「ごめんなさい」


「ううん。ありがとう。カナのおかげでアイコと話ができるから」


「頑張ってね」


「うん。頑張ってくるね」


私は扉を開けた。

何だかいつもと違う扉を開けているみたいだった。


……

…………

………………


「…………」


「…………」


部室にはアイコがいた。

もしかしたら……。

扉を開けた瞬間はそう思った。

でもアイコはちゃんとそこにいた。

逃げないで部室に来てくれていた。

カナのおかげで。


「アイコ……」


アイコは不機嫌そうな表情をしてる。

何を思ってるんだろう?

何を考えてるんだろう?

全然、想像もつかないって思った。


「何だか久しぶりって感じがするね」


前までは当たり前だった。

部室でアイコと会うなんて。


「そうね。久しぶり……」


アイコの声も久しぶりに聞いた気がした。


「……元気だった?」


何を聞いてるんだろう。

自分でも思ってしまう。


「普通。そっちは?」


「私は……同じ。アイコと同じ」


「そう……」


そして沈黙。

聞かなきゃ。

アイコに理由とかを聞かなきゃ。

そう思ってる。

でも声に出せない。

喉から空気が出せない。


「あ……あの……」


何で私とお喋りとかしてくれないの?

それだけでいいのに。

その言葉がどうしても出せない。


「聞きたいことは分かってるわ」


アイコは言った。

何かを決心したかのような声。


「なんでいつきから逃げるのか、でしょ?」


「う、うん……」


やっぱり逃げてたんだ……。

自覚的にそうしてたんだ!


「何でっ!」


私は思わず大きな声を出す。


「何で話してくれないのっ! 部室に来てくれないのっ!」


こんなに自分が感情的になるなんて思わなかった。


「何で私から逃げちゃうのっ!」


「……」


アイコは黙ったまま私を見てる。

私も一所懸命にアイコを見る。

でも、やっぱり分からないっ!


「私のこと嫌いになったのっ! 何か私がしたのっ! 理由を教えてっ!」


「アタシ……知ってるの」


静かな声だった。

私のとは違って。

とっても冷静な声だった。


「し……知ってるって……」


もしかして……。

嫌な考えが。

重くて黒い思いが頭を支配する。


「いつきが宇宙人だって、地球人じゃないって」


そしてその嫌な考えは現実になった。


「何で……」


アイコが知ってるの?

なんで、いつ、どこで?

私は頭の中がパニック状態になった。

夢の中では何度も体験した出来事。


「なんで知ってるの……」


「それは言えない」


「それじゃっ!」


私は夢を思い出す。

1人に見つかって。

その後にみんなに広まる夢を。

恐怖でがたがた体が震える。


「ねぇ……そ……それ……だ……誰かに……」


「言ってないわ」


はっきりとアイコは言った。


「もちろん、言うつもりもない」


「……そ、そうなんだ」


それでほっとしてしまった。

そんな私が嫌になった。


「でもあんたとはもう友達じゃない」


「……」


「もうここに絶対にこない。絶対に話しかけない。絶対に話しかけないで」


それは考えた中で一番嫌な言葉。

私に悪いところがある。

それなら直せばいい。

努力すればいい。

でも宇宙人であることは変えられない。

絶対に、そのまま。


「分かった?」


「……わ、分かった……」


そう言うしかなかった。


「アタシが言いたいのはそれだけ。……帰るわ」


アイコは部室を出て行く。

このまま私と他人になろうとしている。


「アイコっ!」


そんなアイコを引き止めた。

アイコは出ていかずに待ってくれた。

アイコは意地悪で、でもやっぱり優しい。


「あ……ありがとう」


そしてそんなアイコに私は言った。


「こんな……地球人じゃない私と今まで仲良くしてくれて……」


私は思い出す。

初めて会った時のこと。

部室に来るようになったこと。

帰ろうとするのを引き止めたこと。

追いかけっこをしたこと。

藍姫と仲直りするの協力したこと。

そして、一緒に部誌を作ったこと。


「本当に今まで楽しかった」


涙が溢れ出てくる。

もっと一緒にいたい。

もっと一緒に遊びたい。

でも私が宇宙人である限りそれは無理。

今までが幸せだったんだって思うしかない。

アイコは私を見てる。

凄く悲しそうな顔をしてる。


「お願いがあるんだ」


「何よ……」


「友達じゃなくなっても……」


涙が止まらない。

友達と友達じゃなくなる。

それがこんなに悲しいなんて初めて知った。


「アイコの漫画だけは読ませて欲しい」


「…………」


アイコは何かを言いたげに私を見る。

でも何も言わなかった。


「アイコが書く漫画、大好きだから」


……

…………

………………


扉が開く音。

そして閉じる音。

アイコが部室からいなくなった。

これで私とアイコは他人。

友達じゃなくなった。

アイコがいなくなっても涙が止まらなかった。


「いっちゃんっ!」


アイコがいなくなって少しして。

カナが来てくれた。

泣いてる私のすぐ近くに。


「ひ……秘密が……アイコが私が宇宙人だって……」


「うん」


カナは泣いてる私を抱きしめてくれる。


「だから友達じゃないって……」


「うん」


「私……私……」


「大丈夫だよ」


カナは私が宇宙人だって知ってても近くにいてくれる。


「いくら泣いても大丈夫。私はずっとずっと……」


絶対に離れないでくれる。


「ここにいるから」

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