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ある日の出来事。
「何か悩みでもあるの?」
ナツミの心配そうな声が聞こえた。
いつもの電話の最中。
今あってるアニメの話をしている途中。
してた話を遮っての一言だった。
ナツミがそういうことをするのは本当に珍しい。
「……そんな感じだった?」
だから思わず私は言った。
言ってから誤魔化せば良かったって思った。
ナツミは人のことをよく観察してる。
誰かが困ってる時は助けてくれる。
でも押し付けがましいことはしない。
そんな人だって思ってる。
だから誤魔化せばこの話は終わりだったんだけど……。
でもそうしなかったのは。
私が自分で思ってる以上に悩んでる証拠だなって思った。
「そうだね」
ナツミの声が聞こえる。
明るいくて、軽やかな感じさえする声。
「ちょっと考え込むっていうか、そんな風な感じだったから」
「分かっちゃうもんだね」
はぁって思わずため息が出る。
何だか悩んでるってバレてほっとした感じがした。
「さすがナツミは周りのことよく見てるね」
悩んでる。
内容自体は言ってない。
でも何だか心が軽くなった気がする。
「別にそれだけって訳じゃないんだけど……」
ちょっとボソボソってした声。
いつもハキハキなナツミには珍しいなって思った。
「それだけじゃないって?」
「ううんっ!」
今度は慌てた感じ。
「何でもないよっ!」
明らかに何でもないって雰囲気じゃなかった。
でもそこには突っ込まない。
私が悪いんだから。
「悩みってあたしに相談したら解決しそうなこと?」
そして話はまた私の悩みについて。
私が悩んでるのはアイコのこと。
まだ話すらもできないアイコのこと。
相変わらずアイコは私と会うと逃げるようにどこかに行く。
私のことを嫌いになった……。
そう考えてしまうようなアイコの行動。
でも私はいくら考えても心当たりがない。
だから私は悩むことしかできないでいた。
そしてそれはナツミに相談しても……
「厳しいって思う」
だから私は正直に言った。
ナツミがアイコに話しかけても逃げちゃうと思ったから。
「あんまり私に話したくないこと?」
「……うん。あんまり……」
話したらナツミはどうかしたいって思いそう。
そうしたらナツミが傷ついたり余計な気苦労を負いそう。
それは私にとって嫌なことだった。
ただでさえナツミは部活とか大変そうなのに。
「そうなんだねっ!」
ぱっと明るい声が聞こえた。
それからはまた先程のアニメの話に戻った。
私は主人公が好き。
でもナツミはそうじゃなみたい。
「あの良さが分かんないかな?」
「えー。だって見捨てたんだよっ!」
「あの時はだってあの子の気持ちを……」
そんな感じでしばらくあーだこーだみたいな会話。
やっぱりこういう話は楽しいって思う。
悩んでるのを忘れさせてくれるぐらいに。
きっと今の調子ならナツミにも気が付かれないって思う。
でもそうなれたのもナツミのおかげなんだけど。
……
…………
………………
ある日の出来事。
5時間目の授業が終わった休み時間。
あと1つで終わりだっ!
そううきうきしてしまう時間。
「美香先輩っ! 今日は合わせをしましょうって言ったじゃないですかっ!」
教室に川島さんの声が響く。
「何で昼休みに来てくれなかったんですかっ!」
「……眠かったから」
「ひどいっ!」
言いながら川島さんが泣きそうな表情。
でもかなり嘘っぽい感じ。
でもしっかり可愛いのがなんだかズルいって思う。
私がしてもきっとすぐに呆れられるだけ。
「私、ずっと部室で待ってたのにっ!」
こんなに騒いでるとみんなから注目されそうだけど、今は違う。
川島さんが教室に来るのは何だか当たり前な感じになったから。
そしてこうやって美香とやり取りするのも。
当たり前になってから思うけど、1年生が1人で2年生の教室に入れるって凄い。
私なら絶対に無理だなって思う。
川島さんが度胸があるのかな。
それともそれだけ美香のことが好きなのかな。
ちょっと考えた。
でもすぐに結論が出る。
多分、両方だなって。
「合わせなら部活の時にするだろ」
「部活の時じゃ駄目ですっ!」
「意味が分から……」
美香が不満そうに言ってる途中だった。
川島さんは美香の手を握る。
そのまま強引に立ち上がらせた。
「おい……何を……」
美香の表情は怒ってるってより戸惑いって感じ。
「私は二人っきりでしたいんですっ!」
言いながら美香を引っ張っていく川島さん。
美香はちょっと迷いながらも抵抗はしなかったみたい。
そのまま引きずられるように教室を出ていった。
「…………」
何だか嵐のようなシーンだった。
川島さんが教室にくるのはみんな慣れていた。
でも美香を強引に連れ出したのは今回が初めて。
昼休みに美香が部室へ行かなかったのがとっても寂しかったみたい。
2人が教室を出て少しの間、教室は静かな状態。
しばらくしてまたみんなの話し声とかが聞こえた。
さっきの話をしたり、しなかったり。
「やっぱり凄いよね」
私はたまこ、藍姫の3人でお喋りをしてた。
そして藍姫はさっきのことについて言った。
「そうですねっ!」
たまこは何だかうきうきって感じの雰囲気。
「川島さんって本当に美香ちゃんが好きなんですねっ!」
「そうだね」
あそこまで自分の愛を表現する人は初めてみた。
何だか圧倒されてしまう。
圧倒されすぎて川島さんが来る前、3人でどんな話をしてたか忘れるぐらいに。
「でもたまこは気にならないの?」
意地悪そうな表情で藍姫が言う。
仲良くなってみる頻度が増えた表情。
でも私は割りと好きだったりする。
自分が対象にならなければ。
「気になるって?」
「美香さんが川島さんと付き合ったりしないか」
それは私もちょっと思ってたこと。
だから
「何言ってるのよ」
そう言いつつもたまこの反応が気になった。
「だってたまこって美香とずっと友達でしょ?」
「そうですねっ! ずっと友達ですっ!」
この場に美香がいたら泣いちゃいそうな言葉だなって思った。
「それを川島さんに取られちゃうとか思わないの?」
「そうですね……」
なぜか真剣に考え込むたまこ。
そんなに真に受けることでもないって思うけどな。
「それが美香ちゃんのためになるなら、そうなって欲しいですっ!」
そして満面の笑みで言う答え。
それはとっても素敵で、とってもたまこらしいって思った。
「うーん」
なぜかわざとらしい声を出す藍姫。
私は良かったって思う言葉。
でも藍姫はなんだか不満そうな感じ。
何が気に食わなかったんだろう。
「ちょっとぶっちゃけていい?」
「……何を?」
「たまこっててっきり美香さんのことを好きだって思ってたんだよね」
「ぶっちゃけすぎっ!」
思わず頭を叩きそうになった。
そりゃ藍姫はアイコのことが好きなんだろうけど……。
一方たまこはやっぱり無邪気な感じで言う。
「はいっ! たまこは美香ちゃんのことが大好きですっ!」
とっても可愛い笑顔で。
私も言ってほしいな。
頼んだら喜んで言ってくれるって思う。
でも残るのは虚しさだからお願いできない。
「違うんだよねー」
相変わらず不満そうな藍姫。
何か変なものでも食べたのかな?
そう思いたくなるような感じだった。
「たまこの大好きは軽すぎるっ!」
びしっとした感じで藍姫は言った。
私はそれを聞いて思う。
逆に藍姫の大好きは重すぎるって。
「たまこは友達として美香さんのことが好きなんでしょ?」
「えっと……」
戸惑いながらもたまこは頷く。
「私は恋愛的な意味で好きって言ってるの」
「そうだったんですかっ!」
って驚くたまこ。
こんな感じだとたまこも恋愛的な意味で好きな人はいなさそう。
そう思ってると……
「でも……」
ってたまこは恥ずかしそうな表情。
「たまこも好きな人はいますよ」
それは何だか今までのたまことは違う言い方。
なんだか可愛だけじゃない何かがあった。
「本当っ! それって恋愛的な意味でっ!」
「藍姫…‥興奮しすぎ……」
といいつつ私も気になる。
かなり気になる。
とっても気になる!
「えっとその……」
たまこは藍姫の勢いに押されながらもこくりと頷く。
それは恋愛的な意味で好きな人がいるって言ったも同然の仕草。
「それって誰っ! 校内の人っ!」
私は思わずたまこに言った。
たまこに好かれてる幸せな人。
それって誰だろうってとっても気になった。
「いつき、興奮しすぎ」
藍姫に言われたくないっ!
「えっとその……恥ずかしいから言えないです……」
本当に恥ずかしそうに言う。
「まぁそうだよね」
藍姫は満足そうな表情。
きっと好きな人がいるって聞けただけで十分なんだろうって思う。
私は誰か気になるけど……。
恥ずかしそうにうつむくたまこに聞く勇気はないなって思った。
「でもたまこ。恋愛するのはいいことだって思うよっ!」
「……そ、そうですよね」
「命短し恋せよ乙女って言うしねっ!」
「そうですよねっ!」
誰かに恋をしてる2人。
そのことが分かって何だか強固な絆ができたみたい。
……ちょっと疎外感があって寂しい。
「でもいっくんもいるんじゃないかなって……」
「私っ!」
急にふられて思わず大声。
「なんで……?」
「授業中とか休み時間とかに考え事をしてることが多いから……」
確かに私は悩み事がある。
きっとそのせいでそうなってたのかも。
でもたまこに見抜かれてたのは意外だった。
意外と周りのこともしっかり見てるんだな。
ちょっと反省。
「でもいつきがぼけっとしてるのはいつものことじゃない?」
「……そんなことないって思うけどな」
「えっとえっとっ! 前よりそんな時間が増えたってことですっ!」
「フォローしてくれないんだっ!」
「なるほどね」
「藍姫も納得しないでよっ!」
何だか長く付き合うほど駄目な人って思われる……。
ちょっと前まで藍姫からは泣くぐらい感謝された気がするのに……。
「でも恋愛じゃないと思う」
「そうですか?」
「だっていつきだし」
「それってどういう意味かな?」
「そのままの意味」
なんだか凄く馬鹿にされてるような気がする。
お前は恋をするほど大人じゃないみたいな。
でも私にだって好きな人はいる。
カナとか……。
でもそれを恋って言われると難しい。
そもそもどういう感情が恋なのかも分からない。
もしかしたら恋は地球人独特の感情なのかも。
それなら私が分からなくても仕方がないはず……。
「いつきも早く恋ができるぐらい大人になろうね」
「いっくんが好きな人ができたら応援しますっ!」
何だか嫌な慰められ方だなって思った。
幸いなのはちょうどチャイムがなったこと。
でも気になることは他にある。
……たまこも私が悩んでるってたまこも気づいちゃうよね。
幸いにも勘違いしてくれた。
でも少ししたらそう思うかもしれない。
心配かけたくないな。
たまこにはずっと笑顔でいて欲しい。
だからできるだけぼけっとしないように頑張ろうって思った。
……
…………
………………
ある日の出来事。
部活の時間。
私とカナはいつものように本を読んでた。
でも頭にあるのはアイコのこと。
前はではあの席に座ってたな。
そんなことを考えてしまう。
「いっちゃん……」
そんな私にカナは言う。
自分が読んでた本を閉じて、机の上に置いた。
「やっぱりアイコさんのこと気になる?」
「……気がついてたんだ」
「そりゃね」
言いながら静かに微笑む。
「アイコさんが来なくなってからいっちゃん寂しそうだし……」
「うん。そうだね」
もうすぐ11月になろうとしてる。
季節はどんどん冬に向かってる。
「アイコ、私のこと嫌いになっちゃったのかな?」
今までずっと思ってたこと。
言葉にするとずんと心を重くする。
「でも何でこんな感じになったのか全然分からないんだよね」
「いっちゃん……」
きっとカナにも分からないんだろうって思う。
ナツミが心配してくれてる。
たまこが私の変化に気がついてる。
きっとカナもすっごく悲しんでる。
このままじゃだめだって分かってる。
早くこの宙ぶらりんの状況から出ないと駄目だって。
下がどうなってるか分からないでも、手を離さないと駄目だって。
「カナならどうする? こんな時……」
「わたしなら……直接聞く。本人のところに行って」
「だよね」
カナと同じ考えでほっとした。
もう本人に聞くしかない。
正直言って私もアイコから逃げてた。
何だか嫌な予感がしたから。
逃げるアイコを追いかけなかった。
でもそれじゃ駄目だって分かった。
でもちゃんと向き合わないと駄目だって思った。
「明日、アイコと話してみるね」
私は言うとカナは嬉しそうに微笑んでくれた。
カナはアイコのことをあんまり好きじゃない。
本当はこのままがカナにとってもいいはず。
だけどカナは優しいから私の背中を押してくれる。
「うん。話せばアイコさんの本当の気持ちも分かると思うよっ!」




