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ご飯を食べた後。

私は居間でぼけっとしてた。

テレビではクイズ番組が流れてる。

私はそれを何も考えずに見ていた。

お母さんは何か紙みたいなのを見てる。

真剣なのか、真剣じゃないのかは分からない。

何を見てるのかもよく分からない。

でも私の進路調査ではないことは分かった。


「何見てるの?」


私が聞くとお母さんは紙を私に見せる。

それは携帯電話の料金とかがのってるものだった。

私も中学校を卒業してすぐにスマートフォンを買ってもらった。

中学生の時には持ってる人も多かった。

けど私はそんなに欲しいとは思ってなかった。

家に帰ってまで誰かとやり取りしたいって人はいなかったから。

でも今は持っててよかったって思ってる。

家に帰っても電話で話したい人とかはたくさんいるから。


「いっちゃん、2年生になってよく電話するようになったなって思ってたの」


再び紙を見ながらお母さんは言う。

確かにお母さんの言うとおり。

1年生の時に電話してくるのはナツミだけだった。

カナはあんまり電話好きじゃないから。

でも今はもっとたくさんの人がいる。

この家で1番電話してるのが私だってのは確実。


「……それで料金が高くなったり?」


思わず恐る恐るって感じになる声。

もしかしたらそれが原因でお小遣いが減らされるかも……。

そんな心配をしていた私にお母さんは言う。


「大丈夫よ。電話代は定額だからね」


「よかったー」


「本当にいい時代になったものだわ」


「お母さんの時は違ったの?」


「もちろん」


紙を折りたたんで机の端の方に置く。


「私が高校生だったころはそうね……」


そして懐かしそうに言った。


「電話は電話するだけお金が必要だったし……」


お母さんが高校生のころ。

やっぱり想像できないって思う。

写真を見せられてもきっと同じ。

私の中でお母さんはずっとお母さんだから。

でも、お母さんにもみんなみたいに物語があるんだなって思う。

ずっとお母さんってわけじゃないんだしね。


「それにそもそも携帯電話がなかったから」


「それはそうだね」


携帯電話がない時代。

なんだかそれも想像できないことの1つ。


「だから誰かに電話したかったら家に電話するしかないわけ」


「……何だか凄く緊張しそうだね」


「向こうのお父さんとかお母さんが出た時はとても緊張したわ」


今はかけたい相手に直接電話ができる。

他の人が電話にでることはあんまりない。

でも、昔はそうじゃなかったのが当たり前。

当たり前って変わっていくんだなって思った。


「でもそういうドキドキもなるなったと聞くと寂しくもあるわね」


ってお母さんは微笑みながら言う。


「便利な方がいいけど、不便だからって全部が駄目ってわけじゃないことね」


ちょうどその時。

スマートフォンがなった。

なんだかちょうどいいタイミングのように思える。

昔だったらこの電話をお母さんがとる可能性もあったのかな。

そう思うとやっぱり便利の方がいいなって思ってしまう。


「くるるから……」


スマートフォンを見てつぶやく。

夏休みのあのとき依頼。

くるるからたまに電話がかかってくるようになった。

それは新聞部の用事だったり、そうじゃなかったり。


「恋人から?」


意地悪そうな表情のお母さん。


「違う」


私は短い言葉で否定した。

お母さんはとっても残念そうな表情。


「恋人だったら挨拶しようって思ってたのに」


すねた感じで言う。


「そもそもお母さんと変わらないから」


相手が恋人でも、そうじゃなくても。


「それじゃ私は邪魔みたいだしお仕事でもしようかしら」


言いながら立ち上がる。

今日はお父さんの帰りが遅くなる日。

だから私とお母さんの食器は洗っておくみたい。

私はスマートフォンのボタンを押す。

そして移動しながら耳に当てた。

くるるとの電話は長くなりがち。

だから自分の部屋で話そうって思った。


……

…………

………………


「それで全部食べきれたの?」


言いながら私はちらりと時計を見る。

電話を始めて15分ぐらい。

今日は新聞部の内容について話したい。

そんなことをくるるは電話の最初に言った。

でもちょっとした小話から話は脱線。

今はくるるが部長命令で大食いを挑戦させられた話をしていた。


「ぎりぎり食べ切れたっす……」


「それは凄いね」


くるるが挑戦したのはごはん1.5kgカレー。

それぐらい余裕っす!

って感じでくるるが言ったのが原因みたい。

自業自得といえばそうかもだけど……。

でも本当にさせるっていうのはそれはそれで凄い。

それにやり遂げる方も凄い。


「私なら絶対に無理だって思うな」


「できてもやらない方がいいっすよ……」


くるるの声はなんだかどんよりしてる。

その時のことを思い出してるみたい。


「しばらくはカレー見ただけで吐き気がしたっすから……」


「それだけ食べたらそうなるかもね」


「まぁ奢ってもらったし賞金で1000円もらえたのは嬉しいっすけど」


「1000円か……」


1000円できつい思いをする。

買えるものを考えても割りにあなさそうだって思った。


「でもなんでそんなことを言ったの?」


「それはその……流れと勢いっすかね……」


はぁーっていうため息が聞こえた。

いつも元気なくるるには何だか珍しい。


「前はそんな感じじゃなかったんすけど……」


「そうじゃなかったって……くるるが?」


「そうっす……。元々は人見知りで引っ込み思案で……」


またため息。

本人が言うんだから本当だって分かった。

でも人見知りで引っ込み思案なくるるは想像できないなって思った。


「友達からも新聞部に毒されすぎって言われてるっす」


「本当に新聞部って凄そうだね……」


でも一三屋先輩は入部から変わらない感じな気がする。

もしかしたら昔はもっと引っ込み思案だったのかもだけど。


「でも楽しいっすよっ!」


今度は明るい声がした。

くるるの声!

って思うようなもの。


「やっぱり入って良かったなって思うこともなくはないっす!」


「あんまり無茶ぶりされないようにね」


なんだか話を聞いてるといつか倒れそうではらはらする。

でもそこらへんはきちんと考えてるんだろうって思う。

思いたい。


「無茶振りされないと逆に不安になったりするっす!」


「それは重症だね……」


そんな感じののりだから色々変わっちゃんだろうなって思った。


「それで原稿の話なんだけど……」


って感じで私は言った。

このまま雑談をするのも楽しい。

でも忘れてるかもなってちらりと考えてた。

もし忘れてたら、記事が間に合わなかたら。

無茶振りされるのはくるる。

それは何だか可哀想だなって思った。


「そうでしたっす!」


くるるは思い出したように言う。

やっぱり忘れてたみたい。


「危ないところでしたっす!」


「えっとインタビューみたいに答えればいいんだっけ?」


「そうっすねっ! それをこっちでまとめるっす!」


「期限とかは大丈夫なの?」


「大丈夫っす!」


私はカレンダーを見る。

いつも決められてた私の原稿の締着切り日。

それは明日。


「今日聞いて明日に原稿を出せばぎりぎりセーフっす!」


「本当にぎりぎりだね……」


今日、私が電話できなかったらどうしてたんだろう。


「ちょっとバタバタしてて遅くなってごめんなさいっす……」


「ううん。私は話だけだし大丈夫だよ」


「そう言っていただけると助かるっす!」


「文化祭とか忙しかったもんね」


「それもあるっすけど……」


言ってまたため息。

今日はくるるのため息をよく聞く日になってる。


「部長が言い出したっすよ。ネットの方で何かやりたいって」


「ネット?」


確か今までの新聞部は紙に印刷したものをみんなに配布してた。

私も自分の記事が載るようになってよく読んでる。

色々調べてたりして単純に読み物として面白いって思う。


「リアルタイム性がほしいとかなんとか……」


「その準備で忙しかったの?」


「ホームページを作るかブログでやるかとか公開先をどうするかとか……」


「色々話し合わなくちゃいけなかったんだね」


「そうっす。話し合いとか苦手だからとっても疲れたっす……」


「本当にお疲れ様だね」


「そう言っていただけると嬉しいっす……」


新聞部は新しいことを始めたみたい。

なんだか活発で、そういうのはちょっと羨ましいかも。


「今はいろいろ役割とか決めてて公開できるようになったらお知らせするっす!」


「うん。楽しみにしてる」


「それじゃ今日はおつ……」


「本題を忘れてるよっ!」


電話を切ろうとしたくるるを慌てて止める。

疲れてるのは本当みたいだなって思った。


「そうでしたっす! すみませんっす!」


「ううん。全然大丈夫」


「えっと今日はっすね。宇宙の広さについて聞きたいっす!」


「宇宙の広さ?」


「そうっす! 宇宙って広いって言うじゃないっすか!」


「うん。言うしとっても広いよ」


「実際にはどれぐらいの広さなんっすか?」


「えっとね……」


宇宙の正確な広さは分からない。

だからとっても広いことをわかってもらえればいいかなって思った。


「太陽系ってあるじゃない」


「あるっすね!」


「それで地球から海王星まで一番早いロケットでも10年以上必要らしいんだ」


「10年ってとっても気の長い旅っすね……」


「退屈で死んじゃいそうだよね」


「太陽系ってだけでとっても凄いっすね!」


「うん。でも太陽系は宇宙の1部のさらに1部でしかないんだ」


私は前に見た図形を思い浮かべる。

地球どころか太陽すら見えなくなる銀河の大きさ。


「恒星とかがたくさん集まったのが銀河っていうのは知ってるよね」


「はいっ! なんか聞いたことはあるっす!」


「地球を含む太陽系は天の川銀河っていうところにあるんだ」


「天の川ってあの天の川っすか?」


「うん。あの天の川」


といっても正確にはどうだったかよく覚えてない。

名前がないってのもどこかで見たような気もする。

でも天の川銀河っていう響きが好き。

だから私はくるるにそう教えた。


「それでね。天の川銀河にはどれぐらい恒星があると思う?」


私がたずねるとくるるは悩みだした。

うーんとかそうっすね……。

みたいな考える声が聞こえる。


「恒星って太陽とかっすよね」


「そうだよ」


「えっと夜空に見えるのは全部が恒星っすよね」


「うん。太陽系の惑星は見えるのもあるけどほとんどが恒星」


「それじゃたくさんあるっすよね」


「たくさんあるよ」


「えっと……100万個とかっすかっ!」


わりと自信満々にくるるは言った。

確かに100万って凄い数だって思う。

でも……


「残念」


「間違ってたっすか……」


「うん。正解は約2000億個」


「2000億っ!」


とってもびっくりしたような声が聞こえた。

確かにその気持はよく分かるなって思う。

太陽ってなんだか特別な存在のように思える。

唯一無二みたいな。

でも実際は2000億個もあるうちの1つ。

天の川銀河だけで。


「それでね。宇宙にはその銀河が他にもあるの」


「恒星が2000億個ある銀河が他にもあるっすか……」


何だかちょっとずつ宇宙のスケールを分かってきてもらえてる。

くるるのリアクションが面白くて、話すのが楽しかった。


「でも銀河によって恒星の数も違うんだけどね」


「それで……その銀河ってどれぐらいの数があると思う?」


「えっと……」


またくるるは考え始める。


「10億個とかっすか……」


「残念だね」


思わず笑みが浮かぶ。

まぁ当てれる人はいないって思う。

最初から知ってる。

それかかなり捻くれてないと。


「それじゃ正解は?」


何だか恐る恐るって感じになってる。

想像以上の宇宙のスケールにそうなるのは無理もないって思った。


「銀河の数は2兆個って言われてるんだ」


「2兆っすか……」


今度は驚きの声はなかった。

なんだか数が大きすぎて実感が持てないんだろうって思う。

私だって数字で知ってるだけ。

認識としては想像できないぐらいに広いってだけ。


「うん。しかもね……」


「まだ何かあるっすか……」


「天の川銀河から1番近い銀河がおおいぬ座矮小銀河なんだけどだいたい4万2千光年だね」


「4万2千光年って光の速さで4万2千年必要ってことっすよね」


「うん。ロケットだと……想像もつかないね」


「退屈で死ぬどころか寿命で死んじゃうっすね!」


「それが1番近い銀河だから遠いとなると本当に想像もつかないよね」


「本当にそうっすよね……」


「しかもね、宇宙は大きくなってるんだ」


「それはどこかで聞いたことがあるっす!」


「光速より速い速度で大きくなってるんだよ」


「光速よりっすか!」


「うん。だから今観測できる光にずれがあるんだよね」


「ずれ?」


「約4100万年光年先から来た光なんだけど、届くのに約138億年かかってるんだよね」


「なんだかよく分からない世界っすねっ!」


「私もよくは分かってないから大丈夫だよ」


きっとこのスケール感はきちんと感覚で捉えられる人はいないんじゃないかって思う。

いたら、まさしく天才だって思う。

私は凡人からやっぱりこう思うしかない。

宇宙はとっても大きいって。


「何だか考えてると怖くなってくるっすね……」


「うん。その気持は分かる」


実際に話してて怖くなってきたし……。


「もしかして宇宙が何個もあるってことも……」


「あるかもしれないね」


宇宙の外は全然分かってない。

昔の人は地球や太陽を唯一のものって思ってた。

でも恒星だけでも信じられないような数がある。

だから宇宙が唯一無二じゃない可能性だって十分にあるはず。


「宇宙単位で考えると地球ってちっぽけなんっすね」


「うん。そうだね」


でもって私は思う。


「もしかしたら地球は特別じゃないかもしれないし、もっと良い星があるかもしれない」


例えば私の故郷とか。


「でも地球にはまだ分からないことや素敵なことがたくさんあるって」


「いつき先輩って地球が好きなんっすね!」


「うん。大好きだよ」


前は宇宙が好きだった。

ずっと空ばかり見てた。

でも今はそうじゃない。

地球のことも同じぐらい見てる。


「とっても広い宇宙のとっても多い星の中で地球に生まれてよかったって思う」


「そういうのいいっすねっ!」


興奮した感じでくるるは言う。


「宇宙の広さ星の多さを説明した後に、この星に生まれた良さを書くっ!」


どうやら記事の方向性が固まってみたい。


「これでいくっす!」


とってもやる気に満ち溢れた声。

聞いてて元気になる声。


「いつき先輩に頼んでよかったっす!」


「そう言ってもらえると嬉しいかな」


ちょっと照れちゃうけど。


「原稿頑張ってね」


「頑張るっすっ!」


そういう流れで電話は終わった。

私はスマートフォンを机の上に置く。

くるると話せて良かったなって思った。

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