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「凄かったねっ!」
私の声は自然と大きくなっている。
だって興奮してるから。
最初から最後まで何だか凄く楽しいっていう気分。
去年も凄いって思ったし、楽しかった。
でも今年のは何だか比べ物にならないって感じ。
軽音部だけじゃない。
文化祭全部が去年よりずっとずっと楽しい。
きっとそれは私が2年生になってるからだって思う。
知ってる人も増えたし、好きなことも増えたし……。
だから見て楽しいものがとっても増えた。
きっと3年生の文化祭ではまた違う気持ちになるんだろうな。
最後の文化祭になるんだから。
私はもも先輩の姿が目に浮かぶ。
きっと私も凄く寂しい気持ちになるかもしれない。
……でも今はまだ文化祭を楽しまないとって思う。
ステージの楽器とかを片付けている軽音部の人達が見える。
ステージの横にはもも先輩の姿が見えた。
たくさんの人に囲まれている。
中には泣いてる人もいた。
もも先輩に頭をなでなでしてもらってる。
……ちょっと羨ましい。
きっと物凄くもも先輩のことが好きなんだろうなって思う。
文化祭で見ただけの私よりずっと。
「盛り上がってたね」
カナはぼんやりと周りを見ながら言う。
……やっぱりちょっと元気なさそう。
もも先輩の演奏とか歌もあんまりしっかり聞いてないみたいだったし……。
「次はねっ!」
だから私は意識的に大きな声を出した。
次のステージ。
演劇部の舞台。
美香の出番。
私はカナにパンフレットを見せようとした。
そして教えようとした。
でもその前に……
「いっちゃん」
カナは私のことを真剣な目で見ている。
私は不意に思い出した。
去年の出来事を。
去年の文化祭も私とカナはここで軽音部の演奏を見た。
その後の休憩中にカナは言った。
そしてカナは今年も同じ言葉を言う。
「……ここ出ない??」
「出たいの?」
カナは頷いた。
はっきりとした意思表示だった。
「去年みたいにまた屋上でいっちゃんと過ごしたいな」
「……カナ……」
「……駄目かな?」
去年の私ならすぐに頷いただろうって思う。
そして手を繋いで、ここじゃないどこかに行ってた。
そこでカナと2人でのんびり幸せな時間を過ごしてた。
でも今の私は……
「ごめん。私は見たいものがあるから」
カナの言葉を拒否してしまった。
何だか凄く心に重いものを感じた。
ずーんとして冷たいもの。
そう言うって決めてた。
決心してた。
「できたらカナも一緒に見て欲しい」
カナが横にいてくれるのが1番いい。
カナが一緒に見てくれるのが1番嬉しい。
「一緒に見よう」
今度は私がお願いをする番。
「カナは絶対にここにいたくないの?」
私の言葉にカナは考えてるみたいだった。
でも視線は私。
じっと私を見つめている。
「わたしは……わたしは別に……」
ぼそぼそとした声。
いつもはっきりしてるカナには珍しい雰囲気。
「いたくないわけじゃない……」
「じゃあっ!」
「でもっ!」
カナの声が大きくなる。
「いっちゃんがここにいたいっていうのは……嫌だって思う」
「私がここにいるのが嫌なの?」
「うん。いっちゃんはその……」
カナの言いたいことは分かる。
はっきりと言えない理由も分かる。
「ここにいちゃいけない、ここにいたいって思っちゃいけない」
体育館にいちゃいけない。
地球にいたいって思っちゃいけない。
きっとカナは私にそんなことを言いたいんだって思う。
今回の部誌で私が書いた小説。
月面生活日記。
あの小説で主人公は月を故郷、自分の星だって思って終わる。
きっと私が同じように思ってるかもしれないと考えたのかもしれない。
そのことを気にしてるって、私は知ってた。
でもああいう最後にしないといけないって分かってた。
「ここはいっちゃんの居場所じゃないよ」
握り合ってる手の力が強くなった。
でも私はもう分かってた。
私は宇宙人。
間違って地球に生まれてしまった。
でもやっぱりの居場所は地球。
ここには好きな物や大事なことがたくさんあるから。
もし……もし誰かが迎えにきても……。
私は地球に残る選択を選ぶと思う。
「ごめん。カナ」
きっと私の気持ちをカナはもう知ってのかもしれない。
でも……きっと自分についてくるって信じてた。
嘘でも地球は居場所じゃないって私が言うことを期待してたって思う。
だけど私は今は……今だからこそカナに言わなくちゃいけない。
「私はここにいる」
この体育館に、この地球に。
「……いっちゃん……」
握ってる手が緩んだ。
私とカナの手。
さっきまでずっとつないでいた手。
でも今は別々のところにある。
「離しちゃうんだね……」
「…………」
私はカナの顔を真っ直ぐ見れなかった。
あんなに大好きなカナの顔なのに……。
カナは私に背を向けて、歩き出した。
ゆっくり、体育館を出て行く。
私はそんな後ろ姿をただ見ていることしかできなかった。
……
…………
………………
いつの間にか軽音部の片付けが終わっていた。
そして演劇部の人達が忙しそうに準備をしてる。
その中にはもちろん、美香の姿もあった。
美香は小柄な人と一緒に何かを運んでいる。
何だかとってもいい雰囲気に見えた。
ちゃんと打ち解けてるんだなって。
でも、それを見ても私の心は凄くもやもやしてた。
あんなこと言ってよかったのかなって。
カナについて行くべきだったんじゃないかなって……。
でも……やっぱり言って良かったって気持ちもあった。
ずっと黙ってきていた。
本当の気持ち。
そう思っても、やっぱり心のもやもやはそのまま。
気になるのはカナのことばっかり。
……
……ううんっ!
いつまでもやもやしたってしょうがない。
こんな気持でいたって楽しめない。
それじゃカナと離れてここにいる意味がない。
ここは楽しんで……そしてカナを探そう。
カナに会いに行こう。
そう決めた。
もしかしたらもうカナは私のことを嫌いになってるかもしれない。
けれど会って話をしなくちゃ分からないって思う。
「いっくんっ!」
声が聞こえたのはそんな感じで決心した時だった。
声だけで誰か分かった。
たまこの声だって。
たまこを心配かけちゃいけない。
そう思いながら私は声の方を見た。
「たまこ、お疲れ様っ!」
自然な笑顔はできてるって思う。
そういうのは割りと得意な方だから。
目立たないよう、秘密がばれないよう、生きてきたおかげ。
「料理部、凄く頑張ってたね」
「ありがとうございますっ!」
たまこは凄く嬉しそうに言った。
その笑顔を見て、私の心のもやもやも晴れていく。
少しずつ、少しずつだけど。
「すっごく緊張しましたっ!」
「うん。緊張してるなってすぐに分かったよ」
「えへへへ。恥ずかしいですね……」
「あんなに人がいたんだからしょうがないって思う」
私なら緊張して、そのままだっただろうし。
「ちゃんと指示出して料理作って……1位になれたんだから凄いよ」
「いっくんのおかげですっ!」
「私のっ!?」
当たり前だけど私は何もしてない……。
ただ後ろの方で見てただけだった。
「たまこ、凄く緊張して頭が真っ白になってたんです」
たまこは可愛い笑顔で言った。
「どうしよう、どうしようってそればっかりで」
でも……。
ってたまこは言葉を続ける。
「いっくんの顔を見て落ち着けたんです」
「私の顔?」
「はいっ! ぼんやりしてたのがはっきり見えるようになりましたっ!」
たまこは凄く嬉しそうに言ってる。
でも私はよく意味が理解できないでいた。
それでも私がたまこの何かの役にたてたのなら、それだけで嬉しかった。
「本当にありがとうございますっ!」
でもこんなにお礼を言われるのはやっぱり恥ずかしい。
私はそんな大した感じでもないし。
ただの臆病な宇宙人だし。
「でも本当にあのオムライス美味しそうだったよね」
「はいっ! 上手に作ってくれましたっ!」
「……今度作って欲しいな」
「オムライス……ですか?」
「うん。たまこが作ったやつね」
「本当ですかっ!」
ぴょんぴょんって飛び跳ねながらたまこは言った。
まるで散歩に行く前の犬みたい…‥。
思わず頭をなでなでしたくなるのを我慢した。
「ぜひ作らせてくださいっ! とっても頑張って作りますねっ!」
「ありがとう」
なんだかいつの間にか心のもやもやがなくなっていた。
たまこの笑顔と言葉で吹き飛んでいた。
……きっとたまこもカナと同じぐらいに大事だって思ってる証拠。
今の私にはたくさんの大事なものがある。
だからここにいるって言わなくちゃいけないって分かった。
「とっても楽しみにしてるね」
「はいっ!」
そして私の楽しみも1つ増えた。
でもそれは少し後の楽しみ。
今は今の楽しみに目を向ける。
「もちろんたまこも演劇部を見に来たんだよね」
「はいっ! 急いで片付けとかしてきましたっ!」
「楽しみだね」
「とっても楽しみだけど……ちょっと不安もあります」
「不安?」
「不安って言うと何だかちょっと変ですけど……」
「心配?」
思いついた言葉を言った。
きっとたまこは美香を心配するだろうなって。
たまこを心配した私みたいに。
「それですっ!」
「美香も初めてだろうしね」
美香は度胸はあるって思う。
でもこんなステージに立って、演技をするのは並大抵のことじゃないって分かる。
私じゃなくても大抵の人は怖気づくだろう。
もしかしたら美香の心は不安で不安でたまらまいのかもしれない。
「あっ! 美香ちゃんっ!」
たまこは大きな声を出した。
ステージの前に一仕事を終えた感じの美香がいる。
さっきまでは凄く人がいた。
それこそその場からあまり動けないぐらいに。
でも今はとても人は少なくなっている。
演劇部が人気ないっていうより、軽音部が人気ありすぎるんだなって思った。
でもそのおかげで私とたまこは何の問題もなく美香の前まで移動できた。
「美香ちゃんっ!」
前まで移動して改めてたまこは言う。
美香はいつものような感じで私とたまこを見る。
不機嫌そうな感じ。
でも今は緊張もあるのか、ちょっと険しい感じもある。
「わざわざ見に来ないでいいのに」
ぼそりと言う。
そう言われると何だか保護者にでもなったみたいな気持ちになる。
「見に来ますよっ!」
「そうそう。楽しみにしてたしね」
「たまちゃんはいいけど……いつきは面白がってるだけだろ」
「それも……あるかもね」
なんて私は言う。
まさかこんな軽口っぽいことを言える関係になるとは思わなかった。
「でもやっぱり純粋に見たいって思ったよ。美香が頑張ってたの知ってるしね」
「…………」
美香は何も言わずに視線を外す。
どうやら照れてるみたい。
素直じゃないなって思う。
でもそういうのも凄く美香らしい。
「美香ちゃん、本番はもうすぐ?」
「そう。準備も終わったし、後は裏で着替えて……本番ってところ」
「緊張してる?」
「してないわけない」
「だよね」
でも自分でそう言えるのは大丈夫かなって思う。
「やっぱりステージに立つのとか、みんなに見られるのって緊張するよね」
「あたしはそれとはちょっと違うかな?」
「違うの?」
たまこの言葉に美香は頷く。
「どっちかというと失敗できない、良い物にしなくちゃっていう気持ち」
ふうって感じで美香はため息をついた。
そして視線を動かす。
つられて見るとそこには3人の演劇部の人がいた。
打ち合わせをしてるのか、真剣な感じ。
そのうちの1人はあの人だった。
美香を演劇部に入れた人。
「やっぱりあたしを受け入れたせいで嫌な目にあってるみたいなんだよ」
「嫌なめ……」
きっと嫌なことを言われたりすることがあるんだろうって分かった。
そしてそれを美香が凄く気にしてることも。
「だからあたしは絶対に失敗しちゃいけないって思う」
その言葉には、その目には何だか凄い決意が宿ってるように思えた。
「それがあたしができる唯一の恩返しだから」
言いながら美香はぐっと背伸びをする。
美香は演劇部に入って、色々な人に出会ったんだと思う。
そして色々なことを経験して、成長とかした。
大事なものも見つけることができた。
どういったことがあったのかとかは全然知らない。
それは美香の物語だから。
「美香先輩っ!」
声が聞こえた。
美香を呼ぶ声。
「そろそろ着替えないとっ!」
「分かった!」
美香が返事をする。
何だかその一言で今いるのは演劇部の美香なんだなって分かった。
「それじゃ、いってくる」
「いってらっしゃい」
「頑張ってね」
美香は後輩のところまで移動。
そして何か話をしながら扉の中に入っていく。
それを見送った後に私は言った。
「いい劇になるといいね」
「いい劇になるに決まってますっ!」
そしてたまこは言った。
凄くきらきらしためでステージを見ている。
「だって美香ちゃんは凄い人って前から知ってましたからっ!」
「たまこがそう言うならきっとそうなんだろうね」
「はいっ!」
もうすぐ、このステージで美香を見ることができる。
なんだか胸がドキドキしてきた。
楽しみもある。
でも緊張もしてる。
そんなドキドキ。
私とたまこは1番ステージがよく見える場所に座った。
そして黙ったまま始まりを待った。




