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今日と明日は文化祭の日。

去年と同じようにいつもより早く目を覚ました。


「今年も早いのね」


お母さんに言われる。

何だか上機嫌な感じ。

お母さんも文化祭を楽しみにしてくれてたんだなって思う。


「わくわくしてるからね」


って私は素直な気持ちを言った。

去年もわくわくしてた。

でもきっと緊張の方が多かったって思う。

今年はなんだかすでにやりきったって感じが大きい。

だから後は楽しむだけ。

2年生だから余裕があるのかもしれれない。


「今年も来るんだよね」


「もちろんっ! お父さんもね」


言いながら隣の部屋の方を見てる。

きっとまだ寝てるんだろうって分かった。

私が朝が苦手なのはきっとお父さんに似てるんだって思う。


「今年はどんな感じ?」


「何が?」


「部誌。去年よりいいものできた?」


「うん。そうだね」


「おっ、自信満々だね」


「今年は漫画もあるからね」


「へぇ。新しい人が入ったの?」


「そういうわけじゃないけど……」


きっと文化祭が終わったら来なくなるだろうし。

寂しいけど、でもそれが正しいんだって思う。


「よく分からないけど楽しみにしてるわ」


「クラスの占いの衣装を私も作ったからそっちに行くのもいいかも」


「へぇ。そうなんだ。ちゃんとできた?」


「うん。思ったよりは」


本当は作った。じゃなくて手伝った。が正解なんだけど。


「それなら言ってみるわ。占いってあんまり信じてないんだけどね」


「お母さんはそんな感じだよね」


「でも楽しみにしてるわ」


占いの時に余計なことを言わないといいんだけど……。

それがなんとなく心配だった。


「それじゃ行ってくるね」


「うん。いってらっしゃい」


去年と同じようにお母さんに送り出された。

何だかもう文化祭が始まってるような気分になっている。


……

…………

………………


私はうきうきした気分で道を歩く。

カナとの待ち合わせ場所へ向かう。

色々なことがあった。

夏休みから今日までを切り取ってみても……

例えばアイコが喧嘩してるのを見つけたこと。

例えば小説をかいたこと。

例えばクラスで出し物について話し合ったこと。

例えばアイコについて相談を受けたこと。

例えば新聞部のことについて話したこと。

例えばカナと一緒に映画を見に行ったこと。

例えばアイコと追いかけっこをしたこと。

例えば執事勝負をしたこと。

例えば占いの衣装を作ったこと。

他にも様々なことがあった。

本当に色々なことがあった。

1年生の時も同じように思った気がする。

文化祭の日に、色々なことがあったなって思い出す感じ。

それぐらい私の夏休みは高校生になってから密度が濃ゆくなっている。

きっと私自身が変わったからだって思う。

そして今日と明日はその集大成。

去年より作った部誌。

どれだけ買ってくれるかは分からない。

でもたくさんの人に読んでほしいなって思ってる。


「おはよう」


待ち合わせ場所にはカナがいた。

私はいつもより早起き。

そして家を出るのもとっても早かったのに。

それも去年と同じだった。

でも……


「おはよう。いっちゃん」


静かにカナは言った。

それはいつもと同じ。

でも去年とは違った。

去年はもっとわくわくとかどきどきとかカナも感じてたように思える。

今のカナはそんな風には見えなかった。

落ち込んでるってわけでもない。

悲しんでるわけでもなさそう。

でも何かが変っていうか……。


「どうかしたの?」


不思議そうにカナは私に言った。


「何かついてたりするかな?」


「ううん。何でもないよ」


思わず見てしまったカナの顔。

今はにっこりと微笑んでくれている。

でも私が話しかける前。

いつもと同じような表情だった。

でも少しの寂しさとか、そんな雰囲気を感じた。

そんなカナに私は何も言うことができなかった。


「行こう。早めに行って準備したいしね」


カナが言う。

……やっぱりいつものカナだって思った。

もしかしたらさっき感じたものは私の気の所為だったのかもしれない。


「うん。楽しい2日になるといいね」


私はカナに言った。

同時に自分へ言い聞かせるように。

そう、楽しい2日にしなくちゃいけない。

今日は部誌の販売。

明日は色々なところを見学。

行きたいところや見なくちゃいけないものがたくさんある。

去年よりずっと、ずっと。

会いたい人もたくさんいる。

何だか明日は忙しくなりそうだなって思った。


「カナもたくさん楽しもうねっ!」


私はカナに言う。

カナにも私と同じように思ってほしいから。

カナにも私が見たいものとかを見てほしいから。


「そうだね。楽しくなるといいね」


カナはそう言ってくれた。

でもどこか寂しそうな雰囲気をまとってるように思えた。


……

…………

………………


「遅かったわねっ!」


部室に入った私とカナ。

いきなり大きな声が聞こえた。

声は思った通りの人物。

アイコいつもの場所に座っていた。

前には3冊の冊子がある。

今年の部誌、去年の部誌、漫画研究部の部誌。

の3つ。

すぐ横に大きめのダンボールが2つある。

去年も漫画研究部の人に運んでもらえてた。

今年はきっとアイコが運んでくれたんだろうって思った。


「アイコ、ありがとう」


「お礼なら藍姫に言うことね」


不機嫌そうにアイコは言った。

でもアイコも運んでくれてるし、照れてるんだって分かった。


「そうだね。藍姫にも言っておくよ」


「あと去年と同じように部誌をよろしくって」


言いながらアイコは冊子をこちらに見せる。

漫画研究部の部誌。

暇な時に読もうって思った。

アイコや藍姫がどんな漫画をおすすめしてるのか楽しみ。


「こっちの部誌もお願いしてるしね」


「売れるといいわね」


「うん。読んでもらえると嬉しい」


私は部誌を1冊手に取った。

表紙のカナの絵。

ひとりぼっちの天体観測。

題名の横に2号って小さくある。

ちっぽけな2文字。

でも私にはとても嬉しいものに見えた。

できたらずっと何号も続いてくれたら嬉しい。

でも今のままじゃ難しいってことは分かっていた。

3号までは出すことができる。

でもそれ以降はきっと続かない。

カナはやっぱり新しく人が入るのは嫌って言うと思うから。


「私達の部誌だよ」


私は部誌をカナに見せる。

去年、カナは部誌ができたことをとても喜んでくれてたから。

だから今年もそうだと嬉しいって思った。

でも……


「そうだね」


カナはつぶやくように言った。

やっぱり笑顔。

でも寂しそう。


「いいものができて嬉しいね」


カナはそう言ってくれた。

カナもいいものができたって思ってるのは分かる。

でもそれが本当の嬉しさにつながってるようには思えなかった。

そしてその原因が何なのか私には分からないでいる。


「うん。嬉しいよね」


私もなんだか変な返事になってしまった。

だから……


………………

…………

……


なんだか変な間ができてしまった。

そんな風になるって思ってなかった。

だからうまく次の言葉が出てこない……。


「いっきはクラスの方はしなくていいんだっけ?」


変な雰囲気になってる。

そのことを分かってるのか、分かっていないのか……。

それは判断できないけど、いつもの感じでアイコは言った。

朝早かったのか割りと派手めにあくびをしながら。


「うん。私は準備担当だったから」


だから今日はここでのんびりできる。

明日はカナと一緒に色々まわることができる。


「カナ達のクラスは何をするの?」


そういえば今まで聞いてなかったなって思った。


「アタシ達は……」


ちょっと考え込むように言う。

でも出てこなかったみたい。


「なんだっけ?」


小声でカナに言う。

……それだけでアイコがどれだけクラスに馴染んでないのか分かった。

準備どころか話し合いにさえ参加してないみたい。

私も最近は自覚してるけど、アイコもだらしない人のように思える。

漫画を書かせたら凄いんだけど……。

そんなアイコにカナは一度、ため息をついていった。

アイコじゃなくて私を見ながらだけど。


「私達のクラスではお化け屋敷をするよ」


「お化け屋敷……」


絶対に行きたいくない出し物ナンバーワンだった。

カナが出てるなら気になるけど……。

でもできるだけ行きたくはないなって思った。


「カナは何かしなくちゃいけないとかあるの?」


「……うん。今日の昼から受付に行かなくちゃいけないんだ」


言いながらまた大きなため息をついた。


「本当は行きたくないんだけど……」


「……それはしょうがないよ」


きっとカナはクラスでもそれなりにやっていたのだろうって思う。

何をやるかも知らなかったアイコと違って。


「ずっといっちゃんと一緒が良かったんだけどな」


だからあんなに寂しそうな雰囲気だったんだなって分かった。

私もなんだか同じように気持ちになる。


「でも明日はずっと一緒にいられるからね」


だから今日は我慢。

っていうのもなんだか変な感じがする。

でもそう言うしかないって思った。


「そうだねっ!」


ぱっとカナの表情が明るくなった。


「アイコは漫画研究部の方に行かなくていいの?」


「アタシは明日だから」


「そうなんだ。ちゃんと……」


「コスプレはしないから」


「そうなんだ」


なんだか残念な気分。

せっかく戻ったんだからすればいいのにって思う。

自分だったら嫌だって言うって確信できるけど。

他人事なら無責任になれるんだなっていうお話。


「それなら今日に色々回った方がいいんじゃない?」


アイコに言ったのは意外にもカナだった。

私も同じようなことを言おうとした。

でも先にカナが言ったっていう感じ。

カナがアイコに話しかけるのもちょっと意外。

それ以上にそんな風に気遣うようなことを言うのはとても意外だった。

アイコも少しの間、驚いた表情を見せる。

そしてすぐに表情を戻して言った。


「気が向いたら行くわ」


行くって言ってる。

でもニュアンス的には行かないって言ってるみたい。

思うにアイコは文化祭とかそういう行事があまり好きじゃなさそうって思った。

もしかしたらここにいるのも静かだから、人がいなさそうだから、みたいな理由かもしれない。

性格的にアイコとナツミは反対っぽいイメージ。

あの時にアイコが言っていた陽キャ、リア充って言葉は調べて分かった。

確かにナツミはそんな感じの人だなって思う。

もちろん、そんな風に呼ばれる人達にも色々あるんだろうって思うけど。

それから私はカナとお喋りをしたり、アイコとお話をしたり。

そんな風に過ごした。

時間が近づくにつれてなんだかドキドキしてくる。

ちょっと不安になってくる。

去年よりたくさん本を作ったけど大丈夫かな?

今更だけどそんなことも考えてしまう。

……アイコに言われて決めたのもあるし。

でも足りなくなるより余るほうがずっといいっていうのも分かる気がした。

創作に関してはアイコは自信家で堂々としてる。

そういうところは少しだけ見習いたいって思った。


「もうすぐだね」


カナが時計を見る。

のんびりと話をしている間にもうそんな時間。

私達は椅子に座って放送を待った。

文化祭の始まり。

生徒会長の挨拶を。


「……おはようございます」


柔らかい声がした。

9時ちょうど。

スピーカーから聞こえる。

なんだか懐かしい感じがした。

去年、クラスで何度も聞いていた。

意思が強くて、でも何だか心地よさがある声。

少しでも知ってる人が生徒会長になってる。

そのことがはっきりと実感できたような気がした。

何だか不思議で、嬉しい感覚。

私はしっかりと生徒会長の声に耳をかたむけた。


「今日と明日は文化祭本番です」


「1人で楽しめる人もいますし、楽しめることもあります」


「しかしそうでもないものもあります」


「文化祭はその代表です」


「みんなで作り、みんなで楽しむ」


「そんな文化祭にしましょう」


「みなさん、精一杯楽しんでください」


「私も全力で文化祭を楽しみます」


「生徒会長、日向和里」


放送が終わって廊下から、隣の教室から拍手が聞こえる。

とてもいい言葉だって思った。

やっぱり生徒会長になる人は凄いんだなって。

だから私は拍手をした。

去年はできなかった。

今年もカナは拍手してない。

ついでにいうとアイコも……。

アイコに至っては退屈そうに欠伸さえしてる。

でも私は気にせず拍手をすることができた。

ちょっと自分が成長できたんだなって思えて、嬉しかった。

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