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「やっほー」
始まってすぐ。
がらって扉が開いてやってきたのは亜里沙だった。
そうえいば買いに来てくれるって言ってたなって思い出す。
でもこんなに早く来てくれるなんて……。
私はちょっと驚いた。
亜里沙は駆け足で机の前まで来る。
「早かったね」
「暇だったからね」
「他に回るところもあったんじゃないの?」
「まだお腹すいてないしね」
「そうれもそうだね」
なんだかとても納得できる返答。
今の時間はイベントとかもあんまりないだろうし。
「天文部って初めてだから見たかったのもあるよ」
言いながら亜里沙は部室を見回す。
なんだか自分の部屋を見られてるみたいで恥ずかしい……。
「どれを買えばいいんだっけ?」
私の友達。
ってことでカナとアイコは遠慮してるみたい。
話すのは私に任せっきり状態。
「これが今年の。あとこっちが去年のやつ」
「へー。それじゃ両方買おうかな」
「いいの?」
「どんなの書いてるか知りたいしね」
「ありがと」
私は言いながら2冊の部誌を渡す。
なんだかどきどきする。
知ってる人なのに。
もしかしたら知ってる人だからかもしれない。
「亜里沙の出番は今日?」
「明日。今日は午後からはクラスの方」
結局クラスの方も出るんだなって思った。
散々悩んでたみたいだから。
「練習の方は大丈夫なの?」
「うーん。どうだろうね」
言いながら亜里沙は遠くの方を見る。
「やれるだけやったかなって感じ」
「なんか格好いいね」
「ライブはもう何度かやったしね」
「明日見に行くよ」
「本当? まぁ期待しないでおいて」
「部誌もあんまり期待しないでね」
「期待してる。みんなで回し読みするから」
言いながらいたずらっぽい表情を見せる。
なんだかどことなく男子っぽい笑顔。
でも回し読みされるなんて……。
自分の前でされたら思わず取り上げたくなるぐらいに恥ずかしい。
そう考えるとやっぱりステージに立ってする人は凄いって思った。
「教室では読まないでって言っておいて」
「それは難しいかな。……あんまりおしゃべりすると邪魔だよね」
言いながら部誌を鞄の中に入れる。
「あたしは待ち合わせあるから」
「うん。楽しんできてね」
「もちっ! あっ! 2人はいつきの友達だよね」
「うん。同じ部活だからね。カナって言うの」
「カナさんね。あーーーーあの」
どうやらカナのことを知ってるみたい。
なんだか妙な反応をしてる。
でもカナはにこやかに対応してる。
一方……
「…………」
アイコは仏頂面で何も言おうとしない。
これには亜里沙も苦笑いだった。
「それじゃまたね」
なんだか変な空気のまま亜里沙は部室を出る。
「……ああいうノリで生きてそうな人とは会話できない」
なんて意味の分からないことをアイコは呟いていた。
……
…………
………………
「ほらっ! 何をしてるっすかっ!」
部室の外から声が聞こえた。
姿は見えないけど誰の声かすぐに分かる。
くるる。
それと誰かもう1人いるみたい。
何を言ってるのかは分からない。
でも何かぼそぼそと言ってるのは分かる。
「そんなところで突っ立ってても駄目っすよっ!」
また声が聞こえる。
くるるがこんなに大きな声を出してるのは初めて聞いた。
「外で何をやってんの?」
アイコが指差しながら言う。
当たり前だけど、気になってるみたい。
「いっきの知り合いなんでしょ?」
「まぁそうだけど……」
「一三屋先輩も一緒に行くっすよっ! そっちの方が絶対に喜ぶっす!」
「一三屋先輩……」
思わず呟いてしまった。
どうやら一三屋先輩が部室に入るのを嫌がってるみたい。
「ほら行くっすよっ!」
そして勢い良く扉が開かれた。
そこにはいつものくるると……久しぶりに見る一三屋先輩。
くるるは堂々と、一三屋先輩はうつむいておどおどしてる感じ。
なんだかどっちが先輩なのか分からない感じがした。
それがなんだか面白い。
「いつき先輩、カナ先輩。お早うございますっす!」
私達の前に立ってくるるが言う。
大げさに頭を下げて。
「あと……もう1人の人もお早うございますっす!」
アイコのことは知らなかったみたい。
だからそんな風に挨拶をする。
「おはよう」
「おはよう、くるる」
私とカナはほとんど同時に言った。
でもやっぱりアイコは何も言わない。
だんだんアイコが教室でどんな風な感じなのか分かってきた。
「新しいのを2冊いいっすかっ!」
Vの字を使って言う。
「ありがとうございます。1000円です」
丁寧にカナが言って
「はいっす!」
くるるがお金を差し出す。
私は部誌を2冊取ってくるるに渡した。
「1冊は一三屋先輩の?」
「違うっすよっ! 新聞部用っすっ!」
「そうなんだ」
「部長に頼まれたっすっ!」
「それじゃ一三屋先輩は……」
私が見ると一三屋先輩はうつむいたままだった。
……こんなに恥ずかしがり屋だったっけ?
前はもっとちゃんとしてたような……
「一三屋先輩っ! ちゃんと自分で言うっすよっ!」
まるで保護者のようにくるるは言う。
その後に、
「いっ……一冊……新しいの……」
ぼそぼそって声が聞こえた。
「はい。500円です。……本当に大丈夫ですか?」
カナが言った。
あまり他人と関わろうとしないカナ。
でも流石に気になったんだろうって思う。
何だかんだで一三屋先輩とはカナの方が話したりしてたし。
「だ、大丈夫……。受験勉強も……ちゃんと……してるから……」
「はい。新しい部誌です」
「あっ……ありがとう」
言いながら大事そうに部誌を受け取ってくれた。
なんだかそれはとても嬉しい姿。
笑顔がちょっと不気味だけど……でも可愛いって思えた。
「それじゃ取材とかあるのでこれでっ!」
「うん。わざわざありがとう」
「ありがとうございます」
「それじゃ行くっすよっ!」
言いながら一三屋先輩を引っ張っていく。
新聞部で鍛えられてるのか、何だか凄く立派になった気がする。
後輩っぽい話し方もすっかり板についてるように思えた。
「さっきの人、かなりコミュ障だったわね」
扉が閉まってアイコが言った。
自分は人が来てもほとんど話さないのに……。
「アイコが言うな」
言いながら私はアイコの頭にチョップした。
……
…………
………………
「なかなかいい感じじゃない」
アイコはダンボールから部誌を取り出しながら言った。
思った以上に天文部の部室を訪れる人が多かった。
去年よりずっと多い。
知らない人、初めて見る人も多かった。
でも私の同じクラスの人とかもたくさん来てくれた。
杉森先生が図書委員の人を連れてきてくれたりもした。
吉田さんと前川さんが買いに来てくれたのはちょっと意外。
私と美香が仲良くしてる。
だから2人とはあんまり会話することなかったから。
だけどちゃんと来てくれた。
そのことがなんだか嬉しく思えた。
……嬉しいことといえばもう1つ。
残り数が少なかった去年のものはもうなくなっている。
最後のを買ってもらえた時はとても嬉しかった。
思わずカナとハイタッチをしたくなるぐらいに。
でも……できなかった。
やっぱりカナは何だかちょっと様子がおかしい。
あんまり元気が無いっていうか……。
それはクラスの方に行かなくちゃいけないことが原因だって思ってた。
でもなんだか違うみたい。
でもやっぱり私は本人にそのことを聞く勇気はなかった。
「そろそろ疲れてきたね」
私は時計を見ながら言った。
12時を少し過ぎたぐらい。
朝ごはんは食べたけど、少しお腹が空いてきた。
そんな時間。
座って部誌を売るだけ。
それだけだけどなんだか疲れがある。
多分、自分が思ってる以上に緊張とかしてるんだろうって思った。
「お腹も空いたし、ご飯食べようか」
「そうね。そうしましょう」
「カナは何を食べる?」
机のはしにはお父さんとお母さんが買ってきてくれた食べ物がある。
お好み焼きとか焼き鳥とかパフェとか色々。
だから誰かが抜けて買い物に行かなくてすんだ。
「私は……焼きそばを食べようかな」
「分かった」
はいって私はカナに焼きそばを渡す。
どこのクラスが作ったのかは分からない。
でも一所懸命に作ったんだろうって分かった。
みんなで作り、みんなで楽しむ
生徒会長の言葉。
私もそのみんなの中に入れてるなら嬉しいなって思った。
「アイコは……」
何を食べる?
そう聞こうとした。
でもすでに焼き鳥を食べていた。
「どうかしたの?」
「何でもない」
だから私もお好み焼きを食べる。
そういえば去年の私達のクラスはお好み焼きだったよねって思い出しながら。
「ありがとうございます」
食べている間も部室には人は来てくれる。
ほとんどがカナが対応してくれた。
私の知り合いだけ、私が話とかする。
それ以外は私は本の受け渡しとか。
アイコは……あまり何もしてない。
漫画研究部の部誌はアイコが渡してる。
だからそんな風な役割分担なんだろうけど……。
でももうすぐカナに頼れなくなる。
「……そろそろ行かなくちゃ」
ため息をつきながらカナは言った。
13時になりそうな時間。
多分、13時からがカナの当番なんだなって思った。
「いってらっしゃい」
「うん。また後でね」
寂しそうな声を残してカナは部室から出ていく。
今日はカナは調子悪そうだった。
その分、明日にはたくさん楽しんで欲しいって思った。
……
…………
………………
「いっくんっ! 本を買いたいですっ!」
たまこが来てくれた。
美香と一緒に。
たまこはとっても嬉しそうな表情。
対して美香は不機嫌そうな表情。
いつもの感じの2人だった。
「はい。去年のはなくなっちゃった」
「そうなんですねっ! 残念です……」
「午前中は忙しかったの?」
「そうですね。準備とか色々ありました」
「明日、楽しみにしてるね」
「とっても緊張してます……」
言いながら深呼吸をするたまこ。
その姿はやっぱり小動物みたいで可愛い。
なんだか癒やされるって感じがした。
「ほら……アイコ……本を……」
ぼんやりしてたアイコに言う。
「あっ、そうだったわね」
アイコは本を一冊取ってたまこに手渡した。
何だか変な光景のように思える。
友達と友達の交流。
きっといい感じのはずなんだけど……。
「ありがとうございますっ! 天文部の人ですか?」
「アタシ?」
「はいっ!」
アイコに向けるたまこの無邪気な笑顔。
なんだか困ったような、そんな表情のアイコ。
なんとかして。
そんな感じに見えた。
「?」
「アイコは漫画研究部。ゲストで書いてもらったから手伝ってもらってるの」
妙な沈黙時間ができたから私は思わず言った。
アイコってここまで他人と話せなかったんだ……。
なんだか意外っていうか、驚きがあった。
きっと私と初めて話した時も無理してたのかもしれない。
変な勢いだったって思うけど、それも緊張のせいだったのかも……。
そう思うと何だかアイコも可愛いところがあるんだなって思える。
「そうなんですねっ! 漫画をかけるって凄いですっ!」
「……ありがとう……」
照れてるアイコ。
アイコでもたまこの真っ直ぐさには無視できないみたい。
「たまこは漫画も好きだから楽しみですっ!」
「うん。すっごく面白いから楽しみにするといいよ」
「はいっ!」
「ちょっ……いっきっ! 余計なこと言わないでよっ!」
「いつもは自信満々なのに」
「それはそれっ! これはこれっ!」
何だかよく分からない理屈を主張するアイコ。
一方、美香はぼけっとした感じで部室を見ていた。
「美香も買うの?」
「……頼まれてるから」
「頼まれてる?」
「あのばか」
「あー。あの人ね」
相変わらず酷い感じで美香は言う。
それで分かる私もどうかって思うけど……。
「1冊でいいの?」
「1冊でいい」
「500円」
「……はい」
素直に500円を渡す。
アイコはすでに本を準備していて美香に渡した。
「あ……ありがとうございます……」
震える声でアイコは言った。
美香は黙って部誌を受け取る。
何だかアイコは美香を怖がってるように思えた。
私も美香と仲良くなかったらそうなりそう。
「美香は明日が本番だよね」
「そう。今日の夜に最終チェック」
「学校に泊まるの?」
「そうなる」
「何だか楽しそうだね」
「楽しいはずないだろ」
「緊張してるの?」
「……それなりに」
「でも美香ちゃんとっても頑張ったから大丈夫っ!」
たまこの言葉に美香は表情を緩める。
「私も見に行くからね」
「……来なくていいのに」
「行くって決めてるから」
「料理部の方にも来てくださいねっ!」
「もちろん」
料理部と演劇部。
どちらの出し物もとっても楽しみ。
絶対に見なくちゃいけないって思ってる2つ。
「いっくん、頑張ってくださいねっ!」
たまこと美香は部室から出ていく。
扉がしまった瞬間、アイコがため息をついた。
「いっきって意外と友だちがいるんだね」
「……意外とね」
「なんだかアタシがいなくても大丈夫そうね」
それはとても自虐的な言葉だった。
否定してほしい。
そう言ってるようにも思えた。
「そんなことないよ」
だから私は言った。
「アイコがいないとやっぱり寂しいって思うしね」
「……そうよね」
私の言葉でアイコの表情が変わった。
「いっきはアタシがいないと駄目だもんね」
「いや……そこまでは言ってないから……」
思わず言ってしまった。
でもいつものアイコの言葉っぽくて嬉しかった。
「それじゃこれからもたまには部室に来てあげてもいいわ」
「……そうだね」
たまに来る。
それぐらいならカナもきっと受け入れてくれるだろうって思う。
何だかんだでの理由があった。
でもカナはアイコに協力したのは本当だし……。
だからきっと時間をかけたら仲良くなるかも。
私はそう楽観的に考えた。
「来てくれるなら嬉しいかもね」
「……そういう風に素直に言われると変な感じになるんだけど……」
「照れてるの?」
「照れてないっ!」
部室に笑い声が響いた。
この中に色々な人が入ってくれるともっと楽しくなるはず。
そして一番入って欲しいのはカナだよねって思った。
……
…………
………………
学校の玄関。
そこでカナと待ち合わせしている。
予定よりカナが終わるのが遅くなったみたい。
アイコは漫画研究部の方へ行って、そのまま帰っていった。
1日目が終わってまだ何だか活気がある学校。
明日も文化祭なんだって実感できて、何だか嬉しい。
楽しむっていう意味では明日が本番だし。
「お待たせっ!」
カナは走ってきた。
そんなに急がなくてもいいのに……。
「待ったよね?」
「ううん。大丈夫だよ」
「それならよかったっ!」
言いながらにっこりと微笑んでくれるカナ。
私とカナはそのまま並んで学校を出る。
学校にはたくさんの人が残ってる。
演劇部みたいに泊まるところも多いんだろうって思った。
何だか帰るのが名残惜しい気もした。
でも残ってもやることがないからしょうがないよねって思う。
「今日はたくさん買ってくれてよかったね」
「そうだね。良かったって思う」
「明日もあるんだね」
「うん」
なんだかやっぱりカナは元気がない。
クラスの方で疲れやったのかな?
それなたいいんだけど……。
いや、よくなないのかな?
「いっちゃん明日ね……」
「明日は色々回って楽しもねっ!」
私とカナはほとんど同時に言った。
というか私がカナの言葉を上書きしたみたい。
「ごめんっ! かぶっちゃったね」
私は慌てて言った。
「ううん。私も似たようなこと言おうとしたから」
「そうなんだね」
カナの言葉を聞いて私は嬉しい気分になった。
きっとカナも明日になったら元気になって文化祭を楽しんでくれるって。
明日の文化祭。
とっても楽しみだなって思う。
カナと一緒にいろいろなものを見たいなって思った。




