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ある日の出来事。

夏休みが終わって10日ぐらい。

教室とか廊下で聞く話は文化祭のものが多くなっている。

なんだか学校中がお祭りムードって感じ。

移動中とかに覗いてみると教室で準備してるところとか多い。

それは私達のクラスも同じ。

どんな占いをするのか。

どんな内装にするのか。

どんな衣装を着てするのか。

そんなことを1つ、1つ話し合いながら進めていった。

実際に作業に始めたのも昨日ぐらいから。

ゆっくりと、でも着実に。

そんな雰囲気だった。

私も予定通りしっかりとクラスの方にも参加してる。

去年の今頃は授業と小説執筆で大変だった。

クラスの方をする余裕なんて全然ないぐらいに。

でも今年はとっても余裕がある。

だから積極的に参加してる。

そして私のクラスでの仕事は衣装作り。

衣装といっても基本は制服。

それに魔女がかぶるような三角帽子。

あと黒い布をマントにして真ん中にリボンをつける感じ。

帽子は漫画研究部の物を借りるから作るのはマントっぽいのだけ。

だから私でも何とかできる。

これ以上複雑なのはお手上げで手も足も出ない。


「えっと……長さを図って……線を書いて……」


放課後。

私は教室で作業してた。

部活で難しい人以外はだいたいいるみたい。

衣装作りは3人。

私とたまこと藍姫。

たまこは料理部で忙しくないのかなって思った。

でも……


「あんまり本番まで忙しくないんですっ!」


たまこは笑顔で言った。

事前に何か作ったりするわけじゃないみたい。

だからクラスの方のお手伝いをしたいって張り切ってる。

かといって毎日残れるわけじゃない。

週に2日、放課後に残って3人で衣装作りをすることになってた。


「これでいいかな?」


私は書いた線を藍姫に見せる。

藍姫はあんまりコスプレ衣装とか作るのは得意じゃないって言ってた。

でもとっても手際が良くて、慣れてる感じがする。

本当に頼もしく思えた。


「うん。このまま切ってくれていいよ」


「分かった」


私は包丁を手に取る。

そして布に当てる。

……なんだか凄く緊張する。

さっそく斜めのほうにざって切って布を駄目にしそう……。


「そんなに緊張しなくてもいいと思うよ……」


私の顔を見て藍姫は言った。

意識とかしてないつもりだった。

でも表情に出てたみたい。


「余分の布はたくさんあるから」


「そうだけど……」


なんだかやっぱりハサミとか包丁とか使うのは緊張する。

どうしても指とか切って怪我しそうなイメージが出る。

やっぱり私の本質は臆病なんだなって分かった。

分かったところでどうしようもないんだけど。


「たまこは平気なの?」


私はたまこを見る。

真剣な表情で布をざくざくと切っていた。

手の動きに迷いとかが全然ない。

表情とか動作とか……。

なんだか凄く格好良く見えた。

きっと料理中はこんな感じなんだろうな。

そう思えるような姿。

なんだかいいところを見れたような気がした。

ふぅ。

と一度息を吐き出す。

一気に端から端まで切ってしまっている。

私なら無理だなって思った。

精神的にも、体力的にも。


「あっ、どうかしましたか?」


そして私の顔を見て言う。

集中してたから返事とかできなかったみたい。


「上手に切れるんだなって思って。格好いいね」


「格好良くなんてないですよ……」


たまこは顔を赤くさせる。

どうやら照れてるみたい。

そんな反応は凄く可愛いい。


「でもこういう布を切るのって手が痛くなりますねっ!」


「うん。痛くなる」


言いながら藍姫は私とたまこに自分の手を見せる。

ハサミがよく当たる部分にできものっぽいのがあった。


「漫画研究部でもずっと切ったりしてるからたこができてるの」


部活でも、クラスでも衣装作り。

なんだか大変そうに思えた。


「たまこも夏休みは何度か皮がはげちゃいましたっ!」


「そうなのっ!」


「そうですねっ!」


驚く私に明るく言うたまこ。


「洗い物が多くてすっごく手が荒れたりしてましたしっ!」


「2人とも凄く大変なんだね……」


小説を書いてて頭が疲れることはある。

でもそんなに痛い思いとかはすることはない。


「手が痛くなったりして嫌にならないの?」


「そうだね……。痛いのは嫌だけど……そんなに気にならないかな」


藍姫の言葉にたまこもうなずく。


「作業中は集中してますし、できたら嬉しさで吹っ飛びますからねっ!」


「そういうものなんだ……」


「はいっ!」「うん」


2人が同時に言った。

そして顔を見合わせて微笑み合ってる。

私も負けないように頑張ろう。

私は意を決してハサミを持つ手に力を入れた。


「き、切れない……」


切り方が駄目みたいでハサミが前に進まなかった……。


……

…………

………………


ある日の出来事。

お昼休みの時間。

私とカナはいつものように部室でお昼ごはん。

いつも通りの2人だけの時間。

アイコは今もたまに放課後に部室へ来てる。

でも昼休みに来ることはなかった。

きっと漫画研究部で食べてるんだって思う。

それはすっごくいいことだって分かってる。

でもちょっとだけ寂しい気もした。

私のわがままだって言うことは分かってるけど……。

……なんだか変な気分になった。

せっかくの文化祭。

もっと楽しい気分でいかなくちゃって思った。


「もうすぐ文化祭だね」


私はお弁当を食べ終えたカナに言った。

私のはもう少し残ってる。


「そうだねっ!」


カナも嬉しそうに言ってくれた。


「部誌ももうすぐできるもんね」


「うん。あとちょっとで修正も終わるしね」


小説はアイコに見せて、駄目だしをだれて、修正して……。

を繰り返して少しずつ小説は良くなっていってる。

自分ではあんまり駄目なところとか気が付かないんだなってよく分かった。

カナはあんまりそういうの言わないし。

だからアイコがいてくれて本当に良かったって思ってる。


「わたしももうすぐ終わるよっ!」


カナは最後に表紙の絵を書いていた。

月から地球を見ている女の子の絵。

私も好きな絵だし、アイコも褒めていた。

色使いが丁寧とかそんな感じ。

カナははっきりとした返事をしたわけじゃない。

でも嬉しそうなのは見ていて分かった。


「それでちょっと気になることがあるんだけど……」


「気になること?」


「部誌の題名ってどうしようか?」


「そうだね……」


前は小説の題名をそのまま部誌の題名にしてた。

でも今年は載せる作品は1つじゃない。

アイコの漫画も載るわけだから、小説の題名を……ってわけもいかない気がした。


「去年と同じでもいいかもしれないね」


私は言った。

カナは思い出すようにちょっと考える。

そして思い出したみたい。


「ひとりぼっちの天体観測?」


確認するように言った。

覚えていてくれて、なんだか嬉しい気分になる、


「うん。それを天文部の部誌名にする感じかな」


「それいいかもっ!」


カナも賛成してくれた。

そしてさっそくカナはパソコンを開く。

今年はカナも色塗りとかはパソコンを使ってる。

紙に書いた絵をパソコンに入れて~みたいな感じ。

なんだか大人な感じがして格好いい。


「ちょっと待ってて」


「うん」


何をしてるかは分からない。

私は相変わらずパソコンはさっぱりだから。

なのでお弁当を食べながら待つことになった。

冷凍食品だけど美味しい小さなグラタン。

最後に取っておいた好きなものを私は食べる。

私は好きな物は取っておくタイプ。

そして嫌いな食べ物はできるだけ食べたくない人。


「こんな感じはどうかな?」


カナは私にパソコンの画面を見せる。

ちょうどグラタンを食べ終えて、お弁当箱を片付けてる時だった。

パソコンの画面には表紙の絵が書いてある。

でもまだ白黒で色は塗ってない。

そして絵の上の方に私が言った題名が書いてあった。

去年とちょっと違うフォント。

でも雰囲気が出てて凄く良かった。


「いい感じだって思う。ぱぱっとできるってカナ、凄いねっ!」


「それほどでもないよっ!」


カナは嬉しそうに言う。

本当に凄いって思った。


「それじゃこれで仕上げていくね」


「うん。お願い」


どんどん本が出来上がっていく。

何だか今年はそれがとっても実感できてる気がする。

去年はばたばたって感じで終わっていた。

でも今年はしっかり作ってる感じがした。

去年は去年で達成感があった。

でも今年は満足感が凄くあるような気がする。


「今年も1日目に販売する感じ?」


「今年も去年と同じスケジュールの予定だよ」


「ありがとう。楽しみだね」


相変わらず書類とかはカナにお任せ。

きっちり申請もしてくれてる。

販売場所も時間も去年と同じ。

1日目の部室で販売して、2日目は自由時間。


「わたしも本の完成がすっごく楽しみ!」


カナは少し手を止める。

そして私の顔を見る。

とっても嬉しそうな表情。

ずっと見てきたし、これからも見たいって思う。

そんな笑顔。


「やっぱりいっちゃんと何かするのって凄く楽しいっ!」


「私も。部活作って良かったね」


「うんっ!」


部活を作って1年ぐらい。

本当に作って良かったなって思う。

部室がもらえたのもそう。

だけど、こうやってカナと頑張れることができたのが1番嬉しかった。


……

…………

………………


ある日の出来事。


「おはよう」


「おはよー」


教室にいる人達に挨拶しながら入っていく。

そして自分の机に鞄を置いた。

ほっと一息。

文化祭に近づくにつれて早く登校する人が増えた。

きっと部活の朝練とか、クラスの出し物の準備とかで忙しいんだろうって思う。

私も衣装が遅れそうなら朝早く着てしてもいいかもって思ってる。

今のところは大丈夫だけど。

もっとも私はどちらかと言うと役に立ってないんだけど……。

たまこと藍姫が2人でがりがりって作っていってくれてるから。

私は作るっていうより2人のお手伝い的なポジションでやってる。

でも去年よりクラスに貢献できてて、それは単純に嬉しい。

私は天文部があるから、当日はあんまり協力できないし。

だからその分だけ頑張りたいって思ってる。


「おはよう。たまこ、藍姫」


私は仲良さそうに話をしていた2人に挨拶する。

前まではあんまり見なかったツーショット。

でも一緒に衣装を作るようになって凄く仲良くなってる。

私も藍姫とは凄く仲良くなった。

そして藍姫が意外とずばずばっていうタイプの人だってことも分かった。

まぁあのアイコと強引に仲良くなったんだから、そういう性格じゃないと難しいのかもしれない。

深く仲良くなって、その人の意外な1面を見る。

前の私にはなかった体験。


「おはようございますっ!」


「おはよう」


2人も私に気がついて挨拶してくれた。

私もその中に入って雑談。

藍姫がお勧めの漫画を紹介してるところだった。

漫画研究部の部長だけあって私とたまこが知らない漫画を色々知ってる。

ネットで表紙とか見せてもらっていた。


「SFならこれがおすすめだよ」


そう言いながら見せてくれた表紙には大人の女性と宇宙人的な生物がいた。

題名はベントラーベントラー。


「あんまり冊数がないから読みやすいし」


「本当に面白そう」


今はお小遣いがあんまり残ってない。

だから来月に買ってみようって思った。


「たまこは漫画とかよく読むの?」


私が聞くとたまこは頷く。


「でも自分で買うっていうより妹のを読む方が多いです」


「妹いるんだっ!」


「そこに食いつくんだ……」


藍姫の冷静なつっこみ。

でも妹がいるなんてなんだかびっくり。

お姉ちゃんがいるとかならなんだか違和感ないけど……


「今は中学2年生です。基本仲がいいけどたまに喧嘩しますよ」


「喧嘩もするんだ」


「姉妹ですからっ!」


どうやら姉妹なら喧嘩して当たり前みたい。

私にはたまこが喧嘩してる姿なんて想像もできないけど。


「でもたまこさんってお姉ちゃんっぽい」


藍姫は言った。

その言葉が意外で嬉しかったのか……


「そっ、そう見えますっ! いつも驚かれるから……」


恥かしそうな反応。

私も驚いちゃったしな……。


「でもたまこさんってしっかりしてるからね」


「あー」


藍姫の言葉になんだか納得してしまった。

私の初対面がホームセンターで迷子になってた時。

あれがとっても印象に強かった。

だから妹っぽい雰囲気が強かったんだって思う。

たまこは凄く人見知りで、誰かに話しかけたりみんなの前で何か言うこととか苦手。

だけどそれ以外ならちゃんとしてる。

なんだか私と正反対だなって思った。


「そう言われるとお姉ちゃんっぽいね」


「藍姫さんもお姉ちゃんっぽいですよね」


「うん。なんかしっかりしてるしね」


だかたこそ漫画研究部の部長も任せられたんだろうし。


「私は末っ子だよ」


「そうなんですねっ!」


「何だかちょっと意外かも」


「でも上の姉2人がぐーだらだから、こうなっちゃのかもね」


「なるほどですっ!」


「そういうのもあるんだね」


姉だからしっかりしてる。

妹だからそうじゃない。

って単純な訳でもないんだな。

姉妹にも色々あるって分かって新鮮な気持ちになれた。


「いつきさんは凄く一人っ子っぽいけどね」


そして私に藍姫は言う。

何だか凄く楽しそうな表情。

一人っ子っぽいって……

もしかしてしっかりしてそうとか?

それなら嬉しいかも。

そう思ってると……


「それも親から過保護に育てられてる感じ」


……そうじゃないみたいだった。

ちょっと落ち込む。

それにたまこも凄く納得したような表情だし……。


「それってつまりしっかりしてなさそうってことだよね……」


「林檎の皮を親にむいてって頼んでそうに見える」


「…………」


「本当に頼んでるの?」


「うん……」


だって包丁でかわむくのって難しいし……。


「……可愛げがあっていいんじゃないかな」


言葉を選ぶ感じで藍姫は言う。

まぁ流石に自分でもしっかりしてないってことは十分に分かってるし……。


「でもそれがいっくんのいいところですからっ!」


たまこは張り切った感じで言う。

しっかりしてないのが私のいいところ。

……やっぱり微妙な感じ。

でも……


「いいところならこのままでいいかもね」


「開き直ったね」


「うん。開き直った」


「それでいいと思いますっ!」


たまこがまた張り切って言う。


「りんごの皮がむけないならたまこが向いてあげますっ!」


「ありがとう。梨もむいてくれたら嬉しいな」


「もちろんですっ!」


「いつきには凄くお世話になったし感謝してるけど……何だか凄く将来が心配になってくるね」


私とたまこのやりとりを見ながら藍姫は苦笑いで言った。

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